はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

学校新聞

2022-08-29 17:46:58 | はがき随筆
  「五十年のあゆみ」という母校の記念誌がある。初めて手にしたのは30年近く前。私が勤め先で高校新卒の採用担当として各地の高校を訪問した頃だ。
 ある年、母校で新卒採用の打ち合わせを済ませると、世間話になった。私は「ここの卒業生です」と話した。すると目の前の教諭が「そうでしたか」と1冊の本を取り出し「どうぞ」とくださった。50年史だった。
 年度別に沿革を見たら、見覚えのある学校新聞の一部が紹介されていた。見出しは「盛大だった記念式典 創立20周年」。昭和33(1958)年度で、私は新聞部の部長を務めていた。
 当時のことは、よく覚えている。校長室で「新聞部として20周年式典を記録してほしい」と要請された。それで全力を挙げて取材、発行。校長から「いい記念と記録になります」と感想をもらい、部員全員で喜んだ。
 50年史を読み進めると、新聞創刊号には創立10周年記念行事が載っていると分かった。20周年は第24号、50周年は第162号で、学校の記録を残すという使命が脈々と続いていることに感動した。
 私が関係した第24号はモノクロ印刷。当時は印刷物が唯一、後世に残る記録だった。懐かしいと同時に、パソコンで記録する今との隔世を感じる。
 歩けば、廊下はきしみ、窓枠が揺れた。記念誌のページを繰りながら、風が吹き込む木造2階建て校舎が目に浮かぶ。
 小さな学校新聞にも使命がある。高校時代よりも今の方が余計にそう感じている。
 岩国市 片山清勝(81) ひといき欄掲載 岩国エッセイサロンより

洋子さんへ

2022-08-29 17:39:33 | はがき随筆
 米寿の祝いにボールペンを見立てて送ってくださり「ちょうちょの絵柄がすてきで」とお礼状を書いた12月。あれから間もなく永遠の旅に行かれました。
 月日は水の流れのごとくと、全くその通りです。コロナ禍の日々、文章を書くことで救われています。私が書いた「花のちから」の随筆をあなたの写真の前に置いてくださった息子さんの優しさに胸がつまりました。
 先日、すてきなショルダーバッグが届きました。チョコレート色で原稿が二つ折りで収まります。勉強に行くのに軽くて「ハイカラ」です。今は私の机の横で出番を待っています。
 宮崎市 田原雅子(88) 2022.8.29 毎日新聞鹿児島版掲載

麦ワラ帽子

2022-08-29 17:30:25 | はがき随筆
 レッツウオーク。レンタルの歩行器についているフレーズです。本体と車輪は黒で金具の部分は涼やかな水色のスマートな新車。
 2本の杖は赤と紺のツインで他のより長くてとても好き。お医者様が「お気に入りの杖ですね」とにっこりされた。年老いても色に対するこだわりは強く、季節と一緒に部屋の小ものを替えたり、施設にかざってある絵画や置物など、美術館に行った気になり時々探検している。
 可愛いピンクの麦ワラ帽子を家の解体の時、持ち出せず、とても悲しい。壁に掛けておしゃべりできたのに。
 熊本市東区 黒田あや子(90) 2022.8.28 毎日新聞鹿児島版掲載

彼女

2022-08-29 17:23:28 | はがき随筆
 いたずらをしかりつけて、たたいたりなどしたら絶対にだめ。しばらくは寄ってもこない。
 やり過ぎたかと、どんなに謝ってもだめ。言葉は意味をなさない。でも半日もたつと「ニャーン」と空腹を激しく訴えてくる。無視しても要求はやまない。
 頭を擦り付けてきて、我がスネを毛だらけにしてしまう。ガリガリと餌をかみ続け、満腹になると一言の礼も言わずにひなたぼっこの窓際へスタスタと行って、どかっと寝っ転がる。
 夜になると、枕の横にやってきて頬のところで、頭が割れるかのような大あくび。全く「寝る子」とはよく言ったものだ。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(53) 2022.8.27 毎日新聞鹿児島版掲載

お絵かき

2022-08-29 17:16:42 | はがき随筆
 6歳になる孫娘はお絵かきが大好き。最近腕を上げてきた。
 遠隔地に住んでいるのでなかなか会えないが、スマホのビデオ通話で私も一緒になってお絵かきを楽しんでいる。私は彼女からは見えないところにイラスト集を置いて、時折チラ見しながら描く。いわばカンニングだが、彼女の「画才」に負けないためには仕方がない。
 先日は私を描いてくれた。「じいじ、もっと顔見せて」とか「じいじ、立って」などと注文が多かったが結構ハンサムに書いてくれたので内心ニンマリ。
 お礼に今度は私が描いてあげよう。白雪姫のように可愛く。
 鹿児島県志布志市 藤森利一(73) 2022.8.27 毎日新聞鹿児島版掲載


おい、元気か?

