はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2度あることは……

2008-07-31 18:53:07 | アカショウビンのつぶやき
 FMラジオの取材で編集担当のO氏と共に、鹿屋から30分ほどの錦江町に行った。
 Googleの地図をたよりに行ったのに、なかなかたどり着けない。訪ねたずねて3軒目、ようやく見当をつけホッとして帰ろうとしたら、何と玄関先で段差を踏み外し、こけてしまった。実は6月13日に自宅の庭で転倒、後頭部に大きなたんこぶをつくり、脳外科へ。7月7日には同じ場所でまたこけて、今度は軽傷だったが肘をしたたかに打撲。そして今回が3回目。自分のドジぶりが情けない。

 たいした痛みもなかったので、そのままKさん宅に伺い取材にかかる。話したいことがいっぱいあるKさんは、話題がどんどん広がって、かなしいかな駆け出しのインタビュアーには収拾がつかない。いつもなら長くても30分あれば、取材が終わるはずなのに2時間近く経ってしまった。気がつけば足がズキズキしている。立ち上がろうとしたら痛くて立てない。Kさんに気づかれぬよう何とか車に乗り込み、かかりつけの整形外科へ直行。内出血がひどく象の足のように腫れ、とうとう10日目に手術することに……。今日は抜糸の予定だったが、一番痛いと言われる向こう脛、回復が思うようにいかず延期。

 「転ばないようにね!」といつも周囲に注意され、自分でも気をつけてるつもりなのに「またやっちゃったぁ…」をくり返し今回は少々落ち込んだ。
 足下を見てない、足があがらない、気ぜわしい。原因はこのあたりにありそうだが。姉曰く「まあ、痛みがある間は大丈夫だろうね…」。いやいや今日もバス停の段差にけつまずきそうになりました。
 そうそう69歳で亡くなった母もよく転ぶ人だった。何でこんなところが似るのだろう。
  「母ちゃん助けて!」

夏草

2008-07-31 17:42:36 | はがき随筆
 丈高くやんちゃに茂り、草山と化した庭を朝な夕な、ため息つきつつ眺めている。
 「まさに蓬生(よもぎう)の里。風情があっていいわ」。源氏物語を引き合いに出し、おもしろがる人がいる。
 娘は、しれっとして言い放つ。「冬になれば枯れるんだから、放っとけば」。なるほど、いちいちごもっともである。
 あちこちで砂漠化が進んでいると聞く。緑化に励んでいるわけではないのに、勢いよく伸びてくれるなんて、喜ぶべきことかもしれない。
 夏草の間をすべり抜けてくる風が、きょうは心地よい。
   鹿屋市 伊地知咲子(71) 2008/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

母の「もったいない」

2008-07-31 17:36:09 | 女の気持ち/男の気持ち
 夕方、隣の母の家をのぞくと、いつも陣取っている茶の間に姿が見えない。寝室へ行ってみると、ベッドに丸まってぐったりしていた。翌朝、良くなってきたと渋る母を説得して病院へ。去年の夏に起こした急性すい炎の症状に似ているなと危惧していたら、案の定で即入院を言い渡された。去年に比べて病状が軽いのが救いだった。
 「お部屋はいかがなさいますか」と聞かれる。4人部屋のほかに3タイプの質があり、個室は設備によって5,4,3000円の差額が必要となる。
 今まではいつも4人部屋。気兼ねせず付き添いもできるから個室にしようと私は言うのだが、母の「もったいない」の一言でケリ。でも今回、私は強引に個室を頼んだ。去年入院した時、絶食が続いて食事時の我慢がつらい、下の世話をされる際に周りに申し訳ないと愚痴っていたからだ。
 5000円の部屋しか空きがないと言われ、母はしきりにもったいながった。
 「自分で働いてためたお金なんだから、辛抱して残すことないよ。自分のためにどんどん使って。イヤホン無しでテレビも見られるし、氷川きよしのCDも遠慮なく聞けるじゃない」
 「そりゃそうだけど、今日でもう3万円だよ」
 孫には気前よく小遣いをやる母だが、自分の入院代はよほど惜しいらしい。
    鹿児島県出水市 清水昌子(55) 2008/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載 の気持ち

初蝉

2008-07-31 16:59:17 | はがき随筆
 今年のセミはどうしているのだろう思っていた矢先、日曜日の朝、初蝉の声を聞いた。
 夏の盛りという実感がわくし、何よりも終戦の日を思い出す。死の恐怖からのがれることはできたが、お先真っ暗な虚無感が胸を埋めてきた時代。
 19歳から82歳になってみて今、人生を振り返ってみると、誠に感無量である。よくぞ生き延びたという思いが強く、やはり生きていてよかったと考える。
 友人が次々に旅立ち、寂しくなった老後ではあるが、まだ現役の田舎医者。自分をいとおしみ人を大事にしてつつましく生きてゆきたいものだと思う。
   志布志市 小村豊一(82) 2008/7/29 毎日新聞鹿児島版掲載

