はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

80歳の感懐

2021-11-30 19:37:00 | はがき随筆
 10月12日に80歳の誕生日を迎えた。「傘寿」という文字からするとおめでたいようだが、そのようには誰もがは思ってはいないように思う。
 私の人生も、あと何年だろう。6月には誕生日が同じ幼なじみが、また9月には友人が他界した。命に限りがあることが身に染みた。残り少ない時間をいかに過ごすか。「有意義」に過ごすと言われても、私には難しくイメージが湧かない。「楽しく元気に」くらいは分かる。「はがき随筆」や「男の気持ち」の投稿者の諸先輩方の生き方をみまならうとしようかなどと殊勝にも思い悩んでいめ・
 鹿児島県肝付町 吉井三男(80) 2021.11.30 毎日新聞鹿児島版掲載

晩秋の夕暮れ

2021-11-30 19:29:28 | はがき随筆
 あっという間に薄暗くなる秋の夕暮れ、つるべ落としを実感する。ざわざわという大きい音は何? 電線を見ると、スズメの大行列だ。♪チュチュンがチュン
 電線にスズメが3羽止まってた♪ デンセンマンの歌を思い出した。身振り手ぶりの滑稽さにいつも笑っていた若い頃。屈託ない歌。病院の帰りだからかもしれないが、少々沈む気持ちが前向きになった気がした。こんなに集まって何を話しているのかな。電線の上はスズメの社交場。にぎやかに話がはずんでいる。家に帰ると、息子が落ち葉を掃き集めてくれていた。明日は良い事があるといいな。
熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2021.11.28 毎日新聞鹿児島版掲載

手紙と私

2021-11-30 19:19:44 | はがき随筆
 私は字が汚い。だから長い間手紙を書くことが苦手だった。
 癖のある字はどれほど丁寧に書いてもきれいには見えない。1枚のはがきを書きあぐね、2枚を反故にし、便箋に至ってはいつも3~4枚を無駄にしていた。悩みは表書き。なぜかいつも斜めになってしまうのだ。それでもこの頃は少しずつ手紙を書くことが好きになっている。字が汚くてもよいと思えるようになったのは年のせい。住所名前の横に定規を添えればまっすぐかけることも覚えた。
 苦手の原因は案外、気取り屋であった自分の心。「手紙が来たぞお」。夫の声がした。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(74) 2021.11.29 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆10月度

2021-11-30 18:30:09 | はがき随筆
はがき随筆10月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

【月間賞】26日「幸せ者」道田道範=鹿児島県出水市
【佳作】▽19日「フェルメールの絵」渡邊布威=熊本市中央区
    ▽23日「父をしのんで」小金丸潤子=宮崎市

 近頃よく目にするカラフルなバッジがある。テレビに出る政治家やニュース番組の司会者たちのジャケットの襟もとについている。丸いドーナツのような円形で社章とは違う。SDGsバッジと呼ばれ、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」で17の達成ゴールを目指そうと、17の色がバッジを彩っている。その中の一つに食品ロスを減少させるというターゲットがある。賞味期限はおいしく食べることができる期限で、その期限が近づくと半額になったりとスーパーやコンビニで目にすることが多い。
 宮田さんの「半額品」。朝一番に見切りの半額品を買います⏤⏤。なんという気持ちの良い宣言でしょう! 
 「娘たちや孫たちも楽しみにしているいちごやスイカやカットパイン。当然半額でなくてもよく買っている」からこその目利きがあるのでしょうね。胸に輝くバッジがなくても隆雄さんの買い物の楽しみのゴールは「一生懸命生きています」。お見事です。
 ハロウィンはコスプレやら仮装の場として定着してきているようだが欧米では宗教的な意味合いがあります。供養のない悪霊や幽霊は神様のいないこのハロウィーンの日にさまようとされていて、取りつかれないために自分とは違うものに仮装するのです。
 人は二度死ぬといわれています。肉体の死と忘れ去られることの死。道田道範さんの「幸せ者」。2年と4カ月、亡き母の月命日にお供えをしてくださる奇特なお方を仏様と呼んで手を合わせている⏤⏤。道範さん、はがき随筆に投稿して墓前に線香を手向けて下さるお人へ感謝を述べられたのですね。
 亡夫の自慢の蔵書のフェルメールの作品集をひもときながら画中画のキューピッドが現れたという最新情報を伝えるように語りかける渡邊布威さん。
 初秋が毎年苦手な小金丸潤子さんは昨年亡くなった父を思い、今年はとても物悲しく人恋しい……。思い出を共有できる従姉妹との文通が筆まめだった父をしのぶことだと投稿。
 大切な人がこの世にいない哀しさを、残された人たちはしのび、思いを言葉にし、つづります。
 忘れないということが死んでも生きるということだとしみじみ思いました。
 日本ペンクラブ会員 興梠マリア

