はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

洪水見舞い

2006-08-31 14:23:43 | はがき随筆
 「私の部屋は道路に面しているので、施設長が『ちょっと外を見せて下さい』と言って来てね。外を見たら、橋の方から水がどんどん溢れてきているのよ。それで施設長が『避難しましょう』って叫んで大騒ぎよ。床に置いていた物やタンスの下の引き出しを抜いてベッドの上に乗せ、身の回りの物を両手に持って2回へ逃げたのよ。その夜はカップラーメンだけ。長生きすればこんな経験もするのね」
 近ごろ、元気のないおばあちゃんが、更に気落ちしていないか心配だったが、興奮気味に語る体験談にまずは安心した。
   出水市 清水昌子(53) 2006/8/31 掲載

赤トンボ

2006-08-30 12:44:51 | はがき随筆
 時の過ぎ行くままに1日1句の俳句を始めて2年になるが面白いものだ。
 秋日和遠い昔の母憶う/秋の夜ロンドン帰り孫嬉し/天高く同窓生尋ね来る/稲穂波廃校庭に零戦が/一人居て第九見るのも又歓喜/雉二羽暮れなずむなりかわし啼き/夕まぐれ雪柳咲くほのぼのと/梅雨豪雨薩摩全土を水びたし
 さみだれの後始末する助け合い/熱帯夜アマデウスにて眠りけり/赤トンボ夕日に映えて散歩道/青田中ひときわ目立つ鷺一羽/さみだれや阿蘇の山やまけぶりけり/今日の日も一句出来て喜び覚える嬉し時である。
   大口市 宮園 続(75) 2006/8/30 掲載

盆釜

2006-08-29 14:31:14 | はがき随筆
 盆釜をご存じですか。一昔前、私たちが子どものころした女の子の遊びだ。名の通りお盆のころ、女の子が自分たちだけで炊飯し、副菜をほんの少し作って、ござの上で一人前の家庭の食事風景を展開するのだ。友だちも共に始めて作ったホカホカご飯とみそ汁、母から調達したお漬物やデザートの水ようかんを口にした時の満足感は未だに忘れられない。
初めての米とぎ、包丁で野菜を刻む、火起こし。みそ汁の水の計量と味見。家電の普及しきった今、この素朴な、しかし心に残る子どもの遊びの盆釜を今夏、試してみてはどうだろう。
   鹿児島市 吉利万里子(60) 2006/8/29 掲載

桜島探訪

2006-08-28 15:34:28 | かごんま便り
 桜島の表情が面白く、時間を見つけては車で島を周回している。特に島の北川と南側の表情の違いに興味をひかれる。今の季節、北側は緑が多い山の姿。南側はごつごつとした溶岩が海まで流れ込んだ跡があり、荒々しい火山の姿になる。
 車で周回するうちに「かまぼこ形」のコンクリート建造物があるのに気づいた。運転しているので、ほんの一瞬見えるだけだが、通過する度に気になる。
 フェリー乗り場でもらった観光案内図には記載されていない。調べてみたら、戦時中の「特攻艇倉庫」らしい。桜島に特攻艇が配備されていたのだろうか。が、梅崎春生さんの小説「桜島」にそんなくだりがあることを思い出した。
 読み直すと確かに「桜島には、震洋がもう来てるかね」の会話部分があった。ボートに爆薬を搭載した特攻艇「震洋」である。
 こうなったら、今回は歩いて現地まで行き確かめるとにした。フェリー乗り場から赤生原方面へ。車ではわずかな距離だと思っても、歩くとけっこう時間がかかる。この辺だろうと検討を付けた場所に目標物はない。
 通りがかりの年配の女性に聞いたら「この山の上に海軍の基地があった。この先の学校の子どもが海岸で石拾いしていたらアメリカの飛行機の機銃掃射で4人が死んだ。基地から銃を撃つけれど当たらなかった」などと話してくれた。特攻艇の倉庫については「防空壕は知っとるけど、倉庫は知らない」と言う。
さらに進むと桜洲小学校があった。さっきの話の中で、犠牲になった子どもたちが通っていた学校だったかもしれない。その先に目指す建物があった。近づいてみるとかなり古い。近くの男性に聞いたら間違いなく「特攻艇倉庫」だった。いまでも民間の倉庫として使われているそうだ。
 小説「桜島」には、終戦直前に見張りの兵がグラマンの機銃掃射を受けて死に、それに絡めてツクツクボウシが印象深く書かれている。私は15日を過ぎて赴いたが、まだクマゼミとアブラゼミが激しく鳴いていた。
 気がかりな建物の正体が分かった喜びよりも、今でもひっそりと建つ特攻艇倉庫と、子どもが犠牲になった忘れられない思い出を初対面の私に話してくれた女性との出合い。何とも言えない気持ちが交錯した。
   毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 (2006/8/28日掲載)

