はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

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2012-02-28 22:00:04 | はがき随筆
 20年前から知っているよ。鹿児島に帰ってきた時から貴方のこと。毎日や朝日、南日本新聞の投稿欄で。貴方はぼっけもんで体格がよく朗らかで面倒見がよく親分肌。病んだ人がいれば昼夜を問わず、はせ参じる。江戸時代の人々のように「宵越しの金は持たない」主義。今日稼いだ金で白いご飯(オマンマ)をいただければ、それだけで十分な人と思う。私は秘かに貴方の影を追いかけていた。永遠に追いつけることのない影に。「老いの終わりに」。泣いちゃったよ。もういいよ。ゆっくり休んでと忠告しても貴方は走ることを止めないだろう。きっと。
 鹿児島市 吉松幸夫 2012/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

母の生き甲斐!

2012-02-28 21:53:53 | はがき随筆
 昨年6月、初めて描いた絵手紙を田舎の母に出した。その時即興で作った俳句を添えて。
 それから1ヵ月ほどして、「自分も俳句を作ってみたが、見てくれんか」と何句かが送られてきた。1句いいのがあったと返事を書いた。86歳で、生まれて始めて作ったにしては上出来だと。
 某新聞の、鹿児島版の俳句欄に投稿したところ、内容を少し手直しされて掲載されていた。それから1週間ごとに、母の俳句が私の所に届くようになり、私はそれらの句の感想を返書した。86歳にして母はやっと自分の生き甲斐を見つけたようだ。
  伊佐市 清水恒 2012/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載

だれでも

2012-02-28 21:47:01 | はがき随筆
 「なでしこジャパン」の澤穂希選手と佐々木則夫監督が世界優秀賞に選ばれた。思い起こせばW杯当時は毎晩のように、眠い目をこすりながら薄氷を踏む思いで応援したものだった。
 それが広いグラウンドの中では、ボールが飛ぶ所に、なでしこが居た。彼女たちイレブンがこぞってゴールを目指すチームワークには、どのチームもついていけなかった。圧巻はロスタイムのコーナーキックだった。澤選手はキックの前にもう飛び出していた。そしてゴール。こんな技を誰が考えたのか。佐々木監督は応えるだろう。
 「なでしこならだれでも」
  鹿児島市 高野幸祐 2012/2/26 毎日新聞鹿児島版掲載

春を待つ

2012-02-28 21:41:44 | はがき随筆
 立春を過ぎても今年は厳しい冷え込みが続いている。裏山では小鳥が春を告げて鳴く。もう少しすると心の中にポッと明かりがともった感じになる。シンビジウムの花、チューリップの花芽も少しずつ伸びている。プランターの花々もじっと寒さに耐えて、春を待っている気がする。
 春を待ち焦がれている気持は北国の人たちには推し量れないものがあるだろうと思う。ましてや東日本大震災の被災者たちにとって今年ほど待ち遠しい春はないだろう。どうか1日も早く東日本の人々に温かい春が訪れますように。
  出水市 橋口礼子 2012/2/25 毎日新聞鹿児島版掲載

淡島さん

2012-02-28 21:34:47 | はがき随筆
 淡島千景さん死去の記事に両手を合わせた。四十数年前、修行中の芦屋市の料理旅館で宿泊された淡島さんにいただいた励ましの言葉とご祝儀に、成人式も出られず今にもつぶれそうだった20歳の私はどんだけ元気づけられたことか。いつも心の中で感謝していました。
 以来、真正直に働く大切さ。いつかは必ずいいことが来ると信じてここまで来られました。人の情や親切があふれていた時代。一緒に映した淡島さんの笑顔が昨日のことのように思われ涙がこぼれます。ありがとうございました。心からご冥福をお祈り申し上げます。
  指宿市 有村好一 2012/2/24 毎日新聞鹿児島版掲載

母へ

2012-02-24 15:23:13 | はがき随筆
 「東風吹かばにいおこせよ梅の花主なしとて春を忘るな」。縁側で庭に満開の梅の花をみながら菅公の一首を教えてもらいましたね。あれから50年。忘るることなく今はあちこちの庭で梅を愛でています。朝の散歩の折「梅が咲いている」と歓声をあげるのは娘です。実家にはまだ梅が2.3本残っているようですが、弟の代になり行く機会もなくただ懐かしむだけです。私も暇をみて天神様へ祈願に行きますが、固かった紅梅が3.4分咲きになりました。北からの風をまともに受ける所なので白梅はまだです。この世からの一報です。みな元気です。
  鹿児島市 東郷久子 2012/2/23 毎日新聞鹿児島版掲載

