はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

心のサプリ

2019-02-26 16:36:38 | はがき随筆
 「アグー」。目覚めの瞬間からテンション高くおしゃべりを始める。生後3カ月になる次男である。ひとしきりしゃべり終えると、今度は断末魔の叫びのごとく泣き始めた。ミルクでおなかが満たされると、うとうと白目をむいて眠り始めた。
 そんな次男を見ていると、イライラしてり難しいことを考えたりして寄っていた眉間のしわも緩んでしまい。
 「赤ちゃんってすごいよね。だって見ているだけで優しい気持ちになれるもん」と6歳の長男が言う。3カ月児に振り回される日々だが、我が家の心のサプリメントになっている。
 熊本市東区 内平友美(33) 2019/2/26 毎日新聞鹿児島版掲載

墓じまい

2019-02-25 17:21:11 | はがき随筆
 私の代で建てた父母の墓を移転し永代供養することになり、ふるさとへもどった。「何を言われても構わない」と自分に言い聞かせる。「母の件ではご迷惑をお掛けしました」。深く頭を下げる私に和尚さんは言った。「あの人は蛾が強かったから。あなたは優しいぶん大変でしたね」。思ってもみない言葉にどっと涙があふれる。「よかったね。来てよかったね」と妻も泣いた。移転をお願いした墓石屋のご主人も、新しい寺の住職も市役所の係の人もみんなみんな優しかった。私の心の片隅にあったふるさとがぐんと大きくなった気がした。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2019/2/25 毎日新聞鹿児島版掲載

雨の日に

2019-02-24 21:25:31 | はがき随筆
 冷たい雨が降っている。庭も寒々と寂しい。
 温泉に行こう、と友人から電話がきた。気のおけない中学校時代からの仲間3人。一番元気な英ちゃんが運転手も務める。農業をしている彼女たちは雨の日が休日なのだ。一風呂浴びるとおしゃべりが始まる。
 「百姓はいっつもなんかかんか仕事がある。でん、やっただけ目に見えるし、いいミカンもブドウもできるしね」と2人は言う。そして「晴耕畑、雨読は温泉」と笑う。その笑いがとてもいい。しばらくしゃべって、また入浴して「また来ようね」と帰路に就く。
 宮崎県延岡市 島田千恵子(75) 2019/2/24 毎日新聞鹿児島版掲載

もうじき春が

2019-02-23 17:13:47 | はがき随筆
 シュッ、シュッ、シュッ。小枝をおろすリズミカルな音と、明るいトーンに変わった人の声が響き合う。春の足音がひそやかに少しずつ近づいている。
 この冬はインフルエンザが猛威をふるって人々の心が震えた。ドキドキしながらテレビのニュースを見ている年寄りはただ祈るしかない。よその国も大寒波で雪の被害にみまわれるなど困難が思いやられる。
 いつの間にか地球は変わってしまったのだろうか。やたらと夏が長くて四季の区切りが曖昧になった。野も山も薄紅色に染まるまで、おでんを煮ながら待っている。
 熊本市東区 黒田あや子(86) 2019/2/23 毎日新聞鹿児島版掲載

2018年 鹿児島県はがき随筆

2019-02-23 16:40:45 | はがき随筆
年間賞に久野さん(霧島市)

 「はがき随筆」の2018年鹿児島年間賞に、鹿児島県霧島市の久野茂樹さん(69)の作品「幸福感」(8月29日)が選ばれた。介護施設の待合室で目にした高齢の女性と、隣に立つヘルパーの仕草を題材に自らの心情を描いた。鹿児島県内からの投稿作品を対象に石田忠彦・鹿児島大学名誉教授が選考にあたった。

至福の温かみ醸し出す

 フランス語のエッセ、これを語源とする英語のエッセイ、いずれも社会的な出来事や芸術作品に対して自分の意見を述べるという意味の言葉で、明治時代には論文と訳されたこともありましたが、その後、試論という訳語に落ち着いています。また日本では、随筆という言葉が広く使われ、これは中国種ですが、まとまった意見を述べるのではなく、自由に記録するのをいったようです。現在では随筆はエッセイの意味にもつかわれています。
 皆さんの投稿される「はがき随筆」も、大体この振幅の中に納まります。そのために評価の基準が設けにくく、選ぶ者を悩ませます。いままでもそうでしたが、今回も、どのような内容の文章にしろ、少し大げさかもしれませんが、文学的な要素つまり読む人の感性に訴えて、人生を感じさせるものを選ぶことにしました。

