はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ゴロニャーン

2010-08-25 10:54:55 | はがき随筆
 6年生の孫娘。最近とみに憎まれ口が多くなった。今日も夏休みになってから散らかしっぱなしの部屋を片づけるように言うのだが、一向にその気配がない。様子を見に2階の子供部屋をのぞく。
 「何回同じこと言わせるの。まるで豚小屋ね。足の踏み場もないじゃないの」
 「だったらはいらなきゃあいいじゃん」
 「こんな豚小屋誰がはいりますか、ここを片づけるまで下に降りないこと。分かりましたか!」
 「ふーんだ。じゃあトイレはどうするん。豚小屋にトイレはついてませーん」
 「行きたい人が考えれば」
 「育ち盛りの子豚ちゃん。餌ももらえず可哀そう。トイレも行けず可愛そう、しーくしくしく……」
 「泣き言は結構。もっと素直に片づけたらどうなの。小学生のうちから反抗期なんて早すぎます!」
 後ろ手にドアをピシャリと閉めた。すると中から歌うような大声が。
 「あーあ。私ただ今成長期。いずれ思春期、適齢期。私の将来どうなるのー」
 怒るより前に噴き出しそうになった。しかしこのままでは引っ込みがつかない。ドアを開けると、何やら口ずさみながら服を拾い集めている。目が合った。途端に「ゴロニャーン」と言いながら体をすり寄せて来る。
 「片付いたらおやつにしようね」
 コクンとうなずく頭をなでて階段を下りた。
  北九州市 吉尾旦子(74) 2010/8/25毎日新聞の気持ち欄掲載

バス停

2010-08-25 10:46:57 | はがき随筆
 親友が突然亡くなったと知らせあり。すぐさま、その日、大分行きの夜行バスに乗ろうと、吉松の高速バス停に向かった。
 深夜の午前0時に近い時刻。人けはなく、ボーッと照らす街灯。見上げる高い高速道路。その土手の下には、深い側溝があって、暗い川底でカエルとも人の泣き声とも聞こえる響き。
 あたりの雰囲気に、足がすくむ思いをしながら、バス停への階段を上がって行った。
 まさに、ここ。この場所は、親友が、古里に帰ってくるたびごとに、いつもいつも利用していたバス停だった。
  伊佐市 今村照子(58) 2010/8/25 毎日新聞鹿児島版掲載