はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

つつじと娘と私

2021-06-11 18:18:46 | はがき随筆
 「ママ、お水、お水!」。保育園から帰って来た娘の小さな手のひらには、ピンク色のつつじの花。「道ばたに落ちとったけん、お水やらんといかん」と、鼻をふくらませ、口をとがらせて言う。口の広いビンにお水を入れてわたすと、「早く元気になってね-」とほっとした様子。「よかったね。はんなに助けてもらって、お花もうれしそう」と言うと、「お花も生きてるんだよね、ママ」。普段は甘えん坊で、昼でも一人でトイレに行けない5歳の娘の優しい気持ちがうれしくて、娘の肩を抱いて、しばらく2人でピンク色のつつじの花を眺めていた。
 熊本市北区 田尻真由美(32) 2021/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載

遊歩道

2021-06-11 18:10:47 | はがき随筆
 山桜もソメイヨシノも散り尽くし、葉桜の美しい日々。雑草の伸び始めた庭に、3人の男性シルバーさんに入ってもらい遊歩道を造ってもらった。フキや三つ葉も風にそよいでいる。矢車菊も咲き、例年4月20日ごろが見ごろの藤もご多分に漏れず今年は早い開花。ぜひ見てもらいたい町方に住む友人にメールする。「富士見・不死身においでください。遊歩道もできました」。葉桜の木漏れ日を踏みながら、散策を楽しんでもらった。ミカンがたくさんのつぼみを、カエデが花を、沙羅は固いつぼみを。こんな発見や感動を覚えながらのひとときでした。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(85) 2021/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載

老老介護

2021-06-11 18:04:38 | はがき随筆
 子らも独立して2人だけの生活になり、家事と家計のやりくりは女房、力仕事と自治会用務めは、男の私が担うという役割分担ができていた。
 ところが大変なことになった。女房が、手の指が変形する関節症にかかったのだ。包丁を持つことやプルタブを引っ張ること、瓶のキャップを回すことも不自由を来すようになった。
 野菜の下ごしらえは私にもできる。しかし、料理の味付けは全くの不得手である。指は不自由でも口達者な奥さまの指導のもと、計量カップを片手に、悪戦苦闘の老々介護の始まりである。
 宮崎市 実広英機(75) 2021/5/21 毎日新聞鹿児島版掲載

おしり青いよ

2021-06-11 17:57:34 | はがき随筆
 「ゆうちゃん、おしり青いよ」と4歳の長女。「ぶつけたのかなぁ、痛いね」。心配しながら優しくさする。妹の心配をしている彼女もまだおしりはしっかり青い。「ふうちゃんのおしりも青いよ」。「えー、なんでなんで」と急いで椅子に乗り、浴室の鏡で確認する。
 「赤ちゃんはね、おしりが青くて、大きくなると消えちゃうんだよ」。「ふうちゃん、赤ちゃんじゃないもん」。最近お姉ちゃんになり、赤ちゃんと言われるのが嫌なようだ。日々「なんで?」がたくさんの長女との会話が面白く、パワーをもらっている。
 熊本市北区 久保田桃(22) 2021/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

充実した日々

2021-06-11 17:51:14 | はがき随筆
 1日24時間、目の離せない世話が3年あまり続いた。少々荒っぽい介護だったが、自分なりに一生懸命努力した。いつしか母の介護は使命感から、私の生きがいに変わった。
 その生きがいを失って、桜を眺めても物悲しい。青空を見上げても寂しい。すべてのものがむなしく目に映り、生きる気力さえも萎える。
 炊事、洗濯、掃除の日課に母の世話がずしりとのし掛かり、パニックを起こしかねないほど目まぐるしい毎日だった。3年あまりの介護だったが、今に思うとあの頃が、私が一番充実した日々だったかもしれない。
 鹿児島県出水市 道田道範(71) 2021/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載

痛い!

2021-06-11 17:44:23 | はがき随筆
 タケノコのお届け物があり、皮をはごうと抱えて外へ。
 「痛い」。敷石を踏み外して足をこねた。前回のけがの時にサポーターを残していたことを思い出し、四つんばいでさがした。やっとみつけるとそれで固定。激痛だったが、指は動いた。どうにかして立ちあがった。
 我に返ると、タケノコはゴロゴロと玄関先に転がっていた。寝込むことすらない93歳の義母が「あ~あ」と片付けた。よく転ぶ私にとって敷石は風情もへったくれも無い。僅か数㍉の段差が恨めしい。
 やっと作ったタケノコずしを家族はパクパク食べていた。
 宮崎市 津曲久美(62) 2021/5/18 毎日新聞鹿児島版掲載

子離れに備える

2021-06-11 17:34:26 | はがき随筆
 「スプーンとフォークとお箸! いただきまーす」。3歳の末娘は今日も食欲旺盛。7歳と4歳のお兄ちゃんをお手本に、何でも自分でしてしまう。
 「お茶飲む?」と聞くより早く麦茶ポットからお気に入りのコップに注いでいる。慌ただしい朝、「お着替えも終わったからトイレに行こう」と声をかけたが娘の姿がない。何と、トイレの便座に座って、ニッコリ。
 子どもの成長はうれしく、また、私の手から離れていく寂しさもちょっぴり。来るべき時に備えて、看護師の資格取得を目指し、20年ぶりにペンを持ち、ノートに向かっている。
 熊本市東区 鍛島明香(39) 2021/5/17 毎日新聞鹿児島版掲載