2022-08-29 17:09:10 | はがき随筆
 幼な飲み友も酒量が落ちた。確かに薬は増えた。「おい、酒をつげ」とごり押ししていた彼が、「医者に止められてね」としょんぼり。がたいの大きい彼、仲間の人望も厚い。一人でしゃべりすぎると「少し黙っちょれ」といつも彼に遮られる。引き立て役の彼がいないともめるからなあ。程なく、体調を持ち直したからと復帰してきた。少量の酒ならいいらしいが、ホントかなあ。奥さんは私に「飲んだら殴ってください」と言う。飲み会も休会のまま3年。どうしてるかなあ、と電話した。「元気や」と言うと「生きてるぞ」。また飲みたいなあ。
 宮崎市 原田靖(82) 2022.8.27 毎日新聞鹿児島版掲載


ナス

2022-08-29 16:59:21 | はがき随筆
 花のついた鉢植えのナスを買った。以前、1回育てたことがあるが硬くて食べられなかった。ナスの花には一つの無駄がないと聞いたが、落ちる花もある。私には実がなるまで観察の楽しみが待っているので、朝晩水だけはたっぷり与えた。今、3個目がぶら下がっている。これがまた姿がいい。下ぶくれで絵になる。雨あがりに水滴でもついているとカメラに収める。ナスの料理で好きなのが、ナス南蛮。油炒めもいける。ゴーヤーとも相性が良いし、夏野菜の主役と思う。最近は種類も多くなった。紫色のきれいな色に憧れる。たかがナス、されどナス。
 熊本県八代市 桑本恵子(76) 2022.8.27 毎日新聞鹿児島版掲載

令和の旅事情

2022-08-29 16:50:57 | はがき随筆
 新幹線は通過する駅名表示が読めないほど速い。新幹線というカプセルに入り、目的地まで一気に運んでもらう。
 昔、母とローカル線の旅に出かけた。一日に数本の運行ダイヤの山陰線の萩から下関への旅だ。大正生まれの母は、車中、昔話を繰り返し話していた。時間はたっぷりあり、昔々、年の離れた兄が療養していた診療所の広大な松林を、車窓から見届けた安堵感が伝わってきた。
 しかし、令和の時代、旅の余韻に浸る暇もなく目的地に着く。車内の電光掲示板のテロップから目が離せない自分もいる。令和の旅はITと共にある。
 宮崎市 惠下貴子(71) 2022.8.27 毎日新聞鹿児島版掲載

腰痛

2022-08-29 16:41:33 | はがき随筆
 台所に立って食材を調理していると、突然腰に激痛が襲った。何でだろう。手を止めて椅子に腰かけたら和らいだ。
 近くのコンビニで弁当を買うと簡単だが、老化を遅らせるには、こまめに体を動かした方がよいと考えている。しばらく椅子に掛けていたら痛みは治まった。私は立ち上がって、ナスとピーマンのみそ炒めにとりかかった。
 後期高齢者になっても健康な体を保持して、家庭生活を続けたいが、突然襲う激痛にはどう対処したらよいだろうか。今度クリニックに行った時、先生に尋ねてみることにしよう。
 熊本市東区 竹本伸二(94) 2022.8.27 毎日新聞鹿児島版掲載

ピコーン

2022-08-29 16:33:28 | はがき随筆
 「ピコーン」。私の携帯電話に毎朝必ず1件の通知が来る。県外に住む母からだ。1年ほど前から欠かさず送ってくれる。
 「行動しないと答えは出ない」「常に真剣に楽しんで!」。メッセージはいつも、なぜか私の状況にぴたり。勇気づけられたり、自分を見つめ直させてくれたりする。
 一人暮らしも2年目。電話をする機会も週1回程度になった。今では、メッセージに既読をつけることが無事の返事。でも、それ以上に母の偉大さや温かさを感じる毎日だ。
 「ピコーン」。今日はどんな「金言」をもらえるだろう。  
 鹿児島市 吉井愛海(20) 2022.8.27 毎日新聞鹿児島版掲載


2人の名付け親

2022-08-26 14:58:13 | はがき随筆
 その日、県の教育長の講演会は我が家が会場だった。
 そこに畑で産気づいた母が戸板で運び込まれ、私が生まれた。父は教育長に名付けをお願いし、快諾を得た。が、命名の日、近隣や親戚に配る赤飯は炊きあがったが名が来ない。父が窮余、正樹と決めたとき、電報! 「ナハマサキ マサハマサシゲノマサ キハジュナリ」。その符号に居合わせた皆が驚いたという。
 祖母は漢字は古歌にある真幸を主張したが、相手が国文学者と聞いてすぐ矛を収めた。
 「どや、ええ名前だったやろ」。あの世で父に会えば、若い日の一コマを笑って話すだろう。
 宮崎市 柏木正樹(73) 2022.8.26 毎日新聞鹿児島版掲載


2022-08-25 18:01:20 | はがき随筆
 父の居る施設から苦情の電話。今回も兄弟姉妹によるコロナ下面会への厳重注意。担当者もお疲れか、今日は30分の弾丸トーク。しかと伝えます、と丁寧に嘘をつく。翌日、叔母から「兄ちゃんにおはぎば届けたばってん食べたろうか」と予想通り電話が来た。「きっと喜んで食べたばい、ありがとう」とまた嘘をつく。状況的に差し入れ厳禁は常識だが、兄を想う89歳の優しさは尊い。夕方には見知らぬ番号から防犯カメラ設置の営業電話。うちはもう百個のカメラを付けてると大嘘をついた。私が死んだら浄玻璃の前で、閻魔様を困らせるに違いない。
 熊本県八代市 廣野香代子(57) 2022.8.25 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆7月度

