はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ごめんなあ

2021-04-24 20:57:21 | はがき随筆
 やっぱりあの頃が一番よかった。母さん、俺も分かっているんだよ。山の家に1人にしているのが心配で仕事先の都会に連れ出したね。しかし、慣れずに帰り、別の家を買ったんだったね。
 山の家は父さんと母さんの愛の家。そして俺や姉兄弟妹を育ててくれ、社会に出してくれた家。
 いま母さんと近い年齢になり自分がたまらない反省の毎日。そして今も山の家があるものなら帰り、自分の最期まで住み続けたい気持ちなんだよ。「親の気持ち子知らず」。まだ怒っているならもう水に流してね。
 宮崎県延岡市 前田隆男(83) 2021/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

新聞への期待

2021-04-18 18:01:04 | はがき随筆
 幼い日々は、豊かではないがゆったりで、競うほど差異もない平均的な環境でした。しかし、社会の片隅では、平穏の陰に苦しむ人々もいたのです。水爆実験、水俣病、足尾銅山、光化学スモッグなど、便利さと自然の軋轢に多発した公害……。しかし何も知らなかった。今でも旧優生保護法などが、ついこの間まであった事にも気づかず、権利や人権への学びも生かしきれない。まるで子供時代のままです。知識は狭く思考は浅薄。だから真摯に新聞を読み、足りない考えを補いたい。今、記憶力は弱々しくが、知りたい思いは強くなっていきます。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(66) 2021/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

人生の先輩

2021-04-17 21:40:34 | はがき随筆
 去る2月、私の随筆「笑顔で挨拶」が掲載に。初投稿より12年目で次の題材に悩んでいたので大変うれしかった。向上心が湧き、自作の絵画に切り張り、数十枚コピーした。誰より先に一読願うのは教職上がりのT先生。文章の達人で御年96歳。夫の妹さん仲介役で即届く。妹さんは私と同年齢で心も通じ、生き方上手の努力家ゆえ先生と直接面会したいが、やはり出過ぎることに遠慮がち。すると打てば響く鐘のように即、情熱ある感想文のお手紙が。81歳の私、複雑な思いの多い中、人生の先輩として尊敬し見習いながら、終着駅へと前進、さあ今日も出発。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(81) 2021/4/15 毎日新聞鹿児島版掲載

グランプリに竹之内さん

2021-04-17 21:22:29 | はがき随筆
グランプリに竹之内さん 
ペンクラブ鹿児島 昨年のはがき随筆

 「はがき随筆」など毎日新聞への投稿ファンでつくる毎日ペンクラブ鹿児島(高橋誠会長)は、会員による2020年のはがき随筆作品のグランプリに、鹿児島市の竹之内美知子さんの「金魚の親子雲」(4月23日掲載)を選んだ。準グランプリは鹿児島県鹿屋市の西尾フミ子さんの「ルリマツリ」(12月2日)に決めた。
 会員による投票で決定する。今回は竹之内さんと西尾さんの作品が他を引き離して拮抗したため、特別賞として西尾さんに準グランプリを贈ることを決めた。
 竹之内さんの作品は、空を流れる雲を親子に見立てて穏やかな晴天の朝の風景を切り取った。西尾さんの作品は、部活動の帰り道に花に目を留めた少女とのやり取りを秋の夕暮れの一コマにまとめた。
 【西貴晴】

救急車

2021-04-17 21:04:52 | はがき随筆
 自宅が県立病院近くなので救急車のサイレンは毎日耳にする。先日、一方通行の先頭で赤信号のため停車していたところ遠くから「ピーポー」の音が近づいてきた。右か左か前方かと神経を集中しながら、ふとバックミラーを見ると、後ろに迫ってきていた。停車しているのは自分の1台でけで道幅は狭い。
 とっさにハンドルを切り、左ギリギリに寄せる。体まで左寄りで見守っていると、徐行しながらスッと通り抜けていった。
 晩年の母を看ている頃、何度も救急車のお世話になったことが思い出される。一刻も早く目的地に着きますように……。
 宮崎市 藤田悦子(73) 2021/4/14 毎日新聞鹿児島版掲載

