はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ソーメン

2017-08-28 16:01:48 | はがき随筆


 ソーメン流しは市内にも多数みられるが、本場は唐船峡である。ヒンヤリとした空気、ソーメンの味を堪能した。考えてみると亡父はソーメンが大好きで、ビールのつまみもソーメン、おかずはソーメン炒め、みそ汁にもソーメンである。子供心にソーメンがうまいものとは思わなかった。最近になり、おやじの嗜好に似てきたのか、ソーメンのオンパレードである。夏はアッサリした食物が好まれ、簡単に料理できる手ごろ感があるのだろう。しかし一番うれしいのはおやじの味が自分にもわかり、この味を息子にも伝えたい気になったことである。
  鹿児島市 下内幸一 2017/8/28 毎日新聞鹿児島版掲載

出会い

2017-08-27 23:54:15 | はがき随筆
 
 羽田空港までのモノレールで若い男性2人と向かい合わせに座った。遅れてきた青年が私の横に。3人の会話に枕崎とか出てくる。鹿児島へ出張ですかと聞くと逆に出張帰りという。標準語がうまい。後からの青年は、都城で、チェーン店のゼミなどで3人は顔見知りだという。
 私は父が戦死でフィリピン慰霊の旅の帰りだと話す。知覧へは何度も行きましたと都城の青年。特攻隊員たちの手紙に胸を打たれると言う話になる。向かいのマスクの青年は目元が涼しい。もう1人は控えめな感じ。偶然とはいえ好ましい青年たちに出会えていい旅だった。
  霧島市 息峯いくよ 2017/8/27 毎日新聞鹿児島版掲載

あの子がねえ

2017-08-26 08:56:10 | はがき随筆
 小学1年の孫がおばあちゃんに話した。「おじいちゃん、たし算、間違ってばかりだよ」。たまに会話がつながらないこともあったが深く考えなかった。病院に連れて行くと「認知症」と。投薬を始めて3年。千葉に住む私より2歳下のいさこの博君。この病も老いる一つの方法と聞くが、無情極まりない。明日は我が身かも、と自戒する。
 先日は急に「飛行機に乗りたい」と云い出し、お墓参りがてら帰省した。1年前の法事では知らされていず、無口ないとこが珍しかった。今回はにこにこ笑ってばかり。「私がだれかわかる?」と聞けなかった。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2017/8/26 毎日新聞鹿児島版掲載

痛ッ

2017-08-26 08:47:41 | はがき随筆
草木も眠る丑三つ時、突如激痛。すぐにムカデと直感。布団をめくると痩せムカデがそそくさと逃げている。痛みと憎さで原形をとどめぬほど、タタッビッシダ。ここ何年か業者に薬剤散布を頼んでいたのだが、どこをどうかいくぐってきたのか。虫さされの薬をさがすも、やっと見つけたのは期限切れ。とりあえず、乾いたら塗り……。2.3日で痛みが痒みに替わり、傷口を見ようとしたが、右足親指の裏。ポッコリおなかと固い骨のため、自分の足の裏さえ見れぬ。若いと思っていたのに、高齢化のきざしが見えてきた、気づかされた。
  阿久根市 的場豊子 2017/8/25 毎日新聞鹿児島版掲載

夫への感謝状

2017-08-24 21:56:17 | はがき随筆
 夫と、あれやこれれやと検討し話し合った。思い切って古里の出水の古民家を買った。猛暑の中、札幌生まれの夫が汗だくで修理している。札幌生まれなのに私より寒さに弱い。暖房を18度に設定していると、クシャミが出て鼻水をたらしている。結婚してからずーっと雄鶏である私のあたため方が強すぎて、いまだにひよっこのままの夫である。
 年を重ねると古里が恋しくなる。今は天国に眠る両親と、夢をかなえてくれた夫への大きな大きな生前感謝状を何度も書きなおしながら考えている。二つの古里にもありがとう。
  出水市 古井みきえ 2017/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

