はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

収穫の秋の思い出

2022-10-17 22:19:16 | はがき随筆
 小学生の曾孫2人が阿蘇の稲刈りに行っている様子がスマホで送ってきた。楽しそうな顔を見て、ふと戦後の食糧難時代が甦る。当時、米はなく、雑穀や芋類の日々、近所の方が「陸稲を作ったら」と隣村に近い農地100坪程を貸して下さった。母と2人で鍬で耕し、種籾をまいた。肥料が大変、今のような金肥はなく人糞だけ。前後の肥桶を天秤棒で担ぎ、1日2往復を数回。そして草取り、やっと秋には穂波が。昔の足踏み脱穀機を借り、収穫できた。僅かな米だったが、どれだけ助かったことか。1年で終わったが、今では到底考えられない思い出。
 熊本市中央区 原田初枝(92) 2022.10.17 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆9月度

2022-10-17 21:44:31 | はがき随筆
月間賞に久野さん(鹿児島)
佳作は西尾さん(鹿児島)、今福さん(熊本)、鶴薗さん(宮崎)

 はがき随筆9月度の受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】5日「笑顔のバイバイ」久野茂樹=鹿児島県霧島市
【佳作】2日「処暑」西尾フミ子=鹿児島県鹿屋市
▽13日「タカサゴユリ」今福和歌子=熊本県八代市
▽23日「中秋の名月」鶴薗真知子=宮崎市

 はがき随筆には、ささやかなできごとを記しただけに見える作品にも、思いがけない気づきを与えてくれたり、連想に誘ったりするものが少なくありません。「笑顔のバイバイ」は、スーパーの通路でいきなり二.三歳の男の子に手を握られたところから、その子の母親が見つかり、笑顔で別れるまでの数分間のできごと。作者の手に触れたものが何であるか、すぐにはわかりません。それはどこか官能的で、また神秘的でもあります。そして、「安心感」は握られた者に与えられるだけでなく、不安を覚える相手も求めていたという双方向的なものだったのです。深読みだとの批判を承知で述べますが、翁と童子の組み合わせは、東アジアに数々残る神話や物語を想起させます。そこでは翁と童子とは分身の関係にあります。手の触れ合いに、私が神秘を覚えた理由です。
 今年は梅雨が早く上がり、長い酷暑が続きました。そういうなか、秋のけはいを伝えてくれる作品を9月早々に読むことができました。「処暑」です。深夜のかぼそいコオロギの声、朝のひんやりした空気、庭の草取りの折に目にした玉すだれの花。時と素材と聴覚・触覚・視覚を組み合わせ、確かな構成と細やかな言葉選びが主題にふさわしいと感じました。
 「タカサゴユリ」は、4月末の庭に現れた見知らぬ植物の生長を見守り続け、それが8月には一茎に48輪もの白い花をつけて、そこでようやく台湾原産のタカサゴユリと分かったという経緯。特定外来生物としていずれ駆除対象になる可能性があることを知って、花を楽しんだ後は根ごと引き抜いたとのこと。闖入者の奇妙な存在感、それに向けられる作者の興味が読者の関心をひきつけます。 
 「中秋の名月」は、作者の運転する車で夫と宮崎港まで月を見に行ったこと。海から上がる月に「わあ-おおきいねえ」と声を上げ、月をお月様と呼び続け、助手席で黙っている夫を相手に「ひたすらしゃべる」、そういう私を、少し距離を置いて語っています。車内の様子が目に浮かぶようで、親しみを覚えます。
熊本大学 名誉教授 森正人


はげ山あたま

2022-10-17 21:06:59 | はがき随筆
 毎週末、息子家族からビデオ電話がくる。幼い孫たちとのおしゃべりは楽しい。それが今週は2歳の孫が「じいじはいや」と顔を背け私を見ようともしない。息子が「じいじじゃない。ばあばだよ」と言っても「じいじはいや」を繰り返すばかり。
 はてさて。そういえば思い当たることが……。
 いつもは帽子をかぶって電話に出ているが、先週は入院中で抗がん剤の影響のはげ山頭のままで電話に出てしまった。顔はばあばだけど頭はじいじ! その姿が2歳の孫を混乱させてしまったのだろう。ごめんね。次はウイッグつけて出るからね。
 鹿児島県出水市 清水昌子(69) 2022.10.15 毎日新聞鹿児島版掲載

