はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

京都で彩りを探す

2018-05-30 10:49:40 | はがき随筆


 満開の桜を見たくて京都旅行を計画した。特に仁和寺の御室桜だ。見ごろ下旬とあるので4月半ば過ぎでホテルなどを予約して楽しみにしていた。
 ところが、今年の春はあっという間にやてきた。寒い寒いと思っていたら、暑いぐらいの春の訪れとなり、当然桜も早々と咲き、早々と散っていった。京都へ行ったときにはどこも葉桜状態。満開の桜はなかった。残念だが仕方がない。
 桜はなかったが、真っ赤な霧島ツツジが満開の長岡天満宮、黄色い山吹の花が咲く松尾大社、新緑のきれいな社寺を歩き古都の春を十分に愉しんだ。
  宮崎市  高木真弓 2018/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載

麦秋

2018-05-29 06:37:58 | はがき随筆


 大好きな5月。機械化されていなかった時代の農業は、雨期を前にして麦の取り入れや田植えの準備など映像のコマ送りのように続く仕事に大わらわ。
 大麦、小麦、裸麦の収穫を終えた田の土を馬が起こし細かくすいて水を張り、くわで丁寧にあぜぬりをする。苗代には緑の苗が勢いよく育っている。あらら、じゃがいもや玉ねぎも呼んでいる。からいもの植え付けは雨の日の仕事です。
 20歳で大きい農家に嫁ぎ、5月29日、農繁期真っただ中で長女の私を出産。お母さん、きつかったね。そしてありがとう。
  熊本県東区  黒田あや子  2018/5/29  毎日新聞鹿児島版掲載

香りのリレー

2018-05-28 06:31:22 | はがき随筆






 オガタマの花が散り始め、ギンギアナムの花数も減り、香りの流れも薄らいできたら、ニオイバンマツリがドカッと咲き、香りをバトンタッチした。気候の変化が例年と異なるためか、オガタマ、ギンギアナムにしても咲き方が豪快だった。
 ニオイバンマツリが開花した日は、全国的に気温が上昇、25~26度と5~6月並みの暖かさになった日だった。
 「こんな異常気象に年寄りはついていけないねえ」と顔を見合わせた老夫婦。
 その横で、猫のイークンは両手両足を天井に向け、のんびりと眠りこけていた。
  鹿児島県西之表市 武田静瞭  2018/5/28 毎日新聞鹿児島版掲載
画像は、武田さんのブログ「タネガシマ発」より

振り返って

2018-05-27 07:09:36 | はがき随筆
 はがき随筆に初めて掲載されたのは49歳の時だった。それからうれしい時やつらい時には決まって投稿していた。文字にすると喜びは倍増し苦しみは和らぎどれほど救われたことか。コピーして大切にしまっている。時々取り出しては過ぎし日を振り返ってみる。感慨深いものがある。これから先もどんな事が待ちうけているか分からない。
 人って一人では生きて行けないもの。今まで支えてくれた友人たちに感謝。振り返る日々反省のこの道のり。選んだのは自分。後悔はなし。あとどれくらい残されているのか。ポジティブに生きて行こう。
  宮崎市  真山栄子  2018/5/27 毎日新聞鹿児島版掲載

消えた腕時計

2018-05-26 14:51:09 | はがき随筆
2018年5月26日 (土)
  岩国市  会 員   山本 一

 腕時計を紛失して2週間が過ぎた。1万円程度の安物だが、電波受信と光発電で、もう4年間ずっと全自動で正確に動いていた。重宝し、外出時は必ずこの時計を使っている。
 忽然と消えた日は終日在宅で、時計はリビングに置いていたはず。当日は近くに住む娘家族と庭でバーベキューをやった。「3歳の孫が怪しいゾ」とついつい疑念を抱く。が、「理由もなく人を疑うとは何事だ。間違っていたら、どうするつもりか」と自責の念に駆られる。大好きな孫の顔が脳裏にちらつく。これはいけない。現状から早く逃げ出そうと、時計店へ走る。
   (2018.05.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

