はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

朝と昼楽しんで計1万歩

2016-04-29 07:42:36 | 岩国エッセイサロンより
2016年4月25日 (月)
岩国市  会 員   林 治子
 月に1度通う病院で、主治医は、私が毎日つけている血圧手帳を見て問診を始める。「毎日歩いているようですね」。うなずく私を見て、「この調子でしっかり歩いてください」。先生の言葉がまた励みになる。
午前5時。桜が散っても朝はまだ寒いが、健康のため歩く人が結構いる。私は、大またで、速足で、と変化を付けながら歩き、1時間近くで7000歩。さすがに汗ばんでくる。昼からは朝とは別のコースで、時間に関係なく、散策するようにゆっくりと歩く。懐かしい人に会うこともある。愛犬がいた頃、犬の散歩でよく会っていた友人は、ヨタヨタと歩くワンちゃんを連れている。「急に年を取ったようでかわいそう。私たちも同じかも」と苦笑いする。
草花を眺めながら季節を感じながらの午後のウォーキングを合わせて、1日計1万歩を楽しんでいる。 
(2016.04.25 読売新聞「私の日記から」掲載)岩国エッセイサロンより転載

菜の花

2016-04-29 07:39:00 | 岩国エッセイサロンより


2016年4月24日 (日)
岩国市  会 員   上田 孝

1週間ほど家を空けて帰った時、庭のプランターに菜の花が咲き誇っていた。「あの小松菜が?」。菜の花というのはアブラナの別称だと思っていたが、小松菜も花が咲けば菜の花になることを今回初めて知った。
 昨年の初冬に種をまき、間引きをしたり虫を取ったりと結構世話をやいた。その甲斐なく、葉っぱは食べるほどには成長しなかったので、ある時期からほったらかしにしていた。そういえば、出かける前には、とうが立って花の茎が伸びていた。結局この小松菜、食用にならず、観賞用として花瓶に生けられ家の玄関を彩ることとなった。
  (2016.04.24 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

作戦勝ち

2016-04-29 07:17:33 | はがき随筆
 古稀の夫、現職中は仕事一筋、それが趣味で生きがいのタイプでした。今は運動も兼ねて家庭菜園にいそしむ日々。おかげで野菜を安心して口にできる。食へのこだわりは人一倍強い。ならばと、ジャガイモの皮むきなどを手伝わせてみた。これまた器用な夫は上手にこなす。好物のコロッケに至っては調理法を検索し、留守中に「作ったよ」と驚かせたことも。出る幕がなくなるので、私は遠慮してほしいのだが、期待を裏切る出来栄えにかぶとを脱ぐしかない。刻々と領海侵犯してくる。現実に手が必要になったときを思うと気持ちが揺れ動くのだった。
  鹿屋市 中鶴裕子 2016/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載

偽パスポート

2016-04-27 21:38:01 | はがき随筆
 妻は運転免許証を持っていないため、公的機関での書類申請時の本人確認が煩わしかった。そのこともあって昨年、10年パスポートを入手した。
 今年初め妻の誕生祝いに、青空と、いわし雲が描かれているビニールカバーを贈った。赤い旅券にかぶせると、葛飾北斎の通称・赤富士の絵柄になる。
 年金の変更届のため、妻は必要書類の受け取りに市役所へ。待ってましたとばかりに、窓口で旅券を開いた瞬間、あわててバッグにしまい込んだ。彼女が持っていたのは、カバーとセットになっていた、本物そっくりの旅券型の手帳だった。
  鹿児島市 高橋誠 2016/4/27 毎日新聞鹿児島版掲載

500円玉のような

2016-04-27 21:31:54 | はがき随筆
 車のコンソールボックスに厚手のタオルを3枚たたんで置いている。妙に安心するのだ。
 昭和30年、5人兄弟の3番目、10歳の私は風呂当番だった。長兄は大学生で不在、次兄は水俣高校の汽車通生で父も帰宅が遅い。病弱の母の言いつけで夕食の材料を買ってくると、弟たちと共に風呂を沸かす。ポンプを突きバケツで運び五右衛門風呂に水を張る。製材所からリヤカーで運んだ背板をたく。
 薄い日本手拭いと小さくなったせっけん。だが、風呂はポカポカだった。今も大切に使う500円玉のようなせっけん。だがタオルは厚手が好きである。
  出水市 中島征士 2016/4/26 毎日新聞鹿児島版掲載

息子の転勤

2016-04-27 21:23:59 | はがき随筆
 ヨルダンへの転勤が決まった息子が、準備で忙しい合間をぬって家へ顔を出した。父親に何やら署名を頼んでいる。生命保険の請求者になってもらうのだという。ヨルダンで息子夫婦に万、万が一のことがあった場合に備えてらしい。
 転勤を聞かされたとき、嫁の両親も私たちたちも不安にさいなまれた。息子は「危険なことをさせられることはないし、世情も比較的安定している」と私たちをなぐさめていたのだが……。それにつけても男女共同参画などと聞く時代、休職して同行してくれる嫁には申し訳ない気持ちと感謝でいっぱいである。
  出水市 清水昌子 2016/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

