はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

思案中

2006-12-31 07:06:33 | はがき随筆
 この1週間、切り抜き整理にアゴを出している。欲が多いのかノートの山である。時折、妻のクールな目が「大変ですね」と言っている。背中の年齢はとっくに欲を捨てて軽く残滓がないようにとの思いと裏腹に増えている。
 この年末を機会に一部を捨て、精選主義にするかと悩む。無学の私には新聞は木鐸の教師なるが惜しいけれど惜別も勉強だと自己弁護している。
 後でゆっくり読む時間は、左党の人の楽しい晩酌に似て美酒の文章に豊かに酔う気持ちになる。窓から見るたわわに黄色の実をつけたキンカンが消えるころは新しい出発に。
   鹿屋市 小幡晋一郎(74) 2006/12/31 掲載

卵を一つ

2006-12-30 07:58:25 | はがき随筆
 アップルパイのリンゴを煮ている時、卵の在庫がないのに気づいた。
 どうしよう。4㌔離れたスーパーまで行く事だろうか。上の孝子おばさんは留守のようだし、あ、そうだとタキ子さん宅を思い出した。走って行き、「卵を貸して」「1個でいいの」と笑いながら貸してくれた。
 焼き上がったころ、ブルーベリーの苗を持って来た友人とアツアツを食べた。もちろん、タキ子さんへも持参した。
 小さいころ、隣近所とのそんな貸し借りがあったと懐かしんだ。自分のうかつさは棚に上げて。
   薩摩川内市 馬場園征子(65) 2006/12/30 掲載

写真はboncoさんよりお借りしました

年の瀬に

2006-12-29 09:10:55 | はがき随筆
 いつものように4時起床。闇を濡らして冬の雨が音をたてて降っている。戦中派の老に無関係にクリスマスも終わって、いよいよ年の瀬。1年が短くなる。今年も友人、知人が旅立ち、取り残されたような寂しさを感じる。癌を二つも手術して、ちょうど2年。元気にまだ現役の田舎医者。先日、白内障を手術していただいて視野が明るく開けてきた。傘寿を過ぎたが、生涯現役を目指して頑張りたい。そんなことを考えているうちに雨音が消えて、窓が明るくなってきた。生きていることは素晴らしいから、それに応えて努力してゆきたい。
   志布志市 小村豊一郎(80) 2006/12/29 掲載
写真はT.ARさんよりお借りしました。

取っておきの秋

2006-12-28 09:26:39 | はがき随筆
 神戸六甲の中腹に建つマンションのエレベーターホール。ランドセルをカタカタと男の子が走り込んできた。「僕何年生」と尋ねると「3年生です」「学校はどちら」「付属です」などと話している間にエレベータが降りてきた。さりげなくドアに手を添えて「どうぞ」と言う。ありがとうと言いつつ「6階をお願い」「僕7階です」と答えながらボタンを押す。6階に着くとドアをしっかり押さえて「どうぞ」。両手に荷物の私はありがとうと肩越しに礼を言いながら降りた。なんと爽やかなこの温もり。眼前に一際鮮やかな紅葉の群れが照り映えていた。
   南さつま市 寺園マツエ(84) 2006/12/28 掲載

冬の日だまり

2006-12-27 14:37:48 | はがき随筆

ジョウビタキ♀



 11月になると朝夕何となく冬の訪れを肌で感じるようになる。今年も冬の使者、ジョウビタキがわが家の庭を終日飛び交っている。
 家内が「お待ちかねのメジロも来ていますよ」と言う。本当だ。昨年は1羽もお目にかからなかった。冬鳥の主役はやっぱりメジロだ。メジロには少年時代の欠かせない思い出がある。休日には鳥籠を庭木にぶら下げ、おとり籠にメジロがかかるのを身をひそめて待つ。「しーっ、来た来た」。胸の高鳴りを抑えることができない。
 メジロの声を聞くと、忘れかけていた冬の日だまりの温もりを感じる。
   志布志市 一木法明(71) 2006/12/27 掲載

写真はmakoto524さんからお借りしました。

はがき随筆11月度入選

2006-12-26 13:39:50 | 受賞作品
はがき随筆11月度の入選作品が決まりました。
△ 志布志市志布志町志布志、小村豊一郎さん(80)の「晩秋の思い」
△ 阿久根市大川、松永修行さん(80)の「運動会の秋」(11日)
△ 肝付町前田、吉井三男さん(65)の「ああ、65歳」(7日)