蝶の道

2008-07-31 16:53:23 | はがき随筆
 近所の椿収集家が「蝶には飛んでくる道がある」とおっしゃった。その通り「蝶道」があるのです。我が家では白黒輪の幼虫がクリナムの葉を食い尽くし、根元へフンと一緒に埋まっているが何蝶になるのか分かりません。キンカンの葉のアゲハ、レモンの木のキアゲハ。幼虫が羽化しては「生まれました」とばかり、ゆらゆら飛んできます。水道で水をくむ私の目の前をおおらかに、ゆんらりと舞って遊んでゆきます。「短い命でうろうに。私にごあいさつ、ありがとう」と声を掛けると「じゃ……」蝶道ならぬ宿った木々の間を行ってしまいます。
   鹿児島市 東郷久子(73) 2008/7/28 毎日新聞鹿児島版掲載

2008-07-31 09:48:58 | はがき随筆
 雨が降っている。静かに、時に激しく。寝転んで雨音を聞いている。そんなのが好きだ。谷川や沢の音、岩に砕ける波の音など、水音もおれは好きだ。なぜだろう。
 おれの祖先はずっと水辺に暮らしてきたに違いない。だからきっと水音におれの血は目を覚ますのだ。今、おれの血は騒いでいる。
 雨音はいつしかタイムマシンとなっておれを遠い昔へといざまう。縁側で弟と釣ったトノサマガエルは目を丸くしてのどをひくひくさせていた。おれは笑った。
 そうだ。「雨に咲く花」という切ない恋の歌があったっけ。
 雨はまだ降り続いている。
   出水市 中島征士(63) 2008/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載 特集版-6

メッセージ

2008-07-31 09:42:52 | はがき随筆
 七夕の翌朝、うれしいプレゼントが届きました。差出人は、私が長い間お世話になり、若くして2年半前に亡くなられた愛育病院の院長先生の奥様から。
 「私からのエールです。どうか幸せなお時間がたくさんありますよう」という温かなメッセージ付きのトレーと、3人分のランチョンマット。奥様の心が伝わってきて涙が出そうになりました。
 半身マヒの夫、11歳の娘、私。見守ってくださる方もおられるのだ。負けないで3に人仲良く、一日一日を大切に、一日でも長くこの世で一緒に生きたい、と強く思うことでした。
   鹿児島市 萩原裕子(56) 2008/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載 特集版-5

素晴らしい生命

2008-07-30 22:45:41 | はがき随筆
 7月に入り我が家の玄関が再びにぎやかになりうれしい。ツバメのひなが5羽かえったのだ。
 3月下旬、私が待ち望んでいた(たぶん)昨年のツバメが再来し、6月までの間に7羽の大家族となり巣立った。しかし数日後、また1羽のツバメがやってきて住み着いたので毎日、不思議に思っていた矢先のこと。
 昨年の夏採った種をまいて育てた朝顔やヒマワリ、ホウセンカなどが今きれいに咲いている。こうして生命を次世代につないでゆくのを見るにつけ感動する。体調不良の今の私にも生きる気力のようなものがふつふつと沸いてくる。
   鹿屋市 田中京子(57) 2008/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載 特集版-4

インタビュー

2008-07-30 22:37:51 | はがき随筆
 5月31日。私のはがき随筆「60歳の恋人」がMBCラジオの「二見いすずの土曜の朝は」という番組で放送された。朗読と私へのインタビューだった。
 本番当日、電話の前に腰掛けてお呼びを待つ。朗読が終わるとすぐインタビューである。受話器をしっかり耳に当て白い壁と向き合い、顔の見えない二見さんとの会話となった。少しあがり気味の私をうまくリードされる話術はさすがである。お陰で順調にいった。いつか機会が与えられたら、白い壁ではなく二見さんと直接対話したいものだ。
 二見さんお世話になりました。
   鹿児島市 川端清一郎(61) 2008/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載 特集版-3

長女の受賞

2008-07-30 22:31:17 | はがき随筆
 「お母さん、入選したよ」と長女から電話があって、しばらくしてある季刊誌が送られてきた。
 「第10回ペイントクラフト賞発表!」とある。掲載されている長女の絵はバラの花をモチーフにしたトールペイントで、ピンクのバラの濃淡が美しい。
 きれい過ぎる感じで、評価されにくいのではと思われる絵だが技術賞を頂いている。父親譲りの細やかな筆づかいだ。お父さんがいてはったら、どんなに喜びはるか……と言いつつ泣けてくる。電話の向こうで長女も涙声だ。
 教える身ながら果敢に挑戦したことに拍手を送りたい。
   霧島市 秋峯いくよ(68) 2008/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載 特集版-2

シンニョンクロ

2008-07-30 22:20:36 | はがき随筆
 アユ掛け針にシンニョンクロが掛かった。懐かしいやら驚くやら。「よくぞ達者で……」と絶句。
 米ノ津川にごまんといたシンニョンクロは、私が中1の時のアユの放流に交じったカマツカに席巻された。餌が共通で、石の陰で餌を待つ魚と、川底で自在に捕食する魚とは、後者が増殖するのももっともであった。
 背は黒く、黄色の腹の中央に丸い吸盤が付いて、ひょうきんさたっぷりの魚だ。木綿糸釣りや素手のつかみ取りと、小学生時代の格好の遊び相手。絶滅の危機にあるシンニョンクロと、たそがれた自分が重なる。
   出水市 道田道範(58) 2007/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載 特集版-1

