はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

08年度のはがき随筆年間賞

2009-05-02 18:44:03 | グランプリ大会
年間賞に馬渡さん 見つけた病とのいい距離感

 08年の「はがき随筆」年間賞に鹿児島市慈眼寺町、馬渡浩子さん(61)の「腫瘍に命名」(昨年7月23目掲載)が決まった。表彰式は5月17日午後1時から、JR鹿児島中央駅前の鹿児島市勤労者交流センターである。馬渡さんに喜びの声を聞いた。

 受賞の一報に「冗談と思い、信じられなかった。はがき随筆はいつも気落ちする私を励ましてくれた」と話す。
 受賞作中の腫瘍は、30歳過ぎごろから馬渡さんの視界を脅かし始めた。視力低下や視野狭さくが進んだが原因が分からず憂うつな日々が10年以上続いた。
 視神経に癒着する腫瘍が見つかった時は既に6㌢大。「苦しくていつも死ぬ方法を探していた」。手術で約半分を取り除き症状は安定したが「まだ残っていることがずっと受け入れられなかった」という。
 手術から15年、還暦を迎え「よくここまで生きられたな、と。腫瘤をもう敵みたいに思いたくない」。何気なく命名した。
 デパートで呼ばれた時は腹を抱えて笑った。「憎くてたまらなかった腫瘍に助けられた気がして」。病とのいい距離感が見つけられたと思った。
 手術後に始めた投稿は10年以上。毎日ペンクラブ鹿児島の発足にもかかわった。「つらい時期に新しい友人ができ、生活に広がりをもたらしてくれた」と感慨深げた。
 2月に左ひじを骨折し、最近は気分がふさきがちだったというが「受賞で吹き飛びました。天の助けのよう」と相好を崩す。今後は「長い間、迷惑をかけ続けた夫への感謝をつづろうかと思います」と夫婦並んで話してくれた。【村尾哲】
 
病気との共生軽妙に
  馬渡さんの文章は、視神経にできた腫瘤に名前をつけて共生しているという、軽妙な内容です。
 私たちの「生・老・病・死」の悩みのうち、死は意識できませんから一応別にすれば、大変なのは老いとともに増してくる病気の苦しみでしよう。その病気といかに折り合いをつけながら生きていくかは、高齢者社会において避けては通れない問題だといえます。そのような大きな課題への対処を短くまとめられたところに感心しました。
 忌むべき腫瘍にお名前をもじった可愛い名前をつけ、デパートではぐれて、ご主人から、その名前で館内アナウンスされたというのもに微笑ましく、老夫婦の充実した生き方をほうふつとさせられました。
 文章は、大変なことを「大変だ」と表現すると案外、効果が薄れます。大変なことを相対化して表現されたところで成功しました。
 (日本近代文学会評議員、鹿児高大名誉教授・石田忠彦
  2009/5/2 毎日新聞鹿児島版掲載

年間賞作品
「腫瘍に命名」

 視神経に癒着した腫瘍と長期間、共生している。立ち退く気配など全然ないので、名前でも付けて仲良くしていくことにした。小さい存在であってほしいとの願いを込めて、本名から「子」を削りワタリ・マヒロと命名。何か「いわさきちひろ」風で、本名より良い感じ。
 先日、デパートで買い物中、夫とはぐれた。特売日ですごい人出。携帯は通じない。呼び出しを頼みたいけれど実名では、とためらっていた矢先「ワタリマヒロさん、お連れれの方が………」とアナウンスが。おお!
 よもや、こんな時こんな形で腫瘍の名前が役に立つとは。
  鹿児島市 馬渡浩子(61)










