はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

人生最良の日

2009-04-30 15:17:09 | はがき随筆
 ある雑誌に人生最良の日という特集が掲載された。自分の最良の日は何だろうと考えてみた。ラグビーで逆転トライをした時、結婚した時、子供が生まれた時、会社で昇進した時、子供が結婚した時などがある。今でも覚えていることは、中学の
ころ、家に自家水用の井戸ポンプが設置された時である。当時、風呂と井戸が20㍍くらい離れていて、学校から帰ると毎日バケツで運んだのである。両手でさげて20往復するのである。それがある日から、蛇口をひねるだけでよくなったのである。私にとって水道ポンプが来た日がやはり最良の日かもしれない。
出水市 御領満(61) 2009/4/30 毎日新聞鹿児島版掲載





初音

2009-04-29 21:26:03 | はがき随筆
 1年ぶりに大隅湖を訪ねる。湖畔は初夏のたたずまいと、新緑を湖面に映している。湖水はやや少なく、白い水鳥がのどかに浮いている。スロー運転で湖畔を回る。木々がかさなり薄暗く感じる所で一瞬、小さいウグイスの初音が聞こえた。ハッとして駐車し耳を澄ますと2、3羽の「谷渡り」が聞こえ、集中する。補聴器のボリュームを上げる。ほんの近くにいる臨場感をしばらく楽しむ。これも新しい発見に驚き、これからも利用したいと思える。忘れかけていた初音に出会い、森の営みに感謝しながら、高隈山の新緑を右に眺めながら湖水を後にする。
  鹿屋市 小幡晋一郎(76) 2009/4/29 毎日新聞鹿児島版掲載



ゼロの地点

2009-04-28 11:46:47 | はがき随筆
 定年退職を機にすべての肩書きを捨て、ゼロの地点に立ちたいと思った。そこから世の中をじっくりと見たいと思った。
 そこで、まず見えてきたのは何と急ぎすぎて欲張って生きて来た、こっけいな自分の姿であった。目からウロコ、とはこのことだ。自分の欲を捨て去った時、初めて素直になり、自由な感覚で真実が見えてくるような気がした。
 だが、ひとつだけどうにもならぬものがあった。40年以上も上からものを言い続けてきた妻に対しては、なかなか癖が抜けず、ゼロの地点に立って、ものが言えないでいるのだ。
  出水市 中島征士(64) 2009/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載


春たけなわ

2009-04-28 11:35:20 | はがき随筆
 「鹿児島県の北海道」と言われるこの里も、やっと春だけなわである。
 近くのセンダンの木が芽吹いている。もう降霜は無い。
 朝の目覚めがスムーズ。春のメロディー、今朝はラジオからビバルディの春、ベートーベンのスプリングソナタを聞いた。庭を巡る。チューリップ、芝桜、モクレン、コデマリ、ツツジなど、いろいろな花々。特に妻が20年来丹精のボタン。今年
は2週間程早く咲いた。今真っ盛りでひときわきれいである。
 耳を澄ませばヒバリのさえずりが聞こえる。今日も良い天気、与えられた仕事を頑張ろう。
  伊佐市 宮園続(78) 2009/4/27 毎日新聞鹿児島版掲載


ひょっとこ面

2009-04-26 21:34:17 | はがき随筆
 上2人の孫がにやにやして見ている。じいはI歳半の孫娘に、眼鏡の顔と外した顔を、絵本の見開きから交互に出し「いないいないばぁ」をやっている。
 その動作を数回繰り返し、今度は、ひょっとこ面を付けて出してみた。とたんに孫の柔和な顔がこわ張って、ヤバイ!と思う聞もなく泣き出した。その声を聞きつけて、娘が台所から飛んで来た。するとすかさず5歳の孫が「じいちゃんがお面でびっくりさせた」と告げ□した。
 いや、そうではないのだ。じいは君たちの未来を案じ、世の中がそんなに単純ではないことを教えてやったのだ。
  伊佐市 山室悟入(62) 2009/4/26 毎日新聞鹿児島版掲載



ベナレスに泣く

2009-04-26 21:30:12 | はがき随筆
 オスカー賞を含め、61の映画賞を取った「おくりびと」は、名優・本木雅弘が青年期に、インドのベナレスで体験したことが基になっているという。
 私も13年前、かの地で見た光景を忘れることが出来ない。ガンジス川を流れる亡きがらや、遺灰をまく傍らでもく浴をする人々に驚き、死を待つ人の家や ″だび″にも格差があることを知り嘆いた。また異臭─ごみや牛の排せつ物、物乞いをする人たちの体臭、火葬のにおい──にもこの国の縮図を感じた。
 ヒンズー教の聖地・ベナレスの夜は、人と宗教とのしがらみを思い、枕を涙で濡らした。
  出水市 清田文雄(69) 2009/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

