はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

再読

2017-12-30 14:38:20 | はがき随筆
 題名を当てるクイズ番組を見ていた。本の書き出しは次のものだった。「私はその人を常に先生と呼んでいた」とっさに夏目漱石の「こころ」が浮かんだ。その本を読んだのは20歳の頃。引き込まれるように読んだ感動的な作品を思い出す。
 当時は時間もゆっくりと流れ、友人らと単行本の回し読みなどして、感想や将来の夢などを語り合った懐かしい青春時代を思い出す。
 もう一度この本を読んでみたくなった。本棚の本を開くと黄ばんだ紙面、それに旧字旧仮名づかいで読みづらく、新字体の本を買いに行った。
  鹿児島市  竹之内美知子  2017/12/30  毎日新聞鹿児島版掲載

私の農事歴

2017-12-30 14:31:50 | はがき随筆
 寒い冬、見守っているタマネギ2000本余り。鶴の北帰行に合わせて収穫を始める。
 春3月、夏野菜の種まきだ。カボチャ、トマト、キュウリなど。ナスは少し気温が上がってから。ショウガは日陰。植えつけ、中耕、敷わら、支柱立てと汗が出る。
 夏、追肥、消毒、台風対策、除草と更に汗が出る。ときめく収穫で喜びは倍増する。
 秋、タマネギの種まきと白菜、ブロッコリーの植えつけ、腰をさすりながら、肥え(声)を掛ける。食卓をにぎわす新鮮な野菜に感謝。今は草食動物に等しい。だから旨い。旨い。
  出水市 畠中大喜  2017/12/29 毎日新聞鹿児島版掲載

いろいろあった

2017-12-30 14:23:43 | はがき随筆
 年をとると無為にすごす日もあまたで月日は流れる。きょうゲネプロ、あす公演の「県民第九」は心機一転、16回目の参加となった。体調は20年来の坐骨神経痛や、9月21日の電車急発進での打撲痛による通院などで老化へ追い打ち。しかし毎朝20分、2000歩を継続した。痛みにおびえながら放置すると筋肉は硬くなるだろうと克服した。あけの空の月や星を見上げながら。今年もどうにか。つねに人と出会って話すことで心の平成保持。運動会でゲームをたのしみ、しりとりことばで脳活性、うたって思い出をたどり、それなりに対処した。感謝。
  鹿児島市 東郷久子  201712/28  毎日新聞鹿児島版掲載

里芋の花

2017-12-30 14:11:44 | はがき随筆


 家庭菜園で毎年里芋を栽培している。収穫を喜び、食卓で味わう楽しさは格別だ。4月、種芋を植え、根出しの葉は日ごとに大きくなる。葉柄は多肉の先に大きい心臓形の葉、葉面はろう質を分泌しているので水をはじく。朝、葉の中心、くぼみにたまった水滴が朝日できらりと光り、ダイヤを見るようだ。そのたまりがころころと葉面を滑って落ちる。私は時のたつのも忘れて見入る。栽培を始めて6年目、葉柄の間から浅黄色の大きな包葉をもった花茎が出て、カラーに似た花。里芋の花を始めてみた。それは一度だけ。私にはあの花が幻となった。
  出水市  年神貞子  2017/12/27  毎日新聞鹿児島版掲載

父の幽霊

2017-12-29 21:30:08 | はがき随筆
 もう幾昔も前のことである。夕食のとき母が笑いながら「今朝お父さんの幽霊が出た」と言う。「なんちな、いけな幽霊じゃしたか」「もう起きなくちゃとうとうとしていたら、父さんがオイも起きらんかち耳元で言ったのよ」と言う。
 父は典型的な早起きで、朝暗いうちに起き出し、いろりで茶を沸かし、刻みタバコをくゆらし、頃合いをみて母を起こすのが2人の習慣だった。幽霊が出て当然であった。「よか幽霊じゃしたなあ」と言うとうなずいていた。母もみまかった。2人で私たちを見守っていることだろう、父の命日が近い。
  鹿児島市  野崎正昭  2017/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

