はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

シルバーさん

2020-06-30 21:25:51 | はがき随筆
 昨年の小春日和の一日、草の伸びた庭にシルバー人材センターのお二人に入ってもらった。門の辺りから玄関への通路、築山、そして裏庭へと除草作業は手際よく進んだ。これで心置きなく正月が迎えられる。
 月日のたつのは早い。立春、立夏、気づくとミカンはびっしり花をつけ、雑草も茂っている。スズメノカタビラはその名の通り、雀の姿を隠すに十分な草丈である。老人力ばっちりの私の手には負えそうにないのでシルバーさんに入ってもらった。すっきりとなった庭、でも夏の草は油断できない。シルバーさんが唯一の便りです。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(84) 2020/6/30 毎日新聞鹿児島版掲載

肥後狂句

2020-06-29 11:21:29 | はがき随筆
 十数年前、夫の実家で毎日新聞の熊本版を広げた。肥後狂句の欄に目が留まり、読んでみて初めて笠がある事を知った。
 2年前、南九州3県の地域版が合同になり、宮崎県でも狂句が楽しめるようになった。
 人様の掲載句を読むと一ひねりも二ひねりも工夫を凝らした跡がうかがえる。私も投句を始めたが、直球勝負で挑む。読者はさまざまなタイプであるから直球を好む人もいるはずだと、私の勝手な解釈である。 時々、出題の笠に意味不明な言葉がある。超難問だ。夫に尋ねても首を横に振るだけ。濃霧の中で手探りで進む気分だ。
 宮崎県延岡市 源島啓子(72) 2020/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載

かわいいお仕事

2020-06-28 08:52:20 | はがき随筆
 玄関に置いていたトウモロコシと枝豆の種がない。4歳の孫に聞くと「凛仁が畑に埋めたよ。土をトントンして水もあげたよ」と言う。見ると1カ所に2袋分の種が埋めてあり、根が3㌢くらい伸びていた。一緒に広い所に植え替えた。別の日、顔いっぱい緑の絵の具を塗り「カエルさんになった」と言う。思わず噴き出した。また別の日、猫が破った障子にガムテープを張っている。さらに別の日、私が喉が痛くて横になっている間に、米を1合洗い水も入れて炊飯のボタンを押していた。
 福岡に帰って1カ月。トウモロコシも大きく育ってきた。
 熊本県天草市 畑田ももえ(65) 2020/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載

朗報

2020-06-27 15:06:06 | はがき随筆
 生来の無精者の私は71歳を間近に控えた頃、何をすべきか思案が続いた。そんなとき妻の叔母から書道の先生を紹介してもらった。習字は習ったこともなく、毛筆に躊躇するも妻の後押しが励みになり、71歳で未知の扉を開いた。
 今では先生の熱血指導により楷書、草書が有段になった。この4月、先生から電話があった。行書が初段になり教材に私の作品が写真掲載されていると教えてくださり、次はかなの練習との目標をくださった。社会はコロナ禍で暗雲の中、念願の有段の連絡は私にとって宵の明星であった。
 鹿児島県出水市 宮路量温(73) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

コサンダケ

2020-06-27 14:47:24 | はがき随筆


 タケノコといえば通常孟宗竹であり、食べ方は煮付け、酢みそあえなどであり、人気の一品である。しかし小生はコサンダケの方が一層好きである。地上20㌢ほどに伸びたものを手で折り、ポキンという音も軽快である。取ってくれと言わんばかりで、あく抜きなしで食べられるのである。なぜコサンダケにこれほどまでに親しみを持つのだろう。やはり、中学生時代からおやじの所有する山林の片隅に遠慮がちに育っていたコサンダケの竹林を今でも大事に育成しているからか。懐かしの味を孫たちにも食べさせたく、皮のまま持って行こう。
 鹿児島市 下内幸一(70) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

