はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

パワーの源

2006-11-30 10:52:22 | はがき随筆
 スポーツジムに通い半年になった。インストラクターやスタッフの熱心な指導と、体を鍛えいつまでも健康でありたいと願う会員の強い気持ちが重なりジムは活気に満ちている。
 会員は幅広い年齢層。色々な体操器具を使い黙々と体力強化に励む男女あり、ヨガやエアロビクスなどで体力維持に努める壮年組。プールで体の機能老化防止や回復を目的に励む老年層。
 私も継続は力なりを信じ鍛錬を積み生活習慣病数値の改善、そして腹も凹みスリムになった。今は、老若男女会員仲間との忌憚のない会話も楽しみの一つになっている。
   鹿児島市 鵜家育男(61) 2006/11/30 掲載

柱時計

2006-11-29 11:04:41 | はがき随筆
 28年間わが家の時を刻んでくれた柱時計が、最近2、3日で休むようになった。働きすぎたとばかりに。一度は新しい時計をと考えたものの、やはりこり時計にどうにか働いてほしくなる。油は時々差しているし、振り子が原因ではと厚紙で枕をつくり腰上げをして更に時計を固定してみる。すると1日また1日と動きを更新しだした。ああ良かった。このゼンマイ式の柱時計は贈って下さった義兄への恩義と私の古い者へのこだわりで、これからもわが家の時を担当する運命にあるらしい。とにかく、柱時計が動いている。この当たり前がうれしいのである。
   霧島市 口町円子(66) 2006/11/29 掲載

銀杏にはまる

2006-11-28 12:29:21 | はがき随筆
 電子レンジで加熱した白い殻をむくと、翡翠のような艶やかな小さい卵形の実が現れた。塩を付けて口に運べば、しっとりとして濃厚な味が広がる。
 今年、初めて銀杏を拾ってみた。種皮を取り去り、水洗いして天日に干す。思った以上に簡単だった。事のきっけは小学校の校庭で悪臭を放ってゴミと化す運命と知ったことから。もったいないし、焼酎のつまみになれば一石二鳥だ。好きではなかった妻も、新鮮な銀杏の虜になってしまった。
 この秋、外出の度にイチョウの木を見つけては地面の薄桃色の実を探した。息子がうんざりするくらいに。
   垂水市 川畑千歳(48) 2006/11/28 掲載

錦江湾のイルカ

2006-11-27 23:39:15 | かごんま便り
 鹿児島市から姶良町に向かう海岸線沿いの国道10号。天気が良く、景色も素晴らしい眺めだった。気持ちよく車を運転していると、錦江湾をクロールで泳ぐような姿が見えた。黒色のウエットスーツを着た太い腕で、恐ろしいほど早いスピードで泳いでいる。
 その正体は何だろう。注意して見ると2頭のイルカが並んで泳いでいた。交互に水面に現れる姿が、遠目からはクロールで力強く水をかく腕に見えたのだった。
 かごしま水族館に尋ねてみると、私が見たのはミナミハンドウイルカらしく湾内には約50頭生息しているという。さらに、湾口付近には多数のハセイルカが出入りしていると説明してくれた。
 ついでに以前、この水族館で見た全身に斑点のような模様があるイルカのことも聞いてみた。と、さすがに「多分、ハンドウイルカのクーのことでしょう」と話してくれた。
 色が黒いから「クー」の名前で呼ばれ、体長2.5㍍、体重258㌔のメス。イルカもそれぞれ性格がある、クーはやんちゃ、おてんばという。斑点の数は100近くあり、これはダルマザメが食らいつき、肉をえぐった跡だった。
 調べたら小型のサメで体長は約50㌢。夜になると深海から浅い海域に上がって来る。その姿がイカに似ているそうで、間違って近寄ったイルカに鋭い歯でかみつくそうだ。
 イルカは歯クジラ類の小型種の総称で、古くから人との関係も深い。イルカ、クジラを対象にした「鯨魚(イサナ)取り」は「海」の枕言葉として使われている。
 万葉集に「鯨魚取り 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ 海は潮干(ひ)て 山は枯れすれ」の歌がある。海は死にますか、山は死にますか、死ぬからこそ、海は潮が干いて、山は枯れるのです。
 さだまさしさんの「防人の詩」には「海は死にますか 山は死にますか 風はどうですか 空もそうですか」などの部分があり、万葉集の歌を踏まえて作詞したに違いない。
 鹿児島には、わざわざボートを出してイルカウオッチングに乗り出さなくても、運がよければ錦江湾の岸からイルカが見られる環境がある。しかし「観察するぞ」と、意気込んで眺めてもなかなか姿を現さない。関心がないように思わせ、何気なく見つける方がいいようだ。この気持ちで3回ほど成功した。
   毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 2006/11/27 掲載
写真はkoba-tanさんよりお借りした「ミナミハンドウイルカ」です。

