はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はなびらの舞う下で

2020-04-30 11:05:48 | はがき随筆
 夜が明け始めるころの桜並木は実に美しい。ウオーキング中の私の肩に花びらがヒラヒラと舞い落ちる。道路は花びらで埋められた絨毯のようで、上を踏み歩くことにおののく。
 少子化に伴い3月で144年の歴史を閉じた小学校の門には二宮金次郎の銅像がポツンと学校を見守っているようだ。薪を背負って本を読みながら歩く姿に子供の頃は道徳心をたたき込まれたけれど、現代流にみれば歩きスマホに似ているかも?
 そんな雑念を振り払い遠くを見ると雲仙岳や有明海の絶景が広がる。そこで自己流のラジオ体操で一日はスタートする。
 熊本県玉名市 大村土美子(81) 2020/4/30 毎日新聞鹿児島版掲載

生きぬいて

2020-04-29 11:06:58 | はがき随筆
 冬季サークルが終わり戸外に出た。友が近寄り、元気ですかと声をかけられた。おかげさまで元気よありがとう。
 友は「親を介護している」と淡々とした口調で言う。食事やもく浴などを何度も要求し、夜は徘徊し汚物をつかんで壁になすりつける、手の施すすべもない。友は親の美醜の情景をジェスチャーで表現した。
 介護の日々に骨が折れると骨身に染みた。いばらの道を踏み越え蛇行し、皆、看病した。暗くて長い隧道をさまよい、そのあかつきには未来のまぶしい朝日が生まれる。前向きにどんと生き抜いて。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(75) 2020/4/29 毎日新聞鹿児島版掲載

思いがけないゆとり

2020-04-28 21:14:03 | はがき随筆
 ウグイスの鳴き声を聞いた。目をこらす。ようやくスズメくらいの小さな姿を見つけた。夫に「ウグイスって小さいっちゃね」と言うと「昔、家で飼ってたがね」と言う。
 思い返してみるが、どう過ごしていたのか、気持ちに余裕もなくさっぱり思い出せない。
 今「コロナ」の影響で、時間は無限にあるように感じる。ご飯をマキで炊いたり、山菜採りに行ったりと、過ぎし日の忙しさを取り戻すように、自然とたわむれている。
 初めてとも言える夫とのゆとりの時間を大切にしたい。でも都会の人には申し訳ない。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(72) 2020/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載

今年の桜

2020-04-28 21:04:09 | はがき随筆
 4月中旬なのに、まだ桜の花が新葉と同居して残っている。菜種梅雨が長引いたせいだろうかと疑問に思っていると気象予報士の話で合点した。
 今年は暖冬だったため冬の休眠が十分できず、だらだらと咲いているとの事。鹿児島ではいまだに満開になっていない木もあるとの話。それにはびっくり。
 桜にとっては冬の十分な寒さと春の暖かさがあって、パッと開花してパッと散る遺伝子の形があるのだろう。今年のような暖冬が今後も続くと、そのうちパッと開花パッと散る桜の潔さが見られなくなるのではないだろうかと危惧する春である。
 熊本県八代市 今福和歌子(70) 2020/4/27 毎日新聞鹿児島版掲載

記憶力

2020-04-28 20:56:22 | はがき随筆
 「妻のトリセツ」という本のタイトル。トリセツの意味が分からず何カ月経た。新語が出る度にモヤモヤと知りたい願望がうずまいている。でも情報を得る手立てが本屋か図書館かのどちらかで、のちに新聞紙上で知る由となる。
 以前パートに出た社名が出てこない。ちなみに数カ月で辞めている。私の記憶力も退化したな。一日中考え、脳の中に隠れていた社名が浮かびホッ。これから先これがふえるのかな。
 新語を出すときはその意味が誰にでもわかるように出版社、各人添え書きを! トリセツも後年記憶として残っているかな。
 鹿児島県鹿屋市 春野フキ子(70) 2020/4/26 毎日新聞鹿児島版掲載