画像は鹿児島自然と食さんよりお借りしました。

5月の庭から

2020-06-27 14:34:55 | はがき随筆
 「毎日何してます?」「草取り」。ご近所の答えは皆同じ。「そうよねー」とマスク越しに笑い合う。一日の終わり、庭を見渡し快い疲労感に満たされる。
 都会のアパート暮らしの友人はどうしているだろう。彼岸に帰省する予定が帰らなかった。
 主のいない友の実家を訪ねると、草が茂り始めた庭に甘い香りが漂っていた。日向夏の白い小花が咲き乱れ、樹上近く黄色い実が残る。1人でははばかられる。仲間を誘い2人で、鋭い枝が交差する中へ脚立を立て、大小約70個を収穫し尽くした。
 花香る5月の庭から、故郷の味を都会へ送り届けた。
 宮崎県日南市 矢野博子(70) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

紫陽花と残月

2020-06-27 14:26:35 | はがき随筆
 「晴後曇り、夕には雨」の予報を耳にして、朝6時ウオーキングに出かける。青い空、冷めたい空気が気持ちよい。まもなく小学校近くの花壇にさしかかる。花壇をのぞき込むようにして歩を緩める。と、大きな紫陽花の株が目に留まる。青草色の卵形、大きな葉群の上に、蛇の目模様、群青色の花(本当は萼か)が幾重にも重なり合い、しっとりとした美しさに魅了される。はっとして頭上を観ると差しかかる樹枝の合間に白い大きな残月が見え隠れする。梅雨入りを前に紫陽花と残月、まさに最高、水墨日本画を観る心地でした。
 熊本市中央区 木村壽昭(87) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

ぼくの生き方

2020-06-27 14:19:58 | はがき随筆
 バブルの片棒を担いだ。銀行は融資に奔走し、ぼくもその融資を利用して株を買ったりして尻馬に乗った。そんな中で燃えさかる生活とは逆に、田舎暮らしを夢見ていた。都会を離れて「晴耕雨読、たまに旅」などと考えていた。したがって定年延長などもってのほかで、早期退職のチャンスを狙っていた。思いはかなうもので、遠く鹿児島にたどり着き、夢の生活をスタートさせることができた。東京有明埠頭から一昼夜かけて志布志港に着いたのは6月。その年は空梅雨で、心ゆくまで土いじりができた。煩うことなく夜が明け、日は暮れていく。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(80) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

2020-06-27 14:13:21 | はがき随筆
 一緒に暮らしている姉は4月で75歳、後期高齢者の仲間入りをした。ひたすら真面目、健やかに生きてきたその姉が退職後、宮崎に戻ってきてまもなく難病にかかった。告げられた当時、本人は戸惑い、落ち込み、動揺ぶりは痛々しいものだった。
 病と向き合う日々は今年で10年目を迎える。症状は穏やかだが確実に進行し歩行器なしでは動きもままならぬほどだ。だが同じ病の「友の会」の手伝いをしたり、交流を深めたり……。何よりうれしいのはよく笑ってくれることだ。両親が逝った歳はまだずっと先だよ。これからの時間を大事にしていこうね。
 宮崎市 藤田悦子(72) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

半分ずつ思い出す

2020-06-27 14:04:23 | はがき随筆
 ドライブの途中、「昭和を代表した三人娘の歌手のうち、ひばり、チエミともう一人誰だったかどうしても出てこない」と助手席のかみさん。当方もとっさには浮かぶべくもない。5分ほど走ったら「あっ、いづみだった」と大声を発する。「でも、苗字は何だったっけ」。「ひばり、チエミ、いづみ」とお経のようにつぶやきながら赤信号で停車。とたんに浮かんで、大声でお返し。「雪村だっ」
 加齢に伴い人名や地名を忘れるのは日常茶飯事。「半世紀前の歌手など忘れて当たり前。2人で半分ずつ思い出せたのが救い」と軽口をたたき帰宅した。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

