はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ダイエット

2014-01-30 11:48:28 | はがき随筆
 年始のあいさつのため妻を待っているが、部屋から出てこない。「ウッ」と苦しそうな声。何ごとかと入ると、スカートのファスナーを閉じるところ。年末に食べ過ぎたらしい。
 そういえば、最近、弟夫婦とダイエット同盟を交わしていた。弟は、柔道の有段者で体が大きく、義妹も妻も何でもおいしく食べ、血肉となる特異体質。食べてダイエットと虫のいい挑戦をしている。風呂上がり、頭からつま先まで水滴を丹念に落とし、いざ測定。体重計が敵に見えたり、一喜一憂し合っている。そんな妻が服を替えてきた。穏やかな年始回りだ。
  出水市 宮地量温 2014/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載

短歌と蜘蛛夫妻

2014-01-29 18:52:34 | はがき随筆
 寒空に、勝手口から庭へ続く通路の上に、健気にも蜘蛛が巣を張っている。きっと夫妻なのだろう、巣の中ほどに大きい蜘蛛と小さい蜘蛛の2匹が張り付いていた。
 私は、冬の寒風の中で蜘蛛夫妻が新しい家庭をつくる力強さと希望の、巣を張っているような気がしてならなかった。
 まだ、約10年しか学んでいない短歌で表してみた。
 新しき家庭をつくる夫妻やも
 風に揺れる巣の二匹の蜘蛛よ
 実に拙い短歌で恥ずかしい限り。どう表現したらいいのだろう。新年は、少しでも言葉を磨いていい短歌を詠みたい。
  出水市 小村忍 2014/1/29 毎日新聞鹿児島版掲載

霜柱

2014-01-28 12:27:06 | はがき随筆
 北海道で氷点下40度を記録したとの報道があったが、自分もそうだけど、鹿児島に住む南国の人々には想像ができない寒さであろう。
幼い頃、田舎では家の前の畑一面に真っ白な霜が降り、外にあったバケツには厚い氷が張っていて、それを割って大きなボンタンの気に投げた記憶がよみがえってくる。
 そして、まだ舗装されていない農道には霜柱ができており、それをふみつけながら小学校に行ったものだ。それが街に住むと、霜が降った景色も見れず、霜柱も見ない。たぶん、霜柱は里山が似合うのだろう。
   鹿児島市 下内幸一 2014/1/28 毎日新聞鹿児島版掲載

発信中

2014-01-28 12:18:09 | はがき随筆
 運転免許なし、自転車にも乗れない原始人は二足歩行、のんびり聖母への祈りを口ずさむのが習慣になった。お人に会えば、立ち話、猫たちにちょっかいをだしたりもして。
 朝、教会への坂を登っていると、女子高生らしい人影が下ってくる。心の中で祈った「あなたに平和があるように」。
 すると、すれ違いざま、彼女が小さな声で挨拶してくれた。うれしくなって「おはよう」。以心伝心、テレパシー。このすてきな力を信じて「あなたに平和が訪れますように」という祈りを世界中の人々に毎日発信している。
  鹿屋市 伊地知咲子 2014/1/27 毎日新聞鹿児島版掲載

寒い朝に

2014-01-28 12:09:30 | はがき随筆
 布団のぬくもりの中、冷気を感じる寒い朝。「今日も仕事だ」と思えば、スルリと抜け出せるから不思議である。
 思えば50代初め失職中の私に娘が勧めた資格だ。その1枚の証が今の私を支え、それは生きがいとなった。昨年、再就職を果たした。こもりがちな私を通い詰め、ひっぱり出してくれた友に感謝する。今後の自分に影響するであろう、自身の集大成と思い、続けている訪問介護の仕事。今年も頑張ろう!
 白い息を吐きながら、朝食を待つAさんの元へ――。
 「待っていてくださいね」
  出水市 井尻清子 2014/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

密航船

2014-01-25 10:01:24 | はがき随筆
 昨年12月25日、奄美群島は日本復帰60年の節目を迎えた。
 小学6年生の12月24日、終業式後の教室で、先生が「明日、奄美の島々が日本に帰ってきます」と言って、復帰について教えてくれた。皆は喜びの拍手をした。私は今、その2年前の夏の出来事を思い出した。
 畑仕事の叔母にいとことついて行った時、「密航船を見つけたら役所に知らせるように」と呼びかける船が通ったことを……。本土に比べ教育の遅れが著しい奄美の子供たちのために、密航してまで教科書を持ち帰った教師たちがいたことを、後で知った。
  薩摩川内市 森孝子 2014/1/25 毎日新聞鹿児島版掲載

