はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ジャスミン再び

2021-10-24 23:30:13 | はがき随筆
 前回5月に咲いたニオイバンマツリが、9月に入りまた咲いた。東側は2階建てのアパートが建っているので朝日には恵まれていないが、西日はたっぷり浴びている。ガラス戸越しい眺めていると、時折流れる風に枝を揺すってにこやかに笑っているように見える。
 かみさんのいとこが、買い物がてら様子を見に立ち寄ってくれた。今夜は晩のおかずにサツマイモの天ぷらを持ってきてくれ、老夫婦に「元気が何より。じゃあね」と帰って行った。
 ニオイバンマツリの香りとおいしいサツマイモの天ぷらと……。今日もいい一日でした。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(85) 2021.10.24 毎日新聞鹿児島版掲載

父をしのんで

2021-10-24 23:21:15 | はがき随筆
 暑さが和らいで日々涼しくなってきた。昔から私は初秋が苦手である。毎年たまらなく物悲しく、人恋しくなる。
 昨年12月、父が96歳でこの世を去った。母は既に亡く、寂しい今秋である。最近、長年音信不通だった従姉妹と文通が始まった。父が残した古い写真を送ったのがきっかけである。思い出を共有できるのは何ともうれしい。電話やメールもあるが、やはり2人とも手紙世代。近況報告などをして楽しんでいる。
 父は筆まめだった。私は父の遺伝子を受け継いだ。一周忌を前に「忘れるな」と父が私に言っているようである。
 宮崎市 小金丸潤子(71) 2021.10.23 毎日新聞鹿児島版掲載

有明海

2021-10-24 23:14:15 | はがき随筆
 有明海のアサリが取れなくなったとのニュースを聞き、父が有明海の潮干狩りに連れて行ってくれたことを思い出した。
 ねらう獲物は干潟の巣穴に潜んでいる足長タコである。シャコ、アナゴ、タイラギなどもとった。アサリは帰りにサッと堀り、大きいのを選んで持ち帰るのが常であった。
 父は獲物のとり方をわかりやすく教えてくれた。私は、父を見失わないようにしながら、広々とした干潟を歩き回り、獲物をとった。
 西方向には島原半島。海の底から雲仙岳を望む風景は。忘れがたく懐かしい。
 熊本市北区 岡田政雄(74) 2021.10.22 毎日新聞鹿児島版掲載

マスクさまさま

2021-10-24 23:07:22 | はがき随筆
 腰が痛くてたまらず、ぐうたら度が高まっていました。
 食べるのは既成のもので済ませるが、片付けや掃除をさぼると家の中は雑然となり物のありかもあやふやに。どうにかしなければと焦り始めた折り、外出する用ができた。このごろはゆるい服ばかり。久しぶりの外出着はギチギチではち切れそう。鏡に映すと古びてすすけた顔が。おっ、慌ててマスクを着けた。顔が見えないようにしさえすれば問題ない。老醜を隠すのにマスクがこれほど役立つとは。一日でも早くマスクを外したいと願っていたが、コロナ収束後もマスクを着けたい。
 鹿児島市 馬渡浩子(74) 2021/10/21 毎日新聞鹿児島版掲載

運命の別れ

2021-10-24 23:01:31 | はがき随筆
 以前、遠距離通勤をしていた頃、タクシーをよく利用した。やがて70歳前後の気さくな運転手さんと顔なじみになった。奥様の話やお客様の話など、毎回楽しい話をしてくださった。
 いつものようにお話を聞いていると、目的地の500㍍ほど手前で料金メーターが倒れていたいことに気付いた。慌てて運転手さんに告げると、おもむろにメーターを倒し「まあこういうこともありますよ」と言って、メーター通りの初乗り料金しか受け取らなかった。
 退職日に呼んだタクシーの運転手さんがなんとこの方。「運命の出会い」ならぬ別れだった。
 宮崎市 福島洋一(66) 2021.10.20 毎日新聞鹿児島版掲載