 年間賞は、1年間の優秀作と佳作あわせて20作品を候補とし、その中から次の3本をまず選びました。鶴の北帰行からの連想で、シベリア抑留から復員したおじさんの人生を思いやった清水昌子さんの「ツルの北帰行」、再雇用制度で職を得たことに感謝しておいでの川畑千歳さんの「ぜいたくな時間」、病院の待合室で見かけた老女とヘルパーさんの様子を描いた久野茂樹さんの「幸福感」。このうち、久野さんの「こども返りした老女と清楚な女性」の無言の交流に幸福感を感じたという文章は、2人のしぐさが至福の温かみを醸し出しています。年間賞にしました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦


読者と気持ちの共有を

 久野さんのはがき随筆の初掲載は58歳のころ。老いの悲しみを描いた見知らぬ人の作品に強い印象を受けたのがきっかけだった。その後、投稿欄「みんなの広場」や万能川柳、俳句や短歌の投稿もせっせと続け、2010年と14年には毎日俳壇の年間最優秀賞にも選ばれた。
 「ずぶの素人、自己流です」と語るが、日々大学ノートにつづる作品は膨大な数に上る。俳句や短歌だけで一日10作前後をつくり、掲載作を集めて作った小冊子も6冊を数える。
 「文字を通じて読者と気持ちを共有できたら」と投稿の楽しさを語る。「現在小学5年の男の孫にいつか作品を呼んでほしい」というのがもう一つの楽しみだ。

2,018年 熊本県はがき随筆

2019-02-22 21:46:32 | 受賞作品
 年間賞に今福さん(八代市)

 「はがき随筆」の2018年熊本年間賞に、熊本県八代市の今福和歌子さん(69)の作品「安田さんと情報」(12月6日)が選ばれた。昨年1年間に熊本の読者から寄せられた作品のうち、1~3月の冬季季間賞と準賞、更に4月~12月の月間賞、佳作計16作品を対象に、熊本県文化協会理事、和田正隆さんが選考した。

情報の真偽見極め訴え

 昨年1年間に熊本県関係では延べ240人の随筆が寄せられました。
 日ごろの営みのなかで発見する小さな幸せ、心温まる思い出、あるいは人間の生き方を問う厳しい意見、いろいろでした。ただ昨年は政治や行政への不信が募る一年だったようにも思います。
 そこで年間賞にはあえてハードな作品を選びました。今福和歌子さんの「安田さんの情報」。フェイクニュースやSNSでの偽情報、人をだまして喜ぶという卑劣な風潮がはびこる情けない世の中になってしまいました。「みんなもっとしっかりしろ」。今福さんはそう訴えています。
 政治問題をとらえたものはほかにもいくつかありました。ユーモアあふれる日常のスケッチもたくさんありました。年間賞としていずれも捨て難い随筆でした。
 熊本に縁の深い夏目漱石は小説のほかに随筆、書簡、メモなどたくさん残しています。そこからはいかめしい小説からは想像もつかない彼の思いもよらぬ素性がうかがえます。実にワガママオジサンです。びっくりです。皆さんの記録も将来「おじいちゃんおばあちゃんてこんな人だったのだ」と孫、ひ孫さんたちが新発見すること請け合いです。今年も傑作をお寄せください。
熊本県文化協会理事 和田正隆

感じたことつづり続ける
 「月間賞受賞にもびっくり仰天しましたが、更にびっくりで、ほんとうにうれしいです」。初の年間賞受賞に喜びもひとしおだ。
 シリアで武装勢力に拘束されたフリージャーナリスト、安田純平さんを巡る批判に疑問を抱いたものの反論できず、悶々としていた。ある時「日本には日本の歴史、風土があり、それはジャーナリストの視点にも影響する。米国や欧州発の情報だけでなく、日本人ジャーナリストの目を通した情報も必要だ」と考えつき、作品を書き上げた。
 小学校教員を定年退職後、2014年2月に始めて投稿して5年になる。「年を重ねたから見えてくるものもあります。今後も感じたことを綴っていきたい」【三森輝久】