二人の道

2021-04-13 14:53:14 | はがき随筆
 4年前の大相撲3月場所の千秋楽に横綱稀勢の里と大関照ノ富士が優勝を争った。二人とも怪我や故障を抱えていたので悪くならなければいいがと心配だった。結局稀勢の里が決定戦を制し優勝したが、その後二人とも大変な道を歩くことになった。稀勢の里は休場が多く短命横綱で引退し、照ノ富士は序二段にまで下がってしまった。どんなにか悔しかったろう。しかし今年の3月場所で照ノ富士は奇跡の復活劇で優勝し大関復帰を決め、稀勢の里改め荒磯親方は早大大学院スポーツ科学研究科の修士論文が最優秀表彰を受けた。2人の努力に「天晴れ」。
 熊本市中央区 増永陽(90) 2021/4/13 毎日新聞鹿児島版掲載

スイマー

2021-04-12 17:25:25 | はがき随筆
 最高齢の水泳記録保持者であり、100歳を超えてなおご活躍された女性が1月に亡くなられた。私は42歳で泳ぎを覚え、紆余曲折を経て今年からまた、泳ぎ始めた。クロールで1㌔を目指すも、彼女には到底及ばない。この先輩の偉業に勇気を頂き、心強くもあり励みになっている。
 この先、いつまで泳げるのやら。年齢が邪魔して体力と気力のせめぎあいは続く。家に籠るよりストレス発散になっているのは間違いない。プールの帰りは足取りも軽く気分爽快。春風をまとい坂道を歩きながら重いリュックも軽く感じた。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(71) 2021/4/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ワクワク

2021-04-12 17:16:32 | はがき随筆
 寒波、そして台風に劣らない低気圧の発生で、あっという間に散ってしまった梅。代わって深紅の寒木瓜、白とピンクの先分けの木瓜が庭を華やかに。雪柳もびっしりのつぼみをほどき始めた。
 庭をめぐりながらワクワクが止まらない。スマホで写して楽しんでいる。
 京都に住む娘が御所の花々をラインで送ってくれたので「綺麗、きれい」と返し、すかさず家の花たちの写真をを送った。するとパチパチと拍手する猫のスタンプが返ってきた。
 みんなでワクワクのこの日ごろです。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(85) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

筋肉貯金

2021-04-12 17:08:41 | はがき随筆
 毎朝誘い合ってウオーキングを始めて3カ月がたつ。渓谷沿いに往復7㌔、1万歩を目指して歩く。霜柱に驚き、氷柱を口に含んでは懐かしい子ども時代を思い出す。初冬、白い清楚なサツマイナモリに癒され、山肌に白く浮かぶ山桜に春の訪れを感じる。
 今、イワツツジが彩を添え、一雨ごとに山の木々も芽吹いてすがすがしく、生命みなぎり満山春色。心新たに歩を進める。
 4月は、畑の土お越しや田の草刈り。この冬しっかりと蓄えた足、腰の筋肉貯金。きっとこれからの農作業に役立つはずである。
 宮崎市 高橋厚子(71) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

訃報

2021-04-12 16:59:33 | はがき随筆
 Hさんの訃報を聞いたとき、「やはり」と思った。
 Hさんは奥さまを亡くし永年の一人住まい。その上、東京に住む息子を新型コロナで失っていた。最近は、買い物のため外出するほかは、何をするでもなく、ぼんやりと過ごすことが多かった。
 熱中症を心配して電話したことがあったが、そのときは「エアコンを入れているから」といつもの声が返ってきた。
 Hさんには、家も年金もあり、経済的に困ることはなかったが、家を離れず、誰の手助けも受けず、奥さまと息子のもとへ旅立っていった。
 熊本市北区 岡田政雄(73) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

