はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

人それぞれだが

2011-06-29 15:50:31 | はがき随筆
 A、B、Cの3人。決して永田町界隈の人物ではない。
 Cは、Bがその場を離れた途端、Bの悪口を言い出す。ところが、Bの姿が見えるや否や、豹変し、先ほどの悪口雑言どこへやら。Bと実に親しげに無二の親友とばかりに話し込む。Cの人間性や如何ならん。
 つきあい上手なのか。己の感情をうまく操れる器用人か。はたまた大物なのか。
 小物で不器用な私など、とても受け入れることは出来ない。だから、当然のことながら自分の友達にはこんな人はいない。
 人それぞれとは言う鵜が、この手の人間は、どうも苦手だ。
  肝付町 吉井三男 2011/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載

涙が止まらない

2011-06-29 15:43:07 | はがき随筆
 瓦礫の山の被災地のテレビ映像。大震災から3カ月の6月11日黙祷の映像。私も黙祷する。涙がとめどなく頬を伝わる。朝な夕な震災地のニュースを見ると居てもたってもいられない。紙上では幼い兄弟2人の母が命を絶った。幼い2人の将来はどうなるのだろう。
 神様の仕業か、残酷すぎる。悲しみに沈んで心が揺れた。現地へ出向き手を差し伸べたい。川で洗濯する人、ドラム缶でお風呂のお湯を沸かすひと、壁のない部屋で寝起きする人、さまざまな被災地の暮らし。1日も早い復興を切に望みたい。私も今を精いっぱい生きている……。
  姶良市 堀美代子 2011/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載

梅雨明けを待つ日

2011-06-29 15:36:38 | はがき随筆
 2週間前、道路沿いに花の苗を植える手伝いをした。
 先日、どんなに成長したか楽しみで見に出かける。いきいきと繁茂しているのを想像していた私は、少しがっかりした。
 連日の雨でひょろっとやせているもの、黒ずんでしまった花など哀れな姿を見てしまった。これも自然の摂理と、気を取り直して終盤にさしかかった梅雨が、開ける日をひたすら待つことにする。青空の下、きれいな花を咲かせて道行く人の目を楽しませてくれることを願っている。花は車中から見るより、やはり歩いた方が鑑賞しやすいこと請け合いである。
  霧島市 口町円子 2011/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

「おぬし やるな」

2011-06-29 14:48:31 | 岩国エッセイサロンより
2011年6月28日 (火)
     岩国市  会 員   安西 詩代

 母の日に嫁から薄紫色とピンクの優しい色のタオルが2枚贈られた。趣味のハイキングにちょうど良い。「ありがとう。優しい色ね」と言うと「お母さんのイメージの色です」とうれしいことを言う。

 若い嫁だったので、私の知っている事はうるさがっても教えた。今年で結婚14年目。子供3人を育てている。近頃は意見が合わず丁々発止する場面もある。たくましくなってきた。

 このタオル色は私への期待の色だろう。言葉でなく自分の意志を表現するうまい手段を見つけたことに嫁の成長を見る。優しい色の姑(しゅうとめ)になろうかな。

        (2011.6.28  毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載


ご報告

2011-06-28 06:19:39 | ペン&ぺん
 今月12日、北九州市で開かれた第10回毎日はがき随筆大賞の発表・表彰式に行って参りました。遅ればせながら、ご報告申し上げます。
 当日は、停滞する梅雨前線のため九州南部は大雨。私が乗った新幹線も熊本─玉名間で、いったん停車。どうなることかと思いましたが、やがて徐行運転を始め、なんとか会場にたどり着きました。
 鹿児島からは、伊佐市の山室恒人さん(故人)の作品「得度式」がノミネートされており、優秀賞を受賞されました。故人に代わって奥様を式典にお招きしましたが、あいにくの雨。列車が遅れて、表彰式には間に合わず、ご長男に賞状を受け取っていただきました。鹿児島だけでなく、他県の参加者も遅れたり欠席したりした人が多く、誰のせいでもない雨を恨みました。
 表彰式にあわせて「命」「絆」をテーマに募集した毎日はがき随筆文学賞にも多くの応募をいただき、ありがとうございました。残念ながら、鹿児島からの受賞はありませんでした。しかしながら、高校時代や大学時代の仲間や、はがき随筆の投稿を通じた随友らとの手紙での交流など味わい深い逸品が寄せられ、入賞をめぐって選考者を大いに悩ませたと聞いています。
 投稿作品を読ませていただきました。「絆」をテーマにした随筆を読み、人と人が交友することの大切さを改めて思いました。くちごもるよりは、稚拙な言葉でも語りかけること。しゃれた言葉でなくても、心から書き送ること。それが、きっと「絆」なんですよね。
 来年は、ぜひとも鹿児島から、大賞や文学賞を獲得したいものです。
 さて、来月16日午前10時半から、はがき随筆の鹿児島地区勉強会をJR鹿児島中央駅前キャンセビルで開催する予定です。常連さん、初心者を問わず多くの方の参加をお待ちしています。
  鹿児島支局長・馬原浩 2011/6/27毎日新聞掲載

