はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

平々凡々に

2021-02-27 21:33:38 | はがき随筆
 令和3年の幕開けです。ところで新年と言えば何年か前、N HKラジオのへ新春おめでた文 芸の短歌に選ばれ、ゲストの 毎日歌壇選者の篠弘先生と電話で話すことができました。10年ほど前から先生は、私の投稿歌を年間10首ほど採ってくださり、ラジオでも「彼はなかなかのベテランでねえ」と私を紹介してくれたのです。幸先よい年でした。さて今年は......。毎年皇居で開催される新年歌会始の10人に選ばれ、選者の篠先生に直接お会いできる、とか......。 無理無理、このコロナ禍だし。 欲張らず平々凡々に行けたらいいです。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(71) 2021/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載


明るい出会い

2021-02-27 21:21:35 | はがき随筆
  日差しがまだ残る午後3時。散歩に出かけた。 アオキの実が赤く色づき始めている公園を後 に、枯れ草広がる田んぼ道に降りた。 先生に引率された近くの支援学校生たちと出会った。
 満面の笑みで口々にあいさつしてくれる。最後尾を歩いている少年は浪曲の語り口を思わせる口調で真剣につぶやいている。自作の物語のようだ。「上手ね !」とすれ違い際に私が声を掛けた。にこにこ手を振ってうれしそうに「こんにちは」と繰り返す。屈託のない生徒たち。
 やがて迎える社会がこのまま生き生き活躍できる場でありますようにと祈る気持ちだった。
宮崎市 川畑昭子(77) 2021/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載


懐かしき思い出

2021-02-27 21:12:09 | はがき随筆
 小学6年の時、30名ほどの教室は楽しく、休み時間はあっという間で授業が始まってもガヤガヤが続いていた。先生のカミナリが落ちた。「机の上に正座」。机は本を入れるふた式になっていた。 大事な本の上に乗っていいのか迷いながら正座をした。日が落ちて暗くなり、女の子が泣き出した。荷馬車が通りかかり馬を引いていたおじさんが窓から顔を出した。「何の勉強かネ。また悪いことをしたんだろう」とニヤニヤ笑って行ってしまった。 スリッパの音がして先生の帰ってよしの声。手をつないで暗い道を走って帰った松本君はどうしているかなあ。
 熊本県八代市 相場和子(93)  2021/2827 毎日新聞鹿児島版掲載

うろこ雲

2021-02-27 21:03:18 | はがき随筆

 秋、高原のホテル、日が暮れて星座の説明があるというので客が広場に集まった。 
 全天にみごとなうろこ雲、その切れ目から半月がうっすらと雲を照らしている。ガイド氏は長い棒で指しながら、この辺りに○○座が、こちらには✖✖座があるのですが、と申し訳なさそうに季節の星空を説明した。  説明が終わったところで私は「この雲は高積雲と呼びます。 このように雄大で典型的な雲はめったに現れません。今夜は星の代わりに雲を見ましょう」と、その成因などをかいつまんで説明した。終わってガイド氏はていねいな礼を言った。
鹿児島市 野﨑正昭(89) 2021/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載

夫婦仲良く

2021-02-27 20:55:30 | はがき随筆
 過ぎた日、大山 (鳥取県) の頂から日本海に浮かぶ島根県の隠岐諸島を見ていた。山頂には 地元の人らしい先客がいて、彼 は夫と私に島の名前を慈しむよ うに教えてくれた。
「島前、島後」と教わった島 々はたなびく雲に結ばれて仲良く一つの島に見える。眺めながら折々の両親の言葉を思った。「夫婦仲よく暮らすのが一番の親孝行」 だと。 3人の子供が家庭を持った今、両親の思いがよくわかる。たゆとう海で寄りそう隠岐の島影とむつまじく生を終えた父母の姿......。それは 色を失うことなく、ふと心に訪れて行く道を示してくれる。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(76)  2021/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載

