はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

故郷

2008-11-30 22:34:42 | はがき随筆
 今度が最後かもしれないと関東から義妹夫婦が帰ってきた。
 義妹は長年、病と戦っている。そんな矢先、頼り切っていた夫が脳こうそくで入院。幸い後遺症は少なく散歩もできる。秋の夜長、目や口がゆがみゆっくり倒れる様子を涙ながらに語る。
「でもこうしい笑顔で歩くの」と顔を上げた。これからの意気込みが伝わり、さすがだとうなずき笑みを返した。
 帰る朝、2人で歩く時にと差し出した手編みの帽子とマフラーを胸にあてている。大丈夫、また会えるよと肩に手を置くと「あの煮しめを食べに帰ってくるから」と笑って握手した。
   薩摩川内市 田中由利子(67) 2008/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載

誰かのために

2008-11-29 17:19:06 | アカショウビンのつぶやき
 ユニセフの活動に参加して、いつの間にか10年になったらしい。年金生活で、ゆとりがあるわけではないが「どこかの誰かのためにと」私にできる範囲の僅かなものを送り続けてきた。

「10年の長きにわたり、ユニセフを通じて
世界の子どもたちの健やかな成長を支えてくださった
暖かいご支援に敬意を表し、心より感謝申し上げます。
これからも、世界の子どもたちの力強い味方でいてくださいますように…」

との言葉をしたためたカードを入れた小さな額が届いた。
紙製だがしっかりした作りで写真立てにも使えそう。

裏には、かつてユニセフ親善大使だった、オードリー・ヘップバーンの言葉が添えてある。
やりたくてもできないこと、たくさんあります。
子どもたちの亡くなった親を生き返らせるなんてできません。
でも、私たちには、子どもたちの
人間としての基本的な権利を守ることができます。
健康に育ち、優しさの中に生きる、その権利を。


毎日、毎日、地球上のどこかで起きる民族の対立による紛争、頻発するテロや犯罪に巻き込まれて尊い命が奪われている。今年も不幸な事件が相次いだ。
60年以上も平和が続く日本でさえ、子どもたちを取り巻く環境は悪化していく。

もうすぐクリスマス、なのに飢えや戦火のなかで過ごす子どもたちが世界中にいっぱいいる。

「天に栄光、地に平和あれ」のクリスマスメッセージをかみしめつつ、切なる思いで祈る。

サーファーの住む町

2008-11-29 16:24:25 | 女の気持ち/男の気持ち
 通り過ぎていく青年の姿をポカーンと見送った。あまりにも思いがけず私の前に現れたので、現実のものと了解するのにしばらく時間がかかった。
 10月の青空が広がるさわやかな昼前だった。太陽の光に誘われて自宅の門を出た時、右手の方から、片手にサーフボードを抱え、50㏄のバイクに乗った青年がスーッと目の前を通り過ぎて行った。青年の表情はとても楽しげだった。
 一瞬、映画を見ているような錯覚にとらわれた。でもすぐに映画のシーンではないことに気づく。今まで暮らしたどの町でも見られなかったこの光景が、普通に見られるという驚き。
 この町に暮らすようになってもうすぐ3ヶ月。引っ越す前に、種子島でもこの町にはサーファーに一番人気のある海岸があると聞いていた。ここに来てから4、5回海岸に行ったが、噂通りサーファーの姿がいつも見られ、なるほどと納得した。ただ、海で見かけるサーファーは自分たちとは別世界の人たちに見えた。でもバイクで通り過ぎて行った青年は、なぜか身近に感じられた。
 島の青年だろうか? サーフィンが好きで、島外から来て住み着いた青年だろうか? 勝手に想像してしまう。サトウキビ畑の向こうに広がる海を見ながら、自分は種子島で暮らしているんだと再確認する。
   鹿児島県西之表市 西田光子(50) 2008/11/29
   の気持ち 掲載
写真はparusさん

BIG MAMA YUKA ♪♪

2008-11-29 12:18:04 | アカショウビンのつぶやき






 