6月のかもめ

2011-06-26 23:15:12 | はがき随筆
 見渡す限り続く瓦礫の山。聞こえて来るのは、飛び交うカモメの鳴き声だけ。ここは陸前高田市。ボランティア3日目に行った田圃の瓦礫は、すさまじかった。「えっ、これを私たちで」と思ったのは一瞬。誰もがぬかるむ田圃の中に入り、泥まみれになりながら力を合わせて運び出す。この3日間、初めて会った見ず知らずの男女42人が「少しでも」の思いで気持を一つに、汗を流す姿は感動的だった。この場に居合わせることができたことに感謝。これからも被災地の方々が心から笑える日が1日も早くくるよう祈り見守り続けていきたい。
  中種子町 西田光子 2011/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

獺祭魚

2011-06-26 23:04:00 | はがき随筆
 雨の午後、片付けを思い立ち「かわうその祭り」よろしく飾り棚に、ぎっしりと並べて置いた小さなお人形さんは段ボール箱の中に、お入りいただいた。棚に残ったのは茶筅と茶杓を仕込んだ赤楽の抹茶茶碗と京塗りの棗、そして少し離れて博多人形が両手で包み込むようにして鳩笛を吹いている。
 すっきりとなった居間の一隅。ふと私は「板床に葉茶壺、茶入れ品々をかざらで飾る法もありける 利休」の一首を思い出していた。
 でも遠からず、またいろんな物を並べ立てることでしょう。獺祭魚(だっさいぎょ)を自嘲しながら。
  鹿屋市 門倉キヨ子 2011/6/25 毎日新聞鹿児島版掲載

せんだんの花

2011-06-26 22:13:53 | はがき随筆


 こんなにたくさんのせんだんの木の花を初めて見た。
 2階の教室の窓から運動場を見ると、うす紫色の花がいっぱい咲いている。なんてきれいなんだろう。何の木だろうと思っていると、せんだんの木だった。
 運動場に出ると、その小さな薄紫の花が、いっぱい散っている。時々ひらひらと風に舞い、まるで桜吹雪のようだ。何本あるんだろうと思い、数えてみると、何十本もあった。
 風雨に耐え、きれいな花を咲かせ、葉をしげらせ、暑い日には木陰をつくってくれるせんだんの木々たち。その花の美しさに目を見張った。
  屋久島町 山岡淳子 2011/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載

母恋慕

2011-06-23 21:33:11 | はがき随筆
 母は私たち姉弟を見守り一心に働き、懸命に育ててくれた。その母が逝って12年が経つ。中年の子を持つ親になっても、母と過ごした少年時代の甘酸っぱい思い出がふとよみがえってくることがある。そして、そのたびに静かに思う。
 はがき1枚の走り書きでもいい。「元気か」の一言の電話でもいい。私は毎日あなたに思いを寄せている。あなたの子で本当に幸せだと、離れて暮らす母に伝えるべきだったと。
 記念日での「おめでとう」もいい。でも、それ以外の日にも自分の思いを伝えることが子の務めではなかったのかと思う。
  鹿児島市 吉松幸夫 2011/6/23 毎日新聞鹿児島版掲載

あの子が教師に

2011-06-23 21:25:56 | はがき随筆
 小学入学前の甥が、下校してきた姉の赤いランドセルを即拝借し、放課後の校庭を横切り教室の中へ。先生が1人帰りの準備中。驚いて「君は誰?」。「近くの子です。遊んでいたらダメと思いました。何を勉強すれば」と意欲満々。「4月の入学式からよ」。「ハイ」。桜満開の日、黒のランドセルで登校。
 時は移り、大学は他県の教育学部へ。再三の送金催促にあきれた親が「小学生並みの考えで先生志望?」と苦情一笑。難局を明るさと笑顔で乗り切り教師生活23年。今年4月、離島の教頭として単身赴任した。日々奮闘を期待している叔母です。
  肝付町 鳥取部京子 2011/6/22 毎日新聞鹿児島版掲載

妻・母の一言

2011-06-23 21:18:18 | はがき随筆
 要介護4の透析・デイサービス、訪問リハとスケジュールをこなす妻を介護しながら会話の端々に出る一言にうなずくことしばしば。娘と同感だと話す。
 杖をつき、よろよろ歩きながら「リハのお陰だ」と言いつつ「転ばぬ先の杖だね」と笑う。知人の噂に「人の口に戸は建てられない」と話の中に入る。台風が発生したよに「台風を歓迎する人はいない」と返す。
 津波の映像を見ながら「怖いものは見たがる」と長いこと見つめている。また「遠い親戚より近くの他人」と近所付き合いを強調する。娘は体の衰えを感じる母の心の強さに脱帽する。
  薩摩川内市 下市良幸 2011/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆5月度入選

