はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

最期の言の葉

2019-11-27 20:26:54 | はがき随筆
  どの花見ても、友の顔が浮かぶ。齢を重ねてからの友は、かけがえなく心からの友、いや姉妹のようになっていた。
 運転が大好きだったので、毎週のようにいろんな花見に連れて行ってくれ共に楽しんだ。
 それほど元気だった友が逝って10日程すぎた日、娘さんが手紙を届けてくれた。ひと月も何も食べられなかった友は余力もなかったのか、読みとれない字もあったが、つないで読むとそれは感謝の言葉で満ちていた。
 「病気になっても幸せ」と最期の一葉を読んだとき、抑えていた感情が噴き出し号泣した。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(71) 2019/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載

懐かしい青春の一日

2019-11-27 20:19:28 | はがき随筆
 大学を卒業して48年、2年ぶりに同窓会を南阿蘇村で開催した。同窓生30名が天に召され、今回は全国各地から13名が参加した。
 3年半前に起こった熊本地震で崩壊した阿蘇大橋の復興を見ながらのドライブ、共に学んで旧友との交流は時間の流れを感じさせない楽しい時であった。
 宴会後は、昭和の懐かしい歌をカラオケで楽しみ、また、久しぶりのマージャンや囲碁対局は、時間の流れを忘れたひと時だった。年々、寂しくなるが、その日は、2年に1回の在りし日の青春の一日であった。
 熊本県大津町 小堀徳廣(71) 2019/11/26 毎日新聞鹿児島版掲載

自叙伝は宝

2019-11-25 21:09:40 | はがき随筆
 毎日新聞10月9日のおくやみ欄に鹿屋寿Мさん98歳と。即目に止まり、Мさんをしのぶ。5年前投稿のタイトル愛妻が高い評価で称賛。年間表彰式に北九州まで行かれた報道写真、元気はつらつ、神々しく輝く笑顔を大切に保管。奥様思いの心情文掲載の頃、ご自宅を訪問した。
 大変喜ばれ、私から進呈した絵、書を壁に貼られ感謝の言葉を賜った。雑談が終わり「また来ます」と帰る私を見送ってくださり、車の左横に立っておられたお姿は忘れない。繊細な心に感動。流れる歳月、つい先日旅たちを。記念にいただいた自叙伝は大切な私の宝です。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(80) 2019/11/25 毎日新聞鹿児島版掲載

義母の遺品

2019-11-24 21:16:15 | 女の気持ち/男の気持ち
 「いてっ」。机の前に座る際に蛍光スタンドの端に頭をぶつけた。かなりの年代物だ。机を前にして、何気なく周囲を見渡すと、かみさんの母である義母の遺品が目に付く。蛍光スタンドもその一つだ。義母と私は養子縁組をしていた。
 目の前の机も遺品だ。何の木かは知らないが、ビョウをさそうにも硬くてさせない。その上めっぽう重い。横120㌢、奥行き80㌢特に大きいというほどではないのだが、一人では持ち上げられない。
 義母の父が職人に頼んで作ってもらったとかで、釘は一本も使わず、全てはめ込み式で、がっしりと出来あがっている。
 昔の家は床が高く、義母は玄関から部屋に上がれなくなったので、手すりと階段を付けたのだが、今では私自身が大いに助かっている。さらに上がったところの部屋に置いてある椅子付きのテーブルは、来客があったときに役立っている。
 そのテーブルを眺めていたらふと共同生活を始めたばかりのころ、義母と向かい合って一緒に夕食をとっていたときのことを思い出した。義母が手にしている箸で、おかずの器を寄せたのを見たとき、思わず「お行儀が悪いですよ」と注意したら「よーし、よく言った。これで本当の親子になった」と言ったものだ。
 実をいうと義母と私は同じ子年生まれで性格も似ていた。この義母が亡くなって12年。かみさんはクロアゲハが飛んで来る季節になると「お母さんが様子を見に来たわよ」と指さし、在りし日をしのんでいる。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(83) 2019/11/23 毎日新聞鹿児島版掲載

納竿

2019-11-24 21:07:26 | はがき随筆
 椎葉村は尾手納にて。「追手納」とも称され、源氏から追われた平家がこの地に落ち延びたという伝説が残る。「追手が納まる」と言葉繋げば意味もとおるか。渓流釣りでこの地へ足を運び、奥へ、奥へと訪ねていく。人家一つない秘境は、轟く水の音が静寂に染み込む。かつて刀を携え武士が歩んだこの地を、今は竿を携え釣り師がゆく。魚を平家とすれば、それ追う自分は源氏かとこぼした。
 みなもを彩る落葉、間もなく渓流釣りシーズンの終わり。「これまでか……」川に立つ源氏もまた、秋風に追われるように竿をしまいこの地を後にした。
 宮崎県日向市 梅田浩之(27) 2019/11/24 毎日新聞鹿児島版掲載

