はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

シダレスズメガヤ

2018-10-06 07:42:54 | はがき随筆


 散歩の途中、異様な光景を目にした。やがて黄金色に波打つであろう水田の稲が灰褐色に覆われている。稲の穂は出ているものの、その上に覆いかぶさるように背の高い雑草が一面を覆っている。
 1本取って帰り図鑑で調べたらシダレスズメガヤという植物らしい。南アフリカ原産で1959年に緑化用として導入されたそうで、繁殖力が強く外来生物法上の要注意種に指定されていると書かれていた。
 間もなく稲刈りの季節。あの田んぼはどのように対処されるのか、心配性の私はきになる。
 熊本市北区 佐々京子(82) 2018/10/6 毎日新聞鹿児島版掲載

うれし涙

2018-10-06 07:36:35 | はがき随筆
 先日、高2の孫娘が「英検2級」に運良く一発合格したと報告があった。汽車通のため早朝4時半に起床。娘は更に30分早く起き、朝食、弁当を作り送り出すそうだ。親子とも体を壊さなければいいが、と案じていたので、朗報に心躍り「頑張ったね」と言うのがやっとだった。自然とうれし涙が頬を伝った。目標に向かってまた一歩、先へ進む孫にエールを送りたい。無理しないで、時には息抜きも必要と言えば「それはやるべき事をやってからね!」とすかさず返された。こちらが心配しなくても本人なりに考えているのだと安心した。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(68) 2018/10/5 毎日新聞鹿児島版掲載

38年前の服

2018-10-06 07:27:22 | はがき随筆
 属している短歌結社の夏季大会に初めて参加した。そのときの20首詠について後日Iさんから電話をいただき「いい歌でした。それに集合写真のワンピース、きれいな色ですね」と褒めてくださる。30年も前のものなのですよ、物持ちがいいでしょうと笑いながら受話器を置いた。考えてみると38年前のものだ。
 無地の浅黄色で、ウエストのところにゴムでギャザーを寄せたシンプルなもので手製だ。
 合物と冬物は子供たちがプレゼントしてくれたりして割とあるのに、夏物の外出着があまりないことに気付き慌てて引っ張りだした服だった。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(78) 2018/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

高原の花々

2018-10-06 07:10:59 | はがき随筆


 今年の暑さには参った。体力温存を言い訳に毎日ゴロゴロ。ツクツクボウシが鳴き出して、ぐうたらしてる場合じゃないと焦り始めた時、「久住高原に行かない?」と友人に誘われた。
 秋雨前線で大雨となり、九重連山は霧の中。雨合羽に傘を差し、タデ原湿原の木道を歩く。
 一面ススキの原に、ワレモコウの深い赤が雨に濡れ、まるで輝く宝石のよう。初めて見るヒゴタイは黒味を帯びた紫色。毛糸のボンボンのような姿が、その優雅な色に不釣り合いな程愛らしい。あっ! ここにも、あそこにも。心ときめき、体が弾む。あー、秋。
 宮崎県日南市 矢野博子(68)2018/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

パパ

2018-10-06 05:53:01 | はがき随筆
 「パパ、パパの存在自体が安心感があるよ」。疲れて先に布団に入っている私の耳に、娘の声が聞こえてきた。
 夫は、夜が弱い私に代わって家事をしてくれる。朝に強い私は「置いてていいよ」と言いながらも、期待して先に寝てしまう。「夜のママはパパだね」ということになった。一日の中でゆっくり子供と話せる時間は夜なのに、寝てしまう私は当てにならない存在なのだろう。
 今さら夜に強くはなれない。早寝早起きで、私だから教えられることを子供に伝えていこう。パパの存在が大きくなり過ぎないように。
 熊本北区 永石由紀(43) 201810/4 毎日新聞鹿児島版掲載

セミ

2018-10-05 21:38:50 | はがき随筆
 「ジージー」「ミーンミーン」。セミの大合唱。鳴いている。鳴いている。
 サクラの木や柿の木を見上げると、ぬけがらがあっちこっちについている。今年もたくさんのセミたちが生れ、夏を喜んでいる。
 時々、ビュッと目の前にとんでくるやんちゃなセミもいて、びくっとする。
 「セミもお盆を過ぎると少しずつ鳴かなくなるから、不思議だね」とよく家族で語っていたことを思い出す。セミはわいわいがやがやにぎやかに夏を運んで来て、静かに秋を呼ぶのかもしれない。
鹿児島県出水市 山岡淳子(60) 2018/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

