はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

留守番

2019-06-30 20:19:58 | はがき随筆

 外は雨。夫を車で外出先へ送る。朝の家事を終えて新聞に目を通す。時計の音、時折、ウグイスの声が聞こえる。

 お昼ご飯は簡単だけれど、きちんとテーブルにセッティングしてお行儀よく食べる。炊き立てのご飯がおいしい。

 昼間、本を読むことはないのに珍しくその日は読んだ。「カササギ殺人事件」。舞台はイギリス。登場人物が多いので頭で整理しながら、場面を想像して読む。

 午後3時半ごろ、夫を迎えに行く。自分を楽しんだ一日も終わり。「僕がいなくて寂しかったろ」と夫が言った。

 熊本県玉名市 立石史子(65) 2016/6/30 毎日新聞鹿児島版掲載


クリームソーダ

2019-06-30 20:07:04 | はがき随筆

 小中学生のころ。父の給料日あとの日曜日に母とお出かけするのが月に一度のぜいたくだった。隣町のデパートを歩き、お昼を済ませて帰りのバスに乗る前に喫茶室に寄った。私はパフェとかアイスクリームを、母は必ずクリームソーダを頼んだ。

 過日、思いがけない場所で友人とばったり会い、2人でお茶を飲んだ。珍しく、というか多分初めてクリーソーダを注文した。緑色のソーダ水を飲みながら朝ドラ「ひよっこ」の話をした。主人公が親切な巡査と会うといつもクリームソーダを飲んでいたね、と。母は飲みながら何か思いことがあったのか。

 鹿児島市 本山るみ子(66) 2019/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載


遠足気分

2019-06-30 19:58:18 | はがき随筆

 久しぶりに海へ出かけた。潮風を受け、岸壁に立つと海面から、ちゃっぷん、ちゃっぷ、と小さく揺れる海の音が聞こえた。きらめく光と交信中かな。

 港に停泊中のフェリーはどっしりと頼もしく、近くの空港から一直線に上昇していく飛行機は潔い。銀翼の鳥になり青に染まってどこまで行くのだろう。

 正午、松林のベンチで弁当を開いた。「コーヒーもあるよ」「おうっ」。甘いおやつもね。

 4年前の患い以来、夫は外食を好まない。だからこんな日は遠足気分で弁当持参がふたりのスタイル。釣り人の白いシャツがはらみ、夏の日は近い。

 宮崎県延岡市 柳田慧子(74) 2019/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載

 


昭和は古いの

2019-06-27 22:56:13 | はがき随筆

 中学生の孫の野球応援に久しぶりに行った。気を利かしたつもりで皆にリンゴを差し出すと、娘が開口一番「それって、昭和よ!」と、戸惑う私を尻目に、一言発した。昭和世代の考えることが古くさかったらしい。よかれと思った行為が裏目に出て却下された。

 翌日、気を取り直して個包装の菓子に変更し、事なきを得た。私たちの頃は何でも「ありがとう」の時代だったが、今どきは口が肥えているのか、ぜいたくになったものだとつぶやくのだった。ジェネレーションギャップに驚き、令和の世に、昭和が遠くなったと思い知った。

 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

 


ディス トレイン!

2019-06-27 22:43:57 | はがき随筆

 通勤帰りの列車での出来事。発車まで間があったので、ウトウトしていたら「ディス トレイン!」という大きな声と同時に、目の前に列車の切符を突き付けられた。中国人か、70前後のご婦人である。私は咄嗟のことに頭が真っ白になった。

 切符をよく見ると「延岡-宮崎」とある。やっと状況が飲み込め「イエス」と答えた。ご婦人はにっこり笑って、満足気に隣の車両に消えて行った。

 最近、駅で中国語や韓国語を頻繁に耳にするようになった。確実に国際化の波が私たちの身辺にも押し寄せてきている。心してかからねばと思った。

 宮崎市 福島洋一(64) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載 


ダンゴムシ

2019-06-27 21:51:00 | はがき随筆

 時々遊びに来る5歳の孫のお目当てはダンゴムシだ。レンガの下などにいるのを、砂地に持っていき道や山などを作って行動を見ている。

 調べてみると腐植質を食べるみたいだ。「ダンゴムシは何を食べるのかな」と聞くと「葉っぱがいっぱいいっぱい枯れたのを食べるんだよ」と言ったので「そだねー」と答えた。保育園で教わったのか、知っているなんて不思議な気がした。