マラソンの起源

2021-02-27 20:45:37 | はがき随筆
 ヨーロッパの10カ国を観光旅行した時、アテネの丘の上でパルテノン神殿を見学してから、オリンピア地区の競技場で案内人の説明に耳を傾けた。
 紀元前490年にギリシャ軍と燐国のペルシャ軍がマラトンで交戦し、その結果を兵士がアテネまで2キロ余り駆けて帰り「ギリシャ軍が勝ったよー」と報じたそうだ。この競技場でオリンピックが開催されるようになったが、その種目にマラソンが加えてあるのは、前記の結果が起源だということであった。
  昨年、日本で開催される筈のオリンピックが、コロナウイルスのため7月実施となった。
 熊本市東区 竹本伸二(92)  2021/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載

紫禁城

2021-02-27 19:47:43 | はがき随筆
 中国・北京の世界遺産、紫禁城を観光したことがあった。そこが舞台の歴史ドラマの影響もあって、もう一度訪ねたい気持ちが増してきた。10年前、天安門広場は交通量も多かった。にもかかわらず走る車を尻目に縫うように横断する人がいた。思わず「危ない」と言うと、ガイドの青年が「ここは中国だから」。歴史の長い国なのだと誇らしげだったのが印象的だった。独学で学んだという流暢 な日本語には舌を巻いた。身動きできない今、彼はどうしているのかと、ふと思いを馳せながら、次第に旅への夢だけが膨らみ続けている昨今です。
  鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子 2021.2.27 毎日新聞鹿児島版掲載

夫の誕生日

2021-02-26 10:13:41 | はがき随筆
  宮崎市で昨秋、高嶋ちさ子さ んのコンサートがあった。コロナで諦めかけていたけれど、チ ケットが届き、心が弾んだ。
 ちょうどその日は夫の誕生日 だった。宮崎に行く途中、次女はイセエビのランチをごちそうし、機嫌をとった。夫はコンサートに興味がなく、4人の孫の子守をお願いし、娘らと会場へ。バイオリンの響きに魅了され、あっという間に時がたち、また行きたいと思った。
長女の家に着くと、余韻もつかの間「はよ、片づけんか」と 夫の怒鳴り声が聞こえ、現実に戻った。「お父さんお疲れさま。大好きなケーキを買ったよ」
 宮崎県串間市 林和江(64)  2021.2.26 毎日新聞鹿児島版掲載


花によせて

2021-02-25 21:18:16 | はがき随筆
  幼い頃、家の周りは雑木林や 畑、外に出ては母に問う「あれ は何、あの木は......」と。なぜ 草花がこんなに好きか、育った そばに溢れていたから?  ユッ カは熱帯の蘭のように香り高く 威容を誇り、山吹は地に伸張し 樹勢があって放ると枸杞ともど も手に負えない。 虎の尾、曼珠沙華、カンナ、辛夷、金鳳花、どくだみ、大葉子、蓮華、覚えた花々のひとつひとつが思い出 と浮かぶ。母を離れ、いつしか自分で調べるようになれば、牧 野富太郎氏の図鑑に憧れた。あ の精緻な植物図が美しく、如何 なれば、かく描線にこれほどの恋慕を抱けるのかと。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65)  2021.2.25 毎日新聞鹿児島版掲載

「払い戻し」貯金

2021-02-24 23:26:41 | はがき随筆
 宝くじの末等の数百円や、デ パートの買い物券でもらったお釣りを、プラスチックの貯金箱 に入れている。昨年は残念な臨時収入があったので、それを小 銭に両替して足した。 臨時収入とは、コロナによる演劇の上演中止のチケット代払い戻しと、飛行機減便のために上京を諦めた航空券の払い戻しである。
 足掛け5カ月、毎月払い戻し を受け、貯金箱がいっぱいになると、郵便局で定額貯金にした。 銀行の普通預金は減る一方だ が、郵便局の残高はどんどん? 増えた。 演劇と離れていた期間 はとてもつらかったけれど、思 わぬ副産物ができた。
 鹿児島市  本山るみ子(68)  2021.2.24 毎日新聞鹿児島版掲載