今は分かる

2021-11-30 18:22:59 | はがき随筆
 棒をクルクル回し、廊下を軽やかに歩く教頭先生。中学生の頃、部活帰りに教室に忘れ物を取りに行ったことがあった。先生は1階から2階へすたすたと上がっていく。暮れなずむ校舎内の戸締りらしい。「遅くまで一人残って大変だなあ」と思っていると、鼻歌が聞こえてくる。お手製の棒は先端がフック状になっていて高い窓の鍵がしっかりとかけられる。「楽しみながらやっているのよ」と振り返った。早朝の花壇の水やりでもそんな感じ。「花たちがうれしそうでね」とにっこり。当時、変な人だなと思っていたが、今はその人のすごさがよく分かる。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(52) 2021.11.27 毎日新聞鹿児島版掲載

庭の虫たち

2021-11-30 18:16:48 | はがき随筆
 庭に出ると青い空に枯れ葉が一枚、ポッカリと浮かんでいた。これまでに見たことのない風景に驚いたが、よく見ると4㍍ほど離れた2本の庭木の間に張られたクモま糸に引っ掛かっているのだった。この長い距離にどうやって糸を張ったのか。クモのすごい能力に感心してしまった。他にも庭の虫たちは、時々面白いパフォーマンスで私を喜ばせてくれる。先日はウマオイが網戸につかまって部屋の中をのぞいていた。玄関のドアではカマキリがボルダリングで最上部までのぼっていったことがある。次はどんなパフォーマンスを見られるか、楽しみである。
 鹿児島県志布志市 藤森利一(72) 2021.11.27 毎日新聞鹿児島版掲載

妻の小言

2021-11-30 18:05:51 | はがき随筆
 食器をすすぎ洗いしようと水栓を全開にしたら、水が細く噴出して顔に当たった。さびた個所から漏れていた。
 食器を洗いながら、妻の小言を思い出した。私が水栓を全開にして食器をすすぎ洗いしていると、そばに来て水の出を弱めながら「無駄遣いしないの」とよく注意された。
 翌日、水道屋さんに連絡。新しい水栓に交換した。工事の最後に「水量調整しておきますか」と問われ、すかさず「少し弱めてくれる」とこたえた。
 「そうだよね」。遺影に語れば、いつもよりほほ笑んで見えた。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(69) 2021.11.27 毎日新聞鹿児島版掲載

生涯くまもと弁

2021-11-30 17:57:59 | はがき随筆
 「カゴッマ弁」の随筆を読み、昔の思い出が……。九州から出たことがない私が、次女の進学で、東京の下宿先へお礼に行くことに。標準語で話さねばと、小さな声で挨拶。ほとんど主人頼み。帰宅後「やっぱり熊本弁が出る」と大笑い。その後、長男が茅ケ崎に新築、お祝いに行き、隣家へ挨拶に行った。「ごめんください」。奥さんがにこやかな顔で出てこられ「もしや九州出身では」。「はい熊本です」。「懐かしい。私たちは佐賀者ですよ」とご主人も笑顔。「やはり訛りは分かりますね」。話に花が咲いた。人生最後まで熊本弁でいこうと思う。
 熊本市中央区 原田初枝(91) 2021.11.27 毎日新聞鹿児島版掲載

ヒガンバナ

2021-11-30 17:51:23 | はがき随筆
 里山と呼ばれる田園風景は、昔の農村の延長線にある。稲がたわわに実り、田んぼの土手に競い合うよう咲いたヒガンバナである。
 土手に穴を開けるモグラから守るために植えられたとの説もあるが、真相は知らない。
 かごしま自然百選でもある岩屋観音に久しぶりに訪れた時、旦那さんがフランス人で奥さんが日本人の夫妻と一緒に案内がてら登った。
 話によるとヒガンバナの好きな奥さんにリードされて来た様子であったが、なぜか旦那さんとヒガンバナが違和感なくマッチした感じであった。
 鹿児島市 下内幸一(72) 2021.11.27 毎日新聞鹿児島版掲載

