はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

おとぎの国

2006-06-30 23:50:18 | はがき随筆
 湖のほとりの曲がりくねった小道を登ったり、下ったり、寝そべった木におでこをぶつけたり、ぬれた岩では滑りそうになったり。
 風も心も翡翠色に染まっていく。
 いつしかおとぎの国に迷いこみ、自動ときめき測定機の針が吹っ飛んだ。
 もどれなくていいと思った。
 もどりたくないと思った。
 あなたといつまでも、どこまでもさまよっていたいと祈るように思っていた。
   鹿屋市 伊地知咲子(69) 2006/6/30掲載

秘密のハナ

2006-06-29 10:00:27 | はがき随筆
 妹が2年ぶりに帰省したので寝室を共にした。真夜中に座り込んでいると、どうしたかと聞く。
 「あなたのいびき、雅楽だね」
 翌朝、彼女はカセットを見せて「これは由井ちゃんの管弦楽よ」。
 すましてスタートボタンを押す。
 聞きながら、脂肪のついたお腹を波打たせて、久しぶりに大笑いだ。
 すぐに耳鼻科で受診をした。頭蓋骨の目と鼻の回りに、白バラのようにかげったレントゲン写真を指し、医師は「これじゃ、大いびきでしょう」と、目を丸めて言った。
 このこと、あの人には黙っておこう。
   阿久根市 別枝由井(64) 2006/6/29

お姫さま

2006-06-28 11:22:33 | はがき随筆
 3歳のタッくんは、ごっこ遊びが好き。土、日になるとママの用事で我が家でお守りとなる。その日は昼食に好物のカレーを作ってあげるとごきげんで「タッくんはおうじで、バアバはおひめさまね」と言う。エーッ、この歳でお姫さまなんて感激。横でジイジが「お姫さまじゃなく、ばあやだろ」。
 久しぶりの晴れ間にマット類を干していると「バアバ、早く来て」と叫ぶ声。「待ってて、今忙しいよ」。すると、今度は「おひめさま、早く来て」の声に「はーい、ただ今、参ります」。ドレスじゃなくエプロンの裾をたくし上げ、階段を駆け上がる。バアバひめ。
   鹿屋市海道町 大宮司京子(51) 2006/6/28 掲載

幼い俳人たち

2006-06-27 14:06:53 | はがき随筆
 かのやバラ俳句大会に行く。そこで小中学生の素直で清純な句に出会い感動する。「バラ一本人の心をうつしだす」中学生、「みわたせばいろとりどりのバラの海」小学生、「こころにもさかせてみるかバラの花」小学生。梅雨空は今にもこぼれおちそうだけれど、一瞬明るい五月晴れがよみがえってくる。ウンと唸る。幼い俳人たちに脱帽する。これからの将来が頼もしい。私の句帳も少し色あせて見える。もう少し欲を出すかな。この日は心に元気をいただき、うれしい、楽しい一日になった。
   鹿屋市寿 小幡晋一郎(73) 2006/6/27 掲載

火の島

2006-06-27 13:22:21 | かごんま便り
 噴火活動が活発化している桜島。県外から来た私は「これは大変だ」と、気象台の情報が気になる。
 だが、「これくらいは、まだまだ。ドーンと響く音で窓がガタガタしなきゃ」
 「昼間も降灰で暗くなる。煙の中に稲光のようなものが見える。せっかく鹿児島に来たのだから、あんたにも見せたいね」
 「夜は火が上がって、そりゃきれいよ」
 私が聞いた鹿児島に住んでる人たち感想だ。今の段階では、何てことないらしい。
 桜島の人も「怖くはないですか」の質問に「うちんとこは大丈夫。それより噴火の前に海岸に魚が打ち上げられて、拾いに行ったのよ」と、気象台が噴火を発見する前に地元に現れた異常を話してくれた。
 私も海辺育ち。魚が浜に打ち上げられるのは、台風の後としか知らない。やはり噴火となると、自然界の磁場のようなものがおかしくなり魚が異常な行動をするのであろう。
 噴火が活発化してからより桜島を注視するようにしているが、天気の日でも島の上空はぼんやりとしている。桜島の全容がなかなか観察できないのなら、せめて近くに行ってみようとフェリーで島に渡った。
 周辺を回り、噴煙の写真を撮ったが、空がすっきりしていなくて狙い通りにはいかなかった。時間が余ったのでフェリー乗り場近くを散策、月読神社に行ってみた。
 この神社の創建は和銅年間(708~715年)と伝えられている。祭神は月読命。社殿が新しいのは、噴火で移転しているからだそうだ。木花之佐久夜毘売(このはなさくやびめ)も祭ってあると聞き「火と関係しているな」と思った。
 古事記に、迩々芸能命(ににぎのみこと)にお腹の子は我が子ではないと疑われた木花之佐久夜毘売が「あなたの子なら何事も起こらないでしょう」と、出産する時に、殿の中に入って回りを土で塗り固め、殿に火を付けてその中で子を産んだという記述がある。この子が火照(ほでり)命(海幸彦)だ。
 桜島の名の由来は諸説ある。その一つがコノハナサクヤビメから「サクヤ島」、「サクラ島」になったがある。活動する火山に、歴史ある神社。古人(いにしえびと)の島に寄せる思いをかいま見た感じがした。
 新火口は拡大したという。地元の人は「まだ大丈夫」というが、私としては早く沈静化してほしい。
   毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 2006/6/26 掲載