慣習の謎

2019-11-24 20:58:30 | はがき随筆
 秋になると柿の木のそばに、柿ちぎり用に先端を割いた竹竿が立かけられた。柿は最後の一個だけは誰に聞いたのか訳も知らず残していた。何気ない慣習にもそれなりの理由があり11月12日付本紙余録で「木守柿」の話を読んで納得した。
 子供の頃、十五夜には泥棒が許されるということを聞いていたが以前、余録で「団子盗み」として紹介があった。
 「洗濯したての物は一度たたんでから着なさい」とは母の教えだが理由は聞きそびれた。伝わる慣習には、先人の生活の知恵や自然に対する畏敬の念が込められているのだろう。
 熊本市北区 西洋史(70) 2019/11/23 毎日新聞鹿児島版掲載

ギブアンドテイク

2019-11-22 12:23:46 | はがき随筆
 近年、小鳥や昆虫が減って寂しい気持ちになる。無農薬、有機肥料の菜園で体を動かしている。10月、キャベツ5本は防虫ネットをかけ、2本は縁近くに植えた。先日、菜園を見ると無防備のキャベツは幼虫の食生になり、葉脈だけの網状になっていた。昨年もそうだった。数日後、太った幼虫はサナギの準備かいなくなった。ボロボロのキャベツはしばらくして新しい葉を出した。小さく結球して遅れて収穫できる。あの幼虫はどこかで羽化しただろう。郷土に飛来する鶴に、広大な田の二番穂は鶴に残し、餌も与える。譲り合って飛来を楽しんでいる。
 鹿児島県出水市 年神貞子(83) 2019/11/22 毎日新聞鹿児島版掲載

やっちゃった

2019-11-22 12:15:19 | はがき随筆
 切符自動販売機の前でモタモタして見えたのか、駅員さんが購入してくれた。だが、行く先が延岡になっていた。「日向市に行くんですが」「さっき延岡と」。無意識に言ったかも。謝って超過分を返してもらった。
 日向市駅まで1時間なのに熟睡。「ドアが閉まります」の放送で目が覚めた。外を見ると日向市駅だった。次の南延岡駅までの長かったこと。結局、返金と同等の乗り越し分を払う羽目になった。娘には遠くまで迎えに来てもらい恥ずかしかった。
 帰途は終点までなので眠ろうとしたが、全然目はパッチリだった。何か笑える日だった。
 宮崎市 堀柾子(74) 2019/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

TVの「一軒家」

2019-11-20 22:03:51 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月17日 (日)
   岩国市   会 員   片山清勝 
 衛星写真で見つけた人里離れた一軒家。そこにはどんな人が、どんな暮らしをしているのか、と訪ねる。民放のテレビ番組である。
 私はいつの間にか興味を持った。見るたび、人の暮らしや生き方の原点を教えられるようだった。飾り気のない住人の生活する姿、環境を取り入れる工夫、その力に新鮮さを感じずにはいられない。便利な都市生活ではたどりつけない想像力に満ちている。
 番組は、スタッフが写真を携えて、この辺りと考える付近で聞き込みをしてスタートする。親切に道を教えてくださる人たち。なんとも言えない温かさを漂わせるイントロが本番を期待させる。
 一軒家に住み始めたいきさつは、当然ながら毎回違う。だが共通点もある。逃避しての一軒家暮らしではなく、その地を継承するという動機だ。そこがいい。
 住み始めると、周囲の命ある全てのものに感謝しながら、それらと共存を目指す。生活の中で描いた夢を実現していく。住人の子や孫が、山深い一軒家を訪れて自然を満喫する。
 私は勝手なことを思う。自然との共存を見習い、山を守りながら暮らしの場を引き続き守ってほしいと。
 この番組は、テレビ界ではバラエティーに属するらしい。大都市へ人口が集中する現代、私には都市生活とは真反対の生き方を紹介する社会派番組に思える。
 人は人工知能(AI)と無縁でも生きていける。高視聴率なのもよく分かる。
        (2019.11.17 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)