佐木隆三さん講評

2007-06-17 23:43:29 | グランプリ大会
「250字の世界」本当に見事

 90年に始まり、現在18回目を募集中の北九州市自分史文学賞の審査員をずっと務めています。作品は400字詰め原稿用紙で200~250枚。職業作家でも大仕事ですが、毎年国内外から約400編という驚くほどの作品が寄せられ、大変うれしく思っています。
 これに対して、はがき随筆は250字。この字数にまとめるのは至難の業です。職業作家は原稿用紙1枚いくらで原稿料をもらいますから、水増しした会話で行数を稼ぐ人もいます。そうした世界にいる人間から見ると、250字にギュッと圧縮するのは本当に見事な業です。一昨年の宮崎大会で審査員を務めた時に思いましたが、今回もつくづく感じ入りました。
  ◇  ◇  ◇
 「近況報告」で大賞を受賞した古賀さんは、なかなかの名文家。こういうはがきをもらったら、「心の広い人だなぁ」と感じ入り、12階からの眺めを想像し、奥さんの回復を願うだろう。はがき随筆の金字塔といえる。
 世の中にいろんな形見があるが、久保さんの「慕情の鈴」には意表をつかれた。どんな場面で、チリリンとささやくのか、哀切きわまりないけれども、夫婦愛の深さがうらやましくなる。
 海汐さんの「お婆ちゃんの餞別」。とっさにティッシュで餞別を包み、「勉強をがんばりませう」と書いたりするのは、よくある場面かもしれない。しかし、時を経て佳話として実るから、人生は素晴らしい。
 「死に甲斐」の西さんの83歳(審査時)にして衰えぬ闘争心に驚かされる。辞書に「死に甲斐」はなくても、生きることに値するものとして、悪者を懲らしめる闘争心。その気概が世の中から失われつつある。
 おせっかいは迷惑だが、矢野さんの「珍しい人」のような人は確かに珍しい。世の中は捨てたもんじゃないと、読ませてもらってうれしくなる。ちょっといい話を提供するのも、はがき随筆なんですね。

「恋」テーマ 文学大賞に4作品

2007-06-17 22:32:19 | グランプリ大会
文学大賞 受賞者 喜びの声

ちょっと欲が 鹿児島県出水市 清水昌子さん

 信じられません。いつもと違って、甘い文章を書いたので恥ずかしい。作文は2年前から始め、新聞部だった高校以来、30年ぶりに書く楽しさに浸ってます。これからは短編や長めのエッセーも書いてみたい。ちょっと欲が出てきました。

「恋未満」
 生け垣のくちなしが咲き出していた。道場はすでに開け放たれ、彼は無心に弓を引いたいた。久しぶりに見る彼の姿だった。入部したての頃、私は彼から手取り足取りで弓道を教えてもらっていた――。
 練習を終えた彼は、他の部員たちに近況報告を始めていた。
 「就職も決まった。結婚も決めた」。矢をつがえていた私の耳に、その声は確かに届いた。ギリッギリッと振り絞る。矢は的中。「ヨッシャ!」。すかさず彼の温かく懐かしい声がした。
 でもあの頃とは違う私たち。でもあの頃のようにくちなしは薫っていた。


継母への鎮魂歌 鹿児島市 鵜家育男さん
読み手に伝わるように何十回と推敲を重ねた末の受賞でうれしい。継母は兄弟を分け隔て無く育てる気配りの人でした。死を目前にして、父に50年連れ添いながら、生母も眠る墓への遠慮が胸に詰まったのです。これは継母への鎮魂歌です。

「恋慕」 
 当時幼い私たち2人を抱えた若い父に若くして嫁いだ継母。1児をもうけたが分け隔てなく愛情を注ぎ育て上げてくれた。その母が生前病床でポツリ「父さんのお墓に入れない」とつぶやく。
 何を意味してポツリ。私はそのつぶやきが耳から離れずのどに小骨が刺さったようにうずく。母は生母よりも何倍もの歳月、父と生活を共にしてきたはず。今となっては聞くすべもない。頑張り屋で優しい控えめな母の心情は「最初に父さんを愛した人は……」との思いがあったのだろうか。私は、生母と父が眠る墓地に「安らかに」と強い意を込め両手を合わせ納骨した。


両親に内緒で投稿  北九州市 加来慎志さん
 題材は約15年前のエピソード。父のイメージとかけ離れた文面が意外でしたが、虹のくだりには当時、強烈な印象を受けました。はがき随筆初挑戦ですが、思ったことを短文に凝縮するのは難しいです。ちなみに両親には内緒で投稿しました。

「恋文」
 父が結婚前に母に送った手紙を読ませてもらった事がある。それが最初で最後の、唯一の恋文らしい。
 「雨は嫌いですか? 紫陽花の葉の裏を蝸牛が這っています。濡れそぼった犬が悲しげに吠えています。今、君は何をしていますか?」。何という陳腐さ! でも自分のロマンチストな性格が父譲りであるのを発見して、苦笑交じりに妙に納得できたものだった。手紙の最後。「雨上がりの空に虹を見つけました。今、僕は、君に会いたいなあ、と強く思っています」
 以来、空に虹を見つけると、誰かにラブレターを無性に書きたくなる。