歩かないでください

2021-11-30 17:44:27 | はがき随筆
 数カ月前、急用ができて電車で大分へ行った。到着ホームから地下道へ続く所に「エスカレーターの上では歩かないでください」と張り紙があった。
 二十数年前、東京駅のエスカレーターに乗った時「左側に立つんだよ。右側は急ぐ人が歩くんだから」と息子に教えられた。暗黙のルールがあることを知った。現に左側に立つと、右側を足早で歩く人が大勢であった。
 しかし最近、エスカレーターで歩かないようにと条例を施行した自治体がある。身体の不自由な人の声が尊重され始めた。
 大分駅では全員左側に乗っていた。私は一人右側に立った。
 宮崎県延岡市 源島啓子(73) 2021.11.27 毎日新聞鹿児島版掲載

錯覚でドキリ

2021-11-30 17:38:20 | はがき随筆
 農産物直売所でマイカーをバック駐車し、エンジンを切ろうとした瞬間、再びバックを始めた感じでドキリ。アアアッと声を出し、踏んだままのブレーキに力を込めるが、まちろん微動だにしない。入れ替わりに左の車が発車したタイミングが一致しすぎ、こっちが動き出したと脳が勝手に錯覚したのだった。
 先日もブレーキのつもりでアクセルを踏み、死傷者を出した事故が報じられたが、今回は逆でよかった。それにしても、心臓に与えたショックはとてつもなく大きかった。改めて安全運転を誓うきっかけになったのがせめてもの救いか。
 熊本市東区 中村弘之(85) 2021.11.27 毎日新聞鹿児島版掲載

手作りランチ

2021-11-30 17:31:52 | はがき随筆
 「お昼食べにおいでよ」って同級生のJさんから、ラインでのお誘い。「うれしい。行く行く」とすぐに返信した。
 「ピンポーン」と玄関チャイムを鳴らす。「いらっしゃい。あがって。すぐできるからね」って、私も台所に立ち、おしゃべりだけ参加し、Jさんは手際よく、あっという間に、チキン南蛮、人参ポタージュ、手作りヨーグルト、ロールケーキまで完成させた。お見事。きれいに盛り付けされて、食べるのがもったいないくらい。
 「んんーおいしい」。おなかも心も満たされ、心のこもったおもてなしに感謝。
 宮崎市 鶴薗真知子(58) 2021.11.26 毎日新聞鹿児島版掲載

ヨナの阿蘇

2021-11-30 17:22:52 | はがき随筆
 きらきらと欅の葉は照り、その中程に広がる阿蘇の裾野は暖かな秋の色。だが、噴火しない静かな山でおってくれと願う日々がまた来た。ヨナ(火山灰)に見舞われた時の大変さをもう味わいたくない。しかし、勝手な思いと裏腹、その阿蘇が大好きだ。欲張らねば、人ひとりしっかり生きていけるほどの物をいつも与えてくれる。今年は野菜を乾燥させ、干し大根、干し人参、干し苦瓜を作った。陽を浴び、嵩は四分の一になるが、保存でき必要な時に、手軽に食卓を潤せるのだ。水、空気、土すべて調って。気づけば一日に何度も感謝することの多さ。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(66) 2021.11.25 毎日新聞鹿児島版掲載

パリポリバリ

2021-11-30 17:15:26 | はがき随筆
 元気が取りえの私の上を行く友がいる。長年、病弱だったご主人の世話を看護の経験を生かして完璧に。亡き後は達成感で悔いはないと。後は自分の思うままに暮らしたいという。なのに、今度は校区の世話役やゲートボールに忙しく飛び回っている。これぞ元気の秘訣なのだろう。80歳を間近に自分の歯が28本あるらしい。漬物を食べる音は天下一品。「パリポリパリ」は今はやりの音楽よりずっと心地よい。でも、指の力が弱くなりペットボトルの蓋もかんで開けているようだ。これはやめて(歯からのお願い)。元気の対抗意識を持って頑張ろう。 
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(75) 2021.11.24毎日新聞鹿児島版掲載

小さな運動会

2021-11-30 17:08:16 | はがき随筆
 東京パラリンピックのボッチャの中継で、選手が好投する度に跳び上がり拍手をする女性関係者の姿を見て、看護師として勤務した高齢者施設で企画した運動会を思い出した。人生の先輩方と共に楽しめる秋の行事にしたいと、運営にも携わった。
 先輩方の力には驚かされた。君が代斉唱で足腰の弱い方が直立不動に、選手宣誓をお願いした方は自身の言葉で堂々と、脳血管障害で片麻痺がある方が玉入れで大活躍。小さな運動会ではあったが、先輩方の笑顔は金メダル以上に輝いていた。
 今、「一隅を照らす」の言葉が心に響く。
 宮崎市 磯平満子(66) 2021.11.23 毎日新聞鹿児島版掲載