はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「よく」ある話

2016-06-28 15:46:05 | 岩国エッセイサロンより
2016年6月26日 (日)
岩国市  会 員   山下 治子

 「オレ、お金持ちになる」と帰って来るなり、孫が言う。
 「お財布ちょうだい。これを入れとくとお金が貯まるってジイちゃんがくれた」と、いつもなら蛇を怖がる孫が興奮気味に話す。カラの財布を渡すと蛇の抜け殼を入れ、一時も離さず抱いて寝る。だが、翌日から「何でエ」と半べそ顔だ。
 すきを見て小銭を入れた。大喜びで大騒ぎ。以来、成り金伝説で気が済んだのか欲がない。
 その孫も6年生。この話をすると照れてにらむ。今朝、草刈りの時に夫が見つけた蛇の抜け殼に「やっと金持ちになれるかな」と二人で思い出し笑った。
   (2016.06.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

ポップコーン

2016-06-26 06:43:38 | はがき随筆
 ポップコーンは難しい。乾燥させたコーンを加熱するだけの、料理ともいえない代物だが、実際作ると悩ましい。全部弾けさせようとすると焦げがつくし、半端に止めると敗残兵のような種が鍋底にたまる。
 微妙な加減は子育てにも似ている。完璧をめざしてもどこかが綻ぶし、まあいいかですませば甘えが出る。落としどころが見極めにくいのだ。それでもポッコーンを作るのは楽しい。こどもと一緒に耳を澄ませ、蓋を押し上げる胆力に驚き、熱々をほうばるのは至福の時だ。プロのポップコーンメーカーには遠く及ばないけれど。
  鹿児島市 堀之内泉 2016/6/23 毎日新聞鹿児島版掲載

ウソッ

2016-06-26 06:25:24 | はがき随筆
 結婚指輪を外して何年になるだろう。離婚したわけではないが、年々指がグローブ化して、肉にくいこんてきてやっとの思いで外した。先日、娘が指輪を借りに来た。元々骨太の私なので、娘の手入れされた細く長い指には合うはずないと思ったのだが「ピッタリ、ウソッ、信ジラレナイ」。ということは私の指も以前は……。これまたビックリ。今では第1~2関節の間はでしか入らない。
 しばし昔にもどり、今では空気化している夫婦だけど指輪をもらった頃を思い出し、少ししおらしくなりりたいと思う。できるか疑問。たぶん無理。
  阿久根市 的場豊子 2016/6/22 毎日新聞鹿児島版掲載

気まぐれ罪作り

2016-06-25 13:43:33 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   吉岡 賢一

今年は玉ねきが不作だった。初体験する惨めな姿に「畑作りが悪かったか?」「植えた時期は?」「肥やしの時期や量は?」などとまずは自分の腕を疑った。いずれも例年通り、特別なことは何もしていない。
 あえて言うなら今年は欲張って過去最高600本植えた。「狭い畑に詰めすぎたのが間違い」と結論し、欲張りを犯人にでっち上げた。そのうち専業農家の友人が「今年の玉ねぎは全滅じゃった」と言い、玉ねぎ不作がニュースになった。
 腕が悪かったのでも、欲張りが犯人でもなかった。ただ、おてんとう様の気まぐれだった。
  (2016.06.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

誤解です

2016-06-25 13:42:17 | 岩国エッセイサロンより
2016年6月 4日 (土)
   岩国市  会 員   山本 一

「一日中釣り糸垂れて世捨て人」「気の長い釣り人今日も日向ぼこ」「星空に釣り糸垂らし春の夢」。川柳句会で仲間3人がこの句を詠んだ。釣り好きで退職後も週1回必ず釣行きする私は黙っておれなかった。
 「釣れる」ではなく「釣る」のである。一心に獲物に集中し五体を絶え間なく動かし常に誘いをかける。帰宅したら体重は約1㌔、体脂肪も釣1%減少する。健康のためにあえて体を動かす私は極端かもしれない。が、冒頭の句にあるような情景には書物以外では出会ったことがない。大げさに言うと釣りキチの目は血走っている。
   (2016.06.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