リバウンド

2006-08-28 14:38:54 | はがき随筆
 ブロックの合評会に参加した。会場、食事を提供してくださったNさん、Kさんに感謝。遠来のIさん、飛び入りのKさんなど11人中、初参加者の方が5人でフレッシュだった。
 私のは、迷いに迷った終末の分が蛇足だったと、思い当たった。何回も推敲したのに、文とはこんなにも難しいものだと再認識。上手にまとめようと意識して、かえって自分の本心と微妙に違う「建前」に終わっていた。
 フィニッシュを決めてやろう、と張り切ったのは良かったが、着地に失敗。下手に推敲しすぎると、リバウンドして元も子もなくなる見本になった。
   鹿屋市 上村泉(65) 2006/8/28 掲載

コスモスと桔梗

2006-08-27 13:03:43 | はがき随筆
 日照りと雨風に耐え、庭のコスモスと桔梗がすくっと伸びている。だが、花の季節が来るのが哀しい。
 コスモスが好きだった志風忠義さんは、難病を抱えながらも、逝去2月前まではがきで励ましてくださった。
 秋峯俊郎さんは記念文集「はがき随筆」の表紙絵「桜島」を描いて下さったのが最後になった。絵のように爽やかな方だった。桔梗の苗も頂戴した。
 庭の草花を見たり、桜島を眺める度に、忘れがたい思い出が浮かんでくる。
 お二人の初盆がきた。コスモスも桔梗も大切に育てます。どうか安らかに。
   出水市 小村 忍(63) 2006/8/27 掲載

生姜も入れる

2006-08-26 11:45:19 | はがき随筆
 生姜も入れる。どんな出来具合かさっぱり分からぬ。娘は親父の食に合うか気がかりである。人生の経験を生かしテンプラをつくる。妻の味にかなわぬことは事実である。小アジ、キビナゴ、イカを使う。小アジははらわたも取らずに揚げる。キビナゴは水洗いをして料理する。イカは適当に分けていく。どんな料理本にも載っていないやり方である。味はそっちのけである。生姜の味で盛り付けはされていく。娘の口にパクリと入る。辛い評どころか「うまい。お父さん味付けがいいよ」と言う。気配りの点数か。テンプラづくりに後押しする。
   出水市 岩田昭治(66) 2006/8/26 掲載

親子の絆

2006-08-25 13:32:27 | はがき随筆
 市立病院でのこと。帝王切開で女の子の孫が900㌘でうまれ、一時700㌘に。医師、看護士の懸命の治療の甲斐あって、やっと集中治療室から出ることが出来た。
 娘も必死。毎日1時間かけて母乳を運ぶ。その結果、目も脳も正常。そして3カ月の親子入院。泣き叫ぶこどもに、自分も涙を流しながらのリハビリ。その親子の姿を見るにつけ、涙することも度々だった。
 親子の絆か。今、川崎の高校1年生に推薦入学した。負けん気の強さは誰からのものか。2年ぶりに帰って来る。楽しみに待っている老夫婦だ。
   薩摩川内市 新開 譲(80) 2006/8/25 掲載
※ 写真は本文と関係ありません

はがき随筆7月度入選

2006-08-24 14:06:44 | 受賞作品
はがき随筆7月度の入選作品が決まりました。
△鹿児島市鴨池、川畑清一郎さん(59)の「父の日に思う」(9日)
△西之表市西之表、武田静瞭さん(69)の「母はいない……」(29日)
△薩摩川内市樋脇町、新開譲さん(80)の「逆療法」(2日)

の3点です。

 7月はご年配の方々の文章が比較的多かったからか、過ぎし時を懐かしむ文章が多く出されました。
 川端さんの「父の日に思う」は、体に障害のある小学校1年生だった川端さんを遠足に参加させるため、お父さんが川端さんをおぶって歩いてくれたというのです。今は他界した父親の背中の大きさ温かさが忘れられず、父の日のたびに今も涙するのです。
 また、武田さんの「母はいない……」も、お母さんの他界は明瞭に認識しているのに、ふと自分を呼ぶ声がする、足音がする、ということ。最後に「幽霊になってでもいいですから、いつもの口げんかをしに来ませんか?」と、少し面白く結んだのがいいですね。
 川端さんも、お父さんがよく言っておられた方言での言葉「準備ばせえ」を紹介して話しに親しみを感じさせ、お父さんの人物像をずばり伝えました。うまいですね。
 さて、新開さんの「逆療法」、犬の世話で腰を痛めた新開さん。温泉で温めたら、と言われて張り切って温泉に通い、2カ月の入院でした。冷やすべきものなのですね。温泉好きらしい新開さんの明るい文章が前半に広がるので、入院は気の毒ですが何となく面白い。美園春子さんの「通夜」は、友人3人でお通夜に行き、帰りに3人で大いに笑ったという話。悲しみの時間、場所から解放されて、友人と3人、こんな気持ちも分かりますよね。
 宮園続さんの「元気よ戻れ」は体重減に悩む宮園さんの結びの一文「……生き延びて世のため、万分の一でも尽くさねば……」は何とも立派。小村忍さんの題目は「老いゆく人生」と寂しいですが、多用な趣味と山登りへの参加などの毎日が書かれていました。要するに、努力して明るく積極的に生きること。それが皆さんに素晴らしい文章を書かせるのですね。
(日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)

