はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

お言葉に甘えます

2016-08-30 07:22:10 | はがき随筆
 その夜は我が集落の夏祭り。ドドーンと開催合図の花火が上がった。豪華景品の当たる抽選券を2枚買ってある。我が家は祭りの会場に行く途中の道に面していて、ここ数年は子供が通りかかったらプレゼントしている。カミさんは何度も出たり入ったり。何度目かに「2人の男子中学生にプレゼントしてきた」と言って帰って来た。そして部屋に戻るなり「抽選券をあげるから使って、と差し出したらね、『それではお言葉に甘えまして』と受け取ったのよ、もうびっくり」。今ごろの中学生はすごい……。老夫婦の夕食はこの話題で盛り上がった。
  西之表市 武田静瞭 2016/8/28 毎日新聞鹿児島版掲載

読み聞かせたき

2016-08-30 07:11:38 | はがき随筆
 父は戦死。母との2人暮らし。小学生の頃、国語の教科書を音読すると、母は疲れた体を起してうれしそうに聞いているのが子供心にもわかった。高学年になると面倒くさくなり、また黙読の方が早く、音読をやめた。母ががっかりしているのは分かっていたのだが。
 母の晩年に一緒に暮らすようになったある日「小学ん頃、本を読んで聞かっしゃっとが楽しんやった」と言ったことがあった。孫の世話などで多忙だった私は聞き流し忘れ去った。
 今ならばと悔やむことが多い〈緑陰に読み聞かせたき母は無く〉逝って5年3カ月だ。
  霧島市 秋峯いくよ 2016/8/27 毎日新聞鹿児島版掲載

誘われて旅へ

2016-08-30 07:04:48 | はがき随筆
 本紙7月18日に掲載された西洋美術館世界遺産に、の記事を読んだ。その中に2014年に世界遺産に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」が目に留った。息子と群馬への旅に出た時のことを思い出した。誘われたものの不安を抱きながら一人出発した。羽田空港に息子の出迎えを受けて安堵する。富岡製糸場に入るとまずレンガ造りの建物が目に飛び込んできた。
 思い出の群馬の旅がふんわりと浮かんでくる。次は西洋美術館にも出かけてみたいと夢は膨らむ。
  鹿児島市 竹之内美知子 2016/8/26

大空襲

2016-08-30 06:57:44 | はがき随筆
 昭和20年6月17日夜半、鹿児島大空襲の日。私どもは母と子供4人(父は戦地)で、鹿児島の上町に細々と生活しながら、よくもまあ生きて終戦を迎えることができたと思っています。
 今ではそのことを語りあえる人もなかったのですが、ある集会で、6月17日の夜を体験された方の話を聞く機会があり、B29から次々と落とされてくる焼夷弾、町は火の海となり、どこへ逃げればよいかわからず、防空壕で命をおとされた方も多かったようです。戦争は絶対してはなりません。沖縄の人々が軍事基地の分散を願う気持ちは十分にわかります。
 鹿児島市 津田康子 2016/8/25 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆7月度

2016-08-30 06:47:35 | はがき随筆
はがき随筆の7月度月間賞は次の皆さんでした。
【月間賞】10日「アジサイ」山下秀雄=出水市西出水町
【佳作】4日「特大のメロン」鳥取部京子=肝付町新富
▽14日「少女」宮路量温=出水市中央町


「アジサイ」は、甘美な追憶の文章です。漂っている抒情性が快さを感じさせます。かつて同じ会社の女性を、通勤の往復に乗せていた時もアジサイが咲いていた。退職し会社もなくなり、女性のその後も想像するしかない。そして今、アジサイの美しい花を見ると、あの日々が懐かしく思い出される。
 「特大のメロン」は、日ごろは高価で買えないメロンを、熊本産を2個も頂いた。手紙によると、熊本の被災された方へのせめてもの支援に買ったということであった。夫君の神前に供えたり、兄弟に配ったりして、大切に食べたという内容です。熊本のために、何かできないかと考えますね、つくづくと。
 「少女」は、可愛らしい少女との快い交情が描かれています。畑の草取りをしていると、近くの少女が飴を差しだした。お礼にマーガレットを数本渡すと、しばらくして、母親と一緒に来て、添え書きをした似顔絵を描いてくれていた。暗澹たる事件の多い世相のなかで、明るい気持ちになった。
 この他に3編を紹介します。
 塩田幸弘さんの「救援隊員の家族」は、娘さんが救援隊の保健師として女川に行ったとき、孫を預かって苦労した経験から、現在熊本に派遣された救援隊員の家族の苦労が実感でき、早期の復興を願っている。
 若宮庸成さんの「思い出と走る」は、早朝のスロージョギングを10年も続けているが、最近では思い出を追って走っていることが多い。今朝は若い時に出あった、武女という名の美人のことが思い出された。隣で走っている妻は何を思い出しているのだろうか。それは同床異夢でしょう。
 内山陽子さんの「黒の編み上げ靴」は、娘さんの靴の手入れをしていて、亡母のことを思い出した。大正時代後半、父親からもらった黒い靴をはくと、袴の裾に見える黒靴を男の子たちがカラスとからかった。それが恥ずかしく、大阪にいた姉にあげると大喜びされた。その頃の山口と大阪の風俗の違いを考えさせられた。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