打ち初め

2014-01-24 17:00:30 | はがき随筆
 「カチッ」。Nさんが打ったボールが真っすぐ走り、ホールポストの芯に当たって胸のすくようなホールインワン。「おめでとう! 入ったネ」と賞賛の言葉に「入ったんではないよ。入れたんだ」と胸を張る。
 今日はグラウンドゴルフの打ち初め。Nさんに続けと気合いが入る。13人中なんと8人にホールインワンが出た。うれしいことに私もその中に。
 お昼は弁当を取り、手料理を持ち寄って集会場でささやかな新年会。男性は焼酎、高齢の女性3人は梅酒で乾杯。お酒もすすみ、会話も弾んで皆、機嫌良く、約2時間で宴は終わった。
  鹿児島市 内山陽子 2014/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

「老いて楽しき」

2014-01-24 16:57:59 | 岩国エッセイサロンより
2014年1月24日 (金)

 岩国市  会 員   吉岡 賢一

 満102歳の誕生日を迎えた叔母を特養施設に見舞う。
 こぼれんばかりの笑顔で迎え、山□県知事選や都知事選の時事ネタから幼い孫の様子など、幅広い世間話で盛り上がる。見舞いの品はエッセー集や文庫本を何よりも喜ぶ読書好きでもある。話の合間には「ありがとう、ありがとう」と何度も手を合わせ、まるでこちらは仏になったような気分に。
 人生諸々を優しい笑顔に包み、102歳の今を元気に生きる叔母。見舞いに行った私たちが、若さと勇気をもらい胸を熟くして帰る。大切にしたい「生きるお手本」ここにあり。

  (2014.01.24 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

お年玉の行方

2014-01-23 09:39:43 | はがき随筆
 お年玉を渡して「郵便局に持っていくのよ」と言うと、小学校1年の孫が真顔で尋ねた。「郵便局に持っていったお金はどうなるの?」
 孫が生まれた時、「いただいたお祝いは子供名義の通帳を作って、そこに入れるといいよ。お母さんもそうしてあげたでしょう」と息子夫婦に教えた。だから嫁は孫がお年玉やお祝いをもらうと郵便局に持っていく。
 孫が「私のお年玉」と主張して素直に渡さなくなる日もそう遠くはないなと感じた。そして息子とのバトルの日々を思いだした。息子がどう対応するのか、巡る歴史も楽しみだ。
  出水市 清水昌子 2014/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

今年も健康第一で

2014-01-22 22:24:07 | ペン&ぺん
 

 浜松市の小学校で起きたノロウイルスの集団食中毒。12~1月が流行のピークで感染力が極めて強く、吐き気や嘔吐、下痢などの症状が出る。高齢者や子供は自分の嘔吐物を吸い込んで、肺炎や窒息を起こすことがあり、油断は禁物だという。
 今月2日、母(84)が早朝から嘔吐と下痢を繰り返した。ベッドの中の母の顔はげっそり。病院へ連れて行こうとすると「大丈夫。寝ていれば治る」と。でも、よほどつらかったみたいで「やっぱり、連れて行って」。
 正月に診察してくれるのは休日当番医。古里は人口10万人の街だが、待合室は大混雑し、診察までの待ち時間は3時間。母を待合室で長時間待たせるわけにもいかず、予約をして再び3時間後に母を連れて病院へ。点滴をし、処方してもらった薬を飲み、安静にしていたら3日ほどで回復した。
 母用のおかゆを作り、市販の消毒剤でトイレや廊下など拭き掃除した。母は「すまないね。でも、あんたがいてくれて良かった」とホッとした様子。でも、私が帰省していなかったらと思うとゾッとした。母は元気になり、通常の生活を送っているが、これが認知症で徘徊したり、病気やけがで寝たきりになったら……。考えただけで眠れなくなる。普段は元気だが、急病で倒れた1人暮らしの高齢者は一体どうしたらいいのか。
 親の介護に直面している働き盛りの同僚、知人がいる。同様の問題を抱えている人たちは増えるばかりだ。優秀な人材なのに高齢の親の面倒をみるため、退職したり、昇進を辞退したりと。
 母の看病で年が明けたのも「健康と親を大切にしろ」と何かの暗示かも。母の件で「1年の計は元旦にあり」ではないが、今年は高齢者や福祉問題を勉強しなければと痛感。皆さんも病の早期発見、予防の徹底で午年を乗りこなしましょう。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 毎日新聞鹿児島版掲載

謎のシャンプー

2014-01-22 22:13:33 | はがき随筆
 朱一色の印刷のパッケージは、昭和初期の雰囲気を持っている。着物姿の女性が上半身を露わにし、髪を洗う姿もレトロなイラスト。髪洗粉の白抜き文字が髪の上に記されている。薩摩特産の文字も。商品名は金砂。
 「倉庫にあったのよ」と渡され、友人宅から妻が持ち帰った。昔のシャンプーだとは分かるが、金砂とは何なのか。SNSで調べたがヒットしなかった。子供の頃、金物屋の店先や銭湯で同じ様な物を見かけた。昔はシラスで髪を洗ったと聞いたことがあるなど、知り合いが悩んでくれた。使えば謎は解けるのだが、まだその勇気がない。
  鹿児島市 高橋誠 2014/1/22 毎日新聞鹿児島版掲載

