はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

モモとクレ

2011-11-30 22:28:55 | 女の気持ち/男の気持ち
 猫が2匹いる。雌のモモ2歳と雄のクレ4歳。2匹は生まれて間もなく、それぞれ浅草寺に捨てられていたのを娘に拾われ、マンションの一室でずっと生活していた。娘の転勤先に連れて行けず、昨年12月に東京から出水へ飛行機で送られてきたのだ。
 空港の貨物室へ迎えに行くと、針金ケースの中で2匹は固まっていた。帰路の90分間、妻は2匹に語り続け、安心させようと努力した。
 2匹が入る旧子供部屋には東京で使用していたトイレが設置してあった。しかし、物陰に隠れるとその日は姿を見せなかった。
 翌日、見ると餌を食べ、トイレを使っている。そのうち必ず慣れるさと楽観していたが、10日たっても全く姿を見せない。東京からの場所の移動だけでなく、捨てられて刻み込まれた人間への不信があるのだろうか。旅先で出会ったイスラムの国の人なつっこい野良猫たちと思い比べて、私たちは胸を痛めた。
 96歳の祖母の危篤で娘が帰省し、20日ぶりの対面。
 「ばあちゃんが合わせてくれたね」
 なんと2匹はいつの間にか娘の布団の中にいた。
 葬式が終わり、娘は再び上京した。2匹の態度は一変した。呼べば近づいてきた。
 今、モモは庭の虫たちの研究に余念がない。木登り名人のクレは野鳥を捕らえては見せに来る。それぞれにしっかりと世界ができたようだ。
  出水市 中島征士 2011/11/30 の気持ち欄掲載

幸せなひととき

2011-11-30 22:23:08 | はがき随筆
 「赤ちゃんは生後8日から飛行機に乗せられるそうです」。お嫁さんからの連絡。夫が緊急入院し初孫に会いに行けなくなった。替わりに生まれて2ヵ月と20日で帰ってくる。
 買い物を頼まれてお店に行った。赤ちゃん用の紙おむつの向かい側には大人用が。夫は病院では幸い1枚のおむつも必要なく退院し、今回は孫のために選ぶことに。初体験。日常の行為にすぎない作業が有り難く、誇らしい。周りの人に教えたい。「私、おばあちゃんになったのよ。対面はまだだけど女の子の孫が使うの」。Sサイズには男女の区別がないことも知った。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2011/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載

シャレと見出し

2011-11-29 17:48:04 | ペン&ぺん
 「オレが死んだら新聞の見出しは決まっている。上から読んでも下から読んでも “だんしがしんだ„」
落語家、立川談志さんは生前、こんなシャレを語っていたそうだ。
 24日付の朝刊で各紙が談志さん死去を伝えた。本紙、毎日新聞は1面で「立川談志さん死去 古典に新風 落語会の風雲児」と見出しをとった。鹿児島で配られた毎日、朝日、読売は、いずれも1面と社会面に記事を掲載。談志さんの存在の大きさを感じさせた。ただし「だんしがしんだ」との回文見出しは一般紙には見当たらなかった。
 手元にある新聞ではスポーツニッポンが冒頭の言葉を紹介し「談志が死んだ」と大きな見出しを掲げた。生前のシャレに対し紙面で応えた形で、スポーツ紙ならではの紙面づくりだろう。
 各紙とも経歴紹介で、日本テレビ系の長寿番組「笑点」の初代司会者だったことを書き込んでいたが、その記憶は私にはない。それよりも、国会議員を務めていた時に、何かトラブルを起こしたことを覚えていた。
 そのことを詳述したスポニチなどによれば、71年に参院選全国区で当選し、75年に沖縄開発庁政務次官に就任したが、初仕事の沖縄海洋博視察で2日酔いのまま会見。記者に「公務と酒とどちらが大切か」と詰め寄られ「酒に決まってんだろ」と捨てゼリフを吐き、1カ月で辞任したという。
 全くシャレにならない破天荒ぶり。それをふまえた桂米朝さんの談話が本紙社会面にあった。
 「彼はいろいろ世間に物議を醸しましたが、実は “むちゃ„を演じていた気がします。ああ見えて神経が細やかな所があるんです」
 「むちゃを演じた」というベタ見出しが目を引く。
 改めて談志さんの落語がテレビで映され、思わず引き寄せられた。確かな話芸を感じた。ご冥福を祈りたい。
  鹿児島支局長 馬原浩 2011/11/28 毎日新聞掲載

