はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

孫娘に乾杯

2018-09-27 19:35:22 | はがき随筆
 じぃじと話したいと孫娘がやってきた。高校1年の悩み多き頃である。いささかどきどきし対面する。友達が出来ない、勉強が面白くない、ピアノは好きだが続けるべきか、北海道の大学に行きたい等々。なぜかホッとしながら、ほほえましく相づちをうつ。七十数年前の己の青春時代を思い出し、時折、甘ずっぱい話を入れる。じいちゃんにもそんな時代があったんだと言う高1女子に、成長中のたくましさを感じる。時に悲憤慷慨、人生の機微にふれつつ、恋をし、母となり、豊かな日々を積み重ねることを心から願う。明日はピアノ発表会!
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2018/9/27 毎日新聞鹿児島版掲載

犬ビワ

2018-09-27 17:17:24 | はがき随筆


 夏の日、涼をとりに山道へ入ると「犬ビワ」の実が、道を覆い尽くしていた。
 子供の頃、姉や弟と競いあって食べたなあ~と懐かしい。
 戦後の子どもたちは、誰もが空腹だった。唯一真夏に熟す犬ビワの実は、一時空腹をやわらげてくれた。
 車を降りて、一粒口に含んでみる。変わらない優しい甘さに思わず胸がキュンとなる。
 今子どもたちは、空腹を知らない。だがこうも自然災害が続くと、不安になる。戦後70年も過ぎると、懐かしむばかりだが、子供たちにはあんな体験をさせたくはない。
  宮崎県日南市 永井ミツ子(70)2018/9/27 毎日新聞鹿児島版掲載

味取観音堂

2018-09-27 17:06:25 | はがき随筆
 本紙に掲載されたお二人の随筆「山頭火」を呼んで、近くの、山頭火が堂守を務めた味取観音堂(曹洞宗瑞泉寺)に行ってみた。
 観音堂の入り口には「松はみな 枝垂れて 南無観世音」と刻まれた句碑が立ち、その先に、山頭火がなんども上り下りしたであろう苔むした急勾配の石段が観音堂に続いていた。石段の周りは高く広く枝を伸ばしたもみじに覆われており、お堂の前にたたずむとフッと山頭火が現れるような気配がした。
 紅葉の季節に是非お出かけを。
  熊本市北区 岡田政雄(70) 2018/9/27 毎日新聞鹿児島版掲載

悩み多き年ごろ

2018-09-27 16:57:03 | はがき随筆
 高校生になった。JKと呼ばれるキラキラした時間を過ごせると思っていた。しかし、勉強を強いられる日々。悪口にあふれた会話。進路選択、今だけでも大変なのに、耳にするのは給料が少ない、過労、理不尽なことへの大人の嘆き。将来に期待することはできなさそうだ。嫌なこと。逃げだしたいことをすべて体に流し込まれ、息をしているのもつらい。私は変わりたい。まだ16年しか生きていないのに、つらすぎる。進むことは怖いが、進んでいくしかない。必死に生きようと思う。私はまだ若い。
 鹿児島県姶良市 梅村薫(16) 2018/9/27 毎日新聞鹿児島版掲載

孫娘のお気に入り

2018-09-27 15:53:02 | はがき随筆
 夏休み、孫たちと買い物に行くと、2歳になったばかりの孫娘はピンクの靴を選んだ。家に帰るとその靴をだっこして幾度も「ねえ見て」と見せに来た。「可愛いね、履いてごらん」と言うと、懸命に履こうとする。その仕草が愛らしく「良いネ」と声をかけると「ウン」とニッコリした。
 数日後、娘から保育園に履かせて言ったら「靴をずっと持ち歩き、友達に見せてましたよ」との事と、メールが届いた。よほど気に入ったか、メールを受けた爺、婆もその様子を思い満面の笑顔になりました。靴も喜んだろうね、ありがとう。
  宮崎県西都市 河野満子(68) 2018/9/27 毎日新聞鹿児島版掲載