 日本のゴスペルシンガー第一人者「亀渕友香」を迎え、鹿屋市で初めてのゴスペルコンサートが開催された。杖をついて登場された友香さんが伝えるメッセージや歌声は、暖かく力強く聴くものの心に染み込みました。そして彼女が率いるゴスペルクワイアー“VOJA”と地元のゴスペルグループ“鹿屋プレイズシンガーズ”、それに公募合唱団のコーラス隊の歌声が会場いっぱいに響きました。

 「なかなかコーラス隊の参加者が集まらない…」とこぼす係のNさんの顔を見ていたら、「じゃ、あなたの為に頑張ろうか」なんていい顔を見せようと、いつもの調子で参加することになってしまった私…。
 時はクリスマス前の一番忙しいとき、引き受けてからが大変だったが、歌う楽しみには勝てず、参加して本当に良かった。素晴らしいコンサートだった。

 募集当初は低調だったコーラス隊も、ファミリー参加が多く、総勢80人を越える舞台に。何と言っても最前列のチビッコたちが立派に歌い、練習不足気味の私が恥ずかしくなるほどでありました…。

 オープニングは全員の大合唱、“OH HAAPY DAY”
そして最後に“サンクチュアリ”と“きずな”を歌ってイベント終了。
子どもたちに注ぐ友香さんの暖かい眼差しに、感謝しつつ舞台を降りました。

長い間、ブログ更新をサボってしまいました。おいで下さった皆様「ごめんなさい」。

夢でよかった

2008-11-29 11:03:43 | はがき随筆
 先月の「はがき随筆」に、退職後いまだに職場の夢をみるという男性の作品が掲載された。
 私も体調を崩し早期退職してから9年がたつというのに職場の夢をよく見る。公務員として32年間の職責が、脳裏に深く刻み込まれているようである。
 議会での議員とのやりとり場面では、やつ気早矢継ぎ早の質問攻めにあし四苦八苦している。
 「川端課長、この件はどうするのだ!」「それにつきましては検討したいと思います」「検討じゃなく早急に実施しなさいよ!」。その時、ぱっと目が覚めて夢であることに気づく。
 「ああ、夢で良かった」
   鹿児島市 川端清一郎(61) 2008/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

ペンクラブ秋の研修会

2008-11-28 20:44:56 | 毎日ペンクラブ鹿児島
 「はがき随筆」「女(男の気持ち)」など毎日新聞投稿欄の愛好者でつくる「毎日ペンクラブ鹿児島」(岩田昭治会長)の秋の研修会が16日、鹿児島市の見聞かセンターで開かれ約20人がさんかした。
 俳人の辺見京子さんが「見るを楽しく」と題し講演。肺結核を患って入院中に初めて句会に誘われたエピソードなと、自信の作句歴を紹介しながら、俳句や文章の楽しみを語った。
 「心で見た句は少しおかしい所があっても力強い。見ていない句は一見きれいでも人を打つ力がない」「はがき随筆のような単文はだらだら書いてもまとまらない。簡潔な表現は俳句に通じる」なとの言葉に、参加者はメモをとりながら熱心に聴き入っていた。(毎日新聞鹿児島支局・村尾哲記者) 2008/11/17毎日新聞鹿児島版掲載

 今年も秋の研修会が終わりました。残念ながら私は参加できませんでしたが、皆さん熱心に学ばれたようです。次に全員が顔を合わせるのは5月の総会です。懐かしいお顔を思い浮かべています。また紙上でお会いしましょう。

