はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

85歳へ

2019-08-31 17:25:46 | はがき随筆

 母99、父97で逝った。そして私かなと思いながら84のときに瘤の再手術のため入院、退院してまもなくころんで再入院、と悪いことの連鎖。計半年をベッドですごした。

 花も、もえいでる新緑も見ずの日々。こう長いと風や外気にあいたくなり、さらに生ものを食べたくなって心が騒ぐ。つまり治療をガマンが上わまわってしまう。我慢を旨とする治療生活。

 どうやら乗り切って退院した。日々の生活を実践するにはまず歩く力をつけねばならず、わがあるきはじめを再現のよしである。がんばろう。どうぞよろしく。

 鹿児島市 東郷久子(84) 2019/8/27 毎日新聞鹿児島版掲載


カンナと終戦の日

2019-08-31 16:50:18 | はがき随筆

 強い日差しの下、赤や黄のカンナが咲き誇る。昭和20年8月15日正午、終戦の玉音放送を聞いた佐世保市もこんな暑さだった。

 「日本は負けたごたるね」。祖母や母が涙すのを「神国は必ず勝つ」と教育されていた9歳の少年は不思議な思いで、庭のカンナと交互に見つめた。

 今になって考えると小さな空き地でも野菜などを植えていた時代。腹の足しにもならぬカンナが果たして咲いていたか。後年のこの季節の記憶とごっちゃになっている可能性もあるが、私にはまぎれもなく愚かな戦争の終結と結びつく夏の花。

 熊本市東区 中村弘之(83) 2019/8/31 毎日新聞鹿児島版掲載


墓の行く末悩ましく

2019-08-31 16:39:49 | 岩国エッセイサロンより

2019年8月19日 (月)

   岩国市   会 員   吉岡賢一

 お盆を前に、墓掃除に行った。古い集団墓地なので水道などの設備はなく、掃除用の水は家から車で運んだ。普段の無沙汰もあってまずは墓石周辺の草取りから始める。次いで石塔を磨き、供物台、花立てなど、動かせる石は全て動かし、完璧に磨き上げた。
 日暮れの涼しさを狙って出掛けても汗は滴り、相応のエネルギーを要する。今は私たち夫婦が車を運転するし、水も運べる。石も動かせる。しかし、やがてはできなくなるだろう。その時はどうするか。順番からいけば長男夫婦が面倒をみることになるが、遠くに住んでいて思うに任せない。
 先祖代々の墓を守る役割は、次世代に重荷を背負わせることになると、心配せざるを得ない時代である。
 終活という言葉に沿って身辺整理に取りかかってはいるものの、墓石の行く末までは手が回らない。盆の帰省を楽しむ孫たちの笑顔に囲まれると、悩み事の相談は、つい先延ばしになってしまう。
    (2019.08.19 中国新聞「広場」掲載)


酷暑での想い

2019-08-31 16:25:53 | はがき随筆

 

 「暑い暑い」と口にするだけでも、心も体も焼けただれそうな日々だ。涼しいところに逃げ出したい気持ちだが、現実的にはそうもできない。ふと、人生前半を過ごした南阿蘇山麓での夏が懐かしく蘇る。

 エアコン、扇風機など知りもせず、暑さしのぎは団扇だけ。涼風は家の中を吹き抜け、夜は蚊帳をつった床で母が孫たちを団扇であおいでくれていた。

 家は明け放したまま。流水で冷やした野菜や西瓜の味。主人の転勤、子どもの進学で市内に住居を構え、暑さにへたばること50年にもなる。夏だけはあの田舎で過ごせたらいいなあ……。

 熊本市中央区 原田初枝(89) 2019/8/28 毎日新聞鹿児島版掲載


ジャガイモ

2019-08-31 16:25:30 | はがき随筆

 店先に並べられている不ぞろいの拳大のジャガイモが、目にとまった。手に取ると土の香りが残っていた。

 戦時中に農家への奉仕作業をした時の事が浮かんだ。食糧難時代で、十分に食べることがままならず、作業の後に出された、ふかしたジャガイモの素朴な味は忘れない。

 当時は、自給自足しかなかった。母は狭い庭で野菜作りに懸命だった。その上、母の衣類は全て、お米と野菜に交換していた記憶がある。工夫して作ってくれた肉なしの肉じゃが風。ほのかな土の香りに、おふくろの味が懐かしい。

