はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

4月の出会い

2008-04-30 10:32:10 | はがき随筆
 アッという間に桜は散り、今は草木の新緑に目を奪われる。何もかもが新鮮でさまざまな出会いのある4月は好きだ。子供時代は先生、友達、教科書など夢があった。高校生になり私をちょっと大人の気分にさせたのは、古文との出会いだった。N先生が光源氏について講釈する時のあの熱っぽい、甲高い声が今なお、耳に焼き付いている。
 しかし源氏物語そのものは10代半ばの私には早過ぎた。やがて興味は薄れ、断片的に拾い読みしつつこの年に。
 折りしも今年は源氏物語千年紀らしい。恩師に感謝しつつ、寂聴の口語訳10巻を読み始めた。
   鹿屋市 田中京子(57) 2008/4/30 毎日新聞鹿児島版掲載

来ました「ねんきん特別便」

2008-04-29 18:19:31 | アカショウビンのつぶやき
 逓信省に採用以来、電気通信省、電電公社、NTTと会社自体の名称はコロコロ変わったけれど、最後まで一社にご奉公した私には関係ないこと…と思っていた。
 ところが私と同期のKさんから、加入年数が5年足りないと電話がきた。びっくりして、もう一度調べたが私の記録は間違いなし。もう一人の同期採用Yさんに電話すると、こちらも5年足りなかった。一体何なの…。
 「もしかしたら、年金の追加がくるかもね」と取らぬ狸の皮算用までしたものの、単なる記録ミスかもしれない。年金証書で確認してと言っても、どこにしまったか思い出せないと。この歳になると、しまい忘れはお互い様。夜更けにやっと年金証書が見つかったと電話がきた。年金額算定基礎の組合期間に誤りはなし。やっぱり単純ミスだったねぇと笑ってしまったけれど、うっかり「間違いありません」なんて返送したらどうなるんだろう…。
 社保庁のズサンな処理には驚くばかり。
 枡添さん、加入者を惑わすような処理はしないと、約束してくださいね。

60歳の恋人

2008-04-29 14:00:13 | はがき随筆
 11日に61歳になった。人生の節目である60歳のうちに妻へ恋文を書き、贈ることにした。
 「貴女に恋文を書くのは30年ぶりのことです。これは『60歳の恋文(ラブレター)』です。ちょっと緊張しています。近ごろ時々、どちらが先に好きになったか言い合いになりますが、僕が先に貴女を好きになりました。このことは一生言うまいと思っていましたが今日は白状します。今年は20年後の金婚に向けて踏み出す年です。優しく頑張り屋さんの貴女、これからもよろしくね。アイ・ラブ・ユー!!」
 恋文とはこんなものだったかな? 人には聞けないしなあ。
   鹿児島市 川端清一郎(61) 2008/4/29 毎日新聞鹿児島版掲載

夢つむぎ

2008-04-28 16:20:43 | はがき随筆
 中学時代は外交官になりたくて最難関の国立大学法学部を目指した。高3で病に倒れ夢破れた後の10年間は挫折感と虚無感で過ごした。結婚後、一人娘を授かってからは「一国一城の主」を夢に脱サラ。ずぶの素人ながら喫茶店、学習塾と夫婦でやり遂げた。52歳で引退した後、夢がうせた。そんな時、NHKの「百歳バンザイ!」を見た。何て元気。何てハツラツ。100歳まで健やかに生きる。身も心もガタついた私にも、おぼろげながら最後の夢が見え、ちょっぴり勇気もわいた。
 後ろ向きだった私にサヨナラして今から前向きに生きよう。
   霧島市 久野茂樹(58) 2008/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載

始める

2008-04-28 16:09:19 | はがき随筆
 100歳まで生きた母の健康努力を思い出す。目覚めるや手指の体操。起き上がると乾布摩擦。外へ出て足踏みから自作の体操。新聞を読んで待っていた父との朝食はみそ汁とご飯、おろし大根、カツオ削り節、納豆の定食をずっと続けていた。夕食は週2~3回も地場の新鮮極まる刺し身。私は今年も予防注射のお陰でインフルエンザはどうにかクリアできたが、体力以上の負荷に疲れたか体調を崩してしまった。無策はダメと不調に屈せず始めた乾布摩擦を、ラジオ体操と散歩に加えた。始めるとやめたくない性格。余生の健康の免疫力アップに努めよう。
   鹿児島市 東郷久子(73) 2008/4/27 毎日新聞鹿児島版掲載