60歳で始めた妻との共用日記

2017-08-24 21:49:17 | 岩国エッセイサロンより
2017年8月21日 (月)
  岩国市 会 員   山本 一

 60歳を機に、妻と共用の5年日記を始めた。ページの中央に縦線を入れ2人分に分ける。左側を私、右側を妻が使う。お互い、日々あったことや感じたことを自由に記入する。今年は16年目。ちょうど4冊目に入ったところである。
 共用なので、互いに見せ合うことになる。当然、妻の嫌がると思うことは書かない。日記に制約があることに抵抗もあったがが、「結婚して48年。今更妻の嫌がることを日記に残して、何の意味があるのか」と思うようになった。
 お互いの生活記録になっていて、毎日これを書かないと落ち着かない。日記は二人の老化した脳の、記憶の助っ人でもある。時々、過ぎ去った日々を思い起こしながら、残る人生をしっかりと前を向いて過したい。
  (2017.08.20 朝日新聞「声」掲載)

老いて「ごっこ」

2017-08-24 21:43:52 | 岩国エッセイサロンより


2017年8月20日 (日)
岩国市  会 員   山下 治子

 大きな水筒に冷茶を入れる夫に「暑いから今日はやめたら」と言うと「悪魔よ、ささやくな。野菜という子供たちが待っている」と畑へ向かう。昼近くに「こんちわぁ、奥さん」と裏口から声がかかる。「採れたて野菜はいかがスか」「あら八百哲さん、今日もすごい収穫ね」とバカな八百屋ごっこが始まる。
 定年してはや5年。ちびけた不細工な野菜ばかりだったのに、このごろは品数も増え豊作だ。ご近所にお分けする。「八百哲さん、お代は冷たいソーメンでいかが。スイカもつけるわ」
 あれほど肉食系だった夫は今、青虫のごとく採食で元気だ。
(2017.08.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

気になる敬語

2017-08-24 21:42:30 | 岩国エッセイサロンより
2017年8月19日 (土)
岩国市  会 員   角 智之

 最近「犬に餌をあげる」や「花に水をあげる」などの言葉をよく耳にする。「あげる」は謙譲語で相手の立場を高めて自分がへりくだる表現。ペットや植物に対して使うのは本来おかしい。餌やり、水やりでよい。
 先般、愛用している腕時計を分解掃除に出した。受け取りに行くと店員は「使い始めはしっかりネジを巻いてあげてください」と。
 なぜ、道具などに対して敬語を使うのか。美しい敬語は人同士の信頼を生み、絆も深まるが、間違った使い方は違和感を通り越して滑稽だ。公の場では不適当な敬語は、慎みたいものである。
(2017.08.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

ひまわりの花

2017-08-22 06:48:47 | はがき随筆


 ひまわりの花が咲き誇るこの時期にいつも思い出す事がある。長男が小学校に入学した年の4月に思いがけなく大雪が降り、庭一面10㌢くらい積もった。長男も喜んでいたが、突然ポットからお湯をコップに入れて苗木にかけ始めた。私はダメ! と大声で叫んだ。息子は「でも冷たくて可哀そう」。息子の優しさだと気づき、大声で注意した事を反省した。
 そのひまわりも二階のベランダに届く程大きく成長し咲いた。もう40年以上前の事だが、夏、ひまわりが咲くと思い出す。東京に住む息子家族も毎年帰省し孫の成長が楽しみである。
  鹿児島市 四元幸子 2017/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載

観音祭り

2017-08-21 07:15:30 | はがき随筆
 小学生の頃、父母の実家のちょうど中間にある岬の六月灯を待ち焦がれた。太崎観音と呼ばれて、昔の土砂崩れで集落は既になく、祠があるだけの場所だ。桜島と霧島連山を望め、撮影ポイントに指定されている。
 祭り当日は国道の両側に並ぶ多くの露店が、アセチレンガスの明りの下、玩具や花火、綿飴などを所狭しと並べ子どもたちを誘う。母親から促され、名残惜しく何度も振り返りながら家路に就いたものだ。
 もう一つの楽しみは、祭り会場への途中にある小川で飛び交う蛍。帰り道は虫かごから放つ明りが提灯のようだった。
  垂水市 川畑千歳 2017/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載