 11月は、秋という季節の素晴らしさを称える文章が多く出て、私は大いに楽しんで読みました。小村さんの「晩秋の思い」、高野幸祐さんの「彼岸花」、有村好一さんの「秋桜」、川畑千歳さんの「銀杏にはまる」東郷久子さんの「季感」などなど。また秋は様々な催しがありそれを観賞した出先でのことを描いた文章にもいいものがありましたねえ。松永さんの「運動会の秋」、小村忍さんの「音楽・芸能祭の日」、川頭和子さんの「米ノ津川沿い」、萩原裕子さんの「星のバッジ」など。吉松幸夫さんの「プロポーズ」、若宮庸成さんの「恋におちて」などロマンチックな文章にお目にかかったのも久しぶりで、楽しいことでした。そしてまた、三隅可那女さんの「疲労骨折」には感心しました。痛くて両手に杖の生活の中で、何とか頑張って生きるけなげさに。上村泉さんも、体調不良の身ながら「名所大地図」に刺激を受けて藤村ファンの友と木曽路へ。空気が澄んだ妻籠宿が描かれて、これは現代の奇跡である、……とあって、藤村好きの私は、ゾクゾクしました。吉井さんは歳になって疲れやすく不安です。しかし、孔子の「六十而耳順」などを使って「ああ、65歳」をうまくしめましたよ。竹之内美知子さんの「手紙」は「古今集」の名歌を、川久保隼人さんはご自分のふるさとにある島津日新公の「いろは歌」の石碑を、山岡淳子さんは民話など、それぞれ昔から親しまれている古典や民話を使って奥行きを、雰囲気を付け加えています。古典は多くの人々に愛唱されたすばらしいもので、これを付け加えることは効果があります。もちろん、うまく合ったものを選ばねばなりませんが。それがまた楽しく、勉強でもありますね。
   (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)

律儀な居候

2006-12-26 13:37:13 | はがき随筆
 兄夫婦の家には13匹の猫が居候している。1匹は子猫の時に、家の裏にうずくまっているのを見つけ、餌を与えていた猫である。他の猫も同様である。兄は「猫の気分が変わったら出ていくだろう」の軽い気持ちで餌を与えていた。猫も人間様から受けた恩に報いるのか、裏山からトカゲやネズミを捕らえて来ては玄関先に置くらしい。猫にも人情味があり、律儀な性格者が多いと感心する。人間様の中には裕福な家庭でありながら、学校給食費を滞納する輩がいるというのに。猫に現代人が忘れかけているものを教えられた気がする。
   鹿児島市 吉松幸夫(48) 2006/12/26 掲載

クリスマスも終わっちゃった

2006-12-26 00:29:06 | アカショウビンのつぶやき

日曜学校の子どもたちも楽しくハンドベルを演奏しました。


信愛コーラス・モーツアルトの「グローリア」。「神に栄光あれ」力強く讃美しました。


25日の恵生教会では、史上初公開、三線による琉球讃美歌を披露してくださいました。


2人の姉妹がお証をしてくださいました。



 クリスマスも終わっちゃった。
 昨日の鹿屋キリスト教会の祝会に引き続き、今日はハンセン病療養所のK教会を訪ねクリスマス祝会に参加し、多くの方々と共に御子の御降誕を喜び、感謝の祈りを捧げました。
 これで今年のクリスマス行事はすべて終わりました。
 昨日のクリスマス礼拝には病癒され、5年ぶりに参加された、Mご夫妻と手を取り合い、この素晴らしい恵みを感謝しました。

 もうすぐ年が明け2007年を迎えますね。
 ブログもクリスマスから冬バージョンへ模様替えです。

 はがき随筆ブログが産声をあげた時、雪の結晶のイメージだったのを覚えていらっしゃいますか。私のお気に入りのテンプレートなので、春になるまでお付き合い下さいね。          アカショウビン

幻のイカ

2006-12-25 09:41:08 | はがき随筆
 ひょんな事から、呼子へイカを食べに行こうと。しかも朝一で汐風を感じながら。思いのほか静かな玄界灘まで370㌔。夕食のイカは避ける。イカは朝市で、と決めているから。翌朝9時、水揚げされたイカが並ぶ通りに立つ。しかし、何度往復しても食べられそうな所は見当たらず、尋ねてみると、漁港側に並ぶ食堂で食べられるが、11時半からという。次の予定を考えると2時間は待てない。仕方なくウニを割ってもらい口に運ぶ。磯の香が口中に広がる。イカの歯ごたえを楽しみたかったのに……。後ろ髪を引かれる思いで呼子を去った。
   志布志市 若宮庸成(67) 2006/12/25 掲載