ダジャレ老夫婦

2021-04-12 16:50:07 | はがき随筆
 家族が一人いなくなって(8年間一緒に生活した猫のイークンが突然天国に召されて)1カ月が過ぎた。洗濯物についた毛を見つけると「イークンの毛があった」と、しげしげ見つめる老夫婦。イークンの毛が少なくなったと言いながら、掃除機をかけ終わったカミさんが「お茶にしましょうか、お茶菓子は何にする?」「そうだね。トーブンがいいね」「体のためにトウブンは控えた方がよくない?」「じゃ4トウブンに分けて4分の1にしてよ」「4トウブンときたか。イークン助けて」。天国のイークンを話し相手に引きずり込む老夫婦だった。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(84) 毎日新聞鹿児島版掲載

春らんまん

2021-04-12 16:42:31 | はがき随筆
 寂しい2度目の春がやってきた。庭の西側に小さな真っ黄色の花を満開に咲かせたミモザ、東側には肉厚の真っ白な花びらを空に向けてハクモクレンが。庭に出るとジンチョウゲの心地よい香りがする。もうすぐするとハナズオウが紫の花を、レンギョウが黄色い花をつける。
 私たちの日常が止まっている間も自然はしっかり時を刻む。ひょっとしたら、自然の中でひっそり生きていたウイルスを私たちが表舞台に引きずり出し、いま悪戦苦闘しているのかも。
 感染が終息したら、地球は人間だけのものでないと心の片隅に置き、新たな日常を始めよう。
 宮崎県日向市 福島重幸(67) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

トホホ

2021-04-12 16:34:27 | はがき随筆
 早朝のひととき、サワークリームオニオンなるせんべいを頬張る。何事もなかったかのように。先日電車で熊本からの帰り昼過ぎというお腹のタイミングよろしく、もうすぐ熊本県八代市という駅までは覚えていた。電車が止まり、みんなが降りて行く時目が覚めた。見慣れた看板。「あ、やっちゃった」。2度目となると慌てない。男子高校生が乗って来た。薄眼で観察。お菓子を頬張る子、スマホに見入る子、男の子もおしゃべり好きと見える。30分ぐらい待って引き返す。急ぎの用事もないし、ま、いいか、こんな時間も。その日はもう一つのアクシデント。解決。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

埼玉県民に戻る

2021-04-12 16:25:46 | はがき随筆
  関東平野の真ん中で生まれ育ち、初めて海を見たのは小学3年の遠足で行った東京湾だった。水平線と空の境目を飽きずに眺めていたのを半世紀以上たった今でも覚えている。
 その後「海で泳ぎたい」とねだる私を、父は八王子のサマーランドに連れていってくれた。当時、人工の波が人気の施設だったが私は内心がっかりして「海は遠い」と心に刻んだ。
 日南に嫁いで状況は一変した。車で10分のきれいな海。子供が小さい頃はお弁当を持ってよく泳ぎにいった。
 今でも海を見ると心が躍って埼玉県民に戻る。
 宮崎県日南市 小野小百合(63) 2021/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載
 

復活?

2021-04-12 16:18:59 | はがき随筆
 陽気にさそわれ気合を入れて外に出る。美しく整然と作られた庭ではなく自然のままなので草取りばあちゃんの作業でも、いきいきと輝く。
 草丈が低く愛らしい黄水仙がぱっちりと花開いて、天に向かってバンザイをしている。秋にすてきな風景を見せてくれるホトトギスの濃い緑の葉っぱが、地上をはって横に横に広がっていく音が聞こえてきそう。鳥たちが背中をかすめて土に下り無心に餌をついばんでいる。ちょっと疲れたかな。
 年寄りの冷や水にならないようあせらずに、スロー、スロー。
 熊本市東区 黒田あや子(88) 2021/4/9 毎日新聞鹿児島版掲載