はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ひな祭り

2009-02-28 09:34:40 | はがき随筆
 嵐が春を運んできたらしい。玄関先でふと空を見上げたら花桃が華やかに咲いていた。私のすきな桃色。ひな祭りも近い。
 物心ついたころ床の間の色鮮やかに描かれた人形の絵に見とれたのをはっきり覚えている。父が私のために質屋から買ってきたひな人形の掛け軸だったと母から知らされたのは隨分後のこと。私はこの掛け軸がお気に入りで、触りまくっているうちに破損し数年後に捨てられた。
 今年は知人が製作した新しい垂水人形の座りびなを早速買って飾った。桃の花も生けた。父の愛情を前にも増して感じながら、ひな祭りを待っている。
   鹿屋市 田中京子(58) 2009/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はMAKさん


未練の残る再会

2009-02-27 08:11:20 | はがき随筆
 長く孫子との出会いがなく、寂しさの余り電話する。懐かしい声が飛び込んで来る。次の週末の出会いを取りつける。待ちに待った夕方、好物を思案思考し老夫婦頑張って膳を整え、楽しいうたげを心待ちする。門□に車の音がする。出迎えてみると3人の孫子が車の中で気持ちよさそうに熟睡している。未娘が嫁いで十余年、中2を頭に3人の子供を授かり、共働きの中、仕事帰りに学習塾を回って連れ帰ってくるのが日課とのこと。日ごとの親子の激しい闘いを思い知らされ、起こすことをためらい、膳の品々を包み届け、未練の残る再会でした。
   鹿児島市 春田和美(73) 2009/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載    



メジロのうたた寝

2009-02-26 20:14:45 | はがき随筆






 朝起きてカーテンを開けると小鳥が縁側でうずくまっている。目をつむり、身体を膨らませ、じっとしている。
 カメラを引っ張り出し、ガラス戸越しにパチリ。気がついていないようなので外に出て遠くから撮る。少し近づく。まだ目をつむっている。正面に回ってみる。そこでパチリ。そのシャーッター音で目を覚ましてしまった。私と目が合った。次の瞬間、目の前のマツリカに飛び移り、私を一瞥して飛び去った。
 目の前で安心しきって眠っている姿を見たのは初めて。なんだかメジロと友達になれたような気分になった。
   西之表市 武田静瞭(72) 2009/2/26 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は武田静瞭さん提供




はがき随筆1月度入選作品

2009-02-26 11:29:45 | 受賞作品
 はがき随筆1月度の入選作品が決まりました。
▽出水市高尾野町柴引、清田文雄さん(69)の「四海春」(6日)
▽霧島市国分福島1、楠元勇一さん(82)の「1秒の命」(20日)
▽鹿児島市真砂本町、萩原裕子さん(56)の「娘のチェック」(5日)

──の3点です。

 1月分の投稿は、新年の抱負や心構えなどを記したものが多数でした。それが成人式風の「人生これからだ」といった元気のいいものではなく、投稿者の年齢相応に慎ましいというか、控え目なものが多く、同年配の私にもむしろ微笑ましく感じられました。
 清田さんの「四海春」は、紫尾山からの日の出、ナベヅルのシルエット、不知火海、普賢岳などの壮大な景観のパノラマに、新年の多幸を願う美しい文章です。まさしく「謡曲高砂」の「四海波静かにて」の世界です。ただ、現在の日本が「国も治まる時つ風」と続いていかないところが気になりますが……。
 楠元さんの「1秒の命」は、体調不良でこたつにしがみついていると、柱時計の秒針が気になりだした。その動きごとに自分の命が削り取られているように感じられる、という感慨です。私たちが生まれた時から死に向かって生きていることは理屈では誰にも分かっていることですが、このようにそれが情景として目に見えるという文章は、奥深いところで不気味です。
 萩原さんの「娘のチェック」は、ご自分の文章を娘さんがこっそり添削したことに、娘の成長がう文章です。子供の成長はいろいろな形で見えてきますが、文章表現を通しての成長の実感はうれしいですね。
 正月風景が多数でそれぞれ興味深いものがありましたが、次にはやや趣を異にするものを挙げてみます。
 年神貞子さん『持ち前」(21日)は、ご主人がころ合いを見計らって、女性には苦手の包丁研ぎをしてくれることへの感謝の一文です。橋口恵美子さん「さらばイノキチ」(9日)は、畑を荒らす子猪を迷惑しながらも楽しみにして名前を付けてやったら、その途端に現れなくなったという話です。下市良幸さん「人生今が旬」(1日)は、福沢諭吉のいう「奉仕」の精神に心掛け、出来る時に出来る事を精一杯やる79歳の今こそが人生の「旬」だという、気持ちのいい文章です。
(日本近代文学会評員)鹿児島大名誉教授・石田忠彦)