日ごろの思い正直に 北九州市 豊浦美智子さん

 初投稿ですが、他のテーマなら書かなかったかもしれません。夫の病死から間もなく2年。この5月に銀婚式のはずでした。「ああすれば良かった」などといろんな後悔が今も残っています。そんな日ごろの思いを正直に書きました。

「恋」
 6月は苦手。空の色、空気の温度が私の心をしめつける。
 雨降りが続くとなおさら苦手。会いたくて、胸が痛くて、泣きたくなる。
 この気持ち……まぎれもなく、これは恋。それも生まれて初めての、超遠距離恋愛だ。当たり前だと思っていたけど、一緒にいられることの幸せに、もっと早く気付けばよかったのに……遠く離れて、私の想いは募るばかり。「ありがとう」も「ごめんね」も言えないまま、会えなくなった愛しい人に、初恋にも似た「胸キュン」のせつない気持ちで、私はずっと恋してる。
 7月1日、もうすぐ主人の三回忌。







あふれる思い「圧縮の美」

2007-06-17 18:12:16 | グランプリ大会
はがき随筆大賞に古賀さん(佐賀)
    優秀賞に久保さん(飯塚)、海汐さん(宮崎)
第6回毎日はがき随筆大賞(毎日新聞社主催、RKB毎日放送、日本郵政公社九州支社後援)の発表・表彰式が10日、北九州市小倉北区のステーションホテル小倉であった。「大賞」には妻の静養にと引っ越したマンションでの新生活を描いた佐賀市、古賀弘史さん(71)の「近況報告」が選ばれた。また「恋」をテーマに募集した「毎日はがき随筆文学賞」は、弓道部の先輩の思い出をつづった鹿児島県出水市、清水昌子さん(54)らの4編が大賞に決まった。
 随筆大賞は、毎日新聞の九州・山口各地域に掲載されている作品から選ばれた06年の各地区年間賞11編を直木賞作家の佐木隆三さんが審査した。大賞に次ぐ優秀賞は福岡県飯塚市、久保美佐子さん(80)の「慕情の鈴」と宮崎市、海汐(うみしお)千乃さん(72)の「おばあちゃんの餞別」▽RKB毎日放送賞は長崎県平戸市、西哲男さん(84)の「死に甲斐(がい」▽日本郵政公社九州支社長賞は北九州市八幡東区、矢野朔男さん(83)の「珍しい人」―――にそれぞれ決まった。
 一方、今年が2回目となる文学賞には93歳から18歳までの男女計268人が応募。毎日新聞西部本社の加藤信夫編集局長らが審査し、大賞に清水さん▽鹿児島市、鵜家育男さん(61)▽北九州市小倉南区、加来慎志さん(41)▽同市小倉北区、豊浦美智子さん(50)―――の作品を選んだ。
 式には約150人が参加。RKB毎日放送のラジオ番組パーソナリティ、中嶋順子さんが朗読する各受賞作に聴き入った。各地区ではがき随筆の普及などに功績のあった米良武子さん▽前田昭英さん▽長谷目源太さん▽山川敦子さん―――への感謝状贈呈もあった。

大賞・受賞に喜びの声
難しいが楽しい
頭を使うのは数独の比ではない 佐賀市 古賀弘史さん
 「名前が呼ばれた時、月並みですが、頭が真っ白になりました」
昨年8月、妻冨貴子さん(73)の手術を機に、佐賀市中心部のマンションに転居した。散歩中に思い浮かんだ日常の暮らしぶりをまとめた。8月31日付で掲載された作品は同月の月間賞に。「8年前から投稿し、月間賞は何度か頂きましたが、まさか年間賞になるとは……」。最終的に九州・山口のトップに登りつめた。
 「250字に収めるのはいつもひと苦労。頭を使うのは数独の比じゃありません。難しいが楽しい」。受賞作は比較的すんなり書けたといい「それが良かったのかも」
 帰宅して受賞を告げると冨貴子さんは「へえー」と一言だけ。「自分のことが書かれていて照れもあったのでしょうが、副賞の万年筆をしみじみ眺めていました」。所属する佐賀・毎日はがき同好会の仲間から御祝いの電話をもらい、実感がわいてきたという古賀さんは「これからも書き続けます」と意欲を見せていた。