2018-05-26 14:50:12 | はがき随筆
 所用で実家を訪ねた折、妹が育てたじゃがいもをもらった。
 妹は両親と同居していた。母が認知症だったため、食事の用意や母の世話をしていた。だが、父と妹は生き方の違いがあり、互いに不満が募っていった。やがて二人の間に溝ができ、昨年春、妹は家を出た。そして年末、がんを患っていた父の容体が悪化。妹が家に戻り、介護にあたった。時には私に愚痴をこぼしながらも食事から下の世話まで。父はどんなことにも「ありがとう」と礼を言った。そして3月、旅立った。
 妹は今、父がしていた野菜作りを引き継いでいる。
  熊本県玉名市 立石史子  2018/5/26 毎日新聞鹿児島版掲載

老後の初心

2018-05-26 14:43:09 | はがき随筆
 世阿弥の残した言葉に「初心忘るるべからず」がある。その初心の中に「老後の初心」についても述べている。つまり、年を重ねても、その都度初心になって事を乗り越えなくてはならないと教えている。
 以前、米作り日本一になった70過ぎの農民の話をテレビで見た。彼は「この年になってやっと稲と会話ができるようになった」と言った。
 人間にはいろいろな生き方がある。健康で長生きすることに喜びを持つ人もいる。中には年老いてもなお道を追い求めている人もいる。世阿弥の言葉を教訓にして生きていきたい。
  鹿児島県 志布志市 一木法明  2018/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載

あの日のスーツ

2018-05-24 22:50:55 | はがき随筆
 若い頃からトラッド系のスーツが好みで夏冬、ボーナスをもらうと新しいスーツを買っていた。サイズは7号から13号あたりまで変化し、更年期真っただ中は体重が人生最高。まさか5.6年後に最低タイ記録まで痩せるとは思いもしなかったが。
 ある時、伊集院の駅で博多行きの特急つばめに乗るため改札を抜けようとして、切符の入った財布を駐車場の車に忘れたことに気づいた。発車まで10分ほど。線路向こうの駐車場までパンプスのまま全力で走った。13号のパンツスーツで。二度と太るまいと決めたのにあの日のスーツを今も着ている。
 鹿児島市  本山るみ子  2018/5/24  毎日新聞鹿児島版掲載

山の住人

2018-05-24 22:43:40 | はがき随筆
 魅力的な渓谷があると聞いて妹と一緒に出かけた。澄んだ水、ひんやりとした空気、深呼吸しながら緑の中を歩いた。
 途中、トイレ休憩。清潔だったが……。暗がりに光る目が二つ。でっかいガマガエルがいて思わず悲鳴をあげた。さらの出入り口あたりの隅から大きなクモがガサガサと現れ失神するかと思うほど腰が抜けた。
 虫類の苦手な私たちは引き返そうかと思ったが、なんとか目的地に到着、持参の手作り弁当を食べるや否やお花の鑑賞もそこそこに足早に帰路についた。
 騒々しくて埃っぽくても住みなれた街の中の我家がいい。
  宮崎市 藤田綾子  2018/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載

あと4本

2018-05-24 22:36:19 | はがき随筆
 内川選手の2000安打は18年かかっての達成とか。本当に素晴らしいと思います。
 ところで私にも期待する数字があります。それは教え子の新聞投稿掲載があと4本で2000本となるのです。プロ野球とは土俵が違いますが、2000という数字に心動かされます。
 生徒に新聞への投稿を勧めて41年。現在までに1996本が掲載されました。退職して2年。卒業生たちが投稿を続けてくれていることに感謝の気持ちでいっぱいです。ちなみに1001本目は「はがき随筆」欄でした。願わくは2000本目もこの欄でと願っている毎日です。
  熊本県玉東町  平川克徳 2018/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載