忙しかった10月

2011-11-29 11:44:04 | はがき随筆
 出産入院以外ケガも病気もなく65歳。10月初旬、牛に引かれて善光寺ならぬ主人にひっぱられて胃大腸の定期検診へ。「腹部エコーを撮ってみませんか?」のポスターに、ついでだからと受けた。胆のうに小さい石が10個あるとか。摘出をした方がいいとのこと。家事の出来ない主人が気になったが、体重減を望む私にとって術後の痛みと食事でダイエットできると即時決断。いつもの散歩と水泳の効果か超がつくほどの回復。主人も魚の味噌煮が味噌汁に、味噌汁が味噌煮になったり大奮闘で2週間が乗り越えられたみたいで互いに忙しかった10月でした。
  阿久根市 的場豊子 2011/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

「虐待?」

2011-11-29 10:16:56 | 岩国エッセイサロンより
2011年11月29日 (火)

岩国市  会 員   横山 恵子

夫は脳こうそくの後遺症か、めっきり足が弱ってきた。先日も足をけがして2週間、通院してやっと無罪放免になったと思ったら、今度は玄関で転び、右臀部を打ってまたまた病院へ。医師の「大腿骨に次いで折れやすい所ですが、骨折しなくてよかったですね」との言葉にホッとした。しかし、ひどい内出血にギョッとした。

「お父さん、虐待と間違えられるかもよ。自分じゃあ見えんだろうから、携帯で撮ってあげる」と撮影。見せると夫は「ひどいのー」とうなった。息子は「写真を消しときいよ。痛々しいね」。

  (2011.11.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

黒人霊歌

2011-11-28 21:50:47 | アカショウビンのつぶやき


鹿屋キリスト教会の信愛コーラスは、
鹿児島市で開催された教会の秋のイベントで
黒人霊歌を歌ってきました。
練習期間が短く、まだまだ危なっかしい所もあったのですが、
本番は思いっきり歌えました。


マイクロバスの中でも、
たえ子先生が最後の指導をしてくださいました。

賛美歌はすべて四部合唱になっていますが、
信愛コーラスは女声コーラス。
テナーのパートを1オクタープ上げ、三部で歌います。

テナーは一人だったのですが、Mさんの透き通った高音が、
素晴らしいハーモニーを作っていました。

このイベントは、年に1回、県内の姉妹教会が一堂に集まり、
学びと交わりの時を過ごします。



鹿児島市内教会の、ゴスペルフラは、
手話を交えて聖書のメッセージを伝えて下さいました。

次はクリスマスの賛美ですが、
まず一つ終わってホッとしている
アカショウビンです。 

ヤチャグアン

2011-11-28 21:42:06 | はがき随筆
 10月12日に古希を迎える。久しぶりに女房と温泉にでもいくか。心が躍る。子どもたちも8日の夜にお祝いの食事会をしてくれるという。とにかく魚が新鮮。酒の種類も豊富。飲み手には、たまらない店だという。話だけで喉が鳴る。
 7日夕方、青天の霹靂。右足親指に男の全体重が。開けて病院へ。骨折。医者は飲むなとは言わぬが、うずきますよと。
 8日夜、日本酒が私を招く。いつになくちびりちびり。さすがにうずきを忘れるほど飲む勇気はなかった。温泉はヤチャグァン(台無し)。酒もほろ苦く前途多難の70代の幕開けだ。
  肝付町 吉井三男 201111/28 毎日新聞鹿児島版掲載

残されたもの

2011-11-28 21:36:15 | はがき随筆
 「左右の足音が違うからすぐ父ちゃんだとわかる」と母ちゃんは言っていたなあ。既に二人ともこの世にはいない。
 父ちゃんは南の島の戦場で負傷。銃弾は右大腿部を貫通し野戦病院に収容された。その間に父ちゃんの部隊は全滅した。
 父ちゃんは送還され復職した。そして私が生まれた。が、家は空襲で全焼した。「考えるとどうかなりそうだ」。美術教師だった父ちゃんは若い日の作品のすべてを失ったのだ。
 先日、長野市の無言館へ行った。戦死した画学生たちの作品があった。作品を前に複雑な思いにかられ、私は沈黙した。
  出水市 中島征士 2011/11/26 毎日新聞鹿児島版掲載

遺跡公園

2011-11-28 21:29:49 | はがき随筆
 近くの遺跡公園に散歩に出かけた。足もとを見ると、椎の実がいっぱい落ちている。しかも丸々とした俵椎の実ではないか。早速袋に拾い集める。通りかかった子供連れのお母さん、「何をしてるんですか」と問う。「これを食べるんですよ」。変なおじさん。落ちている実を拾って食わんでも他に食い物ありそうなと行きすぎる。
 家族に話すと着るものさえ替えるとままるで古代人やがなと笑われる。トホホ。
 水に浸し沈んだ分だけ鍋で炒って食べる。山で育った俺らだけのおやつ。子供のころを思いだし懐かしい味に浸った。
  指宿市 有村好一 2011/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載