アイタタタッ

2008-07-30 22:11:46 | はがき随筆
 多少の雨でも朝の散歩には出かける。細い山道が終わった所で妻と別れてダラダラと坂を下る。「雨だから滑らないよう気をつけて」の妻の言葉を聞いたはずなのに、側溝のグレーチングに左足を取られ転倒した。
 「アイタタタッ」左ひざをさすりながら右足でピョンピョン跳ねる。ズボンをめくってみると皮がむけ赤紫に腫れ上がり血もにじんでいる。愛用のつえは役にたったかどうか怪しいものだ。若いころなら柔道のお陰でとっさに受け身も出たのに。齢を重ねる現実を実感した。
 明日からは「何事にも用心深く慎重に」が我が座右の銘。
   霧島市 久野茂樹(58) 2008/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

母を思う

2008-07-28 21:41:27 | はがき随筆
 子供たちと帰省すると、母は大釜でトウキビを炊いて待っていてくれた。あのうまかったこと。腹いっぱい食べては近くの山をカブトムシを求めて探検し、アブラゼミからからもの悲しいカナカナの声に変わるころ家路につくと風呂の煙が一面に漂っていた。
 あたり前だったあの光景も年月がたち、子供たちが巣立ち、そして母が逝き、遠い遠い夏の思い出となった。母の忙しくたち振る舞う姿、故郷の家。そう言えば自分もあのころの両親と同じ年になっている。
 大好きなうた。
 <日向の国むら立つ山のひと山に住む母恋し秋晴れの日や>
   指宿市 有村好一(60) 2008/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

プールにて

2008-07-28 19:17:54 | はがき随筆
 かごしま健康の森公園。広大な敷地の一角に屋内プールがあり、その監視業務に従事した。そこで、とにもかくにも驚いたのは、80歳のご婦人が700㍍泳いだ後、500㍍の水中歩行をノルマにし「老人会の会長である私が老け込むわけにはいかない」と凛としている。
 プールは元気はつらつの親子連れも多い。老年組は体の機能老化防止や体力回復に励み、若者たちは更なる泳ぎ込みで体力強化を目指す。
 スタッフ一同は事故防止に万全を期し、屋内清潔、親切応対をモットーに、ご利用の皆様を大切にお迎えしている。
   鹿児島市 鵜家育男(63) 2008/7/24 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆6月度入選

2008-07-23 22:30:25 | 受賞作品
 はがき随筆6月度の入選作品が決まりました。
△鹿屋市寿3、小幡晋一郎さん(75)の「春の風」(3日)
△霧島市霧島大窪、久野茂樹さん(58)の「君恋し」(13日)
△志布志市志布志町安楽、武田佐俊さん(65)の「すす」(26)──
の3点です。

 第7回「はがき随筆」大賞の記事を読みました。「家事回し」は、主婦にとっての家事の慌ただしさを「皿回し」に見立てたところが見事でした。「ささやかな宴」は、見てめでる桜を、目の不自由な夫に耳でめでさせる着想が秀逸でした。鹿児島版の作品を3ヶ月読ませてもらいましたが、一ひねりほしいというのが実感です。
 小幡さんの「春の風」は、桜咲くグラウンドで小学3年生にミカンをもらい、お返しに、ソメイヨシノは植樹して8年、同い年だと教えてあげた、という交流が描かれています。「春の風」「桜」「8歳」というにおい合いが効果をあげています。
 久野さん「君恋し」は、今ではすっかり粗大ゴミになってしまって妻の悪口ばかり言っているが、長期の留守ともなると「早く帰ってきて」と頼っている話です。一見老いの愚痴に見せながら、自分を突き放しているところに、おかし味が出ています。
 武田さん「すす」は、多趣味な毎日で、骨とう品のすすけた花台を磨いてみたがなかなかうまくいかない。日ごろ干渉しない妻の態度を「不気味」に感じていたが、今回は一言「自分のすすを落としたらね」。最後の一句が効果的で、今までの夫婦の日常が目に見えるようで、本当に不気味で、かつほほえましい。
 印象に残ったものを紹介します。中島征士さん「黒い小さい」(18日)は、夫婦でコジュケイの卵を電気スタンドでかえすのに成功した話で、ハラハラさせられました。清水昌子さん「ひ孫自慢」(23日)は、勘違いからひ孫が元気なひい爺さんを仏壇のように拝む話ですが、拝まれる本人が悦に入っています。福元啓刀さん「一匹のヤモリ」(29日)は、家族も寄りつかない「私の隠れ部屋」に、夜になるとガラス越しにヤモリが音もなく訪れてくれる。後期高齢者の「かけがえのない─トナー」。尾崎一雄の小説「虫のいろいろ」世界です。福元さんの文章にはいつも感心します。
(日本近代文学界評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦) 
係から 入選作品のうち1編は26日午前8時20分からMBCラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。