フェルメールの絵

2021-10-24 22:55:00 | はがき随筆
 オランダの画家フェルメールの「窓辺で手紙を読む女」のバックの壁面にキューピッドを描いた画中画が現れたという。
 エックス線調査でその存在は以前から分かっていたが、作者自身が上塗りして隠したと考えられていた。色彩サンプルの分析の結果、彼の死後に上塗りされていたことが判明。除去作業で本来の絵がよみがえったということだ。
 亡夫の自慢の蔵書に、限定版フェルメール全作品集がある。この中の絵にまだキューピッドはいない。重厚、静謐どちらがいい? 得々として語るであろう夫の姿が浮かんでくる。
 熊本市中央区 渡邊布威(83) 2021.10.19 毎日新聞鹿児島版掲載

非常事態宣言続行中

2021-10-24 22:47:57 | はがき随筆
 新型コロナウイルスの緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が全面解除された。新規感染者の減少傾向や医療のひっぱく度改善を受けてのことだが、制限緩和で感染が再拡大するという不安もぬぐい切れない。
 それはさておき、私自身非常事態続行中である。空気を吸っても増えてしまう私の体重。
 体重計に期待を込めてそっと乗ってみる。間違いかもしれないともう一回測り直すが変わらない。息を吐ききってもダメ。
 そして、秋本番。何を食べてもおいしい。ますます食欲が増す。もう解除できそうにないからwithでいこうかな。
 宮崎市 高木真弓(67) 2021.10.17 毎日新聞鹿児島版掲載

6G世代まで

2021-10-24 22:39:17 | はがき随筆
 タブレットが壊れてしまった。仕方ない。この際思い切ってスマホも一緒に買うことに決めた。お店に行って懐勘定に合わせて毎月の費用の計画、それだけで疲れ切ってろくに考えもせずに勧められた機種を買って帰った。新しいスマホをよく見ると5G世代型とある。「自称廃車寸前の私が次世代型をなんてマンガだよね」とぼやくと、IT機器の師匠のヘルパーさんがクスクス笑う。「そんなら意地でも6Gまで生きるよ。人生百歳時代だからね」と言うと、またクスクス。白状すると、6Gはもちろん5Gだって何のことやら分かっていないのだけど。
 熊本市中央区 増永陽(91) 2021.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

ミステリー

2021-10-23 22:05:27 | はがき随筆
 妻から「眼鏡はない?」のLINE。即、妻の行動線を追うも影も形もない。妻は戻るや否や昼食抜きの必死の捜索開始。台所、洗面所、風呂場。ベッド、電話や居間のテーブル周り。車の中、眼鏡が入り込みそうなありとあらゆる隙間。ゴミ箱、バッグまでひっくり返すも所在不明。挙句に台所の棚、引き出し、洗濯機の中まで血眼の大捜索を尻目に眼鏡は冷笑するや。ベルサイユ宮殿ならいざ知らず、ウサギ小屋のいずこに隠るるや、謎は深まるばかり。ミステリー好きの妻にもこの「眼鏡失踪事件」は難事件と見えて迷宮入りと相成った。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(79) 2021.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

見習わなくちゃ

2021-10-23 21:58:26 | はがき随筆
 夜、部屋でゆっくりテレビを見始めると、きまって5歳の孫がじゃれてくる。
 先日、部屋に置いてある私のフィットネスバイクに孫が乗ってこぎだした。座ってすると足が届かず、立ってからこぎ始めてびっくり。そのエネルギーについていけない。時計を見ながら長い針が10になるまですると言い、汗びっしょりかいて約40分やり遂げた。何度も「もういいが」と促すがやめなかった。
 最後までする姿に感動すら覚えた。「頑張ったね」と褒めていると「バアバも筋トレしなさい」とお叱りをうけた。私も見習わなくちゃ。
 宮崎県串間市 林和江(65) 2021.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