係から
入選作品のうち1編は26日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
また、「女の気持ち」「男の気持ち」「みんなの広場」などへの二重投稿はしないようお願いします。

7月22日の大水害

2006-08-24 13:22:43 | はがき随筆
 県北部の集中豪雨により、出水市も大水害となった。午後12時半に床下10㌢になり、貴重品を高所に上げる3分の間に畳の縁から水が噴き出す。とっさに手と足で水を押さえた後に、徒労だと頭が理解した。同時に身の危険を感じ非難した。一夜明けて、床上1㍍あまりの家の中は畳とタンスが重なり合い、冷蔵庫は倒れた茶箪笥の上に乗っていた。家の中を大型台風が吹き荒れたよう。ボランティアの高校生の獅子奮迅の働きは「水害程度で負けるなよ。立ち上がれよ」と、生きる勇気もいただいた。あなたたちの顔は生涯忘れないからね。
   出水市 道田道範(57)2006/8/24 掲載

ヤブ蚊の厄日

2006-08-23 12:54:25 | はがき随筆
 今日は恒例の盆前清掃日である。早速、草刈り機を持ち出しエンジンをかけて急ぎ足で参加する。朝露にぬれた草を刈り始める。谷間と林を通り抜けて来る朝風が、心地よく肌にうれしい。エンジンの音に身も心も委ね、リズムよく刈って行くうちに、真夏の汗と共演になる。そうして刈り際に出て来る若草の青酸っぱい独特に香りに夏を強く感じる。それぞれの草刈りの成果の小山が畦に、道端にと出来上がっている。夕暮れになり、一斉に青草焼きとなる。炎の見えぬ煙のみの燃焼で、その煙が四方八方に野、畑、林に流れ込み、一夜のヤブ蚊の駆除となる。
   鹿児島市 春田和美(70) 2006/8/23 掲載

食堂車

2006-08-22 11:53:42 | はがき随筆
 イタリアを娘と2人旅した。フィレンツェからベネチアへ列車で移動する。列車は大幅に遅れてホームに入ってきた。日本ほど正確でないことは聞いていたので納得。12号車の指定席は7号車へ変更の張り紙に従い7号車へ行くと満席。これってダブルブッキング? 結局、食堂車の空席に落ち着く。
 もちろんアナウンスも払い戻しもない。苦情を言う乗客などいない。
 私たちのテーブルでは、乗務員がおおっぴらに売上げを計算するは、歓談で盛り上がる席ありで和気あいあい。異邦人の私たちも輪の中に……。
イタリアよグラッチェ!
   垂水市 竹之内政子(56) 2006/8/22 掲載

日々是好日

2006-08-20 22:17:25 | はがき随筆
 妻を亡くした夫の余命の平均は5年だそうである。私は既に2年余りを経過し、残りを思うとぞっとする。一度は逝かなくてはならないのだが延ばせるものなら延ばしたい。
 そこで考えました。得た結論は、結婚すればいいんです。亡き妻と同じように愛せる人と。行き交う人に声を掛けるわけにはいかないが、チャンスはきっとある。まだ残り2年余りあるんだから。退院してきたら王さんにも声を掛けてあげたいな。同じ年の東京人が、九州に来て頑張っているんだからと。愛する人と明るく楽しく、日々是好日とね。
   志布志市 若宮庸成(66) 2006/8/20掲載

ある暑い日

2006-08-19 23:50:19 | はがき随筆
 夏の炎天下を老人が2人。放置自転車の整理に歩いている。映画館の横筋で1人がつぶやく。「近ごろ西部劇がないねえ」「インディアン嘘つかないなんて、ついぞ聞いた事がないなあ」。ひと回り歩く。歌でも歌わなくては暑くてやりきれない。「君がみ胸に、抱かれて聞くは」小声で歌う。蘇州夜曲である。もう1人が言った。「支那の夜は歌えないんだな」「そうなるのかな。ギスギスした世の中になったもんだ」。2人は2回廻って汗びっしょり。「もう1回廻ったらひと休みしよう」「そうだね。三べん廻ってたばこにしようか」。しかし灰皿は近くにない。
   鹿児島市 高野幸祐(73) 2006/8/19 掲載

夜空のロマン

2006-08-18 15:26:11 | はがき随筆
 月の観察をしようということで、暦で旧の月日を調べる。月齢は15。空を見た。南東の空に大きな満月が見えた。きらきら光を放って輝いている。ウサギの餅つきも見える。
 まるで、かぐや姫でも降り立ってきそうな月だ。これからだんだん欠けて新月になっていくんだなと思うと、「出た出た月が丸い丸いまん丸い――」と、歌い出したくなった。
 星もいくつかきらきら輝いている。月や星にまつわる話は、たくさんある。宇宙の広さを思うと同時に、夜空を眺めつつ、いろいろな思いを抱いた先人のロマンを思った。
   出水市 山岡淳子(48) 2006/8/18掲載