マムシ

2018-05-24 22:29:20 | はがき随筆
 近所の奥さんでゴキブリを見ただけで気絶するほど怖がる人を知っている。人の事を言えないが、自分はヘビが大の苦手である。「山男のくせにヘビが怖いとは信じられない」との評を聞くが、仕方ない。68年の人生で自分にとって大きなヘビ事件は3度ある。そして今回4度目の大事件になった。夕方散歩していると、幅が4㍍ほどの農道に約1㍍のマムシが横たわっている。腰を抜かさんばかりに驚く。ヘビと違ってマムシは絶対に逃げない。約3分ほどのにらみ合いがあり、すきをみて一目散に自分は走った。もうこのコースは散歩から除外した。
  鹿児島市  下内幸一  2018/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載

春の音

2018-05-24 22:13:22 | はがき随筆


 田植えはシャワシャワ。田植え機に乗ると、後方の植え付け機にあるローターが田の表面をならす音が耳に涼しい。これに植え付け爪が苗をかき取り植えていくカシャカシャという機械音が重なる。
 周囲の畦には苗補充のため家人が立っているが、エンジン音にかき消されてしまうので乗り手にしか楽しめない音である。
 今日は晴れて、陽光は水面を輝かせ、風は心地よい。田植え機の前方の水面には数重の波の輪が広がる。
 私は「春」の音を独り占めにして、波を追いかけて田植え機を進めていく。
  宮崎市  中村薫  2018/5/24  毎日新聞鹿児島版掲載

公園清掃の朝

2018-05-24 22:05:28 | はがき随筆
 午前5時半、クスノキとケヤキに覆われた公園はまだ薄暗い。「おはようございます。かなりの落ち葉ですね」とあいさつを交わす。誰言うとなく物置の熊手を取り出すと、4人が縦1列、大きく半円形に熊手を回し、掃き寄せる。落ち葉は小さな山脈を造形、次にこぼれた落ち葉を小さく掃く。現れた白砂の園庭に大きな波形の軌跡が連続する。初めて30分余、ちょっと汗ばむ。40㍍四方の公園はまさに「枯れ山水」の美しさだ。
 私たち老人会が近くの公園清掃を始めて7年余。時には苦しい思いもしましたが、今は奉仕心の満足感でいっぱいです。
  熊本市中央区  木村壽昞018/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載

写真

2018-05-24 21:50:55 | はがき随筆
 はっとして胸が詰まり涙が出てきた。本紙「熊本地震2年」に載った4月20日付けの女児救出時の写真である。当時の緊迫した記事も私の老眼鏡には涙があふれまともに読めなかった。
 白く輝く服に包まれた幼児の顔。この児をまるで神様から授かった天使を抱くように手を差し伸べ抱きかかえている若き隊員たち。歓声の中で隊員たちの表情には、困難な任務を成し遂げた達成感とかけがえのない命を前にした厳粛さ、そして優しい眼差しにあふれている。中世のヨーロッパで描かれてきたキリスト降誕の絵を思わせる見事なワンショットである。
  宮崎県延岡市 甲斐修一  2018/5/24  毎日新聞鹿児島版掲載

訪問者 

2018-05-24 18:46:24 | はがき随筆
 めいが子供を連れてくる。6歳の男の子と1歳の女の子。長男は阿蘇が大好き。行きたいといつもせかすそうだ。女の子はまだ何もわかっていないが愛嬌よくたくましい。来る度に庭や畑に出て枯れ草原を歩いたり、土手を登って楽しそうだ。いつもは忙しい大人が訪問先では親身に遊び相手をしてくれるから、それもうれしいことの一つなのだろう。
 外では、植物に触れ、剪定もさせてみた。大人も結構楽しい。自然のなりわいを少しでも覚えて、いつか、この家を懐かしく思い出してくれればうれしいが。
  熊本県阿蘇市  北窓和代  20185/23毎日新聞鹿児島版掲載