 宮崎県延岡市 島田葉子(86) 2019/8/26 毎日新聞鹿児島版掲載


墓所

2019-08-31 16:03:36 | はがき随筆

 散歩道の脇に墓所がある。何気なく中に入ってみると、「昭和19年南洋群島にて戦死32歳」と刻まれた墓碑が目にとまった。南洋群島のどの島で亡くなられたのか。死因は戦闘死、病死、餓死、玉砕それとも……。

 遺骨は帰ってきたのか。家族の悲嘆はいかばかり。亡くなった方f

故郷に帰りたかっただろうな⏤⏤。

 私は墓碑を見ながらそんなことに思いをはせた。そして手を合わせながら「今の世の中をどう思いますか」と聞いてみた。しかし死者は語らない。頭上でクマゼミが元気良く鳴いていた。

 熊本市北区 岡田政雄(71) 2019/8/25 毎日新聞鹿児島版掲載


86歳生還す

2019-08-31 15:51:08 | はがき随筆

 久しぶりにリハビリマッサージへ。若いスタッフが、体力が衰えていますねという。さすがプロ。実は小生手術後1か月。

 腰痛か腹痛か、耐えられずに近くの主治医へ。直ちにN大病院で緊急手術を受けた。急性穿孔虫垂炎。若き女医の卓越した執刀で無事生還した。ドーン、ダァーン、カラーの情景がフラッシュし、やがて長男夫婦の笑顔がそこに。全身麻酔から解放され、1週間の断食。手厚い看護で回復した。まだ天国か地獄か、これからの進路が定まらずヨロヨロ、のそのそ。静かに残された時間を歩きたい。感謝‼

 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2019/8/24 毎日新聞鹿児島版掲載


お時間ありますか

2019-08-31 15:43:22 | はがき随筆

 信号待ちをしていたら数人の小学生の中の一人に「○○小の□□です。お時間ありますか」と声をかけられた。そして「佐土原町の名物を三つ挙げてもらえませんか」と聞いてきた。アンケートを取っているらしい。

 佐土原町は、平成の大合併で宮崎市に併合されたが、町民の熱い郷土愛は脈々と受け継がれているんだなあと感心しながら少し考えて、佐土原ナスと鯨ようかん、生姜を挙げた。

 彼らはそれらをメモすると、礼を言って歩き出した。調べた結果をまとめて発表し合うのだろう。我が子の幼い頃の姿が重なり、ほほ笑ましく見送った。

 宮崎市 福島洋一(64) 2019/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載


傘寿

2019-08-31 12:23:51 | はがき随筆

 物忘れが激しくなり、一度に二つの仕事はこなせない。こんな状況になれば「何がめでたい誕生日」の心境にもなる。

 カミさんが80歳の誕生日を迎えた。「何がめでたい」と言ってはいられない。80歳にちなんで8000円の花をアレンジしてもらい贈ることにした。

 誕生日に生花店から届けてもらい、カミさんに手渡した。「エッ、誰から?」「ご主人さまからです」「まさか……」。テレ隠しからか「もったいないことをして……」と言いながらもニッコリ。「こんな豪華な花籠、生まれて初めてもらったわ」

 鹿児島県 西之表市 武田静瞭(82) 2019/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載


仏壇の花

2019-08-31 12:13:37 | はがき随筆

 仏壇の花の水を毎日入れ替える。普段は朝の1回で済ませる水替えだが、夏場の今はそうはいかない。花瓶の中がすぐに湯に変わるので朝昼夕の3回は替える。それも水だけでは追い付かずに冷蔵庫の氷を継ぎ足す。それでも花のもちが悪い。葉っぱがすぐにしおれてしまうので、1週間ほどで取り替える。