ハエの神様へ

2011-11-28 21:23:58 | はがき随筆
 右足をひきずっています。
 「どうしたの?」「ころんだの」「どんな転び方をしたの?」
 夜中の3時起きのため、私は昼寝をしていました。そこへ、2匹のハエがやってきて「わーい、一人で寝てらあ」と言わんばかりに、私の顔に止まっては飛んでいきます。
 「うるさいなあ」。ハエたたきを持って追いかけましたが、逃げられました。そこで殺虫剤を思い切りかけました。するとその液でツルリ、スッテン。
 「あはははは……祟りだあ」
 「神様、お許し下さい。文化祭までには治して下さい」
  阿久根市 別枝由井 2011/11/25 毎日新聞鹿児島版掲載

暖かな冬の一日

2011-11-28 17:54:38 | はがき随筆
 父の同級生に会いにでかけた。道の両側には、すすきや菊の花が真っ盛りである。尋常小学校から最近までの写真を持ってでかけ、暴れん坊だったとか、勉強はこっち、かけっこはこっちが良かったとか、90歳の2人は80年も前のことをよく覚えていて次々と話題は尽きない。
 耳の遠い2人、話はずれるものの、ほのぼのとあたたかい時がすぎ「同窓会をすればいいな」「戦争に行った人の集まりもな」と話していた。一緒に高菜と鶏そぼろのお弁当を食べて再会を約束し、山道を父の運転する車で帰り着いた。まだまだ2人とも大丈夫なようだ。
  肝付町 永瀬悦子 2011/11/24 毎日新聞鹿児島版掲載

意志が弱くて

2011-11-28 17:49:06 | はがき随筆
 この夏も衰えることなく旺盛に推移、というより季節に関係なく旺盛な食欲。妻が工夫を凝らして作る料理はどんどん肉になっていく。
 肥満を戒めて当然だろうが、ぼくの食欲に触発されるのかさらに腕によりをかける。加えて、ぼくの食欲は3度の食事に止まらず、頭の片隅には「これの次はあれ」みたいな食欲の引き出しがある。この悪循環から脱出しないとあごが無くなって口から下が首の状態と妻に揶揄される始末。食べる方も悪いが、食べさせる側にも問題はある。「夕食はいらない、食欲がないんだ」。一度言ってやるから……。
  志布志市 若宮庸成 2011/11/23 毎日新聞鹿児島版掲載

博士

2011-11-28 17:42:35 | はがき随筆
 大根に伸ばした手が触れた縁で、主婦二人と漬物談義に花が咲く。横からご婦人が私の肩をツンツン。「その漬物屋泣かせで、料亭並みの大根漬けの分量は」と問われる。レシピの披露に「鉛筆貸して」「メモ紙貸して」と、二重三重の人垣の黄色い声。そして、女を捨てた(?)大根争奪の修羅場と化して、面白いように買い物カートに積まれる。女店員の最敬礼にウインクで答えた。昔の乙女でも囲まれたのは「さしかぶいごあんど」(ひさしぶりです)。翌日の売り場に大根漬けのレシピが張り出され、「漬物博士絶賛!」とある。博士は顔を赤らめた。
  出水市 道田道範 2011/11/22 毎日新聞鹿児島版掲載

灰禍

2011-11-28 17:35:24 | はがき随筆
 秋晴れの休日に雨どいの掃除をした。軒どいから集水器にかけて、野鳥が巣作りの細い草の茎などを詰め、そこに桜島の灰がたまったらしい。雨水が配水管に流れなくなっていた。隣家から長ばしごを借り、降灰や細い茎を取り除いた。
 灰だらけになった手を洗い、妻に桜島の噴火をぐちりながらテレビをつけた。福島の民家の除染作業が流れていた。原発からの「死の灰」は色もにおいもしない。どこに積もっているか計器なしには分からない。余計にやっかいだ。黒澤明監督の映画『夢』で放射性物質に色をつけたという場面を思いだした。
  鹿児島市 高橋誠 2011/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

すごい人

2011-11-28 17:28:31 | はがき随筆
 免許更新のため近くの自動車学校に高齢者受講に行く。
 この日は高齢者男女9名で、視力、視力幅、認知症検査、運転感覚テストを受ける。最後に一番緊張する路上運転テストは手に汗がにじんだ。
 最近は高齢者による事故が多いせいか指導講話が熱心であった。幸い無事終了、証明書をもらう。教官に「この教習所の最高年齢の方は97歳で現役の大工さん。学習も優秀で『次回100歳で来ます』と明るく笑顔を残して帰られた」との話に驚嘆し、声も出ない。私の目標は次回82歳まで安全無事故。ささやかな願いである。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2011/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載