2011-06-23 20:53:31 | 受賞作品
 はがき随筆5月度の入選作品が決まりました。

▽出水市明神町、清水昌子さん(58)の「自分を恥じた」(11日)
▽出水市緑町、道田道範さん(61)の「生きて」(1日)
▽伊佐市大口小木原、宮園続さん(80)の「涙&なみだ」(13日)

──の3点です。

 今月は大震災に関する文章がかなりありました。2カ月たって皆さんにようやっとコトバが戻ってきたという印象です。それにしても、政治家やいわゆる災害評論家などの言葉の空虚さは相変わらすです。その空虚さは、おそらく自分の精神に災害がドラマを起こさないままに、発言しているからでしょう。
 これからは、「満足」から「足るを知る」そして「不足を知る」への気持の転換だという下内幸一さん(27日)。畑にナスとピーマンを近づけて植えると「相性」が悪いのかどうか、そういうことに悩んでいることに「平和」を実感している小村忍さん(24日)。やはり、カワラヒワの鳴き声の中で、美しい晩春を満喫している東郷久子さん(8日)。バス停でおにぎり一つ食べるのにもまだ見栄が残っていることを恥じている高野幸祐さん。(18日)。いずれも震災被災者を強く意識しての文章で、まず自分の心に問いかけた、好感がもてる文章です。
 入選作を紹介します。
 清水昌子さんの「自分を恥じた」は、ご子息の福島派遣の心配ばかりをしていたら、娘さんの被災地応援に力づけられた親御さんもいることを知り、恥ずかしくなったという内容です。被災地は遠方ですが、私たちの足下で心に影響を与えているようです。
 道田道範さんの「生きて」は、震災で自宅も絶望的なのに、カギがあるから大丈夫と周囲を笑わせた被災者の記事を読み、かつて水害で家財道具を失った自分はなかなか笑えなかったのを思い出した。「笑いが一番の特効薬だ」、生きてほしいという励ましの内容です。災害は気持の持ち様に変更を迫るようです。
 宮園続さんの「涙&なみだ」は、大震災の情報は涙なしには見られない。まさしく実感です。義援金を届けたりしていると、折悪しくも、愛猫が交通事故死、またもや涙。しかし、80歳の誕生日を迎えられるほど丈夫に産んでもらった父母に感謝しているという内容です。他の死を見ると、命の尊さが実感されます。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

旅の抄その6

2011-06-23 20:47:57 | はがき随筆
 住宅の屋上は鉄骨だらけで未完成。郊外では四角に囲ってトタン板を乗せ、中にはペットボトルなどが散乱している。
 理解に苦しんでいると、以心伝心か、ガイド氏いわく「働いてまず土地を買う。働いてお金ができると家を建てる。子供が2階を、孫は3階を……。こうしてこの国はいつも進行中」。
 見苦しく見えたのは、未来に向かって生きる人々のみなぎる力の証しだったのである。
 目からうろこが落ちると、むき出しの鉄骨が美しく躍動している。
 エジプトの底力をずしりと肌身に感じ取った。
  鹿屋市 伊地知咲子 2011/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

「命」

2011-06-22 21:55:49 | 岩国エッセイサロンより
2011年6月22日 (水)
岩国市  会 員   井上 麿人

暮れに母が逝った。通夜の客も帰ったころ、一人の女性が入ってきた。初対面の女性は「私はこの方の最初の子供で、あなたとは11歳離れた姉です」と名乗った。その夜彼女は、母と死別した父方で育ったこと、親権が切られていたこと、弟がいることなどを話した。長く遺影の前に立ち、未明に帰っていった。

私は父の顔を知らないが、2人の夫を亡くしていた母の火宅を知った。暗い斎場の柩の前で白い時聞か過ぎた。

 納骨も過ぎたころ、姓の違う兄と名乗る人から、疎遠と非礼を詫びた手紙が届いた。会いたいとも。5人兄弟になった!
  (2011.06.12 毎日新聞「はがき随筆」文学賞)岩國エッセイサロンより転載



「むぎの秋」

2011-06-21 23:38:57 | 岩国エッセイサロンより
2011年6月17日 (金)
岩国市  会 員   稲本 康代

麦が黄金色になり刈り取られる季節を麦秋という。5月末から6月の初夏のころである。近ごろは見かけないが、昔は至る所に麦畑があり、田んぼには裏作として麦が作られていたものだ。そして収穫が終わると麦わらでホタルかごを作ったり小さな敷物を編んだ。

以前、長崎に旅をした時、列車から見た佐賀平野の麦畑が一面、黄金色に輝いていたあの光景を今でも思い出す。言葉で言えない感動で眺めた。

身の回りから段々と懐かしいものが消えていくのは寂しい限りである。もう一度、麦畑を復活できないものだろうか。
 (2011.06.17 毎日新聞「はがき随筆」掲載 岩國エッセイサロン より転載