フライングダイナソー

2018-10-05 21:17:28 | はがき随筆


 USJのジェットコースターが緊急停止で乗客が宙づりになったとニュースで伝えていた。
 2年前、夫とUSJで遊んだ。このザ・フライング・ダイナソーが一番人気。子供が小さいときに乗って以来ジェットコースターに乗った記憶がない。この年では無理かなと思っていた矢先、以外にも夫が乗ってみようという。朝一番、若者に混じって並んだ。スタートする前からうつ伏せになって驚いたが、思ったほど大変ではなく楽しかった。でも逆さまで2時間も宙づりにされたらと思うとぞっとした。私たちが乗った時ではなくてよかった。
 宮崎市 高木真弓(64) 2018/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載゛

独り言

2018-10-05 21:08:17 | はがき随筆
 昔、彼岸花は赤く咲くと決め込んでいたけれど、現在は黄色、白とカラフルな彼岸花を見る。我が家の庭もカラフルな色で咲き乱れ、お彼岸が来たことを教えてくれる。ホッと心の安らぎを感じる。
 好きな色の彼岸花を手にかざして亡くなった方たちが返って来る迎え火をたいてお迎えしよう。大好きだった物も忘れずお供えしよう。そちらの世界のことも聞きたいし。
 どこからか「聞いてどうなる。そのうち行けるのだから心配せんでいい」と聞き慣れた主人の声が聞こえた。
 熊本県八代市 相場和子(91) 2018/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

まだ反抗期

2018-10-05 06:24:32 | はがき随筆
 以前一緒にグループ活動していた女性が、その後「カラオケ酒場」を始めたと聞いた。9周年になる記念の会に誘われた。しかし、妻に「年とって夜の外出は心配だ」と止められている。御無沙汰の詫びで参加した。
 初めてなのにスローフード、書道、出版社企画の旅などなじみの顔ぶれに「えーっ!」。
 おいしい料理攻めはすぐにお腹いっぱいになった。お客は30人もいたが、懐メロのリンゴの唄、哀愁列車など、十八番を歌って盛り上がり同窓会気分だ。
 この雰囲気では妻の心配は解るが、まだ反抗期脱出は無理。カラオケは「内臓の体操」だ。
 宮崎市 貞原定信(80) 2018/10/4 毎日新聞鹿児島版掲載

旧友との再会

2018-10-05 06:16:02 | はがき随筆
 地域総合版の記事の中に見慣れた名前が目に留まった。毎年年賀状のやりとりをしている妻のかつての同僚の名前だ。
 妻は写真を見ても気付かず、名前を見てようやくわかったようだ。彼が出身他の鹿児島へ移り住み40年あまりの時を経ての紙面での再会は、互いの年齢の積み重ねや風貌の変化を確認することとなった。
 早速妻はペンを取り無沙汰をわび、新聞で報じられた活躍に賛辞を送りはがきをしたためた。県版が地域総合版に変わり、なんとなく親しみが薄れていたが、今回は思いがけず旧友の近況を知ることができた。
 熊本市北区 東洋史(69) 2018/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

第一関門

2018-10-02 17:51:37 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月24日 (月)
岩国市  会 員   河村 仁美



 結婚した時に義姉から「河村家は男子薄明だから。覚悟しておいたほうがいいよ」と言われた。その主人が第一関門の還暦を迎えた。自分のお祝い事にお金をかけるのは、もったいないという主人なので、2人の娘と相談して全員で写真館で記念写真を撮って、自宅でささやかな食事会をする計画を立てた。
 写真の撮影が予想以上に大変だった。赤いちゃんちゃんこは嫌だといっていた主人に、おいっ子からまさかの赤のポロシャツプレゼント。それに合わせて全員私服に決定。孫が4歳から1歳までの4人。それに大人6人が加わり総勢10人。 

 まず立ち位置を決めてそこから動かないようにするのに一苦労。泣いてしまったらアウトで短時間勝負。何とかプロのカメラマンの技術で、素敵な笑顔いっぱいの写真が完成した。         