婚約記念は印鑑

2017-12-29 21:22:19 | はがき随筆
 スーパーで会計が終わり、袋詰めをしていたら、先客が「一円玉を落とした」と腰を曲げて物色中。私も探し方を手伝う。すると「あった」。笑顔で私に「一円でも足りないと買えませんから」と礼を述べて出口へ。一円の大切さを痛感した。
 ある朝、自宅の廊下を掃いていると、ほこりの中に百円玉が1個あった。夫に「この金はあんた」と聞くと、即手を出す。「しっかり始末」。忠告を。思い出は遠く43年前、婚約記念に夫の苗字印を指輪の代わりに望み、現在も実印としての宝。独身のころ装飾品に買った指輪に愛着する私。
  肝付町  鳥取部京子  2017/12/25  毎日新聞鹿児島版掲載

本山と申します

2017-12-29 21:13:17 | はがき随筆
 県内では、本山と表記する方が少数派。我が家のルーツは南さつま市のある地域らしい。
 事務所に1人しかいないのにメモに「元山さんへ」と置いてあったことも。長年のつきあいなのに、年賀状の名前が違うことはよくある。しかしす数年前から2人目の本山さんが勤務している。珍事である。そして何故か「本村さん」と言い間違えられる。言いづらい? 滑舌のよさそうなアナウンサーさえも。そう、過日「はがき随筆」の文章がラジオで読まれた日のインタビューの途中から本村さんと呼ばれた。がっかり。わたくし「本山」と申します。
  鹿児島市  本山るみ子    2017/12/24 毎日新聞鹿児島版掲載

餅つき

2017-12-29 20:59:41 | はがき随筆


 12月も押しせまり、年の瀬が近づいたころ、どこからともなくペッタンペッタンとモッツッ(餅つき)の音が聞こえてくる。昔はほとんどの家でみられた風景。29日は「苦日もち」、大みそかは「一夜もち」といって縁起が悪いので、この2日は避け、わが家では28日に行われていた。前日に母ちゃんが餅米をとぎ一晩水に漬けておく。目が覚めると蒸し上がったもち米の香りが漂い、にぎやかなモッツッが始まる。正月準備も終わって年取い晩を迎えていた。風情のあった四季の行事に気づくことが難しくなった今、ペッタンペッタンのあの音が懐かしい。

父親との晩酌

2017-12-29 20:51:41 | はがき随筆
 父は平成元年、85歳で往生した。晩年は脳梗塞を患って10年近く右半身がまひしていた。私は高齢の両親を看るため47歳で教職を辞し、翌年には寺の住職を継職した。右の手足が不自由な父の入浴と晩酌の面倒は私が担当した。父は若い頃から酒豪で、梗塞を患ってからも体力が回復すると晩酌を欠かさなかった。5・5のお湯割り焼酎を1杯と約束した。ところが、だんだんと体調がよくなると1杯は1杯でも焼酎の濃いのを要求するようになった。なるほど、その手があったか。ついに5・5を2杯に変更した。あれから29年。父との晩酌を思い出す。
  志布志市 一木法明  2017/12/22 毎日新聞鹿児島版掲載

町に行く―その4

2017-12-29 20:43:14 | はがき随筆
 「『町に行く』か、面白い言い方ね」と言われて、子供の頃を思い出した。
 心はずませて町に行った。何かがあるような気がして、捜しに町に行っていた。
 何かを捜してるうちに、いつしかそれはさがとなり、高校生になると大いなる存在を捜し求めていた。捜して捜して、捜し歩いて、唯一の主に出会った。とんでもない幸せを見つけた。
 いま、主といっしょに働けることはないか捜している。
 見つかりますようにと祈りながら、子供の頃のわたしを道づれに、今日も町に行く。
  鹿屋市 伊地知咲子  2017/12/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ミカン作りねぎらう

2017-12-27 17:10:42 | 岩国エッセイサロンより
2017年12月24日 (日)
   岩国市   会 員   横山恵子

 下関から地元の岩国に帰って、はや38年。その間、亡夫の教え子のご両親から、毎年ミカンが送られてきた。
 先日、その中に「今年をもって、ミカン作りを終えることにしました」という手紙が添えてあった。
 数年前から年齢を重ねて作業が難しくなったと話されていたので、やはり来るべき時が来たと一抹の寂しさを感じた。
 賞を取ったこともあるミカン作り。夫は「あのミカンはひと味違う」と毎年楽しみにしていた。
 下関時代には、出荷で忙しい時など、猫の手くらいだったが夫も休日に手伝っていた。当時、赤ん坊だった息子をミカン箱に入れて作業していたことを、懐かしく思い出す。
 下関を離れても、教え子の結婚式に夫婦で招かれたり、6年前には息子一家と訪れて昔話に花を咲かせたりと、思い出は尽きない。
 半世紀以上ものミカン作りは、ご苦労があったと思う。お体に気を付けて、ゆったりと過ごしてくださるように願っている。