何をどこに

2009-02-26 10:57:03 | はがき随筆
 「トシ子、眼鏡と印鑑はどこにやったね」。父から妻への電話。母が亡くなってから父は一人暮らしだった。県下を転々とした生活で月1~2回帰省していた。こたつの上にはいろいろなものが雑然と並べられ、あまり勣かなくてもよいように手元に置いていた。ちょっと動けばよいのになあと思っていたが、自分も父の年になるに連れて気持ちが分かるようになった。「整理してくれてありがたいけど何がどこにあるのかさっぱり分からない。今度帰ってきたらこたつの上は触らないように」との電話。父は一人で大変だっIたとつくづく思うこのごろ。
薩摩川内市 新開譲(83) 2009/2/25 毎日新聞鹿児島版掲載




ユーウイルビー

2009-02-24 11:54:13 | はがき随筆
 こんな話が通るのか。最初はそう思った。地デジのことだ。[あなたのアナログは消えますよ」。テレビはただ笑っている。
 どういうこと? 若い人に聞いた。「画面がきれいなんですよ。音声もはっきりしてますよ」。そうか、もう君は液晶を買っているんだ。いいなあ。
 「定額給付金が出るでしょう」どこからかそんな声が聞こえてきた。それで足りるかなあ。
 だんだん気がなえてくる。
言っても無駄だと思うようになってくる。
 そのうち[日本も形だけは核を持っていなくちゃあねえ」なんて言われたら、どうしよう。
   鹿児島市 高野幸祐(76) 2009/2/24 毎日新聞鹿児島版掲載


実績126

2009-02-23 17:50:27 | はがき随筆
 下手ながらいろいろなことに挑戦する気力は持っていた。離島へ行った娘家族が初めて帰省する夏休みのこと。何かすぐ役立つ添え物をと思い、ひらめいたのがコロッケ。ジャガイモ6㌔とひき肉を調達。早速ジャガイモをゆで、肉をネギとニンジンのみじん切りと炒め合わせ、味付けして8畳の応接台の上で握り、小判形に整える。身辺一気にコロッケ調と化し出来上がるまで集中。結果、大皿に計I26個が並んだ。冷蔵庫もこの時ばかりと取捨を図り、20個ずつ袋詰めして整然と並べた。その夏、週2回程取り出して食べた。ああ若かりしかな6年前。
   鹿児島市 東郷久子(74) 2009/2/23 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はyusitaさん


あなたと私

2009-02-22 12:28:25 | はがき随筆
  あなたの気持ちは十分わかっているはずなのに、つい愚痴が出て、あなたを不快な気分にさせては反省している私。視覚障害のあるあなたは、白梅の枝に手をのばし、花びらに触れたり、庭の花たちにも語りかけながら、春の足音を感じている。
 老いの身ともなれば、思考力の減退を感じる。本紙の「余録」を2人で音読し、脳を鍛えようということに相成った。
 先日、コラムにすばらしい言葉を見つけた。「テーク・イット・イージー」。いらいらすることはない。取り越し苦労は止めようと、あなたと私のかけ声となった。気楽に歩こう。
   鹿児島市 竹之内美知子(75) 2009/2/22 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はtkckphotoさん


お正月の旅

2009-02-21 18:06:23 | はがき随筆
 海面に浮かぶ朱塗りの大鳥居。船で宮島へ渡ると野性のシカが出迎えてくれた。おとなしいシカたちで、孫たちが触ってもじっとしているし、ついてくるのもいる。平清盛の栄華をしのびつつ厳島神社を巡る。
 その夜は福山市の鞘の浦のホテルに泊まり翌朝、鞘の浦の町を回った。古い商家の家並みと寺々。万葉集にも歌われた港町は、時の止まったような静かな町。「ポニョ」の里だというが宣伝の一つもなく、売店にポニョのトランプなどがあるだけ。
 岡山の後楽園、倉敷と回った。私の上阪の度に連れ出してくれる次女一家との旅だった。
   霧島市 秋峯いくよ(68) 2009/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はmarbleさん




創作にいそしむ

2009-02-20 17:09:57 | はがき随筆
 3日連休で8編の詩を作った。まあまあの出来である。投稿するまでには何回も練り上げを重ねていかなければならない。これでよしと思い投稿しても、1年にI編か2編掲載されるとよい方である。
 はがき随筆は、3編に2編の掲載という割合である。今までに数十編掲載された。ラジオ放送は、まだI回である。2回目の放送にと踏ん張っているものの、思うようにいかないありさまである。
 そう急ぐこともないだろう。いつかいつかの時に望みをかけて、じっくりと、しかもゆっくりと、創作にいそしもう。
   出水市 岩田昭治(69) 2009/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載