梅雨の晴れ間に

2006-06-26 11:32:54 | はがき随筆
 遠来の客があったので、梅雨の晴れ間に古墳めぐりをすることにした。大隅には、国指定古墳が三ヵ所ある。肝付町の塚崎古墳群、東串良の唐仁古墳群、それに大崎町の横瀬古墳である。資料を片手にゆっくり見て回る。最後に横瀬古墳後円部に登る。梅雨時のうっとうしさを一掃するかのような海風が心地よい。後円部は雑草がきれいに刈り取られていて前方後円古墳の形状が素人にもわかる。人は去り時は移れども、合力して築きあげたものは千数百年経た今も厳然として偉容を誇る。梅雨の晴れ間に古代に思いをはせた。
   肝付町前田 竹之井敏(81) 2006/6/26 掲載

望み実現

2006-06-25 11:25:44 | はがき随筆
 還暦の望み「よく食べ、よく働き、よく眠る」をモットーに心身を鍛え直そうとの日頃の強い思いが実現した。老若男女会員の爽やかな挨拶。アスレチッククラブの環境は、目指す10年、15年後、将来に喜べる健康でハツラツとした身体をつくれそうだ。プログラムはさまざま。エアロビクス、太極拳、カンフー、ヨガ、水泳など。そして機具30種類を使い体力増強。運動後は、ミストサウナ、バブル風呂でリフレッシュ。心地よい疲労感の帰宅後は、身体に一本芯が通った気持ちになり、全身からエネルギーがみなぎってくる。ビールもことのほかうまい。   
   鹿児島市武 鵜家育男(60)2006/6/25掲載

ほほ笑ましい光景

2006-06-24 14:25:32 | はがき随筆
 初夏を思わせる暖かい日曜日。電車で鹿児島へ向かった。ドア近くに爽やかなコロンの香りのする娘さんと座った。
 次の駅で高校生らしい男の子たち数人が乗り込んで来た。ダブダブの服にボサボサ頭。補助席に陣取り会話の内容から先輩後輩のようである。
 車内も込み合ってきた。するとスッと立って中年の女性に席を譲った先輩。「先輩僕が……」と照れながら1,2歩前に出た後輩。「よかよか……」と手で制し、何事もなかったように外を見ている日焼けした横顔に心からのエールを送った。
   薩摩川内市宮里町 田中由利子(64) 2006/6/24掲載

遅咲きと早咲き

2006-06-24 08:39:45 | はがき随筆
 春咲きの球根たちが、次々に綺麗な花を咲かせた。根っこの病気を心配していたヒヤシンスが白色の花を咲かせ、にこっとほほ笑んだ。しかし「二つも花をつけている。双子だ」と驚いていたら、その脇からまた小さな花を咲かせ、何と四つ子であった。フリージアがなかなか咲かないので気をもんでいると、ヒヤシンスとチューリップが咲き終わった後に、ゆっくりと白と黄の可憐な花を咲かせた。遅かろうと早かろうと、時期が来ればそれぞれに美しい花を咲かせ、散っていく。人間とて同じだ。自分のペースで心優しく穏やかに歩いていきたい。
   出水市高尾野町 山岡淳子(48)2006/6/23掲載
写真は季節の花300より

一皮むけた

2006-06-22 08:55:45 | はがき随筆
 朝、二男を起こしに部屋に行くと、最後のサッカーの試合を控え練習がきついのか、まだ深い、眠りの中だ。
 寝顔をまじまじと見ると、先日五厘にした頭の様子が変だ。手で触ると何と頭の皮がむけている。坊主にした直後、日差しの強い日にサッカーをして、頭皮が日焼けしてヒリヒリする、と言ってたのを思い出した。小学校から始めたサッカーも9年目。今の仲間とプレーできるのも今度の試合が最後。その日の事を考えると夜も眠れない、とか。
 人間的にも一皮むけたように思うのは親バカだろうが、最後を頑張れ。
   薩摩川内市高江町 横山由美子(45)2006/6/22
掲載

遺産に感謝

2006-06-21 12:01:05 | はがき随筆
 今年も梅の収穫ができた。大粒の梅は、青い真珠のように輝いている。遺産となった庭の老梅は、先の台風に被害を受けたものの「花も香も昔のままに」と歌にあるように、長き年月を変わらず、この時期に収穫が出来る事はありがたい。冬には父が愛し、育てた八朔が我が家のビタミンC源となり感謝。頬寄せ合うように色づく枇杷は、初夏の陽を受けて甘味をつけている。鮮やかな葉を広げた柿の木には、愛らしい実が生まれている。そっと触れてみる。柿が大好きだった亡き母の面影が恋しく思えた。四季を通しての収穫に感謝し、遺産を大切にと思う。
   鹿児島市城山 竹之内美知子(72) 2006/6/21 掲載