アジサイ 母の墓前に

2016-06-25 13:41:23 | 岩国エッセイサロンより
2016年5月31日 (火)
   岩国市   会 員   山本 一

 わが家の白いアジサイが、間もなく満開になりそうだ。これから6月中旬まで、6種類のアジサイが庭に咲く。
 アジサイが咲き始めると、決まって母を思い出す。病院に寝たきりで、この時季になると、毎日のように種類を替えて生け替えた。
 3年前の6月9日の明け方、前日に私が持って行ったアジサイに見守られ、母は逝った。
 葬儀は、廃屋になった実家のある島根県吉賀町で行った。この時もアジサイを運んだ。以後、毎年命日には、墓をわが家のアジサイで埋め尽くす。
 今年も間もなく、命日が来る。その頃には全てのアジサイが咲きそろう。白に続いて小柄なヤマアジサイ、追い掛けるように赤、ピンク、青系のガクアジサイと続く。
 既に実家は人の手に渡り、古里は疎遠になった。庭のアジサイに「間もなく命日、墓参りをしなさい」と言われている気がする。今年も、墓をアジサイで埋め尽くそう。 

    (2016.05.31 中国新聞「広場」掲載)

出水流

2016-06-21 06:57:15 | はがき随筆


 札幌へ嫁いでから梅を漬けはじめた。古里の母のつけ方の見よう見まねの出水流である。去年から出水産の梅も漬けている。親孝行の出水の友人が「畑仕事はつらいから」と両親のために植えてくれた梅である。私が札幌で漬け始めた頃と同じくらいの樹齢45年の梅である。最期まで自宅でみた両親も逝き梅を漬けなくなったので私に全部ちぎってよいとのことで、去年から頂いている。出水産をちぎる頃、北海道産は花が散り、やっと小さな実がついたばかりである。友人とその両親に感謝しながら、ひとつひとつに真心をこめて出水流で漬けた。
 出水市 古井みきえ 毎日新聞鹿児島版掲載

母の日に思う

2016-06-20 22:00:05 | はがき随筆
 母が父の5カ月後に手の届かぬ世界へ旅立って、はや8年となる。生前、私の両手をしみじみと見ながら「あんたの手はお父ちゃんの手に似てよかった。きれいな手だ」と言っていた。
 父と2人で畑の土にまみれ、手の節も曲がり、手のひらもガサガサしていた。幼いころ「背中がかゆい」と訴えると「ガサガサしているから気持ちよかろうが」と言いながら、かいてくれた。髪の毛も編んでくれた。
 できるものなら母の指を一本一本なでてあげ「ありがとう、ありがとう」と言ってあげたい。庭を吹きわたる風に、母子草がかすかにゆれている。
 外薗恒子 2016/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載

ガリレオ温度計

2016-06-20 21:44:51 | はがき随筆


 正式にはガリレオガリレイ温度計。炭化水素溶液入りの透明な円柱に、数字付きの楕円のガラス球が数個浮かんでいて、その球体が上下して気温を示す。
 初めて見たのは20年ほど前で、欲しいなあと思いながらも買わずにいたのだ。転居した際、北海道のいとこからお祝いをもらい、何か「普通でない」お返しをと考えているうちに時宜を逸してしまった。
 定年を迎えたときに、退職のあいさつとして贈り、自分にも小型を買い、職場の机に置いている。先日、テレビドラマで大きなのが映っているのを見て、一人にんまりした私である。
  鹿児島市 本山るみ子 2016/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載

ワクワクな人生

2016-06-20 21:33:55 | はがき随筆
 「キャー! これは何なの? 挑戦状? それともパズル?」。送られてきたメールはたくさんの数字の羅列と少しの漢字が画面いっぱいにはいったものだった。私のメール史上、初の大事件である。
 「ああ、これは『文字バケ』っていうんだよ。コンピューターが上手く変換してなかったのかも……」。19歳の娘のことばで、この症状が『文字バケ』と知った。『バケ文字』と覚えて娘には笑われるが、こんなことでもちょっとワクワクする。残りの人生は、感官の全てを使い、ワクワクドキドキしなから生きるつもりだ。楽しみ!
 鹿児島市 萩原裕子 2016/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載