大賞・受賞作品の紹介
「近況報告」
 病を得た妻の静養にと静かなマンションの12階に移った。3LDKとはいえ、隠れ家的な15坪は50坪から移り住むにはいかにも狭い。2部屋は物置と化し、残り2部屋もテレビあり机ありで生活空間は3畳2間となった。
 しかし、病床の妻をまたいで物を取りに行くたびに、失われがちだった夫婦の会話が復活していくみたいだ。
 驚くほど静かな朝6時、ベランダから眺める背振、天山の美しさに息をのみ、ふり返ってまた息をのむ。座るところがない。 「すごさ」ではセレブのそれに劣らない。ともあれ楽しい新居である。よろしく。


優秀賞受賞 喜びの声
夫を思い出しながら   飯塚市 久保美佐子さん
よく推敲せずに出し、後からしまったと思うこともしばしば。受賞にはびっくりしました。月1回投稿しており、受賞作は万年筆や指輪もさりげなく贈ってくれた夫を思い出しながら書きました。鈴は今も鍵につけて持ち歩いています。

受賞作品の紹介
「慕情の鈴」
 「鈴って、案外高いものだなー。おっと失礼」と言ってプレゼントしてくれた鈴。チリリン、チリリンと、透き通るように美しい音色と、小手鞠のように細工された絵柄は、見ただけで高価な品と分かった。早速、家の鍵と共につけた。間もなく夫はあの世に旅立ち、鈴は形見となった。夫を思い出し、哀しさ、寂しさに鈴を抱きしめよく泣いた。そのつらさに耐えかね、鍵から外し、鈴の音を聞かないようにしたが、亡夫への慕情は募るばかり。すぐに元のところに戻した。15年の歳月が流れた今もチリリン、チリリンとささやきかけてくれる。


優秀賞受賞喜びの声
うれしい驚き  宮崎市 海汐 千乃さん
 投稿歴8年ほどでの受賞はうれしい驚きです。長男が学生時代、帰省の折に母は孫にこっそり小遣いを渡し、彼は東京の下宿で泣いたそうです。まさか包み紙をずっと残しておいたとは。世事に疎い印象だった息子の別の一面を見つけました。

受賞作品の紹介
「お婆ちゃんの餞別」  
 母は7年前、89歳で他界した。
 その葬儀で、私の長男が弔辞を読んだ。彼は折り皺のついたティッシュを出すと、遺影に呼びかけるように切り出した。「お婆ちゃん、この紙覚えていますか。20年前僕が学生だったころ、空港で頂いたお金を包んでいたティッシュです。その時はラッキーと思いましたが、後で涙が出てきました」
 後で聞いたところによると、彼はそれを日記帳に挟み、大切に保存していたと。私は彼の別の一面に触れて胸が熱くなった。紙の表には「勉強をがんばりませう」という見慣れた母の文字が書かれていた。

RKB毎日放送賞受賞 喜びの声
老後の良い楽しみ   平戸市 西 哲男さん
 80歳になって書き始めたので、賞を頂いていいものかと恥ずかしいような気持ちです。随筆がきっかけで書くのが好きになり、文芸誌の同人だった仲間で小冊子を作ったり、老後の良い楽しみができました。受賞がまた励みになります。

受賞作品の紹介
「死に甲斐」
 ミシミシ、ギーギーの音で目が醒めた。深夜である。強盗か? 傍らの黒カシの木刀を取って握り締めた。妻は老人施設に入っている。後顧の憂いはない。どうせ死ぬなら悪者を懲らしめたい。闘争心が沸き上がってきた。
 また奥の間でミシっと音がした。「おい、出てこい」と叫んで障子をさっと開けて構えた。誰もいない。人の気配もない。電灯をつけた。妻のタンスが傾いていた。根太が腐って畳もろとも落ち込んでいた。
 私は拍子抜けして独り笑いした。「死に甲斐」という言葉を思い出したが、どの国語辞典にもなかった。


日本郵政公社九州支社長賞受賞 喜びの声    
妻と評価し合い 北九州市 矢野 朔男さん

 釣りでの体験は、人の良い所を素直に取り入れよう、と相手の話を聞いたからこそでした。はがき随筆も一緒。妻の影響で投稿を始めましたが、日ごろから2人で作品を評価し合ったことが今回の受賞につながったと思います。

