はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

カット魔

2020-09-26 20:37:39 | はがき随筆
 ひょんなことからすき鋏とカット用の鋏を買った息子は、伸びた髪を見たら食指が動くらしい。本人は「器用なのだ」とのたまうが、私はさっさと美容室に出かけることにしている。
 中学生の男孫はカット魔のターゲット第1号になった。結果は少々不満だったらしいが友達に「格好いい」と言われて一件落着。次は大学生の男孫。本人は「今がちょうどいい」と言うも、周囲は「長いよ」と意見が分かれている。滞在期間のあと1週間で決着へ。息子は自分の髪もカット済で「元は取った」と豪語。私はカット魔の相手は当分ご免だと思っている。
 鹿児島県霧島市 口町円子(80) 2020/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載

しぶしぶ避難

2020-09-26 20:31:07 | はがき随筆
 台風10号は超大型で、大淀川の氾濫が予想される、と早い時期からテレビで避難を喚起していた。県外の子供も電話で強く非難を促してくる。
 過去に台風や地震を何十回も経験しながらも、避難せずに耐え抜いてきたが、洪水の恐怖が加わった今回の台風には、垂直避難がかなわない平屋の我が家には弱みがあった。そこでしぶしぶ避難勧告に従った。
 結果は空振りに終わったが、今回の騒動から、洪水が現実味を帯びた近年の台風には、2階建て家屋が絶対優位だと悟った。うろたえずに済むし、貴重な教訓になった。
 宮崎市 日高達男(78) 2020/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載

嵐の中で

2020-09-26 20:24:06 | はがき随筆
 今年になって、突然起こった世界中でのコロナ禍、それに続けて日本では水害や台風などの自然災害に襲われている。
 我が家でも妻の突然の事故から2ヶ月の入院、その後、介護生活が続いている。昨年まで続けていた家族との海外旅行から大きな変化である。その中で、介護制度に支えられ多くの方々の協力を得ながら、人生の荒波を乗り越えている。人生には何時、何が起こるかわからないと言われているが、まさに、そのど真ん中にいる。何時まで続くのか、わからないが、その人生の嵐の中で、毎日を感謝して生きているこの頃である。
 熊本県大津町 小堀徳廣(72) 2020/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載 

アサガオ

2020-09-26 20:15:29 | はがき随筆
 近所の方に頂いたアサガオの種を6月初め、小さなビニールポットにまいた。2週間後発芽。本葉が出たことに安堵し放置していた。細いつるが伸びだし大変、大変。急いで大きめの鉢に移植し、日当たりのよい場所に置いた。たちまち広い葉をつけ、つる先がヒョンヒョンと巻き付ける何かを求めていた。支柱を立て誘引した。7月初旬、真っ青なブルー、濃い紫、やわらかいピンク、白のすじの入った水色。よく咲いてくれた。早朝、真っ先にアサガオに会いに行く。多く咲いた日は13個も。一時のさわやかさと元気と小さな幸せをもらっている。
 鹿児島県指宿市 外薗恒子(66) 2020/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載

大型台風

2020-09-26 20:00:46 | はがき随筆
 大型で百年に一度という台風10号が近づき、1日中テレビで速報が流れるので怖くなり、私も主人も高齢者で、家も古いので、避難した方がいいのは分かっていた。しかし、猫1匹、インコ1羽いる中ではどうにもためらわれた。「命を守ってください」とテレビが繰り返し言うので、覚悟を決めた。
 猫の餌、水、トイレ、凍らしたペットボトルを2.3本家の中に置き、インコは鳥かごに入れて車の中。
 猫は私たちの動作にすばやく反応してその場から姿を消した。後ろ髪を引かれる思いで、避難所へと車を走らせた。
 宮崎県延岡市 北田サツキ(76) 2020/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載

爽やかな秋なのに

2020-09-26 19:52:08 | はがき随筆
 「天高く馬肥ゆる候」そして「スポーツの秋」「食欲の秋」と、一年中で一番心身共活躍できる時なのに。今年は外出もままならず、新聞、テレビのみに向き合う日々。読書もあるが、老眼鏡でも見えづらく続かない。関東の友人からも「もう半年の間、ホームから一歩も外に出られず、いつまで続くのか」と愚痴の電話もくる。戦時中の厳しさを体験した私たち、おいそれとはへこたれないはずだったが、先が見えない「コロナ」には、ただただ我慢するのみか。老い先短い私たちに、一日も早く「ワクチン」の好ニュースが届きますようにと祈るのみ。
 熊本市中央区 原田初枝(90) 2020/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載