残務整理

2016-08-30 06:23:00 | はがき随筆


 広報誌などのおくやみ欄で同年輩の掲載が目に付くようになった。私も帰れぬ1人旅への準備をしなければと思う近況である。庭のネムの木を見ると電線近くまで伸びているのが気になり、後々の管理を考えると切りたいと妻に告げる。夏空に向かって薄紅色の花を咲かせるネムの木は、私も妻も好みが合って、新築記念に植えた年代物である。切り倒すのがしのび難いが、寄る年にはやむを得ない。
 仕方ないと同調した妻に、死出の旅には何も持っていけないが、心のアルバムに残せばいつでも見れると慰め、チェーンソーのスイッチをONにした。
  出水市 宮路量温 2016/8/24 毎日新聞鹿児島版掲載

財布

2016-08-29 21:55:13 | はがき随筆
 買い物にはポイントがつくので、よくカードを使うが、財布を持たないと心配になる。
 私は何度か財布をなくした。昔、千葉でゴルフ大会があり、ゴルフ場のバスで駅に着くと財布がない。たまたま数万円入っており、ゴルフ場に聞いても見つからなかった。諦めていたら半年後、バスのシートの間に挟まれていたと電話があった。
 鹿児島方言で財布を「ふぞ」と呼ぶ。「宝蔵」の転訛である。さつま狂句ではよく財布の句を投稿するので「お金に不自由した句ばかり」と妻が笑う。
 目を瞑っ財布んなかをば算用しっ
  鹿児島市 田中健一郎 2016/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

体内年齢

2016-08-29 21:48:03 | はがき随筆
 最長寿国の我が国、健康志向が高く、関連番組を見ては実行してみる。でも、長く続かない。効果のある食品も時と共に忘れ去られ、あの健康食品ブームはどうなったのか、と問いたくなる。体に良いのはわかります。それら、すべてを口にいれると大変なことになり、体重増加は避けられない。惑わされず、自分なりに吟味し、良いとこ取りでやるしかない。プールにジム、ウオーキングと運動好きの私、先日の測定で、標準、体内年齢40代だった。我ながら驚いた。細く、長く続けてきた結果だとうれしくなった。これからも続けよう!
  鹿屋市 中鶴裕子 2016/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載

家族会準備 老い実感

2016-08-29 21:39:42 | 岩国エッセイサロンより
2016年8月26日 (金)
    岩国市   会 員   山本 一

 お盆の14日、猛暑を突いて、わが家の庭で毎年恒例の家族会を開いた。
 この準備が本当に大変だった。毎年朝から私1人で会場の準備をするが、今年はとりわけつらかった。
 炎天下、机5卓、いす13脚を運んで汗が滝のように流れ落ち、30分ごとに給水しながらの作業。昼前になると、くらくらしてきた。
 参加者は大人10人、子ども3人。父母は他界し、きょうだい4人を中心とした私方の家族有志である。
 食事の準備を一手に引き受けている妻は血縁がない。その分、気分的に私よりもっと苦痛だったかもしれない。
 翌朝の庭の片付けは、次女の夫が早朝から加勢してくれ、それでも昼までかかった。この結果を踏まえ、これまで続けてきた家族会を今年で終わりにすると皆に連絡した。
 これまでできていたことが、また一つできなくなった。老いていく過程の一こまだと思うと何だか寂しい。

     (2016.08.26 中国新聞「広場」掲載) 