 1時間ほどしたら娘が迎えに来た。「またダンゴムシで遊ぼうね」。「いつでもいいよ。待っているね」と答えたら、笑顔で帰って行った。

 熊本県荒尾市 森川郁子(72) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載


老いの風景

2019-06-27 21:38:27 | はがき随筆

 5月半ばになって、テレビで気温上昇にともなう熱中症の予報を報じている。私の住まいは、木々に囲まれた山寺である。日中は気温30度くらいまで上昇するが、朝夕は15度前後で肌寒い。最近は冬を越したメジロがすみ着き、早朝からにぎやかである。口笛で鳴きまねをすると一段とさえずる。縄張りをもったウグイスも、他を寄せ付けない威厳をもってかん高い。庭にはケラマツツジの古木が2本、新緑の中に南国特有の情熱的な赤に映えている。この風景の中に八十数年間生きてきた。いまだ経験しない明日へ向かって歩みを踏みしめている。

 鹿児島県志布志市 一木法明(83) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載


ばーばのバーバー

2019-06-27 18:54:13 | はがき随筆

 床屋に行かなくなって20年以上が過ぎた。その訳は、行きつけの床屋が廃業したから。「別の床屋に行けば」と妻が。しかし、大きな鏡に映るこの顔を長時間見続けることにもかなりの忍耐力がいる。そこで、妻に切ってくれと頼み込んだ。初めは嫌がっていたが、「床屋代が節約できるぞ」の一言で渋々引き受けてくれた。「後ろはもっと短く」「横はあまり切らんで」と注文が多いので、いつも口喧嘩。最近、切った後の髪を集めてもほんのちょっと。先日切ってくれと頼むと「どこを切るの?」の一言。我が家のバーバーの廃業もそろそろか。

 宮崎県日向市 福島重幸(65) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

 


ありがとう

2019-06-27 18:44:07 | はがき随筆

 話し上手ではない。でも人と話をするのは好きだ。人見知りのところもあるが、ふとしたことなどで、知らない方に話しかけてしまうのである。

 スーパーに立ち寄る。食料品売り場でベビーカーの赤ちゃんが目に入った。小さいからだにくるくる瞳。足をきちんとそろえて行儀がいい。つい「モゼ~(かわいい)」と声をかけてしまった。すると、お母さんから「声をかけていただいてありがとうございます」と感謝の言葉。ありがとうの気持ちを表現できる若いお母さんの笑顔もモゼかったが「ありがとう」の言葉の大切さが心にひびいた。

 鹿児島県さつま町 小向井一成(71) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載


昭和生まれ

2019-06-27 17:24:13 | はがき随筆

歩道の角で、私と同じようにつえを持った散歩姿の男性とぶつかりそうになった。

 「あら、失礼しました」と私。その方が「おたくは何年生まれですか?」と問われる。「私は昭和2年です!」「わしは3年ですばい。負けましたばい」。「おたくの方が元気ですたい」と私。「お互い頑張りましょう」。偶然の出会いだった。

 年号も変わり令和となった。外を歩ける幸せに感謝しつつ、若い人たちに迷惑をかけない老人でいなければと、同年代の方を振り返りながら思った日だった。

 熊本市中央区 川口紋子(91) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

 


昭和生まれ

2019-06-27 17:24:13 | はがき随筆

歩道の角で、私と同じようにつえを持った散歩姿の男性とぶつかりそうになった。

 「あら、失礼しました」と私。その方が「おたくは何年生まれですか?」と問われる。「私は昭和2年です!」「わしは3年ですばい。負けましたばい!」。「おたくの方が元気ですたい」と私。「お互い頑張りましょう」。偶然の出会いだった。

 年号も変わり令和となった。外を歩ける幸せに感謝しつつ、若い人たちに迷惑をかけない老人でいなければと、同年代の方を振り返りながら思った日だった。

 熊本市中央区 川口紋子(91) 2019/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

 