復活徹夜祭

2016-04-27 20:56:23 | はがき随筆


 サクラソウがピンクに盛り上がり、すっくと伸びたチューリップが赤白紫、早春の風に揺れている。フリージアがほのかに匂いはじめ、復活玉子もきれいに染めあがった。
 こよい「復活の聖なる徹夜祭」。どんなに待ちこがれたことか。物は使っているうちに汚れ、傷がつき、ネジがゆるむ。
 復活の主は、私の心の汚れを洗い清め、傷をいやし、新しく生き直すチャンスを与えてくださる。喜び待たずにいられようか。
 教会への道すがら、うぐいすの初音を聴いた。
  鹿屋市 伊地知咲子 2016/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

薄情な息子

2016-04-27 20:49:53 | はがき随筆
 熊本地震で出水も震度4の揺れが3度起きた。我が家も大きく揺れて、母をたたき起こしたが、3度とも戸外には飛び出せなかった。
 母と話し合う。出水地方で大地震が起きた場合は、逃げるのに手間ひまがかかる。母と私も犠牲になるか。それとも、母を見捨てて私だけ助かるか。
 長い沈黙の後に、母は「おいば助けるのに、お前まで死んでは元も子もない。親94歳。生きて、あと2年か3年じゃろ。若い者が生き残らないとね」と、気丈に言い放った。私を見上げる母のほおに一筋の涙が伝った。「薄情な息子でごめん」
  出水市 道田道範 2016/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆3月度

2016-04-27 20:41:46 | 受賞作品

 はがき随筆の3月度月間賞は次の皆さんです。(敬称略)
 【優秀作】18日「脳梗塞の友」小村忍=出水市大野原町
 【佳作】8日「『仮免許証』まで」萩原裕子=鹿児島市中央町
▽12日「町工場の手業」高橋誠=鹿児島市魚見町

 「脳梗塞の友」は、仲の良い友人が、2人までも脳梗塞で後遺症が残ってしまった。お一人は、自分の脚を見ながら、これを使うことはもうないと呟かれた。もう一人は、山歩きなどとが好きだったのに、もう二度と行けないと嘆かれた。どうしてやることもできない自分も、同様に悲しかったという内容です。寂寥の感があります。老、病、当人も傍らにいる者も悲しいですね。
 「『仮免許証』まで」は、娘さんとの2人暮らしのなかで、娘さんが大学の研修で外国へ。やがて1人暮らしになる予感を感じ、1人暮らしの予行演習をなさっている様子が書かれています。その不安が十分感じられる文章ですが、それを「1人暮らし仮免許証」の取得に励んでいると、ユーモラスに描かれたところに好感をもちました。
 「町工場の手業」は、テレビドラマで、下町の中小企業で働く女性工員の手仕事を見て、自分の学生時代のアルバイトを懐かしく思い出したという内容です。そこでは、竹ベラを使って銅線のコイル巻きをしていたが、今ではその会社は先進ロボット会社として注目を浴びている。まさしく今昔の感です。
 この他に3編を紹介します。
堀之内泉さんの「園内便」は、幼稚園の年長さんの間で園内便がはやっているというほほ笑ましい内容です。暴れん坊の子が、妙に感傷的な手紙を書いているのも、むしろ驚きであって、幼児たちの世界を見たようだという内容です。
 年神貞子さんの「はがき随筆」は、80歳の誕生日を記念に、今までの「はがき随筆」を文集にしようと思い立ち、贈る相手のことを考えて太目の活字にしようなどと計画されている、楽しそうなご様子が目に浮かぶ文章です。
 古井みきえさんの「二つ釜の夫婦」は、一般には、一つ釜の飯を食ったとは仲の良い関係をいうのですが、夫婦で、食事も会計も部屋も別々なのに、子供にも孫にも恵まれて、友好的に暮らしておいでのカップルの紹介です。人それぞれといったところでしょうか。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

みんな見上げて

2016-04-27 17:45:45 | はがき随筆


 40年前に家を建てたとき、父がモクレンの木を移植してくれた。そのモクレンの木は大きく見上げるばかりに。四つ五つ蕾を見つけ、毎朝見ていると少しずつふくらみ、蕾も増えている。昼ごろ花が咲いていた。少し元気がない。根方の土を起こし、油かすを入れ見上げると〝ありがとう〟と声がしたような。一人ぽっちの私、話し相手になってくださる人たちに「見て」「見て」と声も華やぐ。
 植物に造詣の深かった今は亡き義父母、夫、花を見上げて「ありがとう」。声が空まで広がっていくような気がした。
  鹿屋市 小幡由美子 2016/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載

