はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

おひなさま

2017-03-30 22:56:44 | はがき随筆


 3人の子女に恵まれたわが家では毎年七段飾りのお雛さまを飾っていました。1人居になった今は小さな陶製の内裏雛と布製の三人官女をお盆に飾ることに。箱から出すのは「雨水」の日、そして長い間飾っておくのはよくないという言い伝えもあるようです。しまい遅れるとお嫁に行き遅れるということにようです。「お片付けのできない子は良いお嫁さんにはなれませんよ」という教えでしょうか。
 今年は2月18日に飾り、ささやかながら、おもてなしをと思います。ともすると単調になりがちな老女の日々にメリハリがつくような気がするので。
  鹿屋市 門倉キヨ子 2017/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載

空の旅雑感

2017-03-30 22:50:27 | はがき随筆
 世界自然遺産・奄美大島へ南北一泊二日の行政視察研修に出席した。10年ぶりの鹿児島空港ロビーでのこと、旅人はほとんど携帯電話でなくスマホを手にしている。旅具も手提げかばんでなく、そこに車の付いたキャスターである。搭乗手続きは切符ではなく、文書の片隅に印刷されたバーコードであった。東洋のガラパゴスの名で有名な島でアマミノクロウサギやハブ、ルリカケス、マングローブ林などを肌で感じ、我ながら「井の中の蛙大海を知らず」だった。
 これを機会に、せめて年に1回くらいは空の旅をしたいとつくづく思う事でした。
  湧水町 本村守 2017/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

ドラマは続く

2017-03-30 22:42:48 | はがき随筆
 去る2月5日、実家で父の25年忌があり、千葉より弟夫婦が帰省して、行事を遂行した。
 生前、両親が着用した衣類を公開して形見分けすることに。
 父の背広、モーニング、大島紬、コート。母の高級呉服、肌着類が、ナフタリン入りで丁寧に虫干しの日付まで記入。それを見ても、欲しい人がいない。なぜ? 訳はそれぞれ自宅にも「箪笥の中で眠っている」と。そう言いながら、好みの物を選んで、残りは高隈山稜の焼却炉へ。誠にもったいない話。夢と希望の品々が、一瞬にして焼失する。やがて新しいドラマの開幕で行事は続く。
  肝付町 鳥取部京子 2017/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

孫娘を育んだ京都に感謝

2017-03-30 22:34:06 | 岩国エッセイサロンより
2017年3月29日 (水)
   岩国市   会 員   片山清勝

 京都で生まれた孫娘が3歳になる頃、「ひらがなが読めるようになりました」と長男の妻からメールが届いたことがきっかけで、孫娘とのコミュニケーションを深めようと、「孫新聞」を作り始めた。不定期のつもりが面白くなって月刊で出すようになり、今月で190号になる。
 孫新聞はB5判で、庭の花や町内の行事、同好会の様子など、私たち夫婦の日々を小さな紙面に工夫して載せ、孫娘に郵送している。
 孫娘は生まれてから今日まで京都に育てられたのだと私は思っている。京都が好きなようで、小学生の時には祇園祭の手伝いをしていた。浴衣姿の写真を見て、「本当に京都の人になったのだな」と実感した。
 4月からは志望していた京都の大学に進学する。本人と親だけでなく、遠く離れて暮らす私たち夫婦も大喜びしながら、今日まで無事に孫娘を育んでくれた環境に感謝している。
 孫娘は選挙権を持つ年齢になった。国内外に目を向け、広い視野で物事を考えることができる学生生活を過ごしてほしいと願っている。そのためには、京都の皆さんの力をお借りしたい。これからも孫娘をよろしくお願いします。

    (2017.03.25 京都新聞「窓」掲載)

母からの贈り物

2017-03-28 17:45:46 | 岩国エッセイサロンより
2017年3月25日 (土)
山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 大学進学とともに実家を出て、早いもので38年。いつのまにか親と過ごした年月より離れて過ごした年月の方が長くなっている。その間、どこに住んでも実家の母から段ボールに入った贈り物が届いた。「そっちでも売っているよね」と母は言っていたが、定期的に届くのが楽しみだった。
 昨年7月、母が急死した。「実家の母が亡くなって変わったと思うことはない?」と主人に尋ねたら、「ミカンが届かないね」と返答がきた。愛媛の実家からミカンが送られてくると、今年もこの季節がきたなとしみじみ感じていたので、何だか物足りない。農家ではないので、知り合いに頼んでわざわざ送ってくれていた母。毎年当たり前のように送ってくれていたが、本当にありがたかった。
 実家からの荷物を開けたときに手紙を探すわくわく感。下に敷いてあったり、間にはさまっている新聞を伸ばして読むのも楽しみの一つだった。今、母がしてくれたように娘に荷物を送っている。自己満足かもしれないが、楽しみにしてくれることを信じて……。
 (2017.03.19 愛媛新聞「てかがみ」掲載)