以心伝心

2006-12-24 22:17:54 | はがき随筆
 「ねえ、アレ買ってきてくれない?」。近所に住む従姉妹とコーヒーを飲みながら話し込んでいた妻から、お声がかかった。「はいョ」。下手の横好きの域を出ない俳句をひねっていた私は、気安く腰を上げる。従姉妹は申し訳なさそうな顔をしたが、軽く会釈をして話を続ける。最近開店したケーキ屋さんからモンブランを、私の分も入れて三つ買ってきた。「あら、これがアレだったの」「そう、貴女が来たら食べてみようと思っていたの。おいしいわよ」「それがアレだけで分かっちゃうんだ。それって以心伝心?」。妻と私は顔を見合わせVサイン。
   西之表市 武田静瞭(70) 2006/12/24 掲載

Merry Christmas

2006-12-24 00:15:53 | アカショウビンのつぶやき
Merry Christmas
私のブログも「クリスマスパージョン」。
ちょっと見づらいかもしれませんが、明日までご勘弁を。

今日はクリスマスイブ。教会ではクリスマス特別礼拝がもたれる、喜びの日なのです。
私達、聖歌隊は礼拝の中で、モーツアルトイヤーにちなんで、モーツアルトの「グローリア」を讃美します。

夜は教会祝会、牧師先生のクリスマスメッセージ、キャンドルサービス、グループの讃美や、ピアノ連弾、日曜学校の子供たちのハンドベルと盛りだくさんの楽しいプログラムが用意されています。

日頃教会に御縁のない方々もお誘いして、一緒にクリスマスの喜びを分かち合います。

キリスト教徒もイスラム教徒も同じ地球人、この世に本当の平和が来ますようにと切に祈ります。


余生

2006-12-23 10:44:37 | はがき随筆
 喜寿は人生の半ば。その後の余生を価値あるものにするには、過去を深く顧みることから始めねばならないと人は言う。近くのクリニックで、「素直な心・反省の心・謙虚な心・奉仕の心」を「日常五つの心」という額を見て、これまでの自分の歩みを振り返る。人間に公平で公正平等に与えられた長い時間を「日常五つの心」に照らしてみると実に残念な結果しか見られない。これからの余生を一つ「奉仕の心」に真摯に取り組み、些細なことでも充実したものにしたい。登下校の子どもに積極的に声かけし安全に役立ちたい。
   薩摩川内市 下市良幸(77) 2006/12/23 掲載

支局長選 心に響く1作

2006-12-22 15:51:16 | 受賞作品
はがき随筆特集
  思わずホッとして また涙誘われて…
 
 飲酒運転事故で幼い命が奪われ、いじめでもまた子供たちが自ら命を絶つ……年末恒例の京都・清水寺の今年の漢字は「命」でした。読者の皆さんにとってはどのような漢字が思い浮かぶ1年だったでしょうか。
 日々生きて、笑いあり、涙あり。本紙各地方版掲載の「はがき随筆」に今年寄せられた作品から、各随筆担当の支局長らが、こんな時代だからこそ、読んでほしい「ホッとする」、また愛情深く「涙する」作品を選びました。年末の慌ただしい時期ですが、ちょっと手を休めて随筆の時間を。きっと、あなたの心が和み、そして心に響く作品があるはずです。


支局長選 山口版   「秋雨前線」

 ポツリと来た。天気図の前線が日本列島を縦断している。「手紙よ」。妻に渡された封書は女文字。「突然で失礼いたします」。読むほどに富山にいるSさんの奥さんだとわかった。Sは先月からホスピスにいるという。肺がんである。まともな字が書けないからと、本人のメモ書きが同封されていた。数学の得意な奴だった。高校の校長を最後に悠々自適と風の頼りに聞いていた。「とうとう、お呼びが来たようだ」。クギが折れたような字である。今年はカニを食べに行くからなと約束していた。メモの字がにじむ。きっと富山も雨だろう。もう一度会いたい。
   光市 吉田隆司(74)

 秋雨に友への思いをだぶらせ哀愁漂う。友は掲載後に亡くなったという。合掌  (山口支局長・岩松 城)


支局長選 福岡版 「母」

 14日は母の日だった。今は亡いが、私には生みの母と、育ての母、2人の母がある。生母は1歳3ヶ月の私を残して病没したから、生母の思い出は全くない。3年後、継母が現れて、1年後、男の子を産んだ。本来なら、ここから継子いじめが始まるのだが、継母は病弱だった私を、実の子以上に慈しみ、育ててくれた。私がひねくれれもせず、人並み優れた体に恵まれたのは、継母のおかげである。その母への恩返しのつもりで、長男の私は母の実の子である弟に家督を譲って故郷を出、幸福な家庭を築いている。人間万事塞翁が馬だ。ありがとう、お母さん!
   宗像市 成松 欣嗣(78)