在宅勤務

2020-06-27 13:55:58 | はがき随筆
 新型コロナの影響で、4月中旬から突然在宅勤務になった。
 18年勤めてきたけれど、初めての経験だ。え? 出勤しないけどやっぱり着替えるの? 当初は休みと混同した。
 朝、夕の報告は必須。普段は外回りの仕事だが、家にいてお客様に電話したり、設計書を作ったり。家にいても常に上司に見られているような緊張感がある。しかし休憩といっては冷蔵庫をのぞく。同僚と「LINE」で息抜きする。
 自粛解除が解けても、すぐには元の態勢に戻れないようた。解除後の働き方もまた新しい体験となることだろう。
 宮崎県延岡市 渡邉比呂美(63) 2020/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載 

かくし味

2020-06-25 21:07:34 | はがき随筆
 雨の土曜、カレーを作る。固形ルーはないがカレー粉はある。玉ねぎに小麦粉とカレー粉を入れて炒めれば、昔風のカレーはできるはずだ。他は夏野菜としいたけくらい。それらを切って続けて炒める。さらに水とコンソメを入れて煮始めた。
 味をみる。ちょっと物足りない。思い出して、冷蔵庫から自家製ソースを取り出した。余った液体調味料を適当に混ぜたものだ。ソースとバルサミコ酢と他は忘れた。ざざっと回し入れて再び味見。味がまとまった。予想以上だ。捨てられずに作った自家製調味料が、思わぬ隠し味となった瞬間だった。
 熊本市中央区 岩木康子(54) 2020/6/25 毎日新聞鹿児島版掲載

文学賞

2020-06-25 20:22:55 | 受賞作品
「再出発」をテーマに
文学賞5編を紹介

 第19回はがき随筆大賞の発表に併せて「再出発」のテーマで募集した文学賞には118編の応募がありました。その中から毎日新聞西部本社の松藤幸之輔編集局長らが選んだ入賞作5編を掲載します。   
(順不同、年齢は執筆時)

家族
 「人は自ら望んで家庭を作り、やがて孤独に陥る」。私が昔読んだ文章。息子が結婚して、2人目の子供が生まれると、顔つきがきつくなっていった。
 嫁は幼い2人の子供に手いっぱい。会社の悩みもあったのか心を病んで休職。「死」を口にする息子におびえ、嫁は2人の子を連れて実家に帰っていった。
 週に何度か会社に行く息子もやがて復帰。孫息子が「パパと暮らしたい」と。小学校入学を機に元の家族に収まった。
 帰省した息子に「よう、はい上がったね」と背をなでる。目頭を押さえた息子が「家族が居るけんね」と答えた。
 大分市 桑野みちえ(74)


介護の再出発
 小鳥たちの声で目が覚める。一時、楽しみ、また老老介護の一日が始まる。今までは何もかも必死に背負ってきたが、これでは共倒れになる。半分見て見ぬふりをしよう、手を貸しそうになるのを我慢して陰で見守る、と考えを変えたら気持ちが楽になり、玄関先の花も増えてきた。 
 好きな手芸でマスクを作ったり、季節の野菜の苗を植えたりして昔の生活に戻れた。それでも夫の世話は変わらない。
 仕方なくではなく、私に与えられた生き方と思うようにした。本人が一番つらいはずと気づき、もっと優しく接しなくては、と自分に言い聞かせている。
 福岡県中間市 永田ふみ子(74)


逢瀬の歌
青い空の下、夫と息子が遊んでいる。私は洗濯物を干しながら「この時が一番好き」と言うと「平凡だからいいんだよ」と返す夫。25年前の記憶がよみがえる。
 海外赴任中、夫は病に倒れ、平凡な生活は一変、闘病の末、他界した。無念で私は受け入れられずに4年が過ぎた。
 前に進むため、亡夫の誕生日を機に整理を始めた。ギターを弾きながらイベントで歌っている映像がみつかり「お父さんに会いたくなったら見たら」と息子が勧める。そこには元気な笑顔の夫がいた。
 今でも時々、夫と画面越しの逢瀬を重ねている。
 宮崎県串間市 梅田絹子(64)


