はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

今日のハッピー

2020-07-29 17:20:29 | はがき随筆
 80歳になったら車の免許返納を考えている私。行きたい所に自由に行けるのも、あと10年だなあと考えていた。
 そこへコロナ問題。車があっても使う機会が減り、いきなり80歳代生活がやってきた。人生の第三の坂「まさか」だ。
 だが手洗い三密を意識しコロナと上手に付き合って行くしかない。生活はおのずとシンプルになっていくが、心のアンテナはしっかり立て、喜怒哀楽を失わず生きたいものだ。まずは一日一日を大切に実年齢の80歳を目指そう。今日のハッピーは? そう、20年前の教え子からの電話。これはベリーハッピー!
 熊本県八代市 今福和歌子(70) 2020/7/29 毎日新聞鹿児島版掲載

ツバメの再来

2020-07-29 16:20:28 | はがき随筆
 4月の終わり、思いがけない幸運が舞い込んだ。古い巣にツバメの飛来、8年ぶりである。そのときはスズメに巣を壊されたのだ。夫が「奇跡だ」と喜んだ。このコロナ騒ぎの中、希望を見た思いだった。
 近くの電線から超特急での低空飛行を毎日観察。ヘビやカラスが来ないようにと願いながら……。そしてヒナがかえった。親が代わる代わる餌を運んでくる。我先にと大きく口を広げて待っている。
 6月、2羽が巣立ち、2日後に残りの1羽も旅だった。2ヶ月ほどの日々、小さなドラマを楽しんだ。
 鹿児島県薩摩川内市 馬場園征子(79) 2020/7/28 毎日新聞鹿児島版掲載

お中元

2020-07-29 16:13:10 | はがき随筆
 7月に入り間もない日。小包が届いた。東京に住む兄が書籍でも送ってきたかと思ったら、なんと、昨年結婚した孫息子からだ。同じ学舎で剣の道を究めながら、愛を育んだ2人だ。
 コロナ騒動でそれどころではないのに。そうだね、もう1年か。包みを開くと、私の好物とらやのようかんだ。夏バージョンの箱が10個。早速その夜、お礼のメールをする。翌日、電話が来た。「元気にしてて、宮崎の活きのいい魚を食べさせてね」。
 「任せてね」と胸をトンとたたくと「安心した」と電話を切った。「元気でいなくては」と急に力が湧いた。いい日だった。
 宮崎市 田原雅子(86) 2020/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載

無茶苦茶

2020-07-29 16:06:42 | はがき随筆
 最近テレビで「めちゃくちゃ」と言う言葉を多く聴くようになった。「めちゃくちゃいい」「めちゃくちゃ旨い」などに使っている。本来の意味を辞書で見ると「物事が二度と元に戻せないように壊れる事」と書いてある。
 私がテレビに向かって文句を言っていると、妻から「歳とって文句ばかり言っていると誰も面倒を見てくれなくなる」と注意された。表現は時代と共に変わるものだとも言われた。
 新聞など活字では滅茶苦茶という使い方は見ないが、話し言葉では若い人が、無茶苦茶に使っている。日本の未来を憂えるのは歳の所為なのだろうか。
 熊本県合志市 古城正巳(78) 2020/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

畑が売れて

2020-07-29 16:00:06 | はがき随筆
 夫亡き後、一人で守り耕してきた小さな畑が売れて家づくりが始まった。農道一つ隔てた土地に一部二階建て。棟が上がってみると少し圧迫感がある。でも台風は防げるだろうし、若い夫婦に高齢の私はお世話になることも多いだろう。隣人となるこの人たちは、近くに住むIさんの娘さん夫婦である。夫が亡くなってからIさんは、月に一度の資源ごみ収集日には私の分も車に積み込んで出してくださってきた。なにかと気遣ってくださるよき友人である。聖書の「伝道の書」に何事にも定められた時があるとあるが、畑が売れるにも時があった。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(80) 2020/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

坊主頭

2020-07-29 15:51:48 | はがき随筆
 コロナウイルス騒動。戦争を知らない私にとってはそれに匹敵する今回の出来事です。過去に自然気胸、肺結核、膿胸など肺の病気を患ったことのある私は、ことさら感染を恐れ「三密」を避けるように……。そうこうするうちに頭髪が伸び始め、さあどうしよう。長考の末、通販で電動バリカンを購入。坊主頭にすることに。襟足部分は妻にアシストしてもらい、見事な丸刈りの完成。思い返せば中学生の時以来です。
 手のひらでひと撫ですると、懐かしいあの爽快感が……。身をもって体感したシンプル・イズ・ベストでした。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(70) 2020/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

聞こえないふり

2020-07-29 15:45:06 | はがき随筆
 明け方、トイレに行きたくなり目が覚めた。外は暗い。まだ寝られると思い布団に入った。
 すると、隣で寝ていた夫が、「今、何時?」と聞いてきた。私は、目覚まし時計を見て答えた。夫は、そのまま何も言わずイビキをかいて寝入ってしまった。「なんで?」。起こしても起きないくせに……。無性に腹が立ち、眠れなくなった。
 雨の日、またトイレに行きたくなり目が覚めた。夫が時間を聞いてきた。私は、聞こえないふり、寝たふりをしていたら、何もいわなかった。
 今度、夫がトイレに起きたら時間を聞いてみようと思う。
 宮崎県日南市 三川昭子(59) 2020/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