 継母の愛、その愛への感謝。母と子、2人の心の清らかさに心洗われる。 (編集委員・小川敏之) 


支局長選 北九州版 「愛されちゃった」
 夕暮れ時のバス停で、坊やから一目ぼれされた。彼が差し出した小さな手。握ると柔らかい。忘れかけていた感触。ママと私の手にぶら下がったり、跳ねたり、握ったまま。
 バスに乗ると、今度は「おばちゃんと一緒に座る」とだだをこねている。彼に好かれて気分は最高。横に座らせると可愛いおしゃべりが始まった。ママの話では2歳。「普段、バスに乗らないので珍しい体験なのでしょう」と話される。降車ボタンを彼に押してもらい下車。動き出すバスの窓に、手を振る母と子の姿があった。
 10分間のドラマ。ありがとう坊や。
   北九州市 伊東千代(75)

 こんなステキな光景が当たり前のように見られる世の中であってほしい。 (報道部デスク・平山千里) 


支局長選 長崎版 「じゅげむ」
 夕方、家路を急ぐと部活帰りでひと休みの野球部の一群。私がそばを通ると、男の子の独りが「じゅげむじゅげむ~」とつぶやいた。「あれ?」と私は立ち止まり「よく覚えたね」とその子に話し掛けた。すると、近くにいた男の子たちが私を見て「じゅげむのおばちゃんだ!」と声を上げた。「???」の私。
 私は小学校に読み聞かせのボランティアに行っている。「じゅげむ」は5年生で読む絵本。あー、昔の5年生が中学生になってここにいるんだ。私の姿を見て投げてくれた彼の気持ちと言葉。おばちゃんの心のミットに見事ストライクで納まったよ。ありがとう!
   長崎市 佐藤雅子(50)

 ハードな練習を終えた野球少年の心が絵本の世界に戻る光景が微笑ましい。 (長崎支局長・松田幸三)


支局長選 大分版 「最後の試合」
 私の学校は、あと2年で廃校。部活も竹田商業として出られるのがこれで最後。どんなに寂しい、くやしいと思っていても、この仲間とするのもあと何日しかない。
 今年は1年生がいなく2学年になってしまい、何をするのにも少し物足りないように感じる。来年は3年生のみだ。後輩がいないというのはとても寂しいだろう。
 商業としてできる最後のソフトボール。今は、勝という気持ちだけ。応援してくれる人たちのためにも、自分たちが元気よく、プレーしている姿を見せて、最後の勇姿にしたい。
   豊後大野市 斉藤知世(17)

 統廃合で母校が消える。「つらいなあ」。読んだ県教委関係者も漏らしていたそうだ。(大分支局長・藤井和人)


支局長選 筑豊版 「貴女のにおい」
 今年もまた母の日が来ました。6年前、母の日に貴女からもらったTシャツは派手になっていますが、着たら汗などで汚れて洗濯しなければいけません。バッグもふかなくてはなりません。「お母さんに似合うだろう」と、一生懸命選んだ時の貴女の手のあかやにおいが消えてしまいます。
 6年前、母の日の1ヶ月後に急死した貴女。また来年、貴女のぬくもりを楽しみにしています。「手あかが消えないで」──。
   飯塚市 加藤一二三(70)

 急死した一人娘のかすかな残り香すらいとおしむ親の心に、胸が熱くなった。(筑豊支局長・武内靖広)


支局長選 筑後版 「迷子」
 孫が3歳のころ、夫についてある催場へ行き、迷子になった。夫は必死に捜したが見つからない。夫の胸は早鐘を打つように高鳴り、大事な孫を!と思った時、迷子の場内アナウンスがあった。夫が急いで詰め所へ行くと、お巡りさんに抱かれ、お菓子を握ってベソをかいている孫がいたという。
 お巡りさんはニコニコして「おうちはどこと聞くと、マチ子ちゃんの前と言うんです。マチ子ちゃんちはと聞くと、僕んちの前と言うんです」。
 夫からの電話の後、一緒に帰って来た孫を見ると涙が出てきたが、お巡りさんの話で家中が大爆笑となった。
   久留米市 坂井幸子(74)

 無事見つかり、作者も読者もほっと一息。可愛いらしいせりふに、心和んだ。(久留米支局長・荒木俊雄)