笑いヨガ

2020-09-26 19:42:02 | はがき随筆
 コロナで健康維持のため家の中の運動がテレビで報じられ、○○ヨガといろいろある。その中に笑いヨガの実演があった。テレビの前で一緒にやってみる。顔の前で2度手をたたく。そして両方に広げてワッハッハァーと声を出し調子を取って笑う。その繰り返し。手の動きは自由。若い頃近くの家で集まって大声で笑う声が聞こえてきていた。何のためよほどひま人だなあと思った。あれが笑いヨガかどうか定かでないが、声をソプラノで手はフラダンスでやってみる。カッコイイネ。自分でおかしくなる。いつの間にか笑いヨガに吸い込まれてしまった。
 熊本県八代市 相場和子(93) 2020/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載

登る

2020-09-25 20:05:19 | はがき随筆
 発火しそうな8月の日差しの中を聖堂へ。見取坂を登る。
 息苦しい。ぶっ倒れそうだ。
 なんのこれしき。十字架を背にゴルゴダへ向かうイエズスを思えば。原子雲の下の広島の、長崎の人々を思えば。戦争で塗炭の苦しみをなめた沖縄、老若男女市井の人々、兵士たちを思えば心がぐちゃぐちゃになる。
 世界はこのままでいいの?
 私に何ができる?
 空を仰ぐ。
 いまはただ祈ることしかできない。「主の祈り」をとなえて登る。見取坂を登る。右に鋭角に折れて更に急な聖堂への坂を登る。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(83) 2020/9/25 毎日新聞鹿児島版掲載

2020-09-25 19:50:04 | はがき随筆
 葦の茂る小川のそばで夫の迎えを待っていた。水面には葦の影が映り、時折ミズスマシが輪を描いた。水中に目をやって驚いた。30㌢くらいの鮒がいた。
 茨城にいた頃、「霞ヶ浦で捕ったの。食べて」と、生きた鮒を頂いた。調理法は知っていたが、とても包丁は入れられず、翌早朝、近くの池に放しに行った。弱々しい泳ぎで水中に消えた。その姿を思い出した。
 それにしても、世間が災禍に振り回される中、眼下の鮒は堂々としている。川の主のようだ。突然雨が降ってきて、葦の影は崩れ、水面が乱れたが、鮒は動じず悠然と泳いでいた。
 宮崎市 堀柾子(75) 2020/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆8月度

2020-09-25 19:22:32 | はがき随筆
 はがき随筆の8月度受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
 
月間賞に柏木さん(宮崎)
 佳作は杉田さん(宮崎)、清水さん(鹿児島)、上田さん(熊本)
 
【月間賞】 15日「きょうだい」柏木正樹=宮崎市
 【佳作】 8日「笑いのツボ」杉田茂延=宮崎市
  ▽ 1日「コロナの時代に」清水昌子=鹿児島県出水市
  ▽ 8日「100歳の手」上田綾香=熊本市中央区

 「きょうだい」は、戦争が一つの家族を不幸にした歴史を、少ない字数で的確に描き出した文章です。筆者の父は20歳で徴兵され陸軍二等兵に、その弟は当時のエリートコースであった陸軍士官学校へ。一家は働き手を失った。父は復員して帰ったが、弟は帰らなかった。生きて帰った父は弟のことを問うのが怖かったのか、問わず、酒を飲むと「戦争だけは絶対あかん」と繰り返した。一家族の不幸が国民の不幸を象徴しています。
 「笑いのツボ」は、40年間の夫婦生活の中で気づいたことは、会話に笑いのツボを用意することだという内容です。わざとらしさはいけないが、妻の笑いを誘うのは、夫にとって日々の重要課題だ。以前に触れたことがありますが、ドイツの小説家に「愛は意思だ」という言葉があります。その機微がよく表れた心和む文章です。
 「コロナの時代に」は、施設に入所している母親に、予約し、順番を待って、5分だけ面会できたという、コロナ禍の現状でも哀切な内容です。孫たちの写真に記憶の糸を手繰り寄せながら、娘の存在に気づいてくれた母の言葉は、5分後の「もう帰るの」だった。何とも悲しい状況です。
 「100歳の手」は、高齢の身動きできない方を介護している若い女性の、感想というより決意がよく表れている文章です。会話も一方通行だと思っていたら、手足をマッサージしているときに、両手で頬を包み込んでくれた。100年生きた手の感触が、活力源となり、自分の介護の態度を高めてくれたという、人と人との気持ちの触れ合いが不思議さを伴ってよく表れている文章です。日本画家の東山魁夷は、私たちは、自分で生きているのではなく、生かされているのだと言っていますが、確かに私たちは誰かや何かに生かされていると感じるべきです。
 この他に谷口二郎さんの「新人採用」、種子田真理さんの「コロナ給付金」、鍬本恵子さんの「夏休み」が記憶に残る文章でした。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