最後の再出発
 父は91歳で突然母に先立たれた。口から出る言葉は母のことばかり。所構わず人目もはばからず涙を流す日々だった。
 そんな父を緑一色の広大なお茶畑に誘う。かつて母と共にお茶の栽培に精を出したところだ。「ええ眺めじゃ」。つえに寄りかかり四方を見渡して目を細める父。
 外地から復員して米作、たばこ栽培に挑んだ再出発。さにらお茶栽培が加わり、三足のわらじで眠る暇もない。「二人でよう働いた」。父は自分に言い聞かせるように、きっぱり言う。
 以後、涙は消え、母のいない父最後の再出発が始まった。その後、6年を生き抜いた。
 山口県美弥市 吉野ミツエ(72) 


閉山草
 毎年、初夏になると空き地などで一斉に立ち上がり、秋に黄色の花をつけるセイタカアワダチソウという植物がある。約40年前にはエネルギー革命に敗れた炭鉱が次々に閉山に追い込まれ、その跡地に咲いていたため、閉山草と命名されていた。
 炭鉱マンの多くの仲間は次々に全国に散り、全く違う職に就いた。挫折を繰り返しながらもお互いに励まし合って現在に至っている。石炭の現物を見ることもなく、炭鉱、閉山の言葉ももはや死語の時代ではあるが、戦後の復興を担った第一線の炭鉱マンへの最後のはなむけがこの閉山草であろう。
 山口県下関市 河野 京(82)

捨てる

2020-06-25 20:15:24 | はがき随筆
 外出自粛の中、さーて何しよう。断捨離しかない。何年か前の断捨離で「痩せるかも」「また流行するかも」と捨てきれなかった服が袖も通さずにある。これこそ捨てられると思ったのだが、まだ未練……。
 主人のに取りかかると、なんの思い入れもないのでポンポン捨てられる。ところが、すっきりしたところで主人が「コイモ、コイモ着ッド」とこれまた断捨離中断。2人とも辛抱辛抱で育った者同士。「捨てる」は頭にない。でも2人とも高齢、子どもたちにとってはゴミでしかないから、やはり目をつぶって捨ておかないと!
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(74) 2020/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載

マスク美人?

2020-06-23 12:14:20 | 女の気持ち/男の気持ち
 友人が送ってくれた手作りマスクを着けて鏡の中の自分にニンマリする。マスクを着けた顔は当然のことだがマスクが一番、目に付く。
 目立ち始めた口元のしわも控えめな鼻も全然見えない。目立つのは白髪に映える、淡く明るい色柄のガーゼハンカチマスクだけ。布のカットの具合で鼻も少々、高く見える。
 友は私という人間をよく分かっている。さすが、付き合い46年。オヒョヒョヒョヒョだ。
 どこかの無精者は、常々扇で顔を隠せる平安時代の姫君を羨ましがっていた。あれなら化粧をサボろうが、雑に済まそうがOKだ。
 紫式部の時代から1000年あまり。待てば海路の日和あり。新型コロナの感染予防でマスクが必要になり、煩わしいと思っていたが、効用もあるじゃありませんか。
 フッフッフ。マスクの色柄のお蔭で目も生き生きして見えるような……。指で押すとフニャッとくぼむ上げ底鼻に、ちょっと詐欺かもという気もするけれど。
 なんの、別に誰かをだますわけではない。何の努力もせず、マスク美人になれた? と思うと気分がいいのだ。さて、こっちもお礼にサバイバルグッズでも送ってやろう。
 一緒に送られてきた黒猫模様のバッグを袈裟懸けにして美魔女になったつもりの私は日傘を片手に外に飛び出した。自転車に乗って薫風と共に気分は舞い上がる。どけどけカラス。マスク美人が通る。
 北九州市小倉南区 吉田典子(59) 2020/6/23 女の気持ち掲載