夢の途中

2020-07-29 15:33:29 | はがき随筆
 ここはフランスのパリ。今から始まる私の結婚式。きょうは2組だけで前の彼女はウエディングドレス、私は純和風。着付けは途中だが親族を探している。
 弟2人がおめかしして現れた。一番下の弟はまだ5.6歳か? 絣の着物姿、七三に薄い髪が分けられ相当に可愛い。見入ってしまう私。目が覚めた。
 どうしてこんな夢を見たのかな。きっと久ぶりに会ったためとわかっている。去年もらった花オクラの苗を今年も欲しくて、頼んでおいた。花オクラは観て良し、食べて良し。手塩にかけて育てます。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

彼方と此方

2020-07-29 15:23:47 | はがき随筆
 死後のことはよく分からない……けど十数年前、突然耳の奥に忘れ物をしていることを叱る父の声がした。確かめると大切な書類がなかった。
 あれから時が過ぎ、父の年に近づき、老人の年齢になり。天気に恵まれ畑仕事をしている時に、畝に鍬を打ち下ろした瞬間、ふとそこに父のいる気配がして、顔を上げるといつもと変わらない風景だったが、同時に懐かしい父の満足げな笑顔が脳裏によみがえった。
 気のせいだと思うが、案外、彼方は此方からそんなに遠い所じゃないみたいだ。
 鹿児島県湧水町 近藤安則(66) 2020/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

声の主は?

2020-07-29 15:17:20 | はがき随筆
 毎朝のウオーキングは、近くの畑道。その朝、澄み渡った空に響く鳥の声に足を止めた。
 「ピッピリーピ、ピッピリーピピッ」。一音ずつ高くなるさえずり。この夏も来てくれた!
 名前も姿も知らない。が、澄んだ声の主に心ひかれていた。
 インターネットで調べ、野鳥の会にも尋ねた。キビタキか、オオルリではないかとのこと。
 世界中を震撼させているコロナウイルスの原因に、気候変動の影響もあるとか。鳥たちの生態系を壊してはならない。
 私たちも鳥の歌の聞こえる、豊かな自然の中で生活することこそ、一番の幸せだと思う。
 宮崎市 河上久子(71) 2020/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

風鈴

2020-07-29 15:10:20 | はがき随筆
 新型コロナウイルス発生で、2月21日から5ヶ月の巣ごもりを迎えた。昨今むし暑い日が続く。コロナ感染予防、熱中症予防と気がやすまらない。
 毎夏出している風鈴を今年は格別な思いで出した。土産の南部鉄器の風鈴、旅先で作った備長炭の風鈴、プレゼントのガラスの風鈴、それぞれに音色にちがいはあるがそれまた妙である。
 外国の人は風鈴の音を騒音と感じると聞いた事がある。
 風鈴の音に涼を感じるのは日本人の遺伝子にくみ込まれたものかなと、思いながら音色を愛でている巣ごもりの日々である。
 熊本市東区 川嶋孝子(81) 2020/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

言いわけ

2020-07-29 15:04:22 | はがき随筆
 「まだゴルフやってるんですか」。道具の手入れをしているのを見た定期販売の女性に言われた時は返答に一瞬戸惑った。
 娘たちは看護師やコロナ多発地域での生活をしており、日ごろ娘たちの話を聞くだけに戸惑ってしまった。その場は「えーはい。ぼつぼつですがね」と、むしろ自分に言いわけしたのか、小声になった。
 先日は「僕は退屈な時間が多いよ、じいちゃん毎日何やってんの」と孫に問われて「野原で体操の日が多いよ」と答えてしまった。自分のことはさておいて早く子供たちに勉学と思考の自由を取り戻したい。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2020/7/24 毎日新聞鹿児島版掲載

ブローチ

2020-07-29 14:57:34 | はがき随筆
 「それ素敵なブローチですね」。小学校の支援会議に出席した帰りに、女性の校長先生から言われた。大きさ、たて2.5㌢、横1㌢くらいの蜘蛛の形をしたブローチだ。頭と背の部分には直径2㍉くらいのピンクのガラス玉が20個くらい散りばめられてキラキラしている。小学生だった時、少女雑誌の通販で買ったものと記憶している。1000円もしなかったと思う。おもちゃである。
 こんなものでもちょっとしたおしゃれになるし、心を浮き立たせてもくれる。会話のきっかけにもなる。私の好きなブローチのひとつである。
 熊本県玉名市 立石史子(66) 2020/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載

つるバラ大輪

2020-07-29 14:50:02 | はがき随筆
 いつも花の頃、私は検査のお声がかかる。今年はレモンの花が満開のときだった。かぐわしきというにふさわしい花。帰ったら落ちた花びらで通路が埋まり、見上げると玄関の前のマユミの木にはい上がった深紅大輪、直径15㌢くらいで20個くらいが咲き競って、えも言われぬさまだった。日に映えていっそう美しい。お隣のバラはピンクの大輪。細い首をしっかりひもでつるしてくださって、こちらもお見事。花とともに実桜が熟れているので、取って口へ。甘さは格別。やがてつるバラは夕日に映える。もったいない大自然。
 鹿児島市 東郷久子(85) 2020/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載

チリカハミネ

2020-07-29 14:43:19 | はがき随筆
 リズミカルにくわを振る。最近まあまあサマになってきた。
 土の中から時々ミミズが出てくる。昔は「キャッ」なんて言っていたが今では大事な相棒だ。傷つけてしまわなかったか気にしながらも動きは止まらない。
 2列の畝が完成。腰を伸ばして出来栄えを見ながら、チリカハミネを唱える。
 チはチッ素で葉(ハ)に。リはリン酸で実(ミ)に。カはカリウムで根(ネ)というふうに肥料を覚えるのに便利な呪文。種をまいて水さえ与えれば育つと思っていた頃からすれば大いなる進歩だ。オクラの種を脇に置いて、まずは土づくりだ。
 宮崎県日南市 小野小百合(62) 2020/7/21 毎日新聞鹿児島版掲載