2022-08-25 17:21:35 | はがき随筆
月間賞に柳田さん(熊本)
佳作は相場さん(熊本)、久野さん(鹿児島)、井手口さん(宮崎)
 
はがき随筆7月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

【月間賞】 26日「あの空の下」柳田慧子=宮崎県延岡市
【佳作】6日「世界に一つの本」相場和子=熊本県八代市
    14日「合歓の花」久野茂樹=鹿児島県霧島市
    16日「夕暮れの畑道で」井手口あけみ=宮崎県高鍋町

 今年の梅雨は例年になく早く明けた。九州南部では18日早いとか、その反動か豪雨被害や、これもまた観測開始以降で最悪の熱波に見舞われる猛烈な暑さが続いている。世界情勢はいまだ安定せずロシアとウクライナの戦闘は激化。
 柳田さんの「あの空の下」はソ連崩壊4年後の初夏、ロシア上空を見下ろした旅の感想をつづって投稿。灰色に覆われたロシアの大地の恵み豊かで長大な川。「すごい」。おおらかに流れていた川の姿から果てしの無い戦闘を憂う。時は過ぎ行き、窓から見たあの空の下の国境を思う慧子さん。川が曲を描いて流れていたロシアの大地に平和が来ますようにと私たちの祈りも届けたい。
 相場さんの「世界に一つの本」不思議な本のご紹介でした。その本には心というペンで虹色七色を使い毎日書き上げるのだそうです。心次第のペンは走るように書けたり、涙雨で書けない時もあるのだそうですが夢いっばいの本にしたいと。和子さんの心に神様の手が動き始めると今日のページに人生が記録されます。あなたの今は虹色に輝いていますね。
 久野さんの「合歓の花」。細かい葉が鳥の羽のように付き、夜には折りたたんで垂れ、まるで眠ったかのよう。万葉の時代や江戸の時代にも人々は和歌や俳句に合歓の花を詠んだのですね。茂樹さん、あなたの随筆から私も「合歓の花」を想いだしました。英語では「ペルシャの絹の木」と言っていました。幼い頃行ったこともないペルシャ帝国のペルシャ猫の柔らかな毛を想像していました。甘美な白日夢の世界をさまようことになりました。
 井出口さんの大声の挨拶から始まる「夕暮れの畑道で」のやりとり。春の庭を彩ったポピーの苗を頂いたお礼を伝えに行った時のお相手は畠での作業中だったらしく、あけみさんの声が届かない。近づいてこられての再会。ハスガラを鎌で切り「みそ汁に」と持たせたり、摘んだばかりの旬のブルーベリーも手のひらに頂いたりと、ゆったりと過ごすことの確かさに気づいた夕暮れのワンシーン。
 7月の投稿では「はがき随筆」でつながっている読者の話題を楽しみました。熊本の今福さんの「新聞の良さ」、黒田さんの「90歳の宝もの」、宮崎の「始まりは」の矢野さん、貞原さんの「誕生会」。
 言葉をつないで絆を紡ぐ良さを再確認しました。
 日本ペンクラブ会員 興梠マリア

「かわいいよ」

2022-08-25 17:14:32 | はがき随筆
 トイレの前に大きめの鏡がかけてある。
 3カ月前から始まった抗がん剤治療で、髪の毛がどんどん抜けていく様子が、いやが応でも目に入る。なるべく見ないようにしていたが、気持ちの落ち込みはいかんともしがたかった。
 ある朝トイレを出た時、鏡の中の私と目が合った。キューピーみたいな頭の、さみしげな表情の私がいた。悲しくなって、にっこり笑い「かわいいね。かわいいよ」と言ってみた。すると不思議なことに気持ちが明るくなっていった。
 それからは鏡を見るたび、にっこり笑って「かわいいよ」。
 鹿児島県出水市 清水昌子(69) 2022.8.24 毎日新聞鹿児島版掲載

事務局長への手紙

2022-08-25 17:06:24 | はがき随筆
 「事務局長、これはなんですか」と嫌みを込めた言い方で問うと「僕は露木さんと同じ考えですよ。ここには合わないと言ったんですがね」の即答に返す言葉は出てこなかった。
 ここは早春、河津桜と菜の花が共演して、堤防沿いに美しい景観を楽しませてくれる所。入り口や所々に、石、竹、板と自然の材料で作られた花壇もある。そこに人工の大プランターが20個以上も持ち込まれた時のことだ。ここへの自然へのこだわりも、思い込みも誰にも言ったことはないのだが……。「同じ考えですよ」の一言に今は救われた思いで過ごしています。
 宮崎県延岡市 露木恵美子(71) 2022.8.23 毎日新聞鹿児島版掲載