はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

何一つもできぬ

2010-08-17 21:51:01 | はがき随筆
 再就職先も最終ラウンドか。意気込みも知力もやる気も皆無の有り様。しかも、家賃・税金で10万も飛ぶ。投資も下落、下落で追い打ちをかける。これでもか、まいったか。
 これでは、100歳までのパワーを失う。この時に、1月研究公開で参観者も多数やってくる。パソコンと大喧嘩で、老眼鏡が邪魔して1行打つのに時間も要してしまう。眼鏡なしでは何一つ出来ぬ。
 嗚呼と言う間に時間は過ぎる。欲張るから、邪念を切り捨てなければ、今は何一つも出来ぬ。生きる道も見つけ出さなければ……。
  出水市 岩田昭治(70)2010/8/47 毎日新聞鹿児島版掲載

倚りかかってもいいよ

2010-08-17 21:32:03 | 女の気持ち/男の気持ち
 「病名は何ですか」「腫瘍とはがんってことですか」「第何期ですか」……。
 MRIの写真を見ながら、医師に淡々と質問をする母。付き添いの私の方が動揺して何も言えない。
 「そうですか。それでおなかが痛くなるんですね。原因が分かってすっきりしました」
 母らしいスパッとした物の言い方である。しかしドキンドキンと母の心臓の音が伝わる。
 3人姉弟の真ん中で一番できの悪い私を、母はいつも引っ張り上げてくれた。「あなたはあなたのいい所がある。人は人、自分は自分」と言い続けてくれた。それがどれだけ私の心の支えとなったろう。
 母のモットーは「自分でできることは自分でする」。詩人の茨木のり子さんの「倚りかからず」がお気に入りで「倚りかかるとすればそれは椅子の背もたれだけ」の言葉をかみしめて、弱音を吐かずに凜と生きている。母は私の理想の女性であり、誇りでもある。
 でもお母さん、もうそんなに頑張らなくていいよ。倚りかかっても私はびくともしないから。こんなに強くなるように育ててもらったから。だからこれからは私たち子どもにしっかり甘えてほしい。
 「老いては子に従えだよ」という私の言葉に「そうね」と、すっかり小さくやせてしまった母が力なく笑った。
 どうぞがんに負けないで、私たちのそばにいて。
  福岡県宗像市 中村純子45歳 2010/8/17 毎日新聞の気持ち欄掲載