10年日記

2019-02-22 21:33:53 | はがき随筆
 表紙を革で覆う丈夫な作りの10年日記、これで3冊目、平成22年から始まり1ぺージを上下10段に区切られて、今年が最下段の記録になった。
 日記をつけながらふと上段の3段、6段に目を転じると楽しかったことに笑み、失敗の記録が戒めとなる。
 家庭菜園の収穫に喜び、失敗の記録は貴重で、今は運動を兼ねた趣味となっているが、年々その動きが鈍くなって年だねと自分を慰める。平成の年号が変わるけどこの1年頑張ってこの1冊を書き終えたい。
 鹿児島県出水市 年神貞子(82) 2019/2/22 毎日新聞鹿児島版掲載

2018年 宮崎県はがき随筆

2019-02-22 20:56:13 | はがき随筆
年間賞に柳田さん(延岡市)

 毎日新聞「はがき随筆」の2018年宮崎年間賞に、宮崎県延岡市の柳田慧子さん(74)の「命の洗濯」が選ばれた。昨年1年間に宮崎の投稿者から寄せられた作品のうち、1~3月の月間賞、4月~12月の月間賞と佳作計16作品を対象に、選者でみやざきエッセイスト・クラブ会員の戸田淳子さんが選んだ。今月28日に宮崎市民プラザで開かれる毎日ペングループ宮崎の総会で表彰される。

文章生かす絶品のセリフ

 柳田慧子さんの作品は読む者をアッと思わせる意外性がありました。作者と娘さんの電話での会話がテンポよく進みます。娘さんからの華道展の誘いに「命の洗濯に出かけるわ」と答えた作者に娘さんの発した「命を洗う? でも、お母さん、そりゃ、大ごとや。慎重にね」の言葉が絶品です。このセリフで文章が生き生きと素晴らしい作品になりました。
 最終選考に残った4作品も紹介します。
 岩下龍吉さんの「日だまり」(3月14日)は表題通りほっこりする文章で、物が豊かでないからこそ心が豊かに育つのではないかと感じさせ、幼い頃の情景描写に魅力がありました。
 源島啓子さんの「天に昇る」(1月31日)は、亡くなった姪が発射されたロケットの夜光雲に囲まれて天に昇ったと信じるという悲しくも美しい作品になりました。
 甲斐修一さんの「写真」(5月24日)は、熊本地震から幼女が救出された報道写真を目にした時の印象を的確に表現し、読む者もその現場に居るような感動を覚えます。
 窪田恵子さんの「特攻飛行機の思い出」(8月16日)。一読して涙がこぼれました。息子の乗る特攻機を見送る母親、窪田さんの家族も大旗を振り見送る。読者にもその旗の重さが伝わる見事な文章でした。
みやざきエッセイスト・クラブ会員戸田淳子

人生にささやかな彩り

 1998年から投稿を始め、年間賞は今回で4度目。2002年度の年間賞作品「終いの衣装」は、「はがき随筆大賞」で大賞に次ぐ優秀賞に選ばれた。
 小学3年の時担任教師が出した自宅学習の自由課題で、毎日一編ずつ詩を書いた。「もっと良い言葉はない?」という当時の指導は今も生きている。作品のテンポの良さは、詩昨の経験から生れたものだろうか。
 「最後の1.2行に苦労する」が、書いた後「自分が生れ変わった感じがする。元気になる」と感じる。
 県北ペングループのメンバー。「新たな出会い、良いつながりができた」とふり返る。はがき随筆は人との絆と「人生のささやまな彩り」を与えてくれる。 
【豊満志朗】

ナマもの

2019-02-22 20:50:17 | はがき随筆
 地域のコーラスに入会して、早くも14年が経過した。
 老後は安楽という言葉が良く似合う。でも、ほどよい緊張は必要だと思っている。
 全員で合唱練習している時など、はた目には何ともないように見えても、緊張と集中の連続である。
 ちょうど、大きく回っている縄跳びの中で、1人が足をからませると全体を駄目にする、あの時の感じと良く似ている。
 時には、声がはみ出すこともあるが、人間ナマもの、ナマものは常に生き生きしていなければならない。もちろん、ビールもナマがいい。
 宮崎市 黒木正明(85) 2019/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

