はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

運賃無料を楽しむ

2019-09-22 07:04:53 | はがき随筆
 大型複合施設「サクラマチクマモト」オープンの14日、熊本県内の公共交通機関が終日無料運転された。これ幸いと、行き当たりばったり旅を楽しむ。
 菊池温泉で大津に出るかと思索していると、山鹿温泉行のバスが現れた。迷わず乗り込む。
 こんな道をと感動しながら1時間弱。山鹿ではタイミングよく桜町バスターミナル行きに乗り継げ、熊本へ帰れた。
 県内4社のバス、熊本市電、電鉄電車を最低1回は利用というマニアックな目標も達成。いろんな方面に挑戦したいが、次回は正規の運賃を払ってどうぞ、と言われそうだな。
 熊本市東区 中村弘之(63) 2019/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載 

ついてない

2019-09-21 18:27:38 | はがき随筆
 明治後期の県内の出来事を調べに、県立図書館を訪ねた。マイクロフィルム化された当時の地元新聞を見たが、記事になっていなかった。郷土資料の書架を見ていると、知りたいことが載っていそうな本が目に付いた。
 正午過ぎになったので、昼飯後に関係個所数ページをコピーしようと館外に出た。食後、書棚に手を伸ばすとさっきの本がない。蔵書検索機でチェックすると「貸出中」に。同じ日同じ時間帯に、マニアックな本を探していた人がもう一人いたなんて。この日、鹿児島地方は梅雨明け宣言されたが、私の気持ちはどんより曇ってしまった。
 鹿児島市 高橋誠(68) 2019/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載

銀の燭台

2019-09-21 18:19:08 | はがき随筆
 もう55年前の学芸会。クラスの出し物は「ああ無情」。教会から銀の食器を盗んで捕らえられたジャンに、司教が燭台まで渡して「人のために生きなさい」と諭す場面。ジャンはT君、司祭はO君で、私はマグロワール夫人だった。背景も担任の指導で、生徒たちで描いたっけ。
 先日、博多座でミュージカル「レ・ミゼラブル」を見た。日本初演から8回ほど見ているが、その日の体調や心持で感動する場面は異なる。
 今回はこの教会の場面で胸がつまり、さっそく担任の先生とO君にメール送信して、数日は思い出話に花を咲かせた。
 鹿児島市 本山るみ子(66) 2019/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

見舞いのこと

2019-09-21 18:13:11 | はがき随筆
 友人からの知らせで、旧友が入院したとのことで病院に見舞った。面会時間の調整もあり、待合室での時間も十分あった。
 がん患者が全てではないと思ったが眉間にしわ寄せている人はたったの一人もいない。
 看護師と会話している女性患者は、化粧を施し着衣もカラフルで明かりに映えて美しく、何だかこちらが元気をもらう。
 内面は苦痛や不安にさいなまれ孤独の毎日なのかも知れないが、一度きりのチャンスの人生の楽しみ方を知らされた。その裏に、ドクターやナースの方々の真心こめた影があることを忘れてはならないと思った。
 宮崎市 黒木正明(86) 2019/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

独り言

2019-09-21 18:00:38 | はがき随筆
 家の前に立派な石の鳥居の参道が見える。桜並木で家から花見ができる。その奥に祠がある。桜並木も今は空も見えない緑のトンネル。杖をつき鳥居をくぐり祠まで。参拝をして帰る毎朝の〝ジョギングコース〟。
 左は広々と水田。青空がうつり絵のようだ。祠の石段に腰掛け、アタマをひねってみる。「水田に光る朝日や蝉しぐれ」。自己満足で一人ニヤニヤ。自然の香りを満喫していたら白いご飯を思い出した。この水田から白いご飯が生まれる。何と不思議なことか。自然の偉大さ。その尊い恵みの命に包まれている。やっぱり傲慢はいけないね。
 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

記録的大雨

2019-09-21 17:53:19 | はがき随筆
 7月初旬の大雨で鹿児島市内全域に避難指示が出た。市内の小学校も休校、孫娘2人が留守番をしてるはず。鹿屋から行くには危険だった。矢も楯もたまらず小6の孫に安否確認すると、私の心配をよそに元気そうな声が返ってきて一安心。幸いにも近隣に川や崖などなかった。「こんな雨の中、絶対に外出などしないで」と念を押し電話を切った。後日知ったが、一斉避難指示が出ても避難先が満杯で機能せず、問題があったようだ。温暖化で近年の雨の降り方には脅威さえ覚える。その度に子らを案じ、豪雨が収まるのをただまつしかなかった。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