あの夏の記憶

2020-09-25 19:15:53 | はがき随筆
 ぼくは8月生まれで満6歳を迎えようとしていた。
 最も古い記憶の一つに敗戦の日がある。東京は青空。武蔵野の木立の中で暮らしていて、アカマツに来て鳴くセミの声だけが辺りを圧してした。
 B29の編隊も来ないし、警報のサイレンも鳴らない。縁側に腰かけて、母と妹と雑音だらけの放送を聞いた。ぼくには全くわからない。母は理解したのだろうか。理解したとすれば父の帰還がどうなるかで混乱したと今なら思う。ぼくにとってはB29の恐怖から解放された日であり、子供心に初めての平和を感じた日だったのかもしれない。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(80) 2020/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

かかってこいやー

2020-09-25 19:08:37 | はがき随筆
 夫は市民農園を借りている。8坪ほどの小さな畑で定年後からもう5年になる。農家の次男坊だが野菜作りは全く素人からのスタートだった。パソコンを駆使して情報集めや作付け管理など楽しそうだ。
 旬には次々に採れて冷蔵庫はいっぱいになる。キュウリ、ゴーヤなど10種類ほどあるかしら。私は追いつかれないようあの手この手で料理する。ネットの料理検索で「○○大量消費」は力強い相棒だ。
 だいぶ冷蔵庫が空いてきた。どうだ、かかってこいやーと親指を立てたら、レジ袋満杯の野菜がまた玄関に置いてある。
 宮崎県延岡市 楠田美穂子(63) 2020/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

台風10号

2020-09-25 19:00:16 | はがき随筆
 台風10号到来の予報、娘から非難を促されお世話になることとした。コロナウイルス感染症予防のため一部屋で用が済むように用意してくれた。窓ガラス飛散防止の養生テープには孫娘2人が描いたハートや星の下に歓迎の言葉がいっぱい。娘婿も孫息子も穏やかに迎えてくれた。
 思えばコロナ感染予防のため2月からドライブスルーで娘以外会っていなかった。皆には8カ月ぶりに会った。予防のためドア越しにマスクの向こうから短い会話。それでもうれしい。
 東京にいる息子夫婦も逐一情報をくれる。有難い。台風も大事に至らず安堵す。皆に感謝!
 熊本市東区 川嶋孝子(81) 2020/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

兄弟姉妹共に高齢

2020-09-25 18:51:47 | はがき随筆
 青色のハエたたきを実家から持ち帰った。平成12年8月購入と母の字。こんな小さなものまでなんと気配りの几帳面さ。和服、洋服には虫干しの日まで。私はおさがりと思わず愛用、94歳まで生きた母のようにと願っている。両親存命のころは、死はまだ先とばかり感謝の心を深く伝えたことはない。「肩こり」と私が言えば即母の強い指先でもんでくれた。父に「仕事が多忙」とこぼすと「仕事がないとどうする」か。今年の盆も仏壇で私たちを眺め、16日朝の旅立ち。夫の兄弟姉妹と私の方で10名共に70代、80代で元気に暮らせる日々を大変感謝する。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(80) 2020/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

人生の一大事

2020-09-25 18:44:29 | はがき随筆
 ふと父の言葉を思い出した。「人生には、どうしたらいいのかと悩むことが多いぞ」と、再三警告していた。まさかコロナ禍が、こんな大騒ぎになろうとは想定外。外出自粛で、自宅生活が長引くと神経も休まらない。気晴らしに、近くの公園を歩いた。帰宅すると、いつもの飲み会の友から「もうそろそろどうだろう」と例会の相談。「まだ危ないよ」と返事すると「じゃ無期延期に」と4人の意見を集約してくれた。外出解除には向かっているが、まだ勇気がない。忌憚のない八十路の仲間だから、積もる話も多い。どうしようか悩むんだよなあ。
 宮崎市 原田靖(80) 2020/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載