星のバッジ

2006-11-27 22:41:46 | はがき随筆
 「母ちゃん、今何時?」「3時だよ。眠れないの?」「うん」「じゃベランダに出てみる?」
 眠れぬ9歳の娘と私はベランダに出た。外は満点の星。
 「わあー、きれい」「ほんと、きれいね」
 娘と私の小さな声が、花びらのように宙に舞う。
 「母ちゃん、あの星の一つを取ってバッジにしたいね」「うん、母ちゃんもずっとそう思ってた」
 静かに冷たい秋の空気に包まれ、その時、2人の胸に星のバッジがそっと光ったように感じた。
   鹿児島市 萩原裕子(54) 2006/11/27 掲載

手紙

2006-11-26 19:16:26 | はがき随筆
 「お姉さま お変わりございませんか」と近くにいてもなかなか会う機会も少ない義姉に、季節が変わるごとに伺いの便りを書く。物静かな姉は趣味の縫い物をしながら、美しく年を重ねている。85歳である。何時の頃からか手紙と一緒に四季の和歌や俳句を書き添えるようになった。優雅な気分になる。今日も「古今集より」と歌を料紙に書いた。
 夏と秋とゆきかふ空のかよひぢは
 かたへすずしき風や吹くらむ
 姉の健康を気遣いながら栗ご飯でも一緒にと食事への誘いをした。数日後、喜び溢れる姉からの文が届いた。
   鹿児島市 竹之内美知子(72) 2006/11/26 掲載
写真はtimidoriさんよりお借りしました。

晩秋の思い

2006-11-25 08:51:37 | はがき随筆
 足早に時が流れていつか晩秋の季節。夏の暑さも、冬の寒さもなく、落ち着いた季節ではあるが、何となく寂しい。
 コスモスが散って、代わりにあちこちを黄色に染めて石蕗の花が咲く。たそがれてくると、青い空が霞んだように灰色となり、風の冷たさが心にしみる。傾いた太陽が西空を赤く染め静かに沈んでゆく。やがてつるべ落としの夕日。
 わずかに残照が映えてやがて闇。私は好きだが寂しい。自分の心を見つめて生きてゆかねばと思う。明日もまた朝日が昇ることを信じて……。
   志布志市 小村豊一郎(80) 2006/11/25 掲載

ハッピーバースデー

2006-11-24 08:43:05 | はがき随筆
 受話器の向こうで、ささやくように歌っている。
 「ハッピーバースデー ディァ サキコ ハッピーバスデー トゥ ユー」
 「ありがとう」と笑った。
 「どんな一日だった?」
 「午前中、電話で少しトラぶっちゃって、午後、『コリント人への手紙』を読みながら心が痛み、反省しました」。おかしそうに笑っている。
 意地悪ね。でも、すてきなプレゼントに免じて許してさしあげます。古稀の扉をハッピーに開いてくれたあなた。
   鹿屋市 伊地知咲子(70) 2006/11/24 特集版-6
写真はTerrilさんTerriyさんよりお借りしました。

恋におちて

2006-11-24 08:37:34 | はがき随筆
 こんなすてきな人に出会えるなんて……。妻に先立たれて、しかも友人姉弟、子供たちとも遠く離れ1人になった時、いつまで生きられるかと思った。しかし、時間というのは有り難いもので、すてきな人に会えば心躍る時も来るのである。まるで少年のころのように。自分の心を伝えることのもどかしさを今、味わっている。1人の時には、すらすら出る言葉が、感動の返事まで想像できるのに。伝えられない言葉、気持ち。好きだし分かち合いたい歓喜は山ほどあるのに。大切な人だから慎重にはなるが、この愛を伝えないわけにはいかない。
   志布志市 若宮庸成(67) 2006/11/24 特集版-5

疲労骨折

2006-11-24 08:32:26 | はがき随筆
 何をしたわけでもないのに疲労骨折。シーネで固定、両手に杖。
ただでさえ不自由な体に、これじゃトイレに行くのがやっと。痛みが走る。一歩でなくて半歩ずつの歩行にガンバレ! 「今日より明日は楽になるよ」。自分にエールを送りながら。
 一生の間で、これも与えられた運命。後何回、このような試練に耐えたら楽になるのだろう。でも両手の使えない生活。何と不便なことよ。
 生きるって難儀なことだけど、楽しいこともたくさんあることを信じて前進!
   鹿屋市 三隅可那女(62) 2006/11/24 特集版-4

可那女さん、どんなに辛いでしょう、それでもあなたの明るい日々に感動しました。
アカショウビンより可愛い花束を送ります。

母の柘植も天国へ

2006-11-24 08:27:29 | はがき随筆
 身内の者が亡くなると、不思議な現象が起きるという話をよく耳にするが、我が家の庭の中心的な存在だった柘植が突然枯れた。生前母が枝ぶりがおかしいとか、この位置でいいのかなどやたらと気にしていたのだが、その母が天国へ旅立ってから間もなくのことだった。水を撒くたびに母が気にしていたことを思い出していたのだが、葉が一晩で黄色に変色したのである。植木職の方が言うには、虫が大分前から浸食に取り掛かり、幹を一周してしまったのだそうだ。直径15㌢と立派に育っていたのに……。母が呼び寄せたのだろうか。
   西之表市 武田静瞭(70) 2006/11/24 特集版-3
写真は花調べさんからお借りしました。