金柑漬込み前に

2012-02-24 15:17:24 | はがき随筆
 僕の庭にたくさんの黄金色の金柑がぶらさがりました。亡妻が近所の人に頼み阿久根の植木市で求めたものです。高さ3㍍ほど。大きい実は鶏卵ほどもあって見物に訪れる人もいます。僕は不自由な体ですが、収穫が楽しみの一つです。なぜ、こんなに豊作だったか推測するに帰省した息子が剪定した結果か?
 生で食べて良し、漬け込みにして食べて良し、柑橘類の王者だと思います。娘と金柑の漬け込みをしていますが、一個一個の蔕から実を支えていた小さな枝をつまようじみたいな細い物で抜き取らなくてはならない。根気と時間がかかります。
  阿久根市 松永修行 2012/2/22 毎日新聞鹿児島版掲載

でかしたぞ

2012-02-24 14:56:31 | はがき随筆
 米ノ津中学校の教え子が卒業個展(書道)「夢のつづき」を出水市にて3月6日から開く。小学校からのたゆまぬ努力と精進が実り、開くほどの力量を高めてきた。書道家の夢も必ずやかなえられることだろう。
 教え子の「よく頑張ったね。でかしたぞ」ぶりに比べ、私の8年間、微々たる努力であった。教え子の精進ぶりにおろおろするばかり。追い越された。負けた、の一言に尽きる。
 「はがき随筆」の掲載。100編までに2.3年は要するだろう。教え子との距離が遠のくばかり。ああ-情けなき存在の自分よ。廃るなよ。昭ちゃん。
  出水市 岩田昭治 2012/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆1月度入選

2012-02-24 14:26:36 | 受賞作品
 はがき随筆1月度入選作品が決まりました。
▽出水市緑町、道田道範さん(62)の「ラストシーン」(7日)
▽鹿児島市薬師、種子田真理さん(59)の「マイ骨壺」(13日)
▽同市真砂本町、萩原裕子さん(59)の「さらりと生きる」(4日)

の──3点です。

 映像文化関係者の話ですが、テロリズムの映画などで、いくら迫力のある映像を作っても、9.11の映像以上にリアリティーのあるものはできにくいそうです。同様に、自然災害のパニック映像の作成も、3.11の映像以上のリアリティーは難しいそうです。3月11日が近づいてきました。言語文化にはどのような表現の可能性があるのでしょうか。
 道田道範さんの「ラストシーン」は心温まる内容です。病院で見かけた、上品で温かい雰囲気の老夫婦の情景のスケッチですが、素晴らしい夫婦愛を見つけるのも、思いやりと包容力のある観察者の心が必要のようです。
 種子田真理さんの「マイ骨壺」は、骨壺の話は文章にし難いものですが、感じのいい内容にまとまっています。有田の陶器店で買った、桜の図柄の骨壺が気に入った御母堂は、桐箱に入れて、来客にも披露しているという、その情景が目に浮かぶような文章です。
 萩原裕子さんの「さらりと生きる」は、題とは異なる、暗い悲しい内容です。御主人の病状が思わしくなく、それを悲しむ自分を逆に御主人が慰めてくれるという内容です。「さらりと生きる」と言っても、老いと死の問題はそれほど簡単なものではありません。文章表現はあるいは一つの解決策になるかもしれません。
 入選作の他に3編を紹介します。
 阿久根市大川、的場豊子さん(66)の「もったいないⅡ」(30日)は、片付け方の本を読んで、ゴミ5袋分を捨てることにしたが、ゴミ出しまでの間に、逆にゴミの量が減ってしまったという、もったいない世代の心理が描かれています。
 鹿屋市寿、小幡晋一郎さん(79)の「偶然の数字」(17日)は、車の購入日が11年11月11日であったり、父親の誕生と死亡が同月同日であったり、私たちが偶然の数字の巡り合わせのなかで生きている不思議が書かれています。古い中国では、運命のことを「数」といいます。
鹿児島大学名誉教授・石田忠彦

寒肥

2012-02-23 21:53:29 | はがき随筆


 庭に記念樹や果樹、花を植えている。植物は手入れをすると必ず応えてくれる。
 寒肥の今、根の周りを掘りながら、今年も咲いてね、実をつけてねとつぶやきながら施肥する。わけても、このバラに施肥する度にふつふつと熱いものを感じる。
 9年前、クリスマスの夜、会合で遅く帰宅した夫が、玄関で迎えた私に、ビロードのような深い真紅のバラを「はい」と、はじらいながらくれた。その時の様子が脳裏に残っている。バラは数日玄関に飾った後、挿し木した。運良く根付き毎年美しい花が咲く。咲かせ続けたい。
  出水市 年神貞子 2012/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