2018-09-27 15:45:17 | はがき随筆
 爪をかむ癖が未だに治らない。でも、さすがに寄る年波には勝てなくて、グッとかみ切る力が弱まり、やっと中途半端な形ではあるが悪癖との別れが訪れようとしている。折しも、近年の不愉快なニュースとその曖昧な決着は、少し落ち着いた七十路の歯を酷使にかかる。歯ぎしり、歯がみを繰り返させて、その挙げ句にへそをかませる。
 世相が直接の原因ではないのだろうが、以前治療した虫歯か痛み、久々に歯科医の椅子に横たわった。初診からほぼひと月、全ての傷んだ歯のメンテナンスを終え、次なる理不尽なニュースに向き合う態勢は整った。
熊本県菊陽町 有村貴代子(71) 2018.9.279

間違い絵探し

2018-09-27 15:42:08 | はがき随筆
 毎日新聞の「間違い絵探し」コーナーの大ファンだ。簡単そうだが敵もさるものである。頭の体操になると目を凝らし、眺め、いつも5カ所くらいはわかるのだが、そこから先が問題だ。ならば最初からと1カ所から攻めるが結果は同じ。絶対このマス辺りだと続けるが。
 「ねぇ、教えてよ」と夫に助け船を求めるのだが「ん、ん、わからん」とパスとなる始末。中途半端になって消化不良。いつものパターンで残念。自分をどうやって立て直すかと軟弱な私。でも止められない。楽しいも~ん。次は頑張るぞ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(72) 2018/9/27 毎日新聞鹿児島版掲載

故郷の河川と魚

2018-09-27 06:12:49 | はがき随筆
 橋から少し濁った川面に目をやると、50~60㌢くらいのコイが2匹戯れる。正方形に似たエイが広がり、粋なしま模様の魚も泳ぐ。ボラが群がり、まさに魚王国。水族館の水槽のようだ。
 昔はおじさんたちも投網をした。小魚やザリガニ、軽石もひっかかった。メダカは清い流れに遊び、おたまじゃくしは泥臭い水辺に尾っぽを振っていた。
 魚たちは餌をはむため、ノリの付いた石にいそいそと集まる。この2級河川の名前は網掛川。酷暑の中、肉眼で魚王国を観察できて感激と敬服。川のそばにたたずんで四季を感じる。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(73) 2018/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載

自立への一歩

2018-09-24 06:38:51 | はがき随筆
 この夏の暑さがこたえたのか、咳が出て止まらない。
 受診すると肺炎を起こしていて即入院となる。さて困った。家事を一切したことがない夫にいろいろとやってもらわねばならない。着替えや洗面道具はどうにかそろえて届けてくれた。
 さて、洗濯は? 洗濯機の使い方を説明するが、なかなか理解できない。「説明の仕方が下手だ。図式で示せ」と言う。「ハイ、ハイ」
 無事に翌日、洗濯された着替えが届いた。掃除機もかけた。弁当に飽きて御飯を炊いた。私の入院が自立への一歩となったようだ。
  熊本県宇土市 岩本俊子(69) 2018/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載

はなまるの思い出

2018-09-23 07:33:22 | はがき随筆


 ピアノが弾けたら楽しいだろうと、始めたのが68歳のとき。娘に週1回のレッスンを受けるのだが、脳細胞の減少か、指令が指先まで届かない。娘も必死。初めは手取り足取りと優しい指導も次第に1オクターブ高いトーンで指摘がとんでくる。
 「左手が間違ってるよー」「はい」。生徒はひたすら練習するのみ。ようやく合格の曲には赤ペンで「はなまる」がつく。横に「おつかれさま」とある。
 思わず先生とハイタッチ。優しく、時に厳しく指導してくれた娘には金のはなまるかな。お陰で脳に刺激を与えながら楽しむ幸せがある。
  鹿児島市 竹之内美知子(84) 2018/9/23 毎日新聞鹿児島版掲載