嫁や孫を平和ガイド

2016-08-29 21:35:38 | 岩国エッセイサロンより
2016年8月29日 (月)
    岩国市   会 員   横山恵子

 先日、広島市内に住む嫁から「子どもたちを連れて、原爆資料館(広島市中区)に行ってみたいです」といううれしいメールをもらった。
 孫たちは6歳と4歳。どれだけ分かるかなと思ったが、焼けた三輪車や全身やけどの写真などを、びっくりしたような面持ちで見ていた。夏休み中でもあり、オバマ米大統領の折り鶴効果で館内はいっぱいだった。
 平和記念公園では原爆投下前の写真を見せて「こんなに多くの人たちが住んでたんよ。ここを公園にする時は、たくさん人のお骨や茶わんなどが出てきて、人々は涙を流したのよ」と話した。
 被爆したアオギリ、峠三吉詩碑、原爆供養塔…。酷暑の中、元気いっぱい平和の鐘を突いた。ピースボランティアを始めて6年余り。孫をガイドする日が来るなんて、感無量たった。
  「戦争ほどむごいものはない」と常々言っていた亡父の思いを少しずつ伝えてやりたい。小さな手を合わせて祈る姿を見て、平和を築くのは大人の責任と思った。

     (2016.08.29 中国新聞「広場」掲載)

朗読

2016-08-29 21:32:29 | はがき随筆
 家に居て人と会わない日もあり、一日中、口を閉ざしたまま終わる。健康上悪い。何かプラス志向の方法はないかと老いの知恵を絞る。新聞雑誌・本は全て目で読んでいる。一日中寡黙で過ごすと心が閉ざされる。声を発すると心の闇に光が差して爽快な心境になる。声の発声はプラス志向につながる。健全な発声法だ。本紙の「余録」を毎号朗読すると心に決めた。次に読む記事も時間の許す限り朗読したい。夢はナレーターの卵もいい。素質は十分に満たされていたの。シニア部門に虹の橋がかかりそう。落合恵子、竹下景子の朗読も好き。
  姶良市 堀美代子 2016/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載

おかえり

2016-08-20 11:26:22 | はがき随筆
 娘の里帰りお産から帰る日がきた。初めての育児に不安を持つ娘に「赤ちゃんが泣く時は、この子はどんな時も私さえいれば大丈夫と自信を持ち、しっかり胸に抱くんだよ」と伝え、嫁ぎ先のえびの市へ出発した。
 えびのの実家に着くと、お父さんが「おかえり」、お母さんが「おかえりなさい」と庭先まで出て迎えてくださった。
 いつも使い慣れた言葉がなぜか胸を熱くした。とても大切な言葉だったのだと気づかされた。2人を無事に送り届け、ホッとした思いと、優しく温かな言葉を耳に残し、万緑の中を、わが家へと帰った。
  出水市 塩田きぬ子 2016/8/20 毎日新聞鹿児島版掲載

仲良きこと

2016-08-20 10:34:45 | はがき随筆
 市のエッセー教室に入ったら、宿題をもらった。夕食時、夫に尋ねる。「『愛しい人へ』のタイトルで文をつくることになったけれど、私たち、愛しい存在かな」「いや違うね」。即答に、にんまりする私。予想通りだったから。
 同世代の友に話すと「私たちは会話もなくお互い無視よ。『ご飯』と呼ぶと、飼ってる猫みたいに台所に来る」とのこと。とんでもない会話かもしれないが、これが日常茶飯事、ごく普通のやりとり。私も彼女も夫婦として刻んできた年輪が言わせる言葉。恥ずかしながら根底に愛しさがあるのよね。
いちき串木野市 奥吉志代子 2016/8/19 毎日新聞鹿児島版掲載

恋ごころ

2016-08-18 05:31:09 | はがき随筆
  
むかしむかし ありました
私 そのころ 独身で
感じの良い女性に会いました
恋人だったら良いのになぁ

子供が生まれたあの頃に
可愛い女の子に会いました
あの子が娘だったらなあ
残念 子供は息子3人だけ

古稀を迎えたこの年で
優しい女性に会いました 
息子の彼女だったらなぁ
ちょっぴり残る恋ごころ

指宿市 外薗幸吉 2016/8/18 毎日新聞鹿児島版掲載

アサガオ

2016-08-18 05:00:34 | はがき随筆

 うす紫の大輪のアサガオの花が、一つまた一つと咲いた。
 アサガオには、雨は似合わない。雨に打たれたアサガオの花は、しょんぼりしぼんで悲しそう。アサガオにはお日さまの光が似合う。からっと晴れた日、お日さまの光を浴びて朝一番に咲くアサガオはうれしそう。ぱっと花びらを開いて、それはそれはきれいだ。
 アサガオと、いったいだれが名付けたのだろう。アサガオはその名の通り、朝に咲く花。おはようと朝一番にきれいに咲いたアサガオの花を眺めながら、今日も一日、またがんばろうと思う。
  出水市 山岡淳子 2016/8/17 毎日新聞鹿児島版掲載