世間の優しさ

2022-10-17 21:00:15 | はがき随筆
 墓参りに路線バスを使う。墓地のある稜線は混む事が多く、今日も座席は埋まっていた。
 つり革につかまっていると、近くの座席から「座る?」と声が掛かった。「大丈夫です」と返したが、窓際にずり移って私のためにスペースを確保してくれたその御仁のご厚意に従った。
 最近、郊外路線で周りのそんな優しさにふれることが続いている。利用する時間がバスの混む時間帯と重なる事も原因するのだが、つい最近、東京圏の電車でも体験した。
 普段は強がっている私も、そんな時はいつも「己の老い」に素直になる。
 宮崎市 日高達男(81) 2022.10.15 毎日新聞鹿児島版掲載

影と陰

2022-10-17 20:53:37 | はがき随筆
 同じ「かげ」と読む。どこが違うのか気になり字典を調べた。影は光が当たってうつる「かげ」、陰は光の当たらない裏側の「かげ」。良く手紙に書く「お蔭様で」を思い出した。大樹の陰とも書いてあった。朝のスタートに太陽の光を頂く。一日を無事に過ごしたら光の当たらぬ陰で休ませていただく。昔、「夜の間、神様が体の悪いところをなおしてくださる」と良く言っていたことを思い出す。大事なこと二つを同じ「かげ」と言うのが少しわかったようだ。二つとも忘れてはいけない。
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.10.15 毎日新聞鹿児島版掲載

夏の花

2022-10-17 20:46:39 | はがき随筆
 毎年7月になると咲き始めていた百日紅の花が今年は咲かない。猛暑で花も熱中症かなと心配していたが、8月に入ると一枝だけ枝先に丸い小さな玉を見つけた。
 「つぼみかな」と毎日確認しているとピンクの小さな花が咲き始めた。うれしくなり毎朝眺めていたら次々と花が咲き出した。やっぱり夏の花は強いなと、伸びた枝先の花房は青空に映え、風に吹かれて鮮やかな「まり」のように弾んでいる。
 その様子を毎日窓越しに眺めていると、夏バテでよろよろしている私を励ましているようでもあった。
 鹿児島市 竹之内美知子(90) 2022.10.15 毎日新聞鹿児島版掲載

元気をもらう仲間

2022-10-17 17:43:42 | はがき随筆
 7月半ばから、猛暑と高齢のため3カ所通っているミニバレーがすべて休みとなり、体力・筋力が見る見る落ちているのがわかる。それならウオーキングでもと思うのだが、ミニバレーに行く楽しみの半分は仲間とのおしゃべりにあるので、一人歩きは誠につまらず動かない。
 さあ9月からミニバレーが始まった。心弾ませ会場に行き久しぶりのおしゃべりに花が咲く。ふと気がつくと、最高齢90歳の姿が見えない。どうしたのかなあ。チームの平均年齢は78歳、私の目標としていた一人だ。深まりゆく秋の風のように、心に寂しさがしみてくる。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(74) 2022.10.15 毎日新聞鹿児島版掲載

ハローの謎

2022-10-17 17:37:10 | はがき随筆
 「ハロー」。散歩していると、背後こら声がした。反射的に「こんにちは」と言った。カブ号に乗った高齢男性と顔を見合わせ互いににっこり。その人はそのまま去って行った。果たして今の人は誰か、見当がつかない。それにしても「こんにちは」ではなく、「ハロー」とは。外国の人ではなかったし。私は昨年まで近所の小学校でたまに英語の授業に参加して、子どもたちと「ハロー」を交わしていた。そのことを知っている人だったのか。いやいや単純に「ハロー」と言ってみたかっただけかも。そんなことを考えながら、秋空の下を歩き続けた。
 熊本県玉名市 立石史子(69) 2022.10.15 毎日新聞鹿児島版掲載

おかあさんごめんね

2022-10-17 17:29:59 | はがき随筆
 迎えに行った病院で、93歳の義母は「あんたに会いたかった」と涙を流した。手を握り、心細かっただろう入院生活を思った。車椅子になった義母と介護タクシーで2カ所目の施設へ向かう。住み慣れた自宅近くの風景に「帰ってこれると思わんかった」と顔が輝いた。
 ごめんね、おかあさん。自宅に戻れると思ったよネ。最初の施設は遠かったけど、今度は我が家から目と鼻の先だから安心してね。孫やひ孫と、自由に面会できる日まで元気でいてね。同居41年。逃げたい投げ出したい日々があった。でも、義母から学んだことも多かった。
 宮崎県延岡市 品矢洋子(68) 2022.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