善人と悪人

2009-04-26 21:20:25 | はがき随筆
 知らない字を辞書で調べようと妻の書棚を探していると、見慣れない赤表紙の本があった。
 「世界一周すると10万円貯まる本」。めくってみると東京を出発してアジア、ヨーロッパなど200都市の地名に500円硬貨を埋めていくと10万円になる計算。生涯行けない北極圏から無料でも行きたくないバンコクもある。道理で妻は500円硬貨を集めていたのかと納得。
 そういえば3年前に沖縄に2人で行ったきり世界一周どころか県内一周も果たしていない。本の中身はまだ3分の1、こっそり埋めてやるか抜き取るか善人と悪人が行き来する日々だ。
  志布志市 佐竹佐俊(66) 2009/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

白い菜の花

2009-04-26 21:16:09 | はがき随筆
 辺り一面、黄色や白やピンクで染まる春。ある日の私と子どもたちとの会話。
 「帰り道、道ばたに白い菜の花があったよ」
 「えっ、白い菜の花。ああ、それきっと大根の花だよ」
 何日かしていつも元気いっぱいのR男も同じように話す。
 「白い菜の花があったよ」「それ大根の花だよ。引っこ抜いたら大根が出てきたよ」
 「ふうん、大根の花か」
 子どもたちのかわいい会話に思わずにっこり。白い菜の花、本当にそうだ。道ばたを歩くと黄色い菜の花や白い菜の花がきれいに咲いている。
  出水市 山岡淳子(50) 2004/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載
  写真はyushitaさん


歩道といえども

2009-04-22 16:30:35 | はがき随筆
 先日、歩道を歩いていた時のこと。街路樹を避けるため、私の横をすり抜ける技で走り去る自転車。とっさに身をかわそうと、さびかかった私の脳も反応してくれたが、足がもつれて(おっとっとっと)ひやりの一瞬だった。中学生、そんなに急いでどこへいくの。
 最近見かけなくなったが、幼児2人を前後に乗せて走っている若いお母さんを見ると、転倒でもしたら大けがなのにと、こちらが心配する。
 自転車といえども、事故が死に至るケースも聞く。考え事をしながらの私は、はがき随筆を投函しての帰り道だった。
  鹿児島市 竹之内美知子(75) 2009/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載

後ろ姿

2009-04-21 19:22:10 | はがき随筆
 「次のおうちを教えてくれる?」。私の頼みに、にっこり「ハイ」と答え、彼は自転車に乗った。
 赴任したばかりで、まだ慣れない住宅街の小道。私は車で彼を追う。ゆっくりと走る私を時々振り返りながら、彼は私を先導する。曲がり角で、大通り手前の「止まれ」で私を気遣い、必ず後ろを振り返る。その後ろ姿に私の目は潤む。
 ピカピカの中1だった彼も2年生。給食をもりもり食べ、部活も勉強も頑張り、大きく成長した。
 今年、彼の後ろ姿を見る幸せな先生は誰だろう?
  霧島市 福崎康代(46) 2009/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆3月度入選作品

2009-04-21 18:38:20 | 受賞作品
はがき随筆3月度の入選作品が決まりました。
▽志布志市志布志町志布志、小村豊一郎さん(83)の「別れ」(4日)
▽出水市緑町、道田道範さん(59)の「要介護レベル10」(31日)
▽薩摩川内市高江町、上野昭子さん(80)の「焦らないで」(6日)
─の3点です。

 桜花爛漫の中で選評を書いていますが、これが掲載されるころは葉桜になっていることでしょう。『徒然草』に「花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは。」という名文句がありますが、皆さんもその時期ごとの季節の風情を楽しんでおいでのことと思います。今年度も素晴らしい随筆のご投稿を期待しています。
 小村さん「別れ」は、奥様が亡くなられた後の片付けも終わり、娘さんが大阪に帰られるのを近くの無人駅まで見送った内容です。往年の小津安二郎の映画の一シーンを思い起こさせます。落ち着いたたたずまいの文章です。
 道田さん「要介護レベル10」は、腰を痛めてからの日常生活の不便さが、ユーモラスに描かれています。「世の中すべてが癇に障る」というお気持ちよく分かります。きっと、6段階しかない介護レベルも10まで上げたい痛さでしょう。
 上野さん「焦らないで」は、身体が不自由なのを気遣って、後輩の2人の元女教師が大阪から大掃除に来てくれ「焦らないでね」の一言を残して帰っていった。人情いまだ地に落ちずといったところで、こういういい話はいいですね。
 奥古志代子さん「元気でいてね」 (23日)は、退職して時間ができたので離れた所に住む義母を引き取ろうと行ったら、断られた内容です。「今度来る時は、葬式の時でいい」とはご立派です。馬場園征子さん「父の味、甘酒」(19日)は、今の甘酒の味に物足りず、父親が作った甘酒に挑戦し、成功した喜びです。味の好みも本卦還りします。一木法明さん「孫の雄姿に」(5日)は、お孫さんが高校テニスの九州大会に出場して優勝したのを、遠くまで2日間も応援に行った話です。子供には少し照れて控えめになるのが、孫のこととなるとあられもなくなるのは不思議です。中島征士さん「恋……?」(16日)は、子供の時からメジロの鳴き声が好きで、今でも恋したように胸ときめくという経験です。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)
  2009/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載