翁草

2008-04-26 18:28:03 | はがき随筆
 昔はどこにでもあった翁草。今では幻の野草となった。だがどこかで栽培していたのか、友人から翁草の種をもらった。すごく小粒なので、半信半疑で鉢にまいた。ところがこの春、無数の株が成長して花をつけ、何十年ぶりの再会となった。
 ラッパ型の花は濃い紫色で、白いうぶ毛をまとい、みな首をたれたままだ。見栄えはしないが、自己主張せず孤独で、どこか愁いを帯びて見える姿が、いとしい。
 独居生活3年余。どこか自分の心を共有してくれる。来年はきっと仲間を増やしてやるからな。時々話しかけている。
   霧島市 楠元勇一(81) 2008/4/26 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はなつさん

架空の花を

2008-04-25 07:55:32 | はがき随筆
 絵画が好きだった夫の持ち物を整理し、あまりに多くの品に驚く。パレットは今にも絵を描く状態で筆も並べてある。絵の苦手な私は困惑し、また元の場所へ。夫は天国で続きを?
 重度障害者の不安と痛みからくる不眠の日々から抜けようと、外に出てわずかでも雑草を取る。食事は外部から届けてもらい、一人でリハビリに努力するが挫折が多い。
 自立できない私に夫が夢でエールを送ってくれた。「自由に紙に色を塗るだけで楽しくなるよ」と。すぺてのつらさを紙が吸い取ってくれそうだ。<思い切り強く架空の花を描こう>
   薩摩川内市 上野昭子(79) 2008/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

木の芽香るころに

2008-04-24 07:14:29 | 女の気持ち/男の気持ち
 タケノコをいただいた。「木の芽あえ」にと思い、庭に出てみる。新芽の香りが辺り一面に漂っている。手のひらいっぱいに摘んでかいでみると、小学生のころの思い出がよみがえる。
 そのころ母は離れで床にふせっていた。娘を気づかい、祖母はいつも献立を工夫していた。
 母の元へ食事を運ぶのは私の役目。春には木の芽をちりばめた五目寿司を届けた。母は少し口にしただけで「おばあちゃんには内緒よ」と、そっと新聞紙に包んでいた。
 その後、母は入院し、7年間の闘病生活の後、亡くなった。残してくれたセピア色の手帳には、2人の子供への思いがぎっしり。幼子を残していく母親の切ない思いが伝わり、読み返すたびに胸が熱くなった。その最後のページに「母の五目寿司が食べたい」と書いてあった。
 私が生きてきた歳月はすでに、母の倍近い。そして今年も春が巡ってきた。
 山椒の若芽が吹く季節になると、母と過ごした日々が思い出される。手の中に広がる青く、かぐわしい香りがツンと心に染みる。
   鹿児島県姶良町 中村頼子(63)
   2008/4/24 毎日新聞鹿児島版 の気持ち掲載

県政大丈夫なの

2008-04-24 06:58:04 | はがき随筆
 県の広報誌「県政かわら版」が届いた。見ると今年度の当初予算概要と取り組む主な施策。〝かわら版〟の軽いイメージが一変した。7年連続マイナス予算、県債残高は総予算の倍。財源不足額の数字が並んでいる。
 県財政については本紙でも詳しく報道された。乏しい大規模新規事業、企業誘致に用意した工業用地の空き地。身の丈を考えない箱もの建設、人口島費用負担などが重たくのしかかる。04年の財政非常事態宣言。いまだ出口は見えていない。
 将来ビジョン「日本一のくらし先進県」への道を歩んでいけるのであろうか。
   鹿児島市 鵜家育男(62) 2008/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

白寿を迎えた母

2008-04-23 08:10:22 | はがき随筆
 自宅の庭で元気なスミレを見て楽しんでいると電話が鳴った。受話器を取ると弟の声だ。3月2日にさつま町のあび~る館で母の白寿祝いをするとの知らせ。当日は三男夫婦の車に便乗、雑談を楽しむうちに到着した。入浴して部屋に入ると弟夫婦も来ており、私にプログラムを説明する。司会は経験豊富なおい。一部の式が終わり懇談。舞踊が始まると客席より祝い花が飛ぶ。母は車椅子で宴会中央に出て、音楽に合わせ小声でハンヤ節を歌い手踊りする。宴たけなわになり、めいがカラオケで歌う。初めて聞く美声に感動。母の長寿日本一を夢見て。
   姶良町 谷山 潔(81) 2008/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆3月度入選

2008-04-22 12:01:48 | 受賞作品
 はがき随筆3月度の入選作品が決まりました。
△肝付町前田、吉井三男さん(66)の「ローカ現象」(3日)
△出水市高尾野町唐笠木、岩田昭治さん(68)の「支えられて」(11日)
△鹿児島市慈眼寺、馬渡浩子さん(60)の「負うた子に」(3日)
の3点です。