島の運動会

2008-11-28 20:33:02 | 女の気持ち/男の気持ち
 一度は行きたいと思っていた離島の運動会に参加する機会に恵まれた。
 大漁旗を翻した漁船に迎えられ、出水市蕨島港から7分も乗ると米ノ津中の桂島分校に着く。分校の在校生は中2の女子1人だけ。その女生徒が元気よく宣誓して運動会は始まった。
 たった1人の生徒を主人公に、全島民が気持ちを一つにして盛り上げていく。「我は海の子」という競技では、最後に筏を漕いでゴールする。おそらくどこの学校にもないここだけの種目だろう。100人近い参加者全員が大いにわきあがっていた。
 妻は「出水音頭」という踊りに、私は「バケツリレー」に参加し、桂島の方々と楽しい時間を過ごさせていただいた。
 昼食はおにぎりに、釣ったばかりのタイやブリの刺し身など。さすがは島の運動会と、感動しながらたらふくごちそうになった。
 生徒は1人しかいないけれど、その1人をみんなが我が子のように大事にしている。島の方々の熱と温かさを随所に感じた。当の女生徒は何種目にも出場し、疲れていたはずなのに、私たち島外の一般参加者のために港まで見送りに来てくれた。
 ジーンと来た。小島には今、日本が失いつつあるものが残されている。桂島は、人々の心が詰まった宝の島だった。
   鹿児島県出水市 小村 忍(65)2008/11/15
   の気持ち 掲載

島の運動会

2008-11-28 20:32:49 | 女の気持ち/男の気持ち
 一度は行きたいと思っていた離島の運動会に参加する機会に恵まれた。
 大漁旗を翻した漁船に迎えられ、出水市蕨島港から7分も乗ると米ノ津中の桂島分校に着く。分校の在校生は中2の女子1人だけ。その女生徒が元気よく宣誓して運動会は始まった。
 たった1人の生徒を主人公に、全島民が気持ちを一つにして盛り上げていく。「我は海の子」という競技では、最後に筏を漕いでゴールする。おそらくどこの学校にもないここだけの種目だろう。100人近い参加者全員が大いにわきあがっていた。
 妻は「出水音頭」という踊りに、私は「バケツリレー」に参加し、桂島の方々と楽しい時間を過ごさせていただいた。
 昼食はおにぎりに、釣ったばかりのタイやブリの刺し身など。さすがは島の運動会と、感動しながらたらふくごちそうになった。
 生徒は1人しかいないけれど、その1人をみんなが我が子のように大事にしている。島の方々の熱と温かさを随所に感じた。当の女生徒は何種目にも出場し、疲れていたはずなのに、私たち島外の一般参加者のために港まで見送りに来てくれた。
 ジーンと来た。小島には今、日本が失いつつあるものが残されている。桂島は、人々の心が詰まった宝の島だった。
   鹿児島県出水市 小村 忍(65)2008/11/15
   の気持ち 掲載

親近感の感動

2008-11-28 20:19:40 | はがき随筆
 「夕焼け小焼けーの」と、話しかけるような懐かしい歌声が静まり返った館内に流ちょうな日本語で流れ、感極まった。先般ベトナムの楽団を見に行った。竹楽器の軽やかな合奏に始まり、独特の民族文化が次々に繰り出された。フランス植民地として整備されたサイゴン市近郊の街道沿いに昭和17年、しばらく駐留した。笑顔の人なつっこい当時の市民をはるかに思い浮かべ、親近感に浸りながら熱心に見入り、感動のひとときであった。終わって出る時、求めて握手、ありがとうを言った。後で良かった良かったと口々に聞いてなぜかうれしかった。
   鹿屋市 森園愛吉(87) 2008/11/28 毎日新聞鹿児島版掲載

佳日

2008-11-28 20:14:06 | はがき随筆
 どうした? 君はこのごろ体調が悪そうだね。母さんの介護疲れかな。「気晴らしに海に行って魚釣りをしないかい?」
 秋晴れ、午前。阿久根港の一角で小アジ釣りを始めたが、全くアタリがない。仕掛けを替え沖に投げてもさっぱりだめだった。いつかぼんやり鳥の声に聴き入っていた。と、君のウキが見えない。「来てる!」。右に左に走る獲物を君は堤防に釣り上げた。「やったあ」。見ると30㌢くらいのコノシロだった。
 その夕。数匹分の鮮やかな刺し身。「オイシーイッ」と言って君は母さんと食べていた。2人とも実にいい笑顔だったよ。
   出水市 中島征士(63) 2008/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載