気配り運転士

2019-11-20 21:56:35 | はがき随筆
 手押し車の老女が市電の降車口にやってきた。ステップのある車両。たまたまドアの近くに座っていたので、席を離れ車を外で受け取ってあげる。
 数分後、自分が降りる停留場に到着。「ありがとうございます」とさくらカードを読み取り機にタッチしたら「先ほどはお世話になりました」と逆に運転士から御礼の言葉。お節介とも思えるささやかな行動だったので、かえって恐縮した。
 社内のこうした動きをきちんと受け止め、こまやかな気配りのできる運転士。温かみのある接客に、市電の良さを改めて見直した。
 熊本市東区 中村弘之(83) 2019/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載

西郷さんの相談

2019-11-20 21:39:59 | はがき随筆
 明治4年、大蔵省の官僚だった渋沢栄一の家に突然、西郷参議が訪ねてきた。相馬藩は政府の財政改革により藩の財政法が廃止になるのを恐れて、その阻止を西郷さんに依頼したのだ。
 相談を受けた渋沢が「先生は相馬藩の法をご存じですか」と尋ねると「全く知らない」と西郷さんは答えたので、渋沢は「今は相馬藩より国家の事を考えるのが先決です」と断った。
 西郷さんは飾り気のない、率直な方だったと、「論語と算盤」でこのエピソードを紹介している。参議の相談をそんたくしなかった渋沢、静かに辞去された西郷さんは立派である。
 鹿児島市 田中健一郎(81) 2019/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載

おかげさまで

2019-11-18 13:23:11 | はがき随筆
 買い物を終えカートを引いてマンションのエレベーターの前に着く。「只今、点検中、危険ですから近づかないで下さい」。終了時間もないドアの張り紙が目に入る。カートを引いて3階までは運べない。しばらく立ちすくむ。
 思いがけず、エレベーター脇の階段から、若い奥さんが1歳くらいのお子様を抱いて降りて来られた。私の戸惑った様子に「大丈夫慣れてますから」と言いながら3階の我が家まで持っていってくれた。この早わざに驚いた。同時に胸が熱くなり、この感激。優しさに心が打たれ、天使のようにさえ思えた。
 宮崎県延岡市 島田葉子(86) 2019/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載

「重ね重ねの・・」

2019-11-17 07:07:49 | はがき随筆
 インフルエンザの予防注射を受けに行った。着いた途端、保険証を忘れた事に気づき引き返した。上着のポケットに入れたのに出かける寸前、肌寒く感じて厚手の服に着替え、そのまま病院に向かってしまったのだ。
 注射を打つ時にも。左腕を出し「手を腰に当ててください」の指示に、牛乳を飲むポーズみたいと思いながら右手を腰に当てた。看護師さんは「言い方がわかりにくかったですね」と申し訳なさそうに、左手を優しく曲げて注射をしてくださった。
 重ね重ねの失態。認知症の前兆、それとも粗忽者のウッカリミス。あぁあ、前途多難。
 熊本県菊陽町 有村貴代子(72) 2019/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載



意地悪ばあさん

2019-11-16 21:47:20 | はがき随筆
 ちょくちょくリサイクル業者と名乗る電話が掛かる。大抵は老人施設に居るからと断って済むのだけれど、時に怖いほど執拗で困ることがある。「ゆるゆるになった指輪とかバッグとか探せば必ずあるだろう」と引き下がらない。すると私も悪い癖で腹の虫がおさまらなくなる。
 「あ! そういえばあったわ」「そらナ」「私もうすぐ90歳、せめて50歳ぐらいにリフォームしてリサイクルに出してくれるとありがたいんだけど」。そこでプツンと荒々しく電話が切れる音がする。夕食時にみんなに話すと「そりゃ相手は怒るよ」と笑われてしまった。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2019/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

一人でできるから

2019-11-16 21:45:36 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月12日 
   山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 愛媛で一人暮らしの父は90歳。世話は近くに住む弟夫婦に任せっきり。今回の帰省は月曜日なので、デイサービスに出かける父の様子を見ることができた。父の朝食中に弟が慣れた手つきで、デイに持って行くものを用意していく。
 手持ち無沙汰で父の着替えを手伝おうとしたら「一人でできるから」と弟に注意され、慌てて手を引っ込めた。ゆっくりだがポロシャツに着替え、ボタンもとめていく。「時間はあるからゆっくりでいいよ」。弟の声が頼もしい。靴下をはきズボンもはき替えた。
 人生100年時代。ますます元気で。
 (2019.11.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)