頑張るキンカン

2019-02-22 20:20:02 | はがき随筆




 昨年の台風で傷めつけられたキンカンだが、枝の先には昨年より大きな実をつけて色づいている。「ジューシーでおいしいわよ」とカミさんは口をもぐもぐ。「あれだけ台風にやられたのに、大したもんだ」「私たちも負けてはいられないわね」 
 口では頑張るといいながらも、今年83歳と80歳になる老夫婦、一仕事終われば「あー疲れた」と手を休めてしまう。20年以上乗っている愛車もだいぶガタが来ているが、頑張っているキンカンを眺めながら、買い物に行くカミさんの運転手係として、気合いを入れて車を出しに向かうのだった。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載
画像は武田さんのブログより

女眠る、春遠からじ

2019-02-22 19:55:25 | はがき随筆
 夜中に目覚めたら外が明るいので、障子を開けると頭上に月とオリオン座が煌々と輝いている。まさに山も眠るの静けさ。
 寒さも忘れて眺めていたら、宮沢賢治の「やまなし」を思い出した。蟹の父子がつましく暮らす山奥の渓流を包むかのように照らす神々しい月である。
 「やまなし」は貧しくても待てるものがある幸福を描いた賢治の傑作である。
 部屋には家族のインフルエンザで避難して来ている孫娘と妻が熟睡している。ママに会える日まであとしばらくである。
 今日はもう大寒、春遠からじの感である。
 宮崎市 杉田茂延(67) 2019/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ユーモア

2019-02-22 19:13:43 | はがき随筆
 今年の正月もいつものお寺でいつものユーモアあふれる法話を聞くことができた。
 法話の中で、高齢女性から「昨日は病院にイモアライに行ってきました」と言われ、よく聞いてみると「病院にMRIの検査に行った」ということで、高齢の女性には「MRI」が「芋洗い」に聞こえたらしいと紹介された。
 「説教で笑いを取る内容は問題だ」と言う高僧もいるようだが、ユーモアある説法の方が聞く人を引き込むことができると思うと言われ、ユーモアが必要だと強調された。私も固い説教にユーモアは必須だと思った。
 熊本県合志市 古城正巳(77) 2019/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

2度届いた年賀状

2019-02-22 19:05:56 | はがき随筆
 松の内も過ぎた1月11日、妻に古くからの友人の年賀はがきが届いた。郵便受けから取り出し「Iさんからの賀状もう来てたよね」と、いぶかりながら妻に渡した。妻は年末が多忙だったため、年賀状を出せなかった。そのため8日から10日にかけて、年賀のあいさつ代わりに寒中見舞いを出していた。
 「Iさんはご丁寧に寒中見舞いにも返事を書いたのかしら」と、妻は彼女の律義さに感心していた。でも添え書きを読むと、彼女の年賀状の文面と行替えも同じ。どうやわ寒中見舞いの束にまぎれ投函されたようだ。消印も10日になっている。
 鹿児島市 高橋誠(67) 2019/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

準備万端

2019-02-22 18:56:33 | はがき随筆
 ばあばあー。学校に行く準備はできたよ。今春入学する初孫からの電話。誕生から6年。この時がこんなに早く来るとは。娘に恵まれなかった私たちにとって初めての女の子。3月には卒園式を迎えます。ハンカチが一枚で足りるのか心配です。時にはハガキのやり取りをしたり、彼女の手によるものは大切に残しています。
 自分の子育ての時には気持ちの余裕がなく、早く早くが合言葉になっていたように思います。今となっては反省しきりです。これからも健やかに穏やかに成長してくれることを願ってやみません。
 宮崎県延岡市 森美智子(72) 2019/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

枝垂れ梅

2019-02-22 18:49:07 | はがき随筆
 今年も春の陽気の日が出始めた。丈が3㍍を越えている枝垂れ梅の花が八方に咲いている。
 40年ばかり前のこと。庭木はそのままにして現在の家へ転居した時、丈が50㌢に伸びている幼木が「連れて行って。置いていかないで」と哀願しているような気がした。掘り出して新居の庭に植えたのが前述の枝垂れ梅である。花が散っても実がならないのはなぜだろう。
 何年前だったかなぁ。夏になっても枝を切り落とさないでそのままにしておいたら、翌年は花が咲かなかった。「桜切るばか、梅切らぬばか」ということわざの意味が理解できた。
 熊本市東区 竹本伸二(90) 2019/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載