心のアルバム

2009-04-20 21:37:49 | はがき随筆
 アルバムを整理して、自分のものはほとんど焼いた。思い出したいときは、心の中の映写機をまわす。
 きょうはサフランを切らしていることに気付いた。どうせならと、ダマスコの市場まで遠出する。
 直線通りをブラブラしていたら、パウロに会いたくなったので、アナニアス教会に寄る。
 「ご機嫌いかが?」とのぞいたら、ウインクが返ってきた。
 「じゃ、また」
 思い出にひたりすぎて、気がつけば外はもうたそがれ。
 夕げのしたくに取りかかるとするか。
  鹿屋市打馬 伊知地咲子(72) 2009/4/20 毎日新聞鹿児島版掲載



不信任

2009-04-20 20:39:22 | はがき随筆
 何かと話題の竹原信一・阿久根市長が再度の不信任決議で失職した。

 ご本人も会見で「予想通り」と話したように、市長が失職して出直し選挙になることは「想定の範囲内」ではあった。だが昨夏の市長選以来、こうも選挙が続くと、もう結構と言いたい市民は少なくないのではないか。

 竹原派に言わせれば「改革者」、一方の反竹原派は「単なるお騒がせ市長」となじる。17日の市議会で双方の主張に耳を傾けたが、いずれの見方も竹原氏の一面を言い当てている気がする。

 市長自らが議員定数にまで手を突っ込み、職員の人件費削減に乗り出す。未曽有の不況の中、自主財源の乏しい地方自治体の未来は決して明るくない。財政構造を好転させるには小手先の改革では収まるまい。人事の問題も、ぬるま湯的な年功序列の慣習にのっとらず、人事権者として大なたをふるうのはある意味で正当だろう。

 それでも彼の行動はいかにも性急かつ強引に映る。剛直一本やりで、しなやかさを欠いているのだ。議員定数問題が好例だが、成果として大幅な定数削減を期待するなら、もう少し違ったアプロ-チがあっていい。

 16の定数を6に減らす発案は将来構想としてはあり得ても、いっぺんに実現するのは常識的に無理だ。それを強行するのは、却下されるのを承知の上で、あえて火種をまくためにやったとしか思えない。つまるところアジテーターとしては素晴らしいが、改革を成就させる手腕には少々、疑問符を付けたくなる。

 竹原氏は会見で、自身の政治手法は変えないと言い切った。それがよそ行きの決意表明なのか本心なのかは分からないが、私の考える、あるべき政治家像とはやや違う。志は頑固一徹で結構だが、身のこなし方は柔軟であってほしい。経験に学び、自分自身を絶えず変革・向上させるのも一流の条件なのだと思う。

 鹿児島支局長 平山千里 2009/4/20 毎日新聞掲載








ハスキーボイス

2009-04-17 09:37:29 | はがき随筆
 私は先天的に声帯に異常があり、大きな声が出ない。学生時代は、皆についていけない音楽の授業がとても嫌だった。
 自分の声はどんな声だろうかとテープレコーダーに吹き込んで聞いてみた。しゃがれ声で聞かれたものではない。自信を失っていたが20代に入ったころだろうか、森進一がハスキーボイスでデビューした。それからというもの、自分の声もまんざら捨てたものではないと思い始めた。勇気を出して懇親会などで歌ってみた。拍手喝采である。
 今は、妻と時々、カラオケ店に行く。もちろん、私が最初に歌うのは森進一の歌である。
 鹿児島市 川端清一郎(62) 2009/4/17 毎日新聞鹿児島版掲載





終了式

2009-04-17 09:36:28 | はがき随筆
 庭の桜の花が青空に映える。
 長寿楽園大学の修了式で「10年表彰」を受けることができた。1年前だったら亡夫と共に喜び合っただろうと涙を流す。
 ペースメーカーが頼りの歩行障害者では、月I回の教養講座とグループ学習での一日は無理だと諦めていた。地区の方のお陰でこの喜びに浴した。感謝でいっぱいだ。
 Kさんは車で家まで送迎し、帰宅途中に食品店に立ち寄り、Uさんが希望の品を購入して家へ持参、Nさんは野菜の数々を……。それぞれ献身的な人に守られて、私は生きている。
 カイドウの花かげで─。
 薩摩川内市 上野昭子(80) 2009/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載