天国でも母は

2006-06-20 07:51:52 | はがき随筆
 94歳の誕生日を迎えてからちょうど1カ月後、母は突然天国に旅立った。その日の朝、庭掃除をするように厳しく言い置いて養護施設のデイサービスに出掛けた。夕方ちょっと気分が悪いとベッドに横になり、看護士さんが10分後に行ってみたら心肺停止状態に陥っていたという。教師をしていた母は、施設でもセンセイと持ち上げられ、その気になって取り仕切っていたそうだ。ちょっと下にずらした眼鏡越しにこちらに目を向けている遺影を見ていると「こっちも結構楽しいよ」と語りかけているようである。天国でもセンセイをしているようで。
   西之表市西之表 武田静瞭(69) 2006/6/20 掲載

はがき随筆5月度入選

2006-06-19 16:45:26 | 受賞作品
 はがき随筆5月度入選作品が決まりました。
△ 肝付町前田、吉井三男さん(64)の「やっけたこっじゃ」(2日)
△ 姶良町西餅田、中村頼子さん(64)の「奈良の旅」(16日)
△ 志布志市志布志町、一木法明さん(70)の「主演女優賞」(8日)の3点です。
 
5月の皆さん方からの文章は、気持ちのいい内容のものばかりで感心しました。浅山さんの「譲り合い」は、剣道に頑張る長男の汁わんに卵1個入れておいたら、二男も三男も兄の喜びを感じてか、母親の汁わんにそっと卵をいれてくれていたという話。いい話ですね。馬場園征子さんの「昼の月」は、お孫さんと散歩に出る楽しさを、竹之内政子さんの「さわやか」は大型トレーラーの運転手のマナーの良さを紹介しました。
 吉井さんの「やっけたこっじゃ」が何とも面白い。楽しんで庭の雑草を取りつつ、「お前らに忙殺されて、しかも取った後から後から生えてきやがる。そういえば、近ごろメールもしない。肉体の衰えと共に精神の萎縮も来たのかも」と言うのです。このタイトルや文体の面白さは、奥深い心の余裕の表現ですからね。まだ、大丈夫、立派なものです。
 さて、季節はよし、旅の文章も多いですね。中村さんの「奈良の旅」は、春の大和路を訪ねたと高揚した感じでのスタート。猿沢の池、興福寺、奈良公園、春日大社と、時を忘れて歩いた喜びにあふれた文章の最後を「あおによし奈良の都は咲く花の……」の名歌で締めて、日本人なら文句なしに共感します。しかし、そこが弱点ということも言えるのかも。
 寺園マツエさんの「万葉の里」も同様の趣です。反対に、日常に旅の趣を見つけて楽しむ、生きる名人の素晴らしい文章も多くあります。一木さんは結婚記念日に「24歳の春より今日まで嫁として妻として母として多岐にわたりその役を懸命に演じてきたので、主演女優賞を贈ります」の賞状を贈りました。さぞや苦労して、エンジョイして書いたものですね。生きる名人には「少年野球」の谷山さん、「心の宝物」の上野昭子さんもおられます。
   (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)

係から
入選作品のうち1編は24日午前8時45分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。作者へのインタビューもあります。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
 鹿児島面では投稿していただいた「はがき随筆」の中から年度賞(4月~翌年3月分)を決めていましたが、次回から年間賞(1月~12月)にします。九州・山口の各地域とも年間賞に統一することになりました。








夢の中へ

2006-06-19 15:48:33 | はがき随筆
 最近の私の願望は「早く寝つくこと」であった。子守歌がわりと思ったラジオも、つい聞き入ってしまうと頭が冴えてくる。
 今日の反省をするのも良くない。寝そびれて、新聞配達のバイク音を聞くことも。湯気の立つ新聞を読めるのは嬉しいが、後のぼんやり感が良くない。そこで活字に眠気を誘ってもらうことに。
 リラックス出来るものとして、川柳の同人誌を読んでみる。すると程なく上瞼と下瞼が仲良くなってくれる。ラジオにも暇を出して、やがて私は夢の中へと。やっと出会えた催眠法。
   霧島市国分中央 口町円子(66) 2006/6/19 掲載

初夏の朝

2006-06-18 17:19:16 | はがき随筆
 初夏の緑が美しい季節となった。梅雨の中休みで、ここ2、3日、良い天気が続いている。いつものように5時頃起きて散歩に出る。東の空が明るくなり、次第に美しい色に染まってくる。山里の野道を歩いていると、若葉も青葉に変わり、濃い影を落としている。
 ふと見ると真っ白なクチナシの花が咲いている。風に誘われて甘い香りを運んでくれる。梢ではホトトギスの美しい鳴き声が聞こえる。この素晴らしい自然界の景色を心ゆくまで楽しみ、貧しい生活も快く受け入れお互いに支え合って、素直に生きて行きたい。
  出水市上鯖淵 橋口礼子(72) 2006/6/18 掲載