はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

太郎は今…?

2010-08-27 21:58:27 | はがき随筆
 「お…?」。毎日またぐ住宅の側溝に指先大の卵がある。見るが、何の卵かわからない。
 「や!」。忘れていた卵の場所に、子ガメがいる。思わず周囲を見回した。ウミガメが産卵に来る豊かな自然環境の土地ではあるが、玄関先で川ガメの子が生まれていたとは──。
 「太郎」と命名し2歳の娘と金魚の水槽に入れた。何も知らぬ2人は笑顔で眺めていた。
 数日後「ありゃ? なんてこった!」。太郎は、あの華やかな金魚たちの尾びれを、すべて食いちぎっていたのだ。
 清流に放たれた太郎。今年36歳になる。今ごろ、何してる?
  出水市 中島征士(65)2010/8/27 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆7月度入選

2010-08-27 17:37:00 | 受賞作品
 はがき随筆7月度の入選作品が決まりました。

▽垂水市本城、川畑千歳さん(52)の「走るアジサイ」(16日)
▽薩摩川内市宮里町、田中由利子さん(69)の「雷」(30日)
▽鹿児島市武、鵜家育男さん(69)の「お世辞なの⁈」(28日)

──の3点です。

 長崎市に行ったら、龍馬騒動で、アーケードの中に何台もテレビを置き、椅子を並べてみんなで観ていました。現在の1人1台ではなく、みんなで観るとあまり恥ずかしいものは観なくなり、番組のエロ・グロ・ナンセンス度合いもいくらか減るのではないかという印象を持ちました。
 川畑千歳さんの「走るアジサイ」は、子どもの通学を見守るある日、通学路に色彩豊かなアジサイが見えたと思ったら、そのアジサイが走り出したので驚いたという内容です。子どもたちの雨傘を一瞬アジサイと見るその感覚が印象鮮やかな文章にまとめられています。
 田中由利子さんの「雷」は、中学の時たんぼで雷にあい、母親と二人で土手の片隅に抱き合って難を逃れていたという、恐ろしい体験が思い出されています。このような体験は歳をとってからのほうが、何かのはずみに思い出すもので、不思議ですね。
 鵜家育男さんの「お世辞なの⁈」は、真夏のうっとうしさに割安床屋に行ったら、10分間で終わりさっぱりした。店主の、夏は白髪交じりが涼しく見えるという言葉に、冬にはどう言われるだろうかと疑問に感じたという、とぼけた味のある文章です。
 以上が入選作です。他に3編を紹介します。
 薩摩川内市祁答院下手、森孝子さん(68)の「うったらし顎」(22日)、食べ物が期待はずれになった時に使うこの方言を、米軍の援助の学校給食が朝鮮戦争で中止になった時に、みんなで使ったというもので、時代の侘びしさがよく方言で表現されています。姶良市加治木町錦江町、堀美代子さん(65)の「活火山桜島」(1日)は、出産を控えていた時に経験した昭和47年の桜島の噴火。出産と噴火という二つの自然現象に神秘と不思議を感じたというものです。出水明神町、清水昌子さん(57)の「清水昌子」(10日)は、新聞の投稿欄で自分の名前を見つけたが、糠喜びで、同姓同名の人のでした。それでもいとおしくなり切り抜いたというものです。
 優れたはがき随筆を投稿されていた山室恒人さんが亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします。
(石田忠彦・鹿児島大学名誉教授)