山口の実家にて

2016-04-21 21:59:26 | はがき随筆
 実家にはたくさんの蔵書がある。教職にあった義兄の本に、定年を機に同居したおいの本が加わって庭に書庫を建てた。
 91歳の義兄は視力が落ち、本を読む楽しみが減ったという。高校の教師だった67歳のおいは、今も物理の勉強をする。机の上に「アインシュタイン」の題名の本が4,5冊。読書好きの嫁は図書館から電話。書棚の「三太郎の日記」を手に取る。読みたい本だった。老犬のチョコが下からジッと私を見ている。
 こよいは長姉の一周忌の前夜。静かな夜にふと、フォスターの「オールドブラックジョー…」を口ずさんでいた。
  鹿児島市 内山陽子 2016/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載

1本のバラ

2016-04-21 21:49:25 | はがき随筆
 小さな花屋さんの前で僕たちの足が止まった。「1本だっていいのよ、女の人は喜ぶんだから」。深紅の束の中から、様子のいい1本を私は選ぶ。サービスに忘れな草もちょこんと添えられ、かわいいラッピングができた。「加藤登紀子さんも百万本だって歌ってるし1本じゃ格好悪いよな」。男として、どうもひっかかるのだ。
 帰り着くと「お義母さん、これ」。背中に隠し持ったバラをこわごわ差し出した。一瞬戸惑いの表情を浮かべた義拇は、すぐ満面の笑みへ。「よかったあ……」。「してやったり」の妻がいつもより大きく見えた。
  霧島市 久野茂樹 2016/4/20毎日新聞鹿児島版掲載

3人仲間

2016-04-21 21:42:13 | はがき随筆
 昔から遠くの親戚より近くの他人といわれる。勤めをやめて農業していますが、作物は人手が必要で難儀します。
 近くの仲間2人と4年前にコンバイン、乾燥機などを共同購入して作業しています。3人とも〝飲んごろ〟ぞろい。一人はオールビール、一人はオール焼酎で、私だけはビールも焼酎も両方OK。飲みかたはいつもありがたいと喜んでいます。
 いまTPPで米づくり農業は厳しさの真っただ中にありますが、何より消費者からうまいといわれる米作りを目標に、今年もキバロウと今日も田起こしに頑張っています。
 湧水町 本村守 2016/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

古 希

2016-04-21 20:32:15 | 岩国エッセイサロンより
2016年4月 9日 (土)
   岩国市   会 員   安西詩代

 69歳の誕生日を迎えた。めいが届けてくれたお祝いの包みを開けると、高野山でもらってくれたお札だ。「開運厄除 古希 安西詩代」と書いてある。
 「あら、私はまだ69歳よ」
 「高野山では数え年でいくので、69歳でなく70歳。古希です」
 「古希」という字が、今まで自分の年齢をあまり意識してこなかった私の胸に、ぐさっと突き刺さった。それと同時に、古希を祝ってくれる人がいることに喜びを覚えた。
 嫁からは「老人らしくない元気なお母さん、おめでとう」という意味のメールが届いた。おばあちゃんを6回も連呼している。「おばあちゃんを連呼して、私に老人を自覚させようとしているのでしょうけど、その手にはのらない (笑)」と返信した。
 近年、髪染めが面倒になった。白髪にしようと、4カ月間、髪染めをしていない。まだらの髪は、会う人それぞれが話題にする。「まだ早いわよ」 「5歳は年をとって見える」・・・。
 しかし、私の頑固な性格を知っていて、何回も会う友だちは「案外、いいよ」と言ってくれるようになった。見慣れたためか、言っても無駄と思うためかは分からない。
 「古くまれ」な年齢から、喜寿、傘寿、米寿と続くが、さて私はどの辺りで、おいとまとなるだろうか。

     (2016.04.09 中国新聞「こだま」掲載岩国エッセイサロン)より転載

故郷の山と川

2016-04-20 07:59:00 | はがき随筆
 山や川が私を呼んでいるようだった。そんな気にさせたのは約30年前、訪れた紫尾山のふもとの湯川内温泉の裏山や小川。
 石の多い古い山道を歩くこと約3㌔。崖路はコケむして、ヒトツバなどにシダが張りついている。深い森の、スギやシイの大木の中に、ヤブツバキの赤い花がひっそり咲いている。反対側の崖下は清冽な谷川がザーザー音を立てている。
 なんと気持ちいいのだろう。
 帰途、3月中旬だったが、湯川内温泉近くで早くもカジカガエルのすんだ鳴き声を聞いた。
 故郷の山と川は、有難きかな! と思わず口に出た。
  出水市 小村忍 2016/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載