家族

2009-02-19 16:00:53 | はがき随筆
 「スープの冷めない距離」とまではいかないまでも、車で10分程度の同市内に居住する娘の家族との交流は、「老い」の日々を潤してくれる。
 今春小学校入学の長女、保育園年中組進級の次女。昨秋、長男誕生で「じいじ、ばあば」の出番も増えた。純真無垢な幼児たちとのふれあいは、ひととき童心に帰られて、ゆったりと心豊かな時が流れる。
 弥生月のひな人形、五月(さつき)の天高く威勢よく泳ぐコイの群れ。いずれの行事も健やかな子供の成長を願う象徴で誇らしい。一人娘から家族が増える幸せをかみしめる日々……。感謝
   鹿屋市 神田橋弘子(71) 2009/2/19 毎日新聞鹿児島版掲載




レシピ

2009-02-18 21:53:17 | はがき随筆
 Sばあちゃんを拝み倒して入手したレシピ。大根の首は目を閉じてチョン。皮むきは片目でスイスイ──とある。
 「甘味料は白砂糖使用」。白は安くてめちゃ助かる。「塩と酢は、貧乏しても、指示する上物を使用のこと」。私の貧乏が筒抜けだ。油断もすきもないばあ様だ。「分量厳守で、プロもうなる大根漬けになる」。私は母をうならせたい。「重し忘れて漬物語るな」。師匠も一度忘れたとか。「バカ」
 私が苦労して漬ける。母は楽して配る。評判が評判を呼び、母の株だけうなぎ登り。「ばあちゃん、レシピ間違ってる」
   出水市 道田道範(59) 2009/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載

白梅樹齢50年

2009-02-17 07:55:00 | はがき随筆
 隣家の白梅が満開に咲き乱れた。奥さんと一緒に見入る。樹齢を問うと「50年よ」と返事された。「年輪を重ねた大樹なのねえ」。2人は顔が合った。私が「花見でもせんといかんねえ」。奥さんは「ははあ」と顔がほころんだ。90歳くらいで、この樹と同じ年のころ合いだ。長寿で永久に長命でいたいねえ‐0喜びとうれしさが隠しきれない様子。「ウフフ」と華やいだ気分で満面の笑みだ。淡い陽光を浴びてほんのりと甘い香りに包まれた。風情あふれた梅の風景。花実も多彩に咲き乱れる。季節の移ろいの中での美しい庭園。白梅は春を呼ぶ幸運の花。
   加治木町 堀美代子(64) 2009/2/17 毎日新聞鹿児島版掲載



女に生まれる

2009-02-16 12:31:32 | はがき随筆
 「女に生まれるのではない。女に育てられるのだ」と思っていた。
 息子2人だけだった我が家に孫娘が生まれた。福岡にいるので時々しか会えないが、その成長ぶりを見ていると、女に生まれているのではないかと思うことしきりである。
 まだ2歳半だが、朝ママに髪を結んでもらい服を着替えると決まって鏡の前に立ち「く-ちゃんかわいい」とにっこり。極めつけは「じぃじ抱っこ」とこびを売るような甘えた声でひざに乗っていく。普段、愛想なしの妻との暮らしでは味わえない幸福感にデレデレの亭主。
   出水市明神町 清水昌子(56) 2009/2/16 毎日新聞鹿児島版掲載

放置自転車

2009-02-16 08:21:22 | かごんま便り
 鹿児島に来て以来、移動手段にはもっぱら自転車を便っている。佐多岬を目指すなんてむちゃはやらない(できない!)が、鹿児島市中心部の行き来程度なら、これが一番便利だ。朝夕の渋滞時など、下手に車で移動するより早いくらいである。環境にも財布にもやさしいし、健康にもいい。
 もっとも、便利なだけに、時として安易で無秩序な振る舞いが問題になる。市がここ数年、対策に頭を悩ませている放置自転車もその一つだ。
 例えば、JR鹿児島中央駅近くの鹿児島中央郵便局。局舎前の駐輪スペースはしばしば「満車」状態で、利用客がまばらな深夜でさえ自転車やバイクがびっしり、というのが珍しくない。局に用のない、駅や周辺商業施設の利用者が、駐輪場に行く手間を惜しんで「失敬」しているようだ。
 日本郵便鹿児島支店に聞くと、長期間放置している悪質な例もあり、本来の利用客が止められないとの苦情は少なくないという。午後8時までは駐車場整理の担当者が目を光らせているものの「最終的にはお客さんのマナー頼み」(同支店総務課)が実情らしい。
 電車通りをはさんで反対側、キャンセビル前も似たような状況だ。店舗の営業が終わっているにもかかわらず、結構な数が並んでいる。一見して長期開置きっ放しと思われる自転車も目につく。
     ◇
 人通りの多い同駅周辺や繁華街の天文館地区は06年から順次、市が放置禁止区域に指定し、代わりにいくつか有料の駐輪場が設けられている。
 駐輪場まで行くのは多少遠回りになるし、お金がかからない方が誰だってありがたい。その施設を利用しないのに勝手に置いたり、長期開置きっ放したりする一部の不心得者さえいなければ、そもそも駐輪場なんてなくても済むんじゃないか。  駐輪場を利用するたびに、そんな思いが頭をよぎる。
   鹿児島支局長 平山千里
   2009/2/16 毎日新聞掲載