腕時計

2019-09-21 17:45:12 | はがき随筆
 戸棚の片隅に指輪を入れていた白い小箱が目に入る。開けてみると、探していた亡夫の腕時計だ。他界した折に病室から持ち帰ったが、気が動転していたのか遺された品々に手をつけぬまま10年が過ぎた。片付けながら、数々の思い出がよぎる。
 思えば、3年有余の入退院のたびに、毎日足を運び、傍らにいるだけで安らいでいた。病魔は二人の間を縮めたが、声がか細くなり永遠の眠りについた。その時刻に合わせたように腕時計の針も止まっていた。
 懐かしさを残した腕時計を、そっとまた、小箱の中へしまった。
 宮崎県延岡市 島田葉子(86) 2019/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

夏草も生きる

2019-09-21 17:37:03 | はがき随筆
 絵手紙サークルでの今年のテーマは雑草。持ち寄った草の名前を図鑑で調べることから始まる。庭の草としてむしるだけで意外と名前は知らない。
 8月はメヒシバとエネコログサとカヤツリグサを描いた。
すると、メヒシバでは傘を作って遊んでいたとか、カヤツリグサは茎をこうやって割くと、四角形になって、蚊帳の形になるのだとか昔の話が弾む。
 さて、文を書く段になり思考中、パッと閃いたのが「夏草も生きる」。この暑い夏によく耐えた。友だちに送ると「雑草も抜いて捨てるのもかわいそうな気がしますね」と返事有り。
 熊本県宇土市 島田葉子(86) 2019/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

2019-09-21 16:56:25 | はがき随筆
 数日前、畑の周囲の草刈りをしていると、けん制するように夫が注意した。「そこはすんなよ!」。大丈夫、言われなくても。トウガンの蔓が伸びてきているのはわかってる、と気持ちが逆らった。
 黄色の花を幾つもつけたニガウリを、草刈り機で切ってしまった。夫が日除け棚を作りはわせた、その蔓を根元から。反射的に草で覆い隠した。炎天下、葉はみるみるしおれていく。
 これではすぐにばれる。「ごめん」とモゾモゾ切り出す。「何や、もったいぶらんで早う言わんか」「慣れんもんがすっからや」。それで済んだ。ほっ。
 宮崎県日南市 矢野博子(69) 2019/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載





はがき随筆8月度

2019-09-21 16:09:48 | 受賞作品
 はがき随筆 8月度
月間賞に柳田さん(宮崎)
佳作は柏木さん(宮崎)、武田さん(鹿児島)、木村さん(熊本)

 はがき随筆8月度の受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】29日「夕暮れ時に」柳田慧子=宮崎県延岡市
【佳作】1日「給与明細書」柏木正樹=宮崎市
▽29日「傘寿」武田静瞭=鹿児島市西之表市
▽29日「74年目の回想」=木村寿昭=熊本市中央区

 「夕暮れ時に」は、読む人の気持ちを優しくしてくれる、美しい文章です。夕暮れ時に訪れた、知的障害をもつ青年の柔らかい美的感性が、廊下の小さな明かりやかすかなサンダルの音にも心を動かしたことによって表されています。つい夫婦と3人での立ち話が弾み、その人が礼儀正しいあいさつとともに帰っていった後も、一刻、幸福な気分が漂ったようすに読みとれました。
 「給与明細書」は、奥様が自慢げに見せてくれた、39年間一枚の欠けもない給与明細書にまつわる思い出です。小遣い稼ぎに明細書を書きかえる達人、銀行入金になったときの味家なさなどなどの思い出。家計簿には安月給のやりくりまで記してあった。ご夫婦の貴重な歴史です。
 「傘寿」は、奥様に80歳の誕生日に、80にちなんで8000円の花束を贈ったら、「もったいない」と言いながらも「生まれて初めてもらった」と喜んでくれたという内容です。往々にして私たちは、愛は空気のようにあるものだと思いがちですが、最近読んだドイツ人の小説に、「愛は意思だ」という表現がありました。やはり努力が必要で、こういうさりげなさはいいですね。
 「74年目の回想」は、たまたま農作業をしているときに、長崎の原爆投下を遠望したという内容です。おそらくそのときは何が起こったかお分かりにならなかったでしょう。しかしそれから74年間いろいろの情報によって「特殊爆弾」が「原子爆弾」として認識され、そのときの「爆炎」のその後の悲惨な実態が思い出されたことでしょう。
 8月ということもあり、また、昨今の我が国を取り巻く国際関係や、世界の随所での戦禍のニュースが絶えないせいでもあるでしょうか、戦争に関係する内容の文章が目立ちました。ある世代以上の人々には忘れがたい記憶です。
 この他に、黒木正明さん戦争中の虚偽「聖戦」、高橋誠さんの幼稚園児の視線による「キャベツの青虫」、立石史子さんのヘビとの挨拶「ヘビと出合う」などの文章が印象に残りました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦



秋はもうすぐ

2019-09-21 12:19:28 | はがき随筆


 長雨が続き、その後は冷えてそのまま秋になると思っていたのに、連日のように真夏日が続いている。
 先日、区の公役があり、神社の草取りをした。もう彼岸花がつぼみをつけ、すっくと立っている。草を取っているとコオロギが次々と出てくる。この辺り夜はきっと虫たちの声でにぎやかだろう。そういえば我が家も夜は虫の音に包まれている。
 翌日、山鹿の温泉に行き、露天風呂にぼーっと入っていた。ぽとりと何かが湯船に落ちた。そーっと見ると底にどんぐりが。秋がそこかしこにやってきていると感じる日々である。
 熊本県玉名市 立石史子(66) 2019/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

ヘビの話

2019-09-21 12:09:57 | はがき随筆
 嫌いなものを聞きつけた人が、わざとそれを目の前にちらつかせる習性を逆手にとった「まんじゅうこわい」という落語があります。そこで私の大嫌いなもの。それはヘビです。あのぬめぬめとにょろにょろがどうにも我慢できません。そのヘビにまつわる事件が小学生のときにあったのです。
 小魚を突こうと銛を手にあぜ道を歩いていると、なんと2~3㍍先に1匹の青大将が。「うわっ」。とっさに少年は銛を投げた。見事に命中した銛はヘビと共にあぜに刺さったまま。一目散に逃げた。現場のその後は65年後の今も知らない。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(70) 2019/9/18 毎日新聞鹿児島版掲載

晩夏

2019-09-21 11:57:37 | はがき随筆

 

 9月に入っても日中は暑い日が続くが、8月もお盆を過ぎた頃から吹く風に秋が感じられるようになる。聞こえる蝉の声も「ホウシ、ツクツク、スットコチーヨー」となり、種が変わったことがわかる。温暖化といわれていても季節は巡るのだ。

 子供の頃は、今より季節の変化に鈍感だった。暑いのにプールの授業が終わったのが不満だった。夏がいつまでも続いて欲しかったのだ。いつも気がついたらもう秋だった。日が短くなり、夕暮れは寂しくなって走って家に帰った。

 今日、庭には彼岸花が花茎を伸ばしていた。夏が終わる。

 宮崎市 中村薫(54) 2019/9/17 毎日新聞鹿児島版掲載


歌のボランティア

2019-09-16 18:19:57 | 岩国エッセイサロンより

2019年9月16日 (月)

 

    岩国市  会 員   吉岡 賢一

 近くのカラオケ同好会のリーダーから「カラオケに行きましょう」とお誘いがあった。まんざら嫌いな道でもないので一応お受けして約束の場所に出向いた。男性3人、女性2人が待っていて「得意な歌を3、4曲ぜひお願いします」と乗せられ、つい破れ声を張り上げてしまった。
 「実は私たちは同好会のメンバーで介護施設などを訪問して歌を聞いてもらっています。もちろんボランティアで」という意外な方向に話が進み「あなたにも、ぜひご一緒してもらって、この曲とこの曲を歌ってほしい」と曲目を指定されたのだ。
 「下手の横好きで自ら楽しむために歌ってきただけです。人様に間いていただく声でも歌でもありません」と一旦はお断りした。だが待てよ。「施設のお年寄りに喜んでいただくボランティアを一緒に」と誘われたのだ。
 地区の社会福祉協議会を通して、あれこれボランティア活動に精を出している今を考えるとむげにお断りするのもねー。しかもよく考えてみると100歳を生きた母も晩年の2年間は施設でお世話になった。そのとき、いろいろなグループが施設を訪れ、お年寄りが笑顔を浮かべていたのを思い出した。
 演歌が大好き、芝居も映画も好きだった母の前で、本気で歌って聞かせたことがなかった私に、遅ればせながら一つの親孝行の場を与えてもらったような気がして、お断りを撤回した。
 となると、歌に合わせたステージ衣装も吟味したくなる。これから胸躍る秋を迎えられそうである。
    (2019.09.16 毎日新聞「男の気持ち」掲載)


血管やわらぐ

2019-09-16 18:18:37 | 岩国エッセイサロンより

2019年9月13日 (金)

 

   岩国市  会 員   片山 清勝

 「次回来院の日、検査しましょう」。家庭医はカルテを繰りながら促す。定年後、「定期ミニ人間ドック」と思い、医師の指示通り検査を受けている。
 朝食抜きで病院へ。毎回、CTや胃カメラ、心電図、血管年齢、採血などいくつもある。手際よく検査は進み、結果が即判明する検査について説明を受けた。
 その一つ、血管年齢が.「年相応の中心点」との判定。退職からまもなくの頃、年相応の許容範囲上限を超えていた。見えない血管が少し柔軟に。この年になっても素直にうれしい。これは家内の食事療法のおかけだ。
   (2019.09.13 毎日新聞「はがき随筆」掲載)