言霊を届ける

2017-03-28 17:43:14 | はがき随筆
 私のブログのタイトルは「ことだま日記」である。山寺での日々の出来事などを書き始めてから4年になる。知人や友人からの便りによく「ブログみています」と書き添えてある。不特定の人に伝達するのにブログはとても役立っている。一方、目に見えない人への伝達だけでなく、身近な人に直接伝える「言葉カード」の作成を最近始めた。「微笑みに優きれいな化粧なし」とか「晴れてよし、降ってよし、今を生きる」等々の言葉を筆ペンでB6大に書きファイルに入れ、できるだけ多くの人に手渡すことにした。みんなの心に言霊を届けるために。
  志布志市 一木法明 2017/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載


あったもん生活

2017-03-28 17:35:41 | はがき随筆
 主人が1週間ほど家を空けることになった。少しずつ多くの種類のおかずを食べたい主人なので、解放がうれしかった。その日から〝あったもん生活〟が始まった。作りおきの南蛮漬けやキンピラ、手作りの佃煮。大好物の煮物をたくさん作って一品で過ごす自分が想像できた。
 過食快便が自慢だったが、4日目ごろから少しずつ変化が表れ、出なかったり、硬かったり。やはり作らされ食べされられて、季節を感じる食事で元気でいられるのがわかった。
 なんだかんだ言っても今年は金婚式。お互いに我慢と忍耐で、そのうえ健康のおまけつき。
  阿久根市 的場豊子 2017/3/27 毎日新聞鹿児島版掲載

白水仙

2017-03-28 17:26:21 | はがき随筆
 際立つ濃い緑の葉が空気にさえて好天の日の庭は春めく。スノードロップ? より堅い葉群だと思っていると、白い蕾が出て、やがて水仙の、それも芯まで真っ白な花が咲いた。在来の日本水仙の花が今年はなぜか少なかったので、白い花はうれしい。
 特にいろいろな葉が花になり、新鮮な黄色に目が覚めるような狭庭のあけくれである。加えて野草のホトケノザのワインレッドの小花、ケマンソウの紫、オキザリスのピンク等々。木の花も今朝からミツバツツジが開花しはじめて、いのちの芽出や開花を催す節となった。
  鹿児島市 東郷久子 2017/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

空元気

2017-03-28 17:12:17 | はがき随筆
 松林に囲まれた病院の小さな売店。壮年の男性が「今、検査の受付で、ペットボトルを2本持って来るように言われてね」と大股で入って来た。「どれがいいんだろう」。神妙な顔つきで収納庫をのぞいている。すると、レジにいた美顔の女性が歩み寄り「こちらの水も効きますよ~」と語尾を上げ、おどけた調子で言う。「あっ、そう。じゃこいつらと一緒に、きょう一日頑張ろうかな。ワッハハハ」と高笑いを響かせた。
 不安と緊張を抱え、検査に向かう男性。その心情を察知し、ユーモラスに対応した女性。
 人生、時に空元気も必要だ。
 鹿児島市 平原博 2017/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載


再会の喜び

2017-03-28 17:11:35 | はがき随筆
 毎日新聞読者の皆さま、こんちには。
 8年前に配達所の都合で配達ストップになり、皆さまとの縁が切れ寂しい思いの中、久しぶりに毎日にめぐり合い、3月1日より愛読しています。
 はがき随筆が懐かしく、仲間に入れてもらいたいと思います。しかし、長いペン休。体力、能力の衰退で読み書きが苦になります。 
 わずかに残る勘を引き出して時々投稿いたします。どうぞよろしく。
  霧島市 楠元勇一 毎日新聞鹿児島版掲載 2017/3/24

さよなら鹿児島

2017-03-23 22:04:05 | はがき随筆
 転勤族の我が家が、丸4年にわたって住んだ鹿児島の地を離れることになった。
 長女の入学から始まり、長男の幼稚園入園・卒園・入学、私の妊娠と流産、そして再度の妊娠・次男の誕生と、思い出も盛りだくさんだった鹿児島。多くの方にお世話になり、どれだけ感謝してもしきれない。
 薩摩弁は難しすぎて身に着かなかったが、唯一使いこなせるようになった鹿児島県人なじみの言がある。「ですです!」。私の心の勲章だ。
 新しい土地にも早くなじみ、家族でたくさんの思い出をつくっていきたい。
  鹿児島市 津島友子 2017/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載