 珍しく桜の満開時期が話題になりました。4月です。3月度は、人と人の絆を大切に思う味わい深い文章が多く寄せられました。自分の健康管理の状況を述べマイペースで行こうという作品も数点ありました。
 吉井さんの「ローカ現象」は、寒さに対して廊下をスリッパなしで歩くのもやめている自分を笑って、<ローカ(老化)現象>と面白く表現し、言葉を使って巧みに大いに遊んだところがシャレた文章です。面白いですね。この表題が、大切な内容をつい読ませてくれました。森園愛吉さんは、長年の妻の介護体験をとりあげ公の場で発表する機会を得て、貴重な発見があった様子を「発表の機会」(3日)にまとめました。深みのある文章ですね。小村豊一郎さんの「早春」(24日)は、美しい自然を愛する思いを穏やかに述べ、淡々とした扱いで必死に生きてみたいと表現して、いかにも氏らしいいい味ですね。
 岩田さんの「支えられて」は、2日間にわたる琵琶湖や京都近郊での、学友たちとの交流の楽しさを描いた文章です。あちこちに、学友に支えられた感動が伝わってきますね。もちろん本人も学友を十分支えていたことでしょう。馬渡さんの「負うた子に」は、バイオリンを習わせていた母親4人が自分たちも習おうとスタートしました。負うた子に教えられ、という言葉があります。馬渡さんは自分の息子さんに対してクールな気持ちでバイオリンの上達を願い、文章も飾らず実に楽しく、
明るく、明るくすらすらと書きすばらしいです。東郷久子さんの「結婚式」(15日)は、書き出しの沖縄の景色の表現が色彩豊かできれいです。式に参加出来なかった夫への思いを美しい文章でまとめました。小村忍さんの「抱かれたハガキ」(12日)は、若い教師らしいハートのあるやり取りがよく表現されていますよ。伊地知咲子さんの「ドラマ」(31)は、人間の誕生を幸、不幸を考えてドラマにし、いいものですね。
 (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)
係から 入選作品のうち1編は26日午前8時20分からMBラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。

春寒蘭

2008-04-22 08:51:16 | はがき随筆
 春寒蘭(はるかんらん)のつぼみが膨らんで目をくぎ付けにする。親友のSさんからもらった形見の蘭だ。
 つぼみを見る度に、宮崎県西米良の山里に皆と一泊旅行に行き、いで湯で背中を流し合った彼との思い出がよみがえる。
 余興で、手品の上手なSさんは、酒を飲みながら「さあー、よーく見てくださいよ」と真顔で話しながら、手のひらの上で百円玉を消したり、出したりして、仲間を喜ばせた。
 あんなに皆を楽しませ、元気だった彼は、手品のように蘭だけ残し消えてしまった――。
 残された春寒蘭に「Sさん……」と、つぶやいてみる。
出水市 小村 忍(65) 2008/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載

三病息災

2008-04-21 07:57:38 | はがき随筆
 無病息災、一病息災という。中国のことわざでも一病は長命とあるらしい。医学の進歩の恩恵で二病、三病と仲良く暮らす人も多い。文豪漱石、天才ダ・ヴィンチは晩年、リウマチに苦労した。私もその仲間入りで日夜、妻の応援を受けて格闘中である。最近は一病「健忘症」が日々迫って困っている。これを直す薬はなく、自己処方箋で探す以外はないと脳活性の勉強中。新聞、読書、会話、映画、散歩と忙しい。これ以外の妙薬探しの旅もスローで、まだ未知の素晴らしい妙薬が隠れているかも。いずこも春の満艦飾で、生命の活気をもらっている。
   鹿屋市 小幡晋一郎(75) 2008/4/21 毎日新聞鹿児島版 特集-4

息してる

2008-04-21 07:56:19 | はがき随筆
 昭和40年代の教え子A子さんの夫がくも膜下出血で亡くなられた。
 行政手腕はますますさえ、住みよい社会の発展に貢献されていかれる方だったのに……。県、市全体を見据えた方が、思いもかけぬ仕打ちを受けて逝去される。世の矛盾を感じ、歯がゆい思いである。自分が息していてもいいのだろうかと思われてくる。
 古稀の私、今は心身共にまあまあである。訃報を知り、息することの大切さを思い知らされる。
  息することは根気のいることでもある。
   出水市 岩田昭治(68)2008/4/21 毎日新聞鹿児島版 特集-3

掲載300編

2008-04-21 07:55:39 | はがき随筆
 平成3年に本欄に初掲載されてから前回で300編。夫の霊前に報告した。最初のころは投稿者も少なく、月に2~3編、時には4編掲載の時も。当然、書くことが、楽しくて仕方なかった。平成11年に200編となり、はがき随筆と短歌などを「庭椅子」という本にまとめた。その表紙を描いてくれた夫はもういない。突然の悲しみから2年間、深い喪失感から書けなかった。
 この17年間、喜びも悲しみも随筆と共にあった。本欄を通じて得た友情もありがたい。これからもいのちある限りという気持ちで書き投稿していきたい。
   霧島市 秋峯いくよ(67) 2008/4/21 毎日新聞鹿児島版 特集-2