プロポーズ

2006-11-24 08:20:23 | はがき随筆
 あのね、本音でしゃべるとね。血圧も200近いし不安なんだ。病に倒れて逝った義父の年齢を超えて、鬼籍に入った父の年齢に近づきつつある今、「孫の顔を見るまでは生きていたい」って思うんだ。いや本当は古里を捨てて鹿児島まで来てくれ、3回の転職の時も黙って傍らに居てくれた「おまえ」のために生かされてある命を輝かせたい、が本心かな。生きるのが不器用な俺。死んでもこんなセリフは口にできない。だから、「はがき随筆」に残している。2人で歩いてきた22年。この先も「お前に恥ずかしくない男」として凛と歩いていくよ。
   鹿児島市 吉松幸夫(48) 2006/11/24 特集版-2

高齢者講習

2006-11-24 08:13:57 | はがき随筆
 高齢者講習通知書なるものが届いた。通知の内容は、70歳以上の者は免許更新手続き前に「高齢者講習」を受けなければ免許証の更新手続きはできません、と言うことである。免許証を取得してから約50年。車の運転をしない日はまずない。まだまだ年は重ねていても腕には自信がある。なんでいまさら。しかし、義務なら仕方ない。受講料6000円余りを支払って受講した。内容は安全運転に関する講義、実技、適性検査である。ところが、画面を見ながら機敏に動作する適性検査はさんざんだった。年には勝てぬ。知らぬ間に敏捷性が失われていた。
   志布志市 一木法明(71) 2006/11/24 特集版-1 
写真はrosaliaさんからお借りしました。

異常なし

2006-11-23 20:49:19 | はがき随筆
 市の基本健康診査の結果報告を10月3日に受けた。順番を待つ間、今年の結果は? と、気が気ではない。保険師は笑顔で椅子をすすめた。生活習慣や現在治療中のことなどを質問した後、検査の項目ごとに数値の説明があった。その間、問題の指摘はなく、前年まで高脂血症で時間を要したが数値はよいと笑顔で話し、最後に「何も異状はないです。結構でした」と終了した。かねて週2回の休肝日を設け、霊芝の煎じ汁、波動水、漢方薬、高脂血症薬を服用し、野菜食、玄米食、薄味に努めている。それらのお陰か。ほっとした。
   薩摩川内市 下市良幸(77) 2006/11/23 掲載

はがき随筆10月度入選

2006-11-23 20:37:32 | 受賞作品
 はがき随筆10月度の入選作品がきまりました。
△ 薩摩川内市樋脇町市比野、新開譲さん(80)の「ゆっくりでいいよ」(2日)
△ 南さつま市加世田村原、寺園マツエさん(84)の「定年」(9日)

△ 志布志市志布志町志布志、小村豊一郎さん(80)の「5時40分の空」(16日)
の3点です。
 上村泉さんの「秋の風」、吉利万里子さんの「私の秋」、小村さんの「5時40分の空」、古木一郎さんの「酔芙蓉」などなど、秋の風情を称える文章を多く読ませていただきました。楠元勇一さんは秋の桜の「狂い咲き」を語り、年神貞子さんは「マタタビ」を面白く描きました。
 スポーツの秋という面からは竹之内美知子さんの「早朝のサッカー」、横山由美子さんの「3年生全員応援」に十分に書かれました。あ、食欲の秋という面からは、吉松幸夫さんの「巻きずし」が、いかにもおいしそう。
 さて、秋は年の終わり12月を前にして寂しい季節でもあるようです。子供さんが定年を迎えられる寺園さんの「定年」など。また、ご自分は高齢でなくても高齢の方々のために心を使われるところの出た、いい文章も多かったですね。福元啓刀さんの「喜寿むなし」は、自分の人生を振り返り戦争中の様々な出来事を思ってむなしい気持ちになった時、宅配便が届きます。「子供一同から」とあるサインに、様々な体験をした福元さんは複雑な思いをもちます。その内容がいいですね。それが「喜寿むなし」です。思いが深いのですね。
 ご高齢の新開さんの「ゆっくりりでいいよ」は小学校6年生の担任で忙しく、嫁探しは親任せ、と書きます。最初の出会いが結納の日。以来、合同金婚式の御祝いも代表で三三九度。3人の子供の世話。日常生活は、家内にまかせっきり。急いだ来たような人生。家内の安らかな寝顔に「ゆっくりでいいよ」と語りかけて今夜も眠る。これからもゆっくり2人で歩いていこう。以上が全文です。いいですね。立派な人生論だと思います。道田道範さんの「人の情けに涙…」もいいですよ。
 (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)
係から
入選作品のうち1編は25日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のこーなー「朝のとっておき」です。