父の後ろ姿

2016-06-17 06:11:00 | はがき随筆
 デパートのレストランで、隣り合わせた高齢の男の方がループタイをしておられるのを見て、亡き父を思い出した。父もループタイが好きだった。
 私には、今でも忘れられない父の姿がある。それは、自転車をこぐ父の後ろ姿である。
 娘たちの世話をしてくれていた父は、仕事を終えて帰ってきた私を「お帰り」と出迎えると、安心して、自転車をこいで帰って行くのである。その後ろ姿は、右に左に大きく揺れ心配したものである。何かと気苦労をかけた父の自転車をこぐ後ろ姿が忘れられない。そのループタイは母が時折身につけている。
  鹿児島市 天野芳子 2016/6/17 毎日新聞鹿児島版掲載

ひとり静かに

2016-06-17 05:39:06 | はがき随筆
 喜寿を迎える年になった。父も弟も70を知らずに世を去っている。ぼくが50歳を迎える頃の、男の平均寿命は喜寿を過ぎたあたりで、人生設計の残された時間の目安とした。だが、切実な感覚はなく、ずっと先のいずれ来る時と捉えていた。そして時はよどみなく流れてすぐそこまで来ている。戦争の恐怖も体験したし、プロ野球の選手になって両親に楽をさせたいなどと大それた夢も見た。しかし受験戦争から始まり出会いと別れの現実の中、大過なく流れてきたと思いたい。これからの時間は早いと思うが、日々是好日と捉え、ゆったり生きてゆこう。
  志布志市 若宮庸成 2016/6/16 毎日新聞鹿児島版掲載

告白

2016-06-17 05:32:36 | はがき随筆
 「じいちゃんとばあちゃん、どっちが先に告ったの」と小3で腕白坊主の孫が聞いてきた。
 思えば地元の高校から地元へ就職し、初めて現れた男性の求婚に、当然のごとく首を縦に振った。結婚生活は、母と5人の下宿生との同居から始まった。
 当時は世間知らずで、世の男性は皆、父や兄たちのようと思っていたが夫はまるで宇宙人。妻として、嫁として、母として地域の一社会人として必死に働き生きてきた怒涛の40年は、振り返ってみれば一瞬である。
 きらきら笑顔の孫に、動揺を隠し「じいちゃんだよ」とそっけなく答えた。
  出水市 塩田きぬ子 2016/6/15 毎日新聞鹿児島版掲載

サンゴ礁

2016-06-17 05:10:19 | はがき随筆


 机上の隅に置いたビニール袋を振ると、浜で拾った白化したサンゴから、カラッカラッと済んだ音がする。そして八重山諸島の旅を思い出す。海底グラスボートで見た熱帯魚とサンゴの美しさは脳裏から離れない。同時に子供の頃の想像が解けたうれしさがある。竜宮城に行った浦島太郎と美しいサンゴ、さまざまな魚のくだりを国語で習い、山間の町に育つ私は妄想した。さし絵も覚えている。年を経ての旅で海底の様子は文章の通りだった。基地の問題の辺野古や海底を汚す記事を見ると心が痛む。永遠にこの美しい海が続くことを祈る。
  出水市 年神貞子 2016/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

クジャクサボテン

2016-06-17 04:57:37 | はがき随筆




 朝起きて縁側のカーテンを開けたら、クジャクサボテンの大輪が目に飛び込んできた。カミさんが朝食の支度をしている間に、カメラを持ち出した。テープルの上からデカ猫イークンが「ボクを写すのかい」というような顔をして「ニャーン」。
 「残念ねえ、クジャクサボテンがしぼまないうちに撮るんだ」。イークンは納得したのか前足にあごを乗せて目をつぶった。鉢の向きを変えたり、移動したりして撮りまくった。「いい写真が撮れたぜイークン」と声をかけたが彼は知らん顔。そんなところをパチリ。こうして2人と1匹の一日が始まった。
  西之表市 武田静瞭 2016/6/12 毎日新聞鹿児島版掲載