歌に惹かれて

2020-04-28 20:45:16 | はがき随筆
 学生時代にバイクで日本一周をした。当時流行した歌に惹かれて。津軽海峡の思い出から。
 7月初旬の大間発函館行き。夕日が寒々とした街並みを浮かび上がらせている。肩を寄せ合うように並ぶ家々の壁が日を照り返し、幻想的な気分に浸った。服を着こみ、雨合羽まで着たが寒い。誰もしゃべらない。船室で震えながら丸くなっていた。「北へ帰る人の群れは誰も無口で……」。寂しく切なく、一人旅の味をかみしめていた。エンジン音だけが響く船内で。2週間後、北海道から三厩港へ渡り、竜飛岬へ向かっていた。
 歌に酔う北の大地の夏炉かな
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(63) 2020/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

気配り

2020-04-28 20:38:53 | はがき随筆
 2月ごろ、百歳体操の後の映画に見入っていたら、世話人のKさんが突如、「ほい」と缶コーヒーを差し出された。その機敏な行動に驚いた。日ごろ、自動販売機にも無縁な私には到底思いの及ばないその優しさにじむ気配りに感服した。
 若輩の時分、当時は東京出張は列車で一泊するのんびり旅だったが、上司に付き添って上京したときのことだ、話題も途切れ、いつの間に調達されたのか上司にコーヒーをごちそうになったことがあった。その時も気配りのなさを恥じたものだ。
 宮崎市 日高達男(78) 2020/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

桜吹雪に祈る

2020-04-28 20:32:31 | はがき随筆
 居間から見える大木の桜が今年も満開になった。早朝、蜜を求めてか雀やつぐみの大家族が、花から花へと飛び交う。外出もままならぬ今、その光景にしばし慰められる。毎年桜の下でにぎやかに花見をされていた団地の方の姿は見えず、登校できない子供たちが「ひらひら」と散る花びらを手に受けながら駆け回っている。みんなが楽しみに待っていた春なのに。世界を恐怖におとしいれている新型コロナウイルス。散る桜と一緒に消えてくれればいいのだが、収束の兆しは見えず。医学の力を信じ待ち望み祈ることしかできないのだろうか。
 熊本市中央区 原田初枝(89) 2020/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

退院一年

2020-04-28 12:38:05 | はがき随筆
 みどり欠乏症で苦しかった入院中。今年取ったレモンは453個と、昨年の1個とは雲泥の差であったので、多くの方にさし上げることができた。
 つえをつきながら、荒れた狭い庭を毎日1回はめぐる。サクランボの花が咲いたと思い、見るともう実がついて至極元気な様子だ。
 雨と土と太陽の光が織りなす自然。正月すぎに植えたミニチューリップが淡い黄の外葉3枚と、裏は赤に咲いた。まことにかわいい。今年はみどり潤沢なところでシ・ア・ワ・セ、だ。でも新種コロナ、油断できない。
 鹿児島市 東郷久子(85) 2020/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

こっちむいて!

2020-04-28 12:27:21 | はがき随筆
 3歳の孫と2月末、大牟田の動物園に出かけた。ライオンやキリンが目当てだった。
 ぽかぽか陽気で、目的のライオンは気持ち良さそうに昼寝をしていて全く動かない。顔も見られない。「ライオンさん、こっちむいてと言ったら」と孫に促すと大声で何度も呼んだ。聞いていて恥ずかしいぐらいに叫んでいた。願いがかない一瞬顔を上げ、こちらを向いた。「わぁ」と声をあげて喜んだ。キリンは木の葉を食べていた。歩く姿も見られ、はしゃぎ回った。キリンをバックにその姿を撮りたくて、じっとしてない孫に「こっち向いて」と叫んだ。
 宮崎県串間市 林和江(63) 2020/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

花見

2020-04-28 12:12:40 | はがき随筆
 コロナウイルスの影響で人込みを避けて、我が家から目と鼻の先にある桜並木へ。子供の頃から見慣れているが、ずいぶんと老木になった。竹やらつたが絡まっているものの、今年もけなげに花を咲かせている。いい具合に広場もある。
 焼酎や夕飯も兼ねてビールや弁当を持って夫と2人、桜を眺めていた。すると近所に住む94歳のおばあちゃんが通りかかり「そこで何ばしよっと」。夫が「おばさんもちょっと寄っていきなっせ」と誘ったら「ハイカラなこつばしよるなあ」といいながら3人で弁当をつつき、ゆっくりとよい花見ができた。
 熊本県山鹿市 栗原シゲコ(77) 2020/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