 料理は主人が自ら刺身をセレクト。自分で引き、みんなをもてなす趣向だ。注文したオードブも加えてうたげがスタート。それぞれの娘夫婦が用意したプレゼントを孫から受け取り、にんまり。ケーキの前ではケーキに手を出さないように孫を膝に乗せ、4人の孫に囲まれて、じいじ還暦おめでとうの声に満面笑み。その後は孫と花火をして早く寝かせる作戦を立てる。 

 とりあえず婿さんと男3人で2次会開始。それに孫を寝かせた娘2人も加わり、3次会で楽しいうたげはお開きとなった。
 ただ今、医者通いで身体のメンテナンス中の主人。第二関門の古希でも全員で写真が撮れるように元気で頑張りましょう。

  (2018.09.24 毎日新聞「女の気持ち」掲載)

旅の思い出

2018-10-02 17:36:29 | はがき随筆


 私ども夫婦は、旅行会社の企画した4泊5日の「日本列島縦断夫婦いい旅二人旅」に参加した。全行程は列車で、琴平、金沢、函館、熱海に宿泊した。ツアーは15組30人であった。4日目の朝、函館の食堂でみんなと海鮮丼を食べた。ツアーの中で少々気になっていた病弱そうな60過ぎの男性夫婦と同じテーブルに座った。話を聞くと、同じ終活でも、彼はガンが転移して夫婦の最後の思い出としてと言う。急に親しくなった。何か力になりたい。別れ際、列車の中でふと浮かんだ。「何年生きたかではない、どう生きたかだ」と書いてそれを彼に渡した。
 鹿児島県志布志市 一木法明(82) 2018/10/2 毎日新聞鹿児島版掲載

祭りばやし

2018-10-02 17:23:27 | はがき随筆
 お練りのふれ太鼓が行く。
 「鉦打ちさん、早よ行き」母の声に押され馬場に飛び出し、御祭礼の幟の下を真っすぐに村の神社まで駆けてゆく。だんじりに乗り、シャカポコ、ドンチキチ。おはやしを打つ。小学5年で鉦から始まり、年ごとに大太鼓、小太鼓……と進み、鼓が済めば教える側にまわる。
 祭り終了の煙火があがってもしばらく打つ。テレツク、シャカポコ、ドンチキチ。その間に露店は去り、人が散る。
 そろいの手ぬぐいを首に、仲間と帰る道。それぞれの持ち場のおはやしを口でつないでゆく。コンコンチキチ、コンチキチ。
 宮崎市 柏木正樹(69) 2018/10/1 毎日新聞鹿児島版掲載

戦車カワイイ

2018-10-02 17:14:00 | はがき随筆
 テレビで陸上自衛隊の富士総合火力演習なるものを見た。4億円もの砲弾が飛び交いすごい迫力である。10式戦車がばく進する。劇画の世界が現実になったようである。観客席では特に若い女性が黄色い歓声を上げる。彼女たちに言わせると戦車が急停止する時、キュッと音が出るのがカワイイのだそうだ。
 戦車戦と言えば私は1939年5月から9月にかけての日ソ間のノモンハン事件を思わずにはいられない。日本軍だけでも2万人に及ぶ死傷者を出したせい惨な戦いだった。それが日本の敗戦の始まりだった。そんな歴史を知ってもらいたい。
 熊本市中央区 増永陽(88) 2018/9/30 毎日新聞鹿児島版掲載

覚悟

2018-10-02 17:04:04 | はがき随筆
 96歳の母が転んで、背骨3カ所と腰骨にひびが入った。
 歩けなくなり、簡易トイレを用意する。尿が近い母は、夜中に5回も私を起こして困った。20日も続くと、私の思考回路がまひしてふらふらに。
 アユ釣りにも、碁大会にも行きたい。しかし、1時間以上の外出は無理だ。私のさささやかな楽しみも封印されて、どうかなりそうだ。
 5年も10年も介護された方を見聞きしたが、私は20日で音を上げた。これも私の宿命だ。言うはやすく、行うに難しい介護だが腹をくくった。また、母が呼んでいる。
  鹿児島県出水市 道田道範(69) 2018/9/29 毎日新聞鹿児島版掲載