受賞作品の紹介
「珍しい人」
 釣りのある日。右側の人が実に良く釣る。何度目か視線が合った時、さおを置き、すたすたとやって来た。「あんた釣れんなあ」「はあ」「どれ見ちゃろう」。仕掛けを見て「これじゃ効率が悪い」と引き返し、自分のを持ってきた。「わしが作ったんじゃ。あんたにあげよう」と付け替えた上、釣れるコツまで教えてくれた。礼を言い名前を聞くと「名乗るほどのもんじゃない」と笑った。苦心して身に着けたコツを惜しげもなく他人へ、こんな珍しい人もいるんだと敬服した。やがて釣れだして目が合ったら、あの人が頭の上に両手で大きな丸を作って笑った。


毎日はがき随筆大賞

2006-06-17 12:29:36 | グランプリ大会
 6月11日福岡市で開催された、「第5回はがき随筆大賞」の表彰式に行って来ました。
 会場は、福岡市中央区にある、ロケーションの素晴らしい「山の上ホテル」。約130人の随友が集い交流を深めました。毎日新聞の九州山口各地域面に毎日掲載された作品の中から、05年度随筆大賞・グランプリに大分代表竹田市の三代律子さんの「残された健君は?」が選ばれました。
 昨年末、「支局長が選ぶ心に残る1本」に選ばれた作品ですが、戦中派の私には心に重く残ったエッセイでした。今でも読み返すと涙が溢れます。続いて、優秀賞2作品、日本郵政公社九州支局長賞、RKB毎日放送賞の紹介がありましたが、司会された、RKB放送のラジオ番組パーソナリティー中島順子さんの朗読がすばらしく胸をうたれました。
 作品の選者は「蕨野行」で知られる芥川賞作家、村田喜代子さん。表彰式の後に作品の講評と講演がありました。
 新聞をまあるく切り抜き「この穴から見える範囲を書きなさい、詰め込みすぎないこと、然し省きすぎると、味わいが失われます、どこを選んで見るかが大切です」と。あぁ難しいよう
 「家族」をテーマに募集したエッセイも、予想を超えた応募があり、素晴らしい作品が紹介されましたので、次回の「ひとりごと」で、ご紹介しましょう。
 同行した、弘子さんは、G・Gのチャンピオン。疲れも見せず張り切って居られましたが、九州の最南端、鹿屋からの日帰り旅は空を飛んでもくたびれました。

大賞受賞作品を紹介します。

残された健君は?
 敗戦とは思いがけない事実であった。北朝鮮から歩いて引き揚げる。気の遠くなるような距離を野宿の日々。60人組。健君が熱を出した。真っ赤な顔でもう歩けない。彼の母はリュックとその弟を背負い健君の手を引く。余程の決断に一軒の家の門を叩く。なけなしのお金を出し「すぐ迎えに来ます。預かってください」。悲痛な叫びは届いた。「すぐに…」を健君に言い含め振り返りながら別れたその母。戦後60年、健君は無事だっただろうか。熱っぽい眼差しで懸命に黄色い帽子を振っていた幼い姿が目に焼き付いて離れない。8月とは心が重い。  
 大分県竹田市 三代律子さん



毎日はがき随筆大賞・受賞作品の紹介

2006-06-16 10:59:57 | グランプリ大会
 6月11日に開催された「第5回はがき随筆大賞表彰式」では、大賞の外に4編の作品が選ばれました。作品と受賞者の喜びの声を紹介します。

優秀賞1 桜の季節
 それは、10年ほど前から入退院を繰り返していた妻にとって最後となった入院前日のことだった。「なぜか今日は気分がいいので桜を見たい」と言うので市内の公園に連れていった。枝いっぱいに咲き誇り、今にもこぼれそうな桜を見つめているうち「きれいだね。ありがとう」 とつぶやいた。「金婚式までは頑張ろうね」と2人でいつも励まし合っていたのに。今年はちょうどその年に当たる。桜の季節。あの時の「ありがとう」は今も深く心に刻まれ忘れられない。4年前、最後に妻と眺めた桜。今年も桜の下にたたずめば、きっと涙があふれるにちがいない。
   福岡県飯塚市 安部田正幸(75)
 5年前になくなった妻と最後に見た桜の美しさは今でも忘れられません。毎年、その桜を見上げると涙がこみ上げてみます。6年ほど前から投稿を始め、今回は妻への気持ちをそのまま文字にしました。受賞には本当に驚いています。