華の50歳組と

2008-11-28 20:05:52 | はがき随筆
 阿久根市の小学校の運動会では、50歳になった大先輩を迎えて祝い、共に競技を楽しむ。題して“華の50歳組”。
 私はT小学校の運動会に参加した。35年前のT中学校の卒業生が招いたのだ。彼らの顔に昔の面影が残っていて懐かしい。
 「イチニイイチニ!」。誕生日が私と同じ美人と肩を組んでの二人三脚は息がピッタリ。玉入れ競技ではリーダーの「両手で玉を持って」というかけ声にも上の空。それぞれが童心に返り玉を放り投げて楽しんでいる。
 慰労会では学生時代の思い出話が弾み、運動会のハッスルぶりに笑いが続いた。
   出水市 清田文雄(69) 2008/11/26 毎日新聞鹿児島版掲載

頼むね

2008-11-28 19:59:20 | はがき随筆
 夫が、車でデイケアに出かける時、必ず私の目を見て、
「頼むね」
と、言う。
 窓は閉まっているから、声は聞こえないが、口の形を見ていればわかる。
 「頼むね」
とゆっくり言って頭を下げる。
 細くなった首をカクリとかたむけて。
 それから、じっと前を見つめたまま、つれて行かれる。
 私はいつでも、その車を追いかけたい気持ちになるが「頼むね」の言葉と、おじぎを思いだし、家を守って待っていようと思う。
   鹿児島市 萩原裕子(56) 2008/11/25 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2008-11-28 19:53:06 | はがき随筆
 「突然ですが、60年前に広島の小学校でお世話になったMです。定年後に始めた弓道でねんりんピックに大阪から出場することになりました。先生の住所がやっと分かり是非お会いしたいと思い、便りを…」
 驚きと喜びで胸がいっぱい。涙がいっぱい。でも頼れる夫は逝き、独り暮らしの重度心身障害者では会場へは無理だ。
 理由を知らせ、電話で健闘を伝えたが、二度とない機会だと出発前のホテルで会った。わずか30分だが語り合えた。
 M君、絶望感に駆られがちな私に、すてきな思い出をありがとう。
   薩摩川内市 上野昭子(80) 2008/11/24 毎日新聞鹿児島版掲載

支えられた講話

2008-11-28 19:47:02 | はがき随筆
 思いがけず講話を依頼された。川内まごころ文学館で「命を育む(はぐくむ)川内川」という、私には難題で75分もの持ち時間。元県立短大学長の後で、心が重い。
 気を取り直し、アユの写真を幕に映したり、カワニナの標本を回覧したりし努力。教え子Mさんの厚意で川流域の校歌も皆様に聞いていただいた。それに、うれしかったのは随筆や詩の仲間、先輩、友人が鹿児島や大口からも激励にかけつけ、会場を埋めてくださったこと。
 緊張した時間だったが無事終了。ばてやすい私はほーっとし、夜は感謝しながら熟睡した。励ましに支えられた日だった。
   出水市 小村 忍(65) 2008/11/23 毎日新聞鹿児島版掲載

指名される

2008-11-28 19:40:09 | はがき随筆
 近くの駐車場へ行こうと誘いに来る3歳。補助輪付きの自転車でも、庭と違って駐車場ではよく走るので好きらしい。
 兄ちゃんが遊ぶテレビゲームの主人公になったつもりで「マリオ」とか「ヤッホホー」と叫びながらこぐ。下り坂は添えている手を離せと得意げである。
 ウルトラセブンで覚えた「セブンさがし」は数字の7をさがす遊び。最後はかけっこ。唯一、祖母の私が指名される遊びなので、万難を排して相手をすることになる。
 3人目に生まれ口も動作も達者な男の子である。こうして毎日、彼の独壇場が展開される。
   霧島市 口町円子(68) 2008/11/22 毎日新聞鹿児島版掲載