 花も華麗さよりも安くて勢いのあるものを選ぶ。行きつけの花屋を4.5軒回って決めている。チェックし過ぎをたまに店主に注意されたりする羽目に。

 華麗に見せる造花を羨ましく思うが、どうしても切り花にこだわってしまう。

 宮崎市 日高達男(77) 2019/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載


74年目の回想

2019-08-31 11:59:15 | はがき随筆

 昭和20年8月9日午前11時近く、私たち50余人の生徒は熊本市東部近郊の甘藷畑で汗していました。突然、空襲警報のサイレン。隣の桑畑に退避します。

 すぐに爆音、そして白銀の機影が一つ、まさしくB29、高高度でそのまま北進。と、数分の間もなく西の空に白い爆煙が一つ。臙脂から黒灰色に変色し、膨張、上昇を続けました。この間に夕立模様、まさに「きのこ雲」の形状です。その後、爆煙は灰黒色のまま西北上空を覆いつくしていました。

 夕方、ラジオで「長崎に特殊爆弾投下」の報。74年前の回想が夢のようです。

 熊本市中央区 木村寿昭(86) 2019/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載


へ鯛

2019-08-31 11:49:54 | はがき随筆

 スーパーの鮮魚売り場に「へ鯛」の広告ポップ。ワゴンには氷が敷かれ、へ鯛が陳列された。奇妙な名称だけにワゴンの周りにたたずむ。一尾380円と手ごろな値段だが「へ」は屁をひる、屁をこくなど生理現象を意味するだろう。

 調べてみると「平鯛」は鯛のたぐいと表記してある。黒鯛と色、型、大きさもほとんど同じ。ただ、お客さまもだれ一人ゲットする気配がない。祝い膳に奉納しましょうか、ゆうげの膳に求めるか求めないか? 次のチャンスを夢に描いて喜びを期待しよう。正直おかしく、妙に心が打たれた。

 鹿児島県 姶良市 堀美代子(74) 2019/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載


夕暮れ時に

2019-08-31 11:31:33 | はがき随筆

 夕暮れになると玄関灯とはべつにもう一つ、廊下に小さな明かりを灯す。常夜灯を兼ねたその淡い照明を用事で訪れた青年がとても気に入ってくれた。

 「明かりがきれいですね」。感じ入るように彼は言うと卵色の揺らぎをじっと見つめた。

 それがきっかけで夫を交えての立ち話が弾んだ。笑うたびに私の履いていた木製のサンダルがガタガタと鳴る。と「下駄の音がいいです」と彼が言った。ふっと流れた優しい沈黙。視線が下駄に集まり、また笑った。

 彼は知的障害を持つが、心に素敵な彩りを秘める人だ。やがて彼は礼儀正しく暇を告げた。

 宮崎県延岡市 柳田慧子(74) 2019/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載


黒い太陽

2019-08-31 11:22:45 | はがき随筆

 5分前の事も忘れるのに74年前に歌った軍歌が口に出る。「義憤にもえて血潮わく」。鉢巻をして軍事工場に列を作り、只々勝つ事を信じ意気揚々と歌ったあれは何だったのだろう。

 友達と帰り道に空からの攻撃。畔に身を丸めて、その横にブスブスと弾がささる音。体も足も震えはうようにして帰った。

 3日目、町は焼け野原になり黒い太陽を見た。恐ろしいことが起こる気がした。そして広島、長崎の原爆。平和記念式典にテレビの前で黙とうし涙がこみ上げた。亡くなった方の死を無駄にしてはいけない。戦争反対を心の底から命の限り叫びたい。

 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載


B-4

2019-08-31 11:12:21 | はがき随筆

 ダンスバトルに初めて参戦したとき「チーム名は?」と聞かれ、ばあさん4人組だから「B-4」にしようか、がスタートだった。当時、60歳前後だった私達は「還暦ダンサーだねぇ」とはしゃぎまくってヒップホップダンスを楽しんできた。

 九州大会に参加したり、地元NHKにも紹介されたりと思い出はつきない。だが、10年近くも経過するとさすがに皆、体のあちこちにガタが生じてくる。とはいえ、週一の夜の練習日には必ず集まる情熱は健在だ。

 いつか最年長の自分が白旗を挙げる日が来るかもしれないが当面今を慈しむことにしよう。

 宮崎市 藤田悦子(71) 2019/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載