支局長選 熊本版 「戻ってこいよ」
 昨年、僕は一度部活をやめかけた。腰を痛めたからだ。治療のため部活を休むことにした。夏休みに腰のリハビリをしたが、部活に出ない日々が続くと、なぜか分からないが、サッカーへの愛情が段々薄れてきた。
 9月になり学校が始まった。でも、部室には顔を出せずにいた。1ヶ月ほどたったある日の夜、サッカー部のキャプテンから電話があった。「みんな待っているから、戻ってこいよ」
 キャプテンからの電話がなかったら僕はサッカーをやめていただろう。あの言葉に感謝しながら、またサッカーに夢中になっている。
   菊陽町 湯田周作(17)

 いじめ問題が深刻化する中、再読してほっとした。こんな生徒もいるんだと。 (熊本支局長・柴田種明)


支局長選 宮崎版 「亡き父の教え」
 中学生の時、私は登校拒否になった。雨の朝、「今日は学校に行かない」と言おうとして父のそばに行くと、父はいろりのそばで傘の修理をしていた。
 父は子供のころ、右手のやけどで、指がくっつき、握り拳のようになっている。私は父の手をじっと見つめた。父は左手にクギを持ち、右手の拳で押さえながら、一針一針、丁寧に傘を縫い、終わると「ほら」と差し出した。
 私は無言のまま傘を持つと、雨の中を学校へ向かった。傘の中で涙の雨にぬれながら、父の努力を思った。
 その日から私は弱音をはかない頑固者になった。
   北郷町 永井ミツ子(58)

 父も娘も無言のままなのがいい。父の拳が言い尽くせない言葉を持っている。(宮崎支局長・大島 透)


支局長選 佐賀版 「移ろい」
 4月後半から8月末までほとんど家に居たことがない。退院してすぐ3、4日で再入院で、今回ばかりは妻以外にわがままを言う気力もない。
 お盆前からたくさん飛んでいた精霊トンボやツバメもすべて姿を消した。力強かった入道雲も今は優しい雲になり、朝夕に吹く風の心地良さが、確実に秋の訪れを告げている。
 消灯後はすすり泣きやぼやきも聞こえ、それぞれ皆何かを抱えているのだろう。
 そういった思いとは別に季節は移ろっている。
   伊万里市 前川 蕃(しげる)(65)

 移ろう季節が病状と重なって切ない。掲載から12日目、筆者は亡くなられた。(佐賀支局長・野沢俊司)


支局長選 鹿児島版 「主演女優賞」
 結婚記念の日に、かねとの罪滅ぼしに家内に感謝状を贈ることにした。金婚記念の時にと思ったりしたが、それまでにはまだ7年もある。喜ばせるのは早い方が良さそうだ。思い付きは良かったが、感謝状の文面に困った。思案のあげく、見出しは「主演女優賞」とした。なかなか良い。文面は「姫は24歳の春より今日まで嫁として妻としてまた母として多岐にわたりその役を懸命に演じてきました。本日ここに43回目の結婚記念の日を迎えるに当たり主演女優賞を贈り心から感謝します」と書き、花束を添えて伝達した。白髪の姫が喜んでくれた。
 志布志市 一木法明(70)

 秘けつはお互いに感謝する気持ちを持ち続ける事。主演女優賞に拍手。(鹿児島支局長・竹本啓自)

もみの樹

2006-12-22 15:04:39 | はがき随筆
 このほど、もみの樹コンサートが平出水小学校で開催された。私の散歩コースのすぐ近くなので行ってみた。小学生児童の合奏、合唱、ピアノ演奏「エリーゼのために」、実行委員によるハンドベル演奏「きよしこの夜」、コーラスグループの「エーデルワイス」、宮之城吹奏楽団の「軍艦マーチ」など。音楽好きの私も心和む生の音楽に感動した。
 もみの樹コンサートは今回で8年目だそうで、過疎の地域の小学校にも、すごい文化だと私は思った。また来年が楽しみだ。校庭のもみの樹にイルミネーションがきれいだった。
   大口市 宮園 続(75) 2006/12/22掲載

写真はnakayoshiさんよりお借りしました。

埴生の宿

2006-12-21 08:49:57 | はがき随筆
 瓦がずり落ちそうな親の廃屋がある。私は少年時代、天井のないその荒屋で過ごした。冬は目が覚めると、時には粉雪が枕元に舞っていた。
 とうに、父母は亡くなり、屋根や戸板も苔むして、粗末な埴生の宿だけがひっそりと残っている。
 廃屋を訪ねると、まだ、柱には妹や弟の背丈を測った傷跡がある。父母、妹、弟の5人家族が食べ、笑い、喧嘩し、叱られた思い出が一瞬に蘇る。
 仏壇に花を供えに行ったり、イギリス民謡「埴生の宿」を聴くと、懐かしい思い出が込み上げるのはそのせいかも知れない。
 出水市 小村 忍(63) 2006/12/21 掲載