足の爪

2021-02-24 23:16:43 | はがき随筆

 少し反り返っている私の爪。 「あんたの爪はお父さんによう似とる」。母がよく言っていた。父の思い出に飢えていた私は、 母にそう言われるのが父に近づけるようでうれしかった。
 父は私が9歳の時、亡くなった。その前2年は入院していたので一緒にいた時期は短い。
 叔母の話によると、私たち姉弟は父が大好きで、会社から帰る頃いつも待ち伏せ、走り寄っていたそうだ。残念ながら覚えていない。「あんないい人はいない」。叔母はいつもほめた。
 自分の爪を見る時、父もこんな爪だったのかとしみじみ思 う。爪切りのたび父と出会う。
 宮崎市 堀柾子(75) 2021.2.23

支え合って生きていく

2021-02-24 23:10:17 | はがき随筆
  暮れに慌ただしく入院した。 留守の間、夫は日頃から洗濯は手伝っていてくれたので心配ないが、料理は全くしない。近所に住む姉や息子夫婦に助けてもらい本当に感謝している。
 着替えなどは時々夫に持ってきてもらうがコロナで面会はで きず2階の病室の窓から下の駐車場を帰る夫の姿がいつもより 元気がなく本当に申し訳ない。
 幸い1カ月ほどで退院した。 「お父さん大変だったね。ありがとう」と言うと、夫も「やっ ぱりお前がおらんとなあー」と しみじみ言う。この先、体力も なくなるので支え合っていかね ばと思った。
 熊本県山鹿市 栗原シゲコ(78)   2021.2.22 毎日新聞鹿児島版掲載

地図帳と思い出旅行

2021-02-24 22:56:57 | はがき随筆
 暮れに日記帳を買いに行った際、「最新地図 (日本、世界)」を購入した。今、テレビ番組で、「各県の名所旧跡」「農水産物」などのクイズ問題が多い。40年ほど前、主人退職後は旅行を楽しみ、浅くではあるが、国内はほとんど行っているような気がして、解答に参加してみる。 思 い出は遠く、自分なりの珍解答に、ひとりで笑ってしまう。そこで地図帳を見て再確認したくなった。現実的に体力、気力、それに「コロナ」で旅行することは難しい。地図帳での旅行ならできる。 思い出の旅行写真帳を出して、亡き主人と語り合ってみることにしよう。
 熊本市中央区 原田初枝(90)  2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

バイオリン演奏会

2021-02-24 22:44:10 | はがき随筆
  「バイオリンを弾くのでピアノ伴奏をお願い」と頼まれた。彼の父上は小学校の校長。バイオリンの生演奏を聴いたことがない児童たちにと企画された。
 体育館に集合した全校児童の前で、荒城の月などを演奏。真剣な表情の子供たちは初めて聴くバイオリンの音色をどう感じたであろうか。  
 あれから50年の歳月。当時の子供たちはいまや50~60代の年齢。これまでの人生にバイオリンの音を思い出すことがあったなら、彼も本望であろう。  
 その同級生の彼は12月に黄泉 へと旅立った。荒城の月が一層哀調を帯び、心の中で響く。
 宮崎県延岡市 源島啓子(73)  2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

優しいがねぇ。

2021-02-24 22:35:11 | はがき随筆
 「ここにいて、待っててね」 と男性がご婦人に声をかけてその場を離れた。  ここはショッピングセンターの食品売り場。男性は別のコー ナーに用があるのだろう。その 声を耳にした私は、思わずご婦人に「優しい方ですねえ」と声 をかけてしまった。 すると「私の息子よ。優しいがねぇ私が 炊事ができんから、朝昼晩作ってくれるとよ......」と。
 答えてくださりながらも目は しっかりと息子さんの歩いて行 かれた先をみつめていらっしゃ る。
 見知らぬ方であるが、親子の 姿に胸がじーんとした。
 宮崎県西都市 福島律子(68)  2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載