方言ランキング

2020-04-28 12:03:16 | はがき随筆
 同年代が集まって宮崎方言の話題に花が咲いた。
 「ちんがらっ」とは元も子もなくなること。「さるく」とは歩くこと、散歩。「あんべらしゅう」とは上手に。「だちもねえ」とはだらしない。「すぼ」は砂ぼこり、等々進むうち、ついていけないものが出始める。
 わかった数人の猛者に対して「宮崎方言の本流」の称号が与えられる。ついに「けしんめ」が登場すると、シーン。
 「けしんめ」とは着物等が裏返しという意味であるが、もう使われなくなった方言である。答えられた私への称号は「宮崎方言の化石」であった。
 宮崎市 杉田茂延(68) 2020/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

桜の下で記念写真

2020-04-28 09:50:46 | はがき随筆
 4月初旬、昨夜来の雨もあがり好天気、窓越しに見える公園の桜は8分咲き、春霞のようにふんわりとした雰囲気をかもしだす。
 孫らしい小さな2人をつれたおじいちゃんが遊具場へ。と、反対側から真新しい黒の帽子に半ズボンの男の子、年長の女の子と若い母親、まさしく新一年生の親子連れ。3人は桜の木の近くで立ち止まり、母親がカメラを構える。男の子が走り、桜の下で不動の姿勢をとる。新型コロナで入学式もままならぬ新1年生、親子三人連れのほほ笑ましい記念写真撮影風景だ。「おめでとう」と祝辞を贈りたい。
 熊本市中央区 木村寿昭(87) 2020/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

金魚の親子雲

2020-04-28 09:43:14 | はがき随筆
 晴れの日が続くと、あれもこれもと張り切りすぎて疲れてしまう。
 一段落して空を見上げると、金魚の形をした雲を見つけた。あれはお母さん雲、後ろに続くは子どもらしい。丸い綿雲がポンポンポンと並んでいる。
 次にお姉さん雲、金魚の親子雲を想像する。
 しばらく眺めていると、後尾の子どもが離されていく。「待ってー」と叫んでいるよう。「大丈夫よ」と近づいていくお姉さん雲。
 親子雲は形を変えながら、ゆっくりと東へ流れていく。朝の楽しいひととき。
 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2020/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載

猫の写真

2020-04-28 09:22:03 | はがき随筆
 千葉県に住む娘から、孫娘がコロナ恐怖症になって落ち込み、種子島に行きたいと言うが、行ってもいいかと電話がきた。帰省はじゅくするようにとの国の方針を伝え、納得してもらったが、翌日「猫の写真でも見せて慰めてほしい」と改めて訴えてきた。
 我が家には7歳になったメインクーン系の茶トラがいて一緒に住み始めた幼少のころからの写真がたくさんある。早速パソコンに保存してある中から6枚ほど取り出し、プリンターで印刷して送った。
 ところで、猫は人の思惑など全く意に介さず、自分の意志を貫き、思い通りに行動する生き物だ。我が家の猫殿もその気質は顕著で、外出からおなかをすかして帰ってくるなり、私の顔を見上げて命令調に「ニャーン」とわめく。かみさんにはそれが「ごはん」と聞こえるらしい。
 空腹を満たした彼は、縁側のガラス戸の前に行き、振り返って「出るから開けてくれ」と私に命じる。ちゃんと自分専用の出入り口が取り付けてあるのだが、太りすぎて少し窮屈になったようだ。
 こんな日常を贈っている私は孫に一筆書いた。「世の中なるようにしかならないのだから、猫を見習って思い通りに生きてください」 
 それを見たかみさんが「まるで哲学者のようなことを書いちゃって」と冷やかす。孫からは「猫の写真に癒されました」と電話が。コロナ騒動の中、孫とじいとの交流だった。
 鹿児島県 西之表市武田静瞭(83) 2020/4/22 毎日新聞鹿児島版・男の気持ち掲載