シイタケセット

2014-01-22 21:52:15 | はがき随筆
 生協で毎週食料品を配達してもらっている。昨年12月、注文した覚えのない品が届いた。「シイタケ栽培セット」。注文番号を間違えたらしい。返品できるか尋ねると食品扱いになるので「難しい」とのこと。少々高いが購入することに。
 「半年くらい、食べられますよ」と言われ、半信半疑で挑戦した見た。菌床全体を水でぬらし、ビニール袋で密封して新聞紙をかぶせる。約1週間で芽が出てきた。直径15㌢ほどになって収穫。バターで炒めておいしくいただいた。その後、みそ汁やパスタなど、我が家で大活躍。思わぬ贈り物となった。
  鹿児島市 津島友子 2014/1/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆12月度

2014-01-22 21:26:10 | 受賞作品
 はがき随筆の昨年12月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】27日「古里の思い」小向井一成(65)=さつま町宮之城屋地
【佳作】10日「思い思われ」清田文雄(74)=出水市高尾野町芝引
▽14日「晩秋のある日」内山陽子(76)=鹿児島市田上


 古里の思い 自分の心の原風景を描いた絵が展示されたら、原発事故で鹿児島に転居している少女に、郷愁を感じると褒められた。逆境の中にいる人にとって、一枚の絵でもそれを通しての心の触れあいが、いかに貴重なものか。古里を失い望郷の念の中にいる彼女には、励ましの言葉しかなかった。温かい文章です。
 思い思われ スーパーのレジで親切な係の人に出会い、夫婦でファンになり、その人の居る時に買い物をすることにしている。こういう、優しい人が優しい人と労りあうのはいいですね。その場の光景が彷彿とするのも、文章の巧みな構成の効果です。
 晩秋のある日 所用の帰路、新しくできた葬祭場を見学し、パンフレットを貰って帰り、自分の葬送の時の娘夫婦の様子を想像したという、少し驚かされる文章です。結びの部分の、死は再生だと自分に言い聞かせるのも、実感があります。誰でも覚悟しないといけないことですが、その覚悟が、晩秋の一日の挿話としてさらりと書かれていて、考えさせられます。
 この他の優れたものを紹介します。
 川畑千歳さんの「ひげそり」は、高校2年の長男が、父親の電気カミソリでひげをそるようになった。男と子の成長は、父親にとって嬉しいとともに複雑な心境です。大人の男性としてのこれからの対応が大変です。その予感がよく表れています。
 津島友子さんの「ですです」は、外部からみたカゴンマベンの不思議さが描かれています。地方紙の投稿欄は、どうしても我がもの褒めになってしまいますので、こういう外からの愛情のある視線は大事です。
 有村好一さんの「災難」は、小春の一日、海岸で景色を〝おかず〟に弁当を使っていると、トンビに弁当を攫われました。本当にこういうことがあるのですね。その驚きを、油断大敵の教訓に結びつけた軽妙な結びが、秀逸です。
 12月分は優れた投稿が多く選に迷いました。今年も力作をお願いします。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)

我が家の元旦

2014-01-20 16:49:00 | はがき随筆
 誰も来ない。どこへも行かない。いつもと変わることなく、夜明け前の4時に起き、トーストをコーヒーで流し込んでから、妻を起こし二人で散歩に出るのは5時、新年を迎えた朝である。
 海岸線に初日の出を見ようと人が集まる頃家に戻る。朝風呂を浴び、お節料理が並ぶテーブルに着き、化粧をする妻を待つ。
 ビールで乾杯。ここでお年玉と日記を手渡す。日記は妻の365日をひそかに記録したもので、お金は残らないがこれなら残ると思っている。杯はすすみ、今年の夢を語る。二人だけの穏やかで静かな元旦である。
  志布志市 若宮庸成 2014/1/20 毎日新聞鹿児島版掲載 

鬼火たき

2014-01-20 16:40:25 | はがき随筆
 亡母の里の「おねっこ」が今年も地方紙面を飾りました。
 昨春、地域の小学校が閉校になりました。だからOBとしてその行事に関わるつもりだった一つ下の叔父は昨年後半から体調を壊し、入退院を繰り返し、暮れにはついに自宅療養でベッドから離れなくなりました。さぞ残念だったことでしょう。
 私の育った里にも同じような風習があり、「おのひけ」といっていましたが、今は廃れてありません。正月行事で鬼火たきやおねっこは載っていますが、おのひけはどうなったのでしょう。無病息災を願う新年に思うことでした。
  いちき串木野市 新川宣史 2014/1/19 毎日新聞鹿児島版掲載