     (2017.12.24 中国新聞「広場」掲載)

健康守って社会人に

2017-12-27 17:09:53 | 岩国エッセイサロンより
2017年12月18日 (月)
   岩国市   会 員   片山清勝

 13日付ヤングスポットの「就職まで学業も全力」は、就職試験前の緊張と内定の喜び、卒業までの心構えと周囲への感謝などが簡潔に書かれていた。
 読みながら、現役の頃、高卒採用担当として受験生に接し、強く印象に残っていることを思い出した。
 それは手を膝の上で握りしめ、顔を紅潮させ、正面を向いて懸命に答えてくれる面接試験での姿だ。
 背筋を伸ばし、真摯な姿に接すると、全員を採用したいと思ったこともある。
 筆記試験の感想を問われると、謙遜か学校の指導なのか分からないが、高得点なのに自信たっぷりの答えはあまりなかった。
 投稿者は「残りの学生生活は学業も手を抜かず全力で楽しむ」と結んでいる。
 経験からこれに一つ加えるなら、健康管理を十分に果たしてほしい。今年の就職内定率はこれまでにない高さという。みんな健康で明るく第一歩を踏み出してほしい。

     (2017.12.18 中国新聞「広場」掲載)

年賀状 年重ねても続けたい

2017-12-27 17:09:09 | 岩国エッセイサロンより
2017年12月16日 (土)


   岩国市  会 員   林 治子 



 近所のスーパーで、古くからの知人を久しぶりに見かけた。
 数年前に年賀状のやりとりが途絶え、気になっていた方だ。

 声をかけて年賀状の話を持ち出すと、「もう80をと~うに超えたのよ。 まだ書けって言うの」と言われた。意外な反応に、怒らせてしまったのではと心配した。

 数日後、同世代の友人から電話があった。 電話より手紙、という筆まめな人なので珍しく感じた。

 年賀状の話題になり、彼女は「書くのが億劫になってきた。今年はどうしょうかと思う」とこぼした。気力や体力が追いつかないらしい。
 私は書くことは億劫ではないものの、気持ちはわかった。 同じ理由で、用事を先延ばしにしたくなることが増えたからだ。 スーパーで会った知人もそうなのかもしれない。
  「年に一度だし、頑張って書いて『元気』とアピールしようよ」。
 自分自身にも言い聞かせるつもりで、友人を励ました。

(2017.12.15 読売新聞「私の日記から」掲載)   

友とツル

2017-12-20 07:32:32 | はがき随筆
 11月中旬、福岡県に住む友がやって来た。積もる話をてくさんし、ツル観光センター、クレインパークへと足を運ぶ。
 ツル観光センターへ近づくと「クウァ、クウァ、クウァ」と鳴き声が聞こえる。たくさんのツルたち。毎年1万羽を超えている。万羽ヅルの群れは争うこともなく、田んぼに遊び、空に舞う。見事なながめだ。
 後日、友から「ツルは、広々とした平野と周りの山々、居ごこちのよい出水が気に入っているのだと、私は思います」という便りが、ツルの写真はがきで届く。よき思い出を心の糧に頑張っていこう。
  出水市 山岡淳子  2017/12/20  毎日新聞鹿児島版掲載

深い眠り

2017-12-20 06:58:30 | はがき随筆
 ラジオを聞きながら寝るのが心地よいので、毎晩そうしている。ある晩「老いを楽しむ」という題で、開口一番「老いを楽しむには きょうようと きょういくがいる」とのたもう。堅苦しいと思い、気分を眠りモードに切り替えようとしたら、今日用が、そして今日行く所があるときた。(ん?  面白そう)と聞き耳を立てる。「用は草取りでも料理でも、行く所は隣のおばちゃんち、スーパーでも、こうした自分の行動に生きがいを感じたら楽しくて目が輝いてくるはず」と結ばれた。
 品のあるトークだなぁ!  と思いながら眠りに落ちた。
  鹿屋市  門倉キヨ子  2017/12/19 毎日新聞鹿児島版掲載