手ごわい「お気に入り」

2022-10-17 17:19:47 | はがき随筆
 遅まきながらスマホデビュー。若者には到底及ばず、「触れることで上達する」の言葉を真に受け失敗もした。QRコードから、やっとの思いでグループラインに参加。ライン交換までは順調だった。
 そんな折、不気味な電話の呼び出し音。無機質な音声案内が流れたかと思えば「あなたの認証番号は○○です」との妖しいメールが届き怖かった。それを聞いた友人に「すぐブロック」と釘を刺され、ことなきを得た。
 まだ、使いこなせてないが、語学アプリの聞き逃し配信は英語の復習に役立っていて、一番のお気に入りとなった。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(72) 2022.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

コロナ禍の片隅で

2022-10-17 17:11:06 | はがき随筆
 先の見えないコロナ禍で、できることはワクチン接種と自粛しかない。そんなある日、カミさんが外食を提案。家事からの解放も思いやりと腰を上げる。
 レストランは高台にあって大隅半島が一望できる。検温、消毒をして海を見下ろせる席に着く。調理もなく、後片付けもなく、カミさんは浮き浮き。
 食後のコーヒーを味わい、異様さに気付く。広い空間にいるのはぼくたちと客待ちの従業員だけである。自粛が平常の今、起き得る現実かもしれない。
 駐車場には、ぼくたちの車がポツンとあり、自粛破りの罪悪感さえ覚えた。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(83) 2022.10.13 毎日新聞鹿児島版掲載

ゴボウの花

2022-10-16 22:14:15 | はがき随筆
 先日の随筆「くっつき野菜」を読み、昔の事を思い出した。
 親が根菜を土に埋めて保存していた記憶から庭の隅にゴボウをいけた。堀忘れた1本がやがて芽を出し、大きな葉をつけ、そして紫色の花を咲かせた。初めて見る「ゴボウの花」。きっと子どもたちも知らないだろうと、小学生の娘に新聞紙に包んで持たせた。学校での様子を楽しみに娘に聞くと、少し元気なく「先生に怒られた」「こんな危ないものを持ってきて」と言われたとのこと。アザミのようなトゲが問題だったようだ。娘の気持ちも考えずに一人満悦していた自分を反省した。
 宮崎県延岡市 松尾雅敏(68) 2022.10.12 毎日新聞鹿児島版掲載

私の五訓

2022-10-16 22:05:39 | はがき随筆
 先日、かかりつけのお医者さんに行き、用を済ませて、タクシーを待っていた時のこと。片足を痛め、杖を使われていた女性が待合室の長椅子に座ろうとして転倒された。幸いにも近くにおられた方々が集まって助け起こされた。怪我もなく無事で良かった。
 私は入り口の方を見ていたので想像だが、杖がすべったのか、長椅子の位置の確認が不十分だったのだろうと思う。 
 私も高齢者なので、①あわてない②かくにん③さからわない④たしかめる⑤なめらかに、行動したい。冷静な判断力と慎重さの重要性を再確認した。
 熊本市東区 角田俊昭(69) 2022.10.10 毎日新聞鹿児島版掲載

白い橋

2022-10-16 21:19:19 | はがき随筆
 飛行機雲を見たら、なんとなくいい気分になる。ちょっといいことが起きそうな気がする。
 今朝、散歩の途中で美しい飛行機雲を見た。青空にひときわまぶしく白い筋が、垂直にぐんぐん上へ上へと伸びていく。
 立ち止まって、後ろを追いかけると、私の真上を通り過ぎ、まつしぐらに空の反対側に突き進んでいった。あの先端に光る銀色の機体は、どこの遠い町に降り立つのだろう。
 細い2本の筋は少し揺らぎながらも、端から端まで途切れずに、私を町ごとすっはぽりとまたいだ。それは空の真ん中にかかる白い大きな橋のようだった。
 鹿児島市 青木理枝(70) 2022.10.9 毎日新聞鹿児島版掲載

反省しました

2022-10-16 20:48:04 | はがき随筆
 14号は近づきつつあった。強弱を繰り返しながら吹きつける風は台風の前奏曲だ。最接近は今夜から明日の未明、散歩はまだ大丈夫。日曜の朝、そう判断して、いつもの谷へ向かった。
 ⏤⏤5分で入り口に着いた。ぬれた道に赤紫いろの小花が散らばっている。この先は杉と竹の林が続いて、10分もあるくと行き止まりになる。
 突然、バーン、バーン。数㍍先で爆発音がした。大杉の間の古竹が次々に
倒れていく。怖! 
 ほうほうの体で逃げ帰った。「こんな時に谷に行ってぇ。田んぼに行ったと思ちょったわ」。夫の小言がうれしかった。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(74) 2022.10.8 毎日新聞鹿児島版掲載