随友のK先生

2012-02-23 21:47:45 | はがき随筆
 随友のK先生は85歳の高齢であるが、現役の開業医で時々往診にも出かけられる。数年前に奥様を亡くされてから、いわゆる独居老人の生活である。
 先生は短歌、俳句などの文芸にも造詣が深く、創作活動を楽しんでおられる。先日、はがき随筆に作品が掲載されたが、体調が悪く仕事を休んで寝込んでいたとのこと。「一人で寝ていると、さまざまなことを考え滅入ってしまう」と書かれていた。気になったので電話してみたらもう元気で診療しておられた。自ら生涯現役を誓っておられる通り健康に留意され、1日も長く頑張っていただきたい。
  志布志市 一木法明 2012/2/19 毎日新聞鹿児島版掲載

老いの終わりに

2012-02-23 21:41:53 | はがき随筆
 86歳。妻が亡くなってもうすぐ3年。老いて一人になり、まだ現役の開業医。しかし後期を過ぎて、もはや早末期。この1年の間に体調を崩し一病も二病もあるが、まだ何とか仕事を続けている。
 もう引退をしてもいいのだが10年前生涯現役を自分に誓ったので、命の限り頑張りたい。
 酒を断ち節制に留意して今、健康保持をしている次第。老いを一人で生きるということだけでも大変なことだが、開業医という天む職はなかなかである。
 今はただ、来年の桜を見られるようにひたすら祈っている。
  志布志市 小村豊一郎 2012/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載

鬼が来た!

2012-02-23 21:30:57 | はがき随筆


 2月3日、アニメに夢中の4歳の孫が「鬼が出た」と血相を変え、顔面蒼白で固まった。続いて6歳児も……死角の大人には見えない。そこえ「僕だから」のメール。恵方巻きをもらいに来た長男が、黒タイツで顔を覆い青鬼面をつけ、すさまじい格好で荒々しく戸を叩き出没しては暴れまくった。孫3人は恐怖におののき泣きわめく。とっさに豆を与えた。「鬼は外」。死に物狂いで投げつけた。「太っていたから、絶対悪い子を食べてるよね」。大人の話を尻目に異常におとなしい。楽しいはずの節分が終わった。来年は赤鬼さんが来てくれるかな?
  指宿市 池元民子 2012/2/17 毎日新聞鹿児島版掲載

闘病記その2

2012-02-23 21:23:45 | はがき随筆
 泌尿器科系の体の老廃物を検査している。尿、便の回数と体温。食事は全部食べると10、半分なら5。夫の食事は10だった。病人食が合っているのか。看護師が、私と娘に面接室に行くようにと伝えた。
 主治医から夫の病気の将来を告知された。「余命……です」。あからさまな告知。言葉が出なかった。告知の言葉が痛ましく耳に通じた。頭の中は真っ白。腸が煮えくり返りそう、主治医を殴りたいほどの心境。体中の血が騒ぐ。逆流もする。
 夫は病室にいる。何も知らないだろう。哀れなる人生観……。人の一生は美しく悲しい。
  姶良市 堀美代子 2012/2/16 毎日新聞鹿児島版掲載

「春の予感」

2012-02-21 11:22:06 | 岩国エッセイサロンより


2012年2月21日 (火)

     岩国市  会員  河村仁美

 娘の縁談話でお相手の家族と顔合わせをすることになった。会場の料亭に行く前に、我が家にも立ち寄り、ご挨拶されるというのだ。さあ大変。

 築20年。大きく手を入れたことはない。とはいえ、今からリフォームする時間はない。お通しする6畳間の畳やふすまも気になるが、せめて障子だけは張り替えてお迎えすることにした。

 障子は夫の担当と決まっていたが、ほかの歓迎準備で手が回らないという。「どうしよう」と思案に暮れていてひらめいたのが、アイロンを使った簡単な障子張り。ブログ仲間が紹介していたのを思い出したのだ。

 近くのホームセンターでアイロン障子紙を買い初挑戦。恐る恐るアイロンを近づけると桟や縁に面白いぐらいうまく、くっついた。「やればできるじゃない」と自画自賛。

 桜の模様をあしらった障子紙を選んだので桜が満開になったみたいで、部屋の中は一足早く春の装いに。ウキウキついでにおひなさまも飾った。

 当日は振袖に身を包んだ娘と親子3人で出迎えた。我が家に春の予感。春よ来い。早く来い。

    (2012,02,21 朝日新聞 「ひととき」欄掲載)岩國エッセイサロンより転載