曾孫からの贈り物

2021-10-23 21:52:03 | はがき随筆
 10月に入り、早朝は随分過ごしやすくなった。コロナもどうやら収まりかけ、近くでもなかなか遊びに来られずにいた孫たちが来訪。曾孫で小2になった姉の方が私の横に立ち、ニコッと見上げる。この前、肩までだったのにもう目の下まで。「ア、もうすぐ越される」と言えば、みんなして「来年にはもしかして」と。このままコロナが収まり、いつでも遊びに来られますようにと祈るのみ。夕方、のぞくと居なくて、私へと渡された紙切れ5枚。「あっちのばあちゃんへ。かたたたきけん」。あっちと、こっちで区別されたばあちゃんに長女と大笑い。
 熊本市中央区 原田初枝(91) 2021.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

夜空

2021-10-23 21:45:21 | はがき随筆
 残業が終わって真っ暗な駐車場へ行くと、寄り添う2人がいた。お邪魔かなと思いつつ近づいていくと、母親と幼い娘が仲良く夜空を見上げている。「夏の大三角形はあれかな?」と可愛らしい声。「あれがベガじゃないですかね?」とちょっとだけと飛び入り参加。遮る建物もなく余計な電灯もなく、たくさんの星々が見えるからこの広い駐車場に来たのだという。丸い星座盤と見比べながらしばらく3人で天体観測。おなかもすいてきたので親子に別れを告げ車に乗り込んだ。帰路の運転中、私は星空よりも美しいものを見たような気分になった。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(52) 2021.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

娘の異論

2021-10-23 21:39:01 | はがき随筆
 「お父さんとお母さんはすごく気が合っていたんだよ」と少し得意げに話す。12年前に病死した妻だが、子供との間では昨日のように生きている、心の妻で母だ。
 娘から即座に返答を浴びた。「そうは思わないわ」とね。自分には意外な言葉だった。妻も歴史が好き、私も好きで特に城を見て昔をしのび、全国31城を見て回った。神社仏閣も見て昔をしのんだ。どこに行くにも気が合った記憶しかないのだが……。
 娘の異論「お母さんの買い物の節約、どれだけ知ってたの」がチクリと痛い。
 宮崎県延岡市 前田隆男(83) 2021.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

秋を生ける

2021-10-23 21:32:15 | はがき随筆
 玄関の花を活け替えることにした。10月に入ったので少し秋らしさを出したい。それで庭に程よいものがないか見て回った。玄関横の南天。実は青いが、葉は一部朱に染まっている。秋らしく素敵なので実と葉の一部を切り取った。次はホトトギス。今、つぼみがたくさんついていてもこれもいい。そしてツワブキ。花はまだ先だけれど、葉が大きいのでアクセントによさそうだ。竹籠に水の入ったコップをセット。スーパーで買ったリンドウと庭の花を挿してみた。生け花の出来はいまいち。でも、その一角だけは秋の風が吹いているよう。
 熊本県玉名市 立石史子(68) 2021.10.16 毎日新聞鹿児島版掲載

理想郷

2021-10-23 21:25:49 | はがき随筆
 他県から転居してきて4カ月あまり。潮騒と鳥のさえずりで目を覚ます日々が日常になった。都会の喧騒とは別世界の居心地の良さにどっぷりと浸かっている。ここは空気が澄んで星々の輝きが素晴らしい。時々望遠鏡で天体観測のまねごとをする私にとっては理想郷と言える。
 しかし、困ったこともある。それは方言である。鹿児島弁がよく分からず頭を悩ますことが多い。だが、これはネイティブスピーカーである妻が完璧に「翻訳」してくれるので大いに助かっている。妻は当地の出身なのだ。この境遇に感謝しつつこれからを生きていこうと思う。
 鹿児島県志布志市 藤森利一(72) 2021.10.18 毎日新聞鹿児島版掲載