はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「私はアッシー君」

2010-08-13 14:58:14 | 岩国エッセイサロンより
2010年8月11日 (水)

岩国市  会 員   横山 恵子

 夫が突然「警察に行ってくれ」と言い出した。やっと免許証の返納を決意したのか。6年前、脳こうそくで手足が不自由になって以来、アッシー君は私。夫は免許を取得して30年余り。初めて横に乗った時は夫の緊張感が伝わってきて、私もハラハラドキドキ。

 子供たちが幼かったころは、車の音で「あっ、お父さんが帰ってきた」と一斉に出迎えし、出勤途中にエンストしてタクシーで行ったことも。

 60代で返納なんて無念よね。でも交通ルールを守って無事故で卒業できた。これからも私がお父さんの「足」になるから。
  (2010.08.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩国エッセイサロンより転載

夏の朝

2010-08-13 14:39:15 | はがき随筆
 菜園の周りに果樹を植えている。梅や桃の枝先に背を割って目玉や足の末端まできれいに形を残し、ニスを塗ったように光ったセミの抜け殻があった。目を上げると幹に羽を震わし発音筋の腹を超スピードで震わしてあらん限りに鳴くアブラゼミ。
 鳴きなさい。思い切り鳴くがいい。7年目にやっと地上に出て、青い空の下、緑陰の風を吸う。その命は短い。草むらに腹を見せたセミの亡骸が落ちていた。
 庭に出れば、さまざまな生き物の誕生と最期を目にし感動をもらい、またの出会いを期待する。巡る季節を愛おしく思う。
  出水市 年神貞子(74)2010/8/13 毎日新聞鹿児島版掲載

作業やめ5分前

2010-08-13 14:31:24 | はがき随筆
 「作業やめ5分前」。この言葉が拡声器から流れて来るとうれしかった。昭和20年旧制中学校に入学したが、教室でも授業はほとんどなかった。地域ごとに分かれての作業だった。私は海軍航空隊で格納庫や防空壕の穴掘りをさせられた。そのとき朝食前や一日の仕事の終わりに先の言葉を聞いた。私たちは4ヶ月あまりの労働だったが、先輩たちは「学業やめ1年前」で繰り上げ卒業して、学生さんが兵隊さんになった。
 あれから65年。「人生やめ○年前」になってしまった。世界中の人に声を大にして叫びたい「戦争やめ永久に」と。
  出水市 田頭行堂(78) 2010/8/12 毎日新聞鹿児島版掲載

ぎょっ

2010-08-13 14:23:53 | はがき随筆
 車を走らせていると、草むらから、にょろりと長いヘビが出てきた。「わあ、ヘビだ」と思っていると、ヘビも車にびっくりしたのか、あわててまた草むらに引き返した。
 洗濯をしようと土間に降りると、10㌢ぐらいのムカデが──。「わあ、ムカデだ。これは大変。かまれたら、えらいことだ」と悪戦苦闘。
 窓を開けると、今度はクモが巣をはっている。こんなところに──。
 暑くなってきて、虫たちも大喜びで活動している。でも、お互いに、ぎょっとすることも多い。暑い暑い夏の日の一コマ。
   出水市 山岡淳子(52) 2010/8/11 毎日新聞鹿児島版掲載