祥月命日

2019-06-25 17:57:40 | 岩国エッセイサロンより

   岩国市   会 員   片山清勝

 わが家の祥月命日は全て奇数月。3月は母、5月は祖父、7月は祖母、9月は父だ。祖母、祖父、父そして母の順で亡くなった。祖父母と父の五十回忌、母の三十三回忌はいずれも済ませた。
 私たち夫婦の金婚式は過ぎた。妻は父と祖父母に関して、母から聞いたことしか知らない。それでも命日に、それぞれの好物を供えてくれており感謝している。
 命日には近くに住む姉妹たちがお参りに来る。命日以外でもそうなのだが、姉妹は妻と日頃のあれこれを話す。その会話は、実家の嫁というより実の姉妹のよう。目をつむって聞いていると、母娘の会話のようにも聞こえることがある。長男としてうれしいことだ。
 命日が近くなると、私は毎月している墓掃除を命日前に済ませることが役目。仏壇の掃除はいつもだが、妻が支度する仏花などがそろえば、ほこり払いや具足磨きなどから始める。
 4枚の遺影は仏壇の横のかもいに掛けている。この家に引っ越してきて二十数年。一番いい部屋に飾っているが、居心地はどうなのだろうか。額を拭きながら、わが家の様子をどんな思いで眺めているのだろうかと思う。
      (2019.06.17 中国新聞「明窓」掲載)


探し物

2019-06-25 17:56:32 | 岩国エッセイサロンより

2019年6月14日 (金)

    岩国市  会 員   林 治子


 「探し物はなんでしょうね。どこにあるんでしょうね」。昔、テレビドラマの主人公が口ずさんだフレーズが思わず口をついて出てくる。ただいま探し物の真っ最中。月一で通う教室で使う色紙。いくら探しても見当たらない。
 偶然訪ねてきた友が「なにしとるん」。「探し物」と返事。「あんたのことじゃけん、認知症言われたらかなわんと必死になっとるんと違う? そうゆう時はしばらくほっとくのよ。思わぬ所から出てくるもの」と慰めてくれた。とうとう聞に合わず店へ走る。
 ほっとしたけど途端に探す気力もうせ、まだ見つかっていない。
    (2019.06.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


抜いた歯へ

2019-06-25 17:55:49 | 岩国エッセイサロンより

   岩国市  会 員   片山 清勝


 ヂクッとした痛みが始まり、延び延びにしていた抜歯と義歯を入れる治療を始める。まず抜歯、診療台が後ろに倒されはじめ、ちょっとした覚悟をして目を閉じる。だが、あっけないほどの短い時間で、苦痛もなく処置が終わったのは歯科医の腕か。 
 抜いた歯が思ったより小さくて驚いた。「歯の健康は全身を守る」というが、小さな姿で七十数年ものわがままな食べ方を受け入れ、健康を守ってくれたのか。感じたことのない「ありがとう」の強い気持ちが自然に湧き出た。
 私より先に寿命がきた歯に、残りを守る8020を誓う。  
   (2019.06.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


最後の同窓会

2019-06-25 17:54:32 | 岩国エッセイサロンより

2019年6月11日 (火)

    岩国市   会 員   吉岡賢一 

 きっかけは、中学校卒業から35年が過ぎて50歳になった節目に開いた同窓会だった。「人生の小休止」と銘打ち、同級生は282人のうち92人、恩師は担任と専科を合わせて13人と、多くの方に参加いただいた。
 同窓会はその後、3年から4年置きに開き、還暦、古希を経て今回、喜寿の記念同窓会を迎えた。50歳の「人生の小休止」から数えて8回目となる。
 ただ、回数を重ねるたび参加される恩師の人数が減った。同級生も年々、案内状発送枚数の減少に比例して参加者も少なくなった。
 「来し方行く末」をさかなに談笑するお膳立て役の幹事団も、最初は20人近くいた。それが1人またI人減り、とうとう7人になった。エネルギーもパワーも減退する中での人数の減少である。今後の開催を約束できないため、案内状には「今回が最後となる」ことを明記した。
 同窓会を振り返れば、多くの人間ドラマがあった。印象深いのは、主人を亡くした奥さまから「写真で参加します。皆さまと一緒に乾杯を」と会費とともにすてきな写真を送ってもらったことだ。「天国からの出席者」として紹介した。
 さまざまな思いを秘めて開催する私たちの中学最後の同窓会。自分のことは自分でできる人は元気なのだと訴えたところ、思いのほか多くの方が参加してくれた。
 まだまだ先のある人生、今回の出席率によって「最後の同窓会宣言」を撤回できれば、うれしい。

      (2019.06.11 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)