はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

風止め籠り

2010-08-24 11:18:18 | 女の気持ち/男の気持ち
 起源ははっきりとは分からないが、先祖から受け継いできた小さなお宮がある。春は境内にある桜の花のころに花見籠り、秋の二百十日ころには風止め籠りを村の行事として行い、台風から農作物を守る祈りを捧げてきた。
 お籠りが近づくとみんなでお宮の掃除をして、家庭ごとにだんごや漬物など自慢の我が家のものを持参してお供えした。
 お籠りには子どもから年寄りまで家族そろって参加する。手作りの弁当を重箱に詰めてお宮に集まり、それぞれの家庭の味を交換しながら、味の批評や世間話に花が咲くのである。
 少し高い所にあるお宮まで、緩やかな坂道を登ってくる年寄りたちの手を引いたり、背を押したりするのが子どもらの役割だった。
 二十数戸の村も1人また1人と離農する人が増え、田畑を耕作する人がわずかになって、8、9年前に風止め籠りも廃止になった。
 今夏のお宮の掃除の時に誰かが「ねえ、今年は風止め籠りしようやないねえ」と言った。「うん、しようや、しようや。ごちそうやらないでいいやないね」と久しぶりに小さな村人が風止め籠りをすることになった。
 本当にうれしい。昔の素朴なにぎわいと、みんなの笑顔に会えるのだ。
 早速我が家の梅干し、漬物などの準備にかからなくちゃ。そうそう、弁当開く前にみんなで唱えるご詠歌の稽古もしなくっちゃ。
  福岡県岡垣町 藤井和保(61) 2010/8/23 毎日新聞の気持ち欄掲載

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