優秀賞2 ひより雪
 朝から雪が降っている。太陽が顔を出しても、まだ、雪が降っている。「ひより雪みたい」と孫がポツリ。「日和雨というのがあるから、それもありだよね」と2人で笑った。満1歳の誕生日の数日後、急性脳炎ですべてを失いかけた孫が17歳となり、言葉が豊富になった。今も、自分の足で立つことも歩くことも出来ず、思い通りには動けない。音楽が好きで、土日は終日音の中に埋もれていて、ときに面白いことを言って私を笑わせる。雪が舞うその向こうに広がる青空を眺めながら孫を抱きしめていると「奇跡」の二文字が浮かんでくる。
   山口県周南市 国兼由美子(63)
 孫娘は脳に障害がありますが、明るくて、ユニークな言葉を発して家族の心を豊かにしてくれます。受賞は孫のおかげ。美味しい物を買ってあげるつもりです。今後も感性のアンテナを広げ、厳張って随筆を書こうと思っています。

日本郵政公社九州支局長賞 望郷
 雑木林に65歳の翳(かげ)を伸ばし伸ばし歩いている。3日前の同じ道とは思えないくらい穏やかな日和だ。激しい北風に竹林がしなり、跳ね返していた光景はどこにもない。どれだけの歳月が流れただろうか。目を覚ましたせせらぎの水声がのどかだ。耳を澄ませば山から鶯の谷渡り。小学校からはピアノに合わせて子らの清き声。枯れ野には農夫が藁を敷き詰めている。稜線も明るい。まさに水温む春だ。でもどじょうっ子はどこえ消えた。幼馴染みはどこへ行った。雲はこんな遊子を故郷遠賀川へかり立てる。まだ旅は終わらない。
 ふるさとへ帰りますかと春の雪
   熊本県荒尾市 橋口朋英(66)

 福岡県水巻町で生まれ育ち、炭坑閉山で親友らとちりぢりになりました。自然が失われつつある故郷への思いを随筆に込めました。地元の毎日ペンクラブの仲間と切磋琢磨しています。私一人でなく、みんなへの賞だと思っています。

BKB毎日放送賞 馬鹿やねー
 11月に両目の白内障の手術をした。失敗したらとの不安もあったけど、無事に済みほっとした。今は小さな文字も読める若い目になってうれしい。友は「どう?」「うん、あなたの心の中まで見えてるよ」「ぎょっ、怖い」と、おどけて喜んでくれた。数日して、息子がズボンのポケットの穴を繕ってと言う。「いいけど、ちょっと針に糸通してよ」「何で、もう出来るじゃん」「そう言わんで手伝って」と頼みながらふっと気付いた。「通った。いっぺんで糸が……」「ハハー、10日も入院しちょってから、馬鹿やねーお母さんは」
   北九州市小倉南区 馬場美恵子(71)

 投稿し始めて約10年になりますが、賞は予想してなかったので本当にうれしい。昨年、目の手術を受けた後、息子の一言で、再び見えるようになった喜びに気づかされました。受賞は、繕い物を持って来た息子の優しさのおかげです。

 「家族」をテーマに募集した456編の作品の中から選ばれた、文学大賞5作品は次回のひとりごとで紹介します。

家族をテーマに作品を募集します

2006-04-27 18:45:12 | グランプリ大会
 毎日はがき随筆文学賞
 毎日はがき随筆大賞が、第5回を迎えるのを記念して、今年は「255字の世界~毎日はがき随筆文学賞」の作品を募集します。ペスト3を選び、6月11日(日曜)、福岡市で開く毎日はがき随筆大賞の発表・表彰式で同時発表します。
【募集内容】
テーマ(題)は「家族」。字数は、「はがき随筆」と同じ17字×15行(255字)以内。
【応募方法】
住所、氏名、年齢、郵便・電話各番号を明記のうえ、〒810-8551(住所不要)
毎日新聞福岡本部報道部「はがき随筆文学賞」係まで、はがき、または封書で。5月31日必着
【表彰】
ベスト3作品。賞状と副賞
【審査方法】
西部本社の加藤信夫編集局長、武田芳明代表室長、伊藤元信編集局次長ほか、福岡県内のはがき随筆担当デスクが選考します
    毎日新聞西部本社  2006/4/27 毎日新聞掲載より