牧水の千本松原

2018-09-22 06:58:42 | はがき随筆
 牧水の全国で最初の歌碑があるという沼妻の千本松原の公園へ記念館の帰りに行ってみた。
 この松原に伐採の話が持ち上がった時、牧水は先頭に立ちここを守ったという。
 歌碑は広大な松林の中のバス停の近くにあった。そこでは中年の人たちがスマホを手に皆下を向いてあちこち歩きまわっていた。思い切り人の良さそうな男性に声を掛け聞いてみた。ここは車が通らないからポケモンゴーが安全にできると言う。
 牧水は今の大人の一人遊びをこの松林が守るならいいじゃないか、と言うだろうか。時代遅れの錆びた頭で考えた。
 宮崎県延岡市 露木恵美子(67) 2018/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載

移れば変わる

2018-09-21 18:19:20 | はがき随筆


 休日の早朝、仮り払い機と耕運機の音。作物を植えるためではなく土をかえし除草の作業なのだ。元気だった耕作者も年をとり畑に手間をかける体力をなくす。休耕地には瞬く間に雑草が茂り、油断すると背丈ほどに伸び厄介。若い者には耕作の時間も気持ちもなかろうし、考えれば買う方が安い。
 低くうなる機械音は何ともいらいらしく耳についていたが、新聞を読むうちに忘れ、いつしか作業は終わっていた。新鮮な土と青草の匂いがたち、かすかに農作業着の父の姿や畑の隣人の元気な声が脳裏をよぎる。「刈草の清しく匂う夏さかり」
 熊本県阿蘇市 北窓和代(63) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

トキソプラズマ

2018-09-21 18:03:22 | はがき随筆


 先ごろの毎日新聞鹿児島版掲載「余禄」を呼んで驚いた。ネコを宿主とするトキソプラズマ原虫に感染したネズミは、天敵であるネコを好きになる。さらに世界的には人類の3人に1人が感染者というこの原虫、もしや人の心も操るのか……という内容だ。つまり人類の3分のⅠは猫好きになるということではないか。最近の異常なまでのネコブームもうなずけるというものだ。カミさんのいとこは種子島に4人いるがいずれもネコ大好き人間だ。
 我が家でも老夫婦の心はイークンに完全に奪われている。島の中もノラクンが闊歩、将来地球を制覇するのはネコかも?
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(81) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載





君の名は

2018-09-21 17:56:07 | はがき随筆
 犬を連れた老夫婦とよくすれ違う。犬の名前など知るよしもなかったのだが、休日に散歩していると偶然にもその犬を見つけた。彼の小屋には「あんこ」と書かれていた。こげ茶色の毛の色にぴったりの名前だった。
 ある日久しぶりに彼に出会ったので「あんこ」と声を掛けてみた。するとなんで知らないおっさんが俺の名前を知っているんだと言わんばかりに、私の顔を胡散臭そう睨みながら、ワンと一声吠えたかと思うと、主人の背後に隠れてしまった。よほど意外だったらしい。
 以来、会ったときに声を掛けても、あんこはつれない。
 宮崎市 福島洋一(63) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

鹿児島旅行

2018-09-21 17:44:57 | はがき随筆
 


鹿児島旅行をしてきた人にお土産にかるかんをいただいた。賞味するとかつて旅行した鹿児島の情景がよみがえった。
 70代のころ、小学校の旧友3人で薩摩半島の西南部、坊津までのバスツアーに参加した。坊津は中国から渡来して奈良に唐招提寺を創建した鑑真が上陸した所である。
 城山からの桜島も素晴らしかったし、江戸時代に全国を測量して日本地図を作製した伊能忠敬が、番所浜海岸を日本三景に勝るとも劣らない絶景と称賛したことなどを思い出した。枕崎で食べたカツオのビンタ(頭のこと)煮は美味しかったなあ。
 熊本市東区 竹本伸二(90) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載