おにぎりの日

2017-03-23 21:58:02 | はがき随筆
 その昔、わが家には「おにぎりの日」があった。食卓にご飯とのり、具材を並べ、後はご自由にという寸法だ。姉は球形のおむすびをぐるりと覆う「ばくだん」がすきだった。弟は平らにのしたご飯に「全部のっけ」をして大口で食べた。私は母をまねて「ロケットおにぎり」を作った。俵形のご飯の片方に寄せてのりを巻く。のり側を下にして立てるとロケットのできあがりだ。たくさん作って並べ、カウントダウンしながら頬張るのが楽しかった。母なりに知恵を絞った「お料理をしたくない日」だったのだろうが、親子とも大満足のメニューだった。
  鹿児島市 堀之内泉 2017/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載

驚異的な回復

2017-03-23 21:41:13 | はがき随筆
 今年白寿の叔母は10数年施設にいるが、数年前肺炎になった。老人には怖い病気で医師は予断を許さないと言った。
 週末はもちろん、平日も夕方一旦職場を出て、小一時間かけて病院へ様子を見に行き、戻って夜中まで仕事をした。始めのうちは眠ってばかりだったが、3週間もたつと呼吸も楽になり、その後の回復は目覚ましかった。鈍った足のリハビリを自ら申し出たという。そうして3カ月ほどで退院し、ホームに戻った。
 現在車椅子生活ではあるが、食欲もあり頭も驚くくらいはっきりし、すこぶる元気であ。
  鹿児島市 本山るみ子 2017/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載

現代の買い物事情

2017-03-23 21:35:12 | はがき随筆
 私が世帯を持ったのは、60年以上前になります。その頃と比べると世の中が変わり、IT社会となり、年寄りにはよいのかどうか考えてしまいます。
 スマホ一つ持っていれば、大体の用は足せます。
 サザエさんの漫画に出てくるなつしい風景は過去の時代となりました。この前まで近所にあったスーパーは昼間人口が少なく閉店。コンビニに変わり、ネットでの買い物も多種多様のものが利用されるように便利になりました。
 今日はどんなおかずにしようかと、お店で話した頃をなつかしく思い出しています。
  鹿児島市 津田康子 2017/3/19 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆2月度

2017-03-23 21:28:54 | 受賞作品
 はがき随筆の2月度月間賞は次の皆さんでした。
 【優秀作】4日「至極の時」若宮庸成=志布志市有明町
 【佳作】8日「忘れられた集落」高野幸祐=鹿児島市紫原
 ▽15日「霊は感じる」鳥取部京子=肝付町新富

  
 「至極の時」は、静謐な、品のある美しい文章です。屋外のヒヨドリの鳴き声、詫助椿、室内に籠る香と茶の薫り、羨ましい世界です。現在のわが国では、なかなかこういう時間は送れません。いつまでも続くことを願っています。
 「忘れられた集落」は、高齢で独居の正月に、同じ境遇の同級生を思いだして電話したが出ない。気になって訪問したが留守。隣近所も無人。見放されたかと寂しく帰って来たという内容です。自分が見放されたという感受は理解できますが、同級生の様子が気になるのは、まだ他者との関わりがあり、見放されていないのではないでしょうか。
 「霊は感じる」は、病院の帰途、実家に立ち寄ってみたが、空家の庭は荒れ放題。部屋は整理され、両親の遺影が飾られてあった。両親に感謝して、庭の大掃除をして帰って来た。その夜父親の夢を見たという内容です。自分の行為を父が見て喜んだのだと感じたという、霊の交感はいいですね。
 この他に
 3編を紹介します。
 坂元佐津夫さんの「人生の旅立ち」は、高校卒業時に、父の勧めとは別の職業を選んだ。それでも快く送りだしてくれ、そのときの、3年は頑張れという父の言葉が励みになった。今あるのは父のお陰だという感謝の文章です。最近ミス・マッチングとかいう言葉がはやって、若者の離職が多いようですが、職業に自分を合わせるという教育はできないものでしょうか。外薗恒子さんの「鳥たちのおとし物」は、庭の万両の赤い奇麗な実は、すぐ野鳥に食べられてしまう。正月三が日は食べないでという願いがかなって、今年はその美しさを鑑賞できた。視点を変えてみると、野鳥の落としていったものの自然発芽の万両ではあった。
 内山陽子さんの「老いる」は、朝のゴミ出しのとき、デイサービスの迎えを待っておられた老人も、ゆっくり散歩されていた方も見かけなくなった。わが身の老いとともに、生きるということを考えされられたという内容です。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