今日の私

2017-08-21 07:06:45 | はがき随筆
 ある夜、NHKの<ラジオ深夜便>から聞き覚えのある声が……。竹を割ったようなサッパリとした物言い。そうそう、これはプロ野球近鉄バッハローズの大投手、鈴木啓示さんだ。そのトーク番組聞くともなく聞いていると、こんなことをおっしゃる。
 「私もね、年を取りました。でもね、これからの私の人生の中で今日の私はいちばん若いんですよ。頑張ります」
 思わず膝を打った。いつも「これまでの私の人生の中で今日の私はいちばん古い」とへこんでいたから……。ちょっと前向きになれそうな気がした。
  霧島市 久野茂樹 2017/8/20 毎日新聞鹿児島版掲載

追憶

2017-08-19 15:14:04 | はがき随筆
 野際陽子さんの追悼番組を見ていたとき、ふっと思い浮かんできた、遠い日のことが。
 野際さん出演のテレビ番組を見ていた夫は、彼女の美貌にうっとり。理知的で気品あるたたずまいにクギヅケ。
 そーっとのぞき込んでみる。スポーツ番組を見ている顔ではない。吸い寄せられている表情に、女心は震度3の揺れだった(笑)。気持ちを落ち着かせ、野際さんのことをあれこれ聞いてみたが、うまくはぐらかされてしまう。執拗な問いかけに、新聞の間から、くすくす笑っているのが見えた。若き日の思い出は懐かしい。
  鹿児島市 竹之内美知子 2017/8/19 毎日新聞鹿児島版掲載

干しブドウ

2017-08-19 15:00:48 | はがき随筆


 子どもの頃、父の土産に干しブドウがあった。戦争中、父は徴用で水俣の工場に汽車で通っていた。干しブドウは多分食糧の乏しい時だったので抽選だったのだろう。当たらないときは他の人から分けてもらったのかもしれない。イモとカボチャとコッパダごしかない時代だったのでうれしかった。
 小さい赤紫色の粒々を手にとって一粒一粒いとおしく食べた。とろけるような甘さを少しでも口の中に長く残すため、ゆっくり食べ、飲み込むのが惜しかった。いま干しブドウを見ると懐かしく立ち止まることもある。
  出水市 畠中大喜 2017/8/18 毎日新聞鹿児島版掲載

無事に羽化

2017-08-17 22:21:42 | はがき随筆
門柱に脱皮を重ねた緑色の蝶の幼虫を見つけた。半日すると頭部はいかつい殻に、下半身は緑色のサナギに変身。日ごとに地味な門柱の色に似てきた。外敵から守るためだろうか。そねった体を細い帯糸で支えている。ちょっと触ってみるとぷるんと体を揺らした。その2日後には触っても、梅雨の雨にも動かない。足しげく観察。今日、昼食前には変化がなく食後行ってみた。あっ、上部の先が横に傾き、ぽっかり穴。門柱に続いた垣根の槙に、じっと止まっていた黒いアゲハが羽を広げ去った。きっとこの蝶だったかも。羽化の瞬間が見たかった。
  出水市 年神貞子 2017/8/17 毎日新聞鹿児島版掲載

ホテイアオイ

2017-08-16 14:43:54 | はがき随筆


 庭のメダカの水槽に浮かんだホテイアオイが薄紫の花をつけている。今ごろ、あちこちの池などで水面を覆いつくしていることだろう。
 悪ガキの頃、よく遊びに行った用水池もそうだった。ガキどもはそれを積み上げ、浮島を作り、その上にあおむけになったりしてふざけ合った。人に押されると島はゆっくり回りながら流れる。太陽がまぶしかった。
 タイのバンコクからアユタヤに向かって大河を遡航した。船が岸に近づくと岸辺にホテイアオイが波に揺れている。おー、ここにもあったのかと、懐かしくいとおとく飽かずみつめた。
  鹿児島市 野崎正昭 2017/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載