はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

荒尾競馬

2011-12-30 22:34:16 | 女の気持ち/男の気持ち
 騎手をしていた2人の弟がライバルとして競い合った荒尾競馬場が、23日のレースを最後に廃止されるという。
 熊本県荒尾市の競馬場は、私が子供の頃は、九州各地から集まった多くのファンで熱気にあふれていた。
 競走馬の美しい毛並みや足の速さ、馬力に感動し、騎手の手綱さばきに見とれたものだ。かっこいい騎手は、当時の少年の憧れであり、スターであった。
 馬券を買った人はレースが始まるとボルテージが上がる。目当ての馬を懸命に声援する大人をおもしろがって見ていた我ら少年団。レースが終わると、外れ馬券や予想紙が散乱していて、掃除のおばさんに同情した。競馬がない時は、友だちと馬場で競争した。砂地の長いコースにへばると、柵内にある農地で作業するおじさんが「きつかったか。これでも食って元気を出せ」と、もぎたてのトマトやキュウリをくれた。新鮮な野菜の味や香りは今も忘れない。
 競馬場に近い土地を離れて半世紀過ぎた。97年には三池炭坑が閉山した。今また競馬場が閉じられると、荒尾の二大シンボルが消えたことになる。地元の人だけでなく、よそで暮らす出身者も寂しい。
 1年前、母の死をきっかけに本籍地を荒尾から出水市に移した。思い出多い競馬場に、馬のモニュメントができれば、と思う。
  鹿児島県出水市 清田文雄 2011/12/23 毎日新聞の気持ち欄掲載

昭和追想

2011-12-30 22:22:46 | はがき随筆
 「もういくつ寝るとお正月……」「年の初めの例として……」。目を閉じると小学生のころの正月が浮かんでくる。正月だから何かをすると言うでもなく冬休みの一部としてお宮の境内に集まって「缶蹴り」「コマ回し」「たこ揚げ」「木登り」などに興じていた。遊び場も公園などのしゃれたものはなく境内から田んぼ、村の農家の庭先と、どこでも構わなかった。とにかく、家の中にいるのはつまらなく、暗くなるまで外で遊んだ。「夕焼け空」「塒へ帰る鳥の群れ」「母さんの呼び声」……まだ恋さえ知らなかった昭和の昔が懐かしい。
  霧島市 久野茂樹 2011/12/30 毎日新聞鹿児島版掲載

伸びゆくもの

2011-12-30 22:13:26 | はがき随筆
 「このごろ、やっと絵が描ける気がするんだよ」。芸術院会員、故吉井淳二先生の90歳の日の言葉だ。私は瞠目した。
 現在私は婦人の家の水彩画教室の講師をしている。私より年配の方が多くもう10年以上だ。「再現するだけでは作品になりませんよ」。私流に絵画で大切なのは何か話し続けている。と、いつか新鮮な色と形が現れてくるのを見る。個人に差はあるが、それぞれがまさに脱皮を始めたと言ってよい。加齢による進化はあるのだ。私は新しい人生観を得た気持になる。人間、なかなか素敵なものだと思う。 
  出水市 奈島征士 2011/12/29 毎日新聞鹿児島版掲載

年金波止場

2011-12-30 22:05:27 | はがき随筆
 大隅半島の小さな港町に子供のころ過ごした古い家がある。両親は、その家を「別荘」と呼び、泊まりがけで出かけている。畑の手入れ、庭の手入れ、魚釣りなどをして帰ってくる。
 海の向こうに種子島、屋久島の姿も見え、絶好の釣り場である。高い堤防、低い堤防と地元の人でにぎわっている。父も少し前までは高い方で黒鯛などを釣っていたが、90歳になった今は低い方で辛抱している。いそいそと釣りの支度をして出かけて行った。大小さまざま釣れて年金波止場(父が名づけた)での会話も楽しいらしい。波止場は今日もにぎやかなようだ。
  肝付町 永瀬悦子 2011/12/28 毎日新聞鹿児島版掲載

夢の国へ

2011-12-30 21:57:11 | はがき随筆
地図を見るのが好きで、中学入学の時、地図帳を買ってもらうと世界が形になって目に飛び込んできて、どこの国にも行けた。何故かトルコという国が気になって仕方なく、女の子のような響きが気になった訳ではないが、イスタンブールという都市名は忘れられなくなった。そこはアジアの果て、ヨーロッパの果てとある。東西混交とはどんな所か? いつの日か行ってみたいと思いながら60年近い時が流れた。一人では心もとない。妻と力を合わせたら何とかなる。思い切って飛び立つことにした。トルコよ、笑顔で迎えてくれよ。
  志布志市有明町 若宮庸成 2011/12/27 毎日新聞鹿児島版掲載

冬のジャズ

2011-12-30 21:02:08 | はがき随筆
 師走に入った夕方、伊集院に向けて車を走らせた。ジャズ喫茶で生演奏を聴くためだ。サックス、ピアノ、ベース、ドラムのカルテット。約30人で満杯になった店で、コーヒーを味わいながらバンドの開演を待った。
 奏者と客席の距離はわずか数㍍。客からのリクエスト曲「黒いオルフェ」やクリスマスソングのアレンジ曲を交えながら、飽きさせない2時間だった。
 夏のジャズは汗とともに外にはじけるように聴こえてくる。冬は体の芯の奥までにじんわり染み込んでくる感じだ。お湯で割ったホットウイスキーが、気持を暖めてくれるように。
  鹿児島市 高橋誠 2011/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

神様も誤算を

2011-12-30 20:53:05 | はがき随筆
 大昔、動物の年定めの神様がいました。初めに馬が来て神様は30歳寿命を与えられましたが、馬は人間にこき使われて苦労するので10歳短くして下さいと頼み20歳に。次に犬が来て30歳を与えられましたが、暑さ寒さが厳しく10歳にして下さいと、押し問答のあと10歳に。次に人間が来て30歳に。神様にとても足りませんと談判し、馬と犬の余りを与えましたが、不満顔。長生きしても難儀すると教えても不足だと帰りました。
 それで人間は80歳の長寿になり神様は小さい声で「誤算したな」と言ったとか。この寓話は都井岬で教えてもらいました。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2011/12/25 毎日新聞鹿児島版掲載

主婦たちの台所国体は金メダル

2011-12-30 20:28:00 | 岩国エッセイサロンより
2011年12月30日 (金)

    岩国市  会 員   山下 治子

 今年の「おいでませ!山口国体」では、手作りのおもてなしをモットーに、私の町では民泊が用意された。
 一番の目玉である選手たちの食事作りは、食生活改善推進員が中心になって、国体に協力したいという主婦が集められた。
 
 だが朝と晩68食分を10日間、3班交代での作業はかなりきつい。
 不安だらけの見切り発車だったが指定レシピの試作を繰り返すごとに戸惑いがちだった手や勘が滑らかになり、主婦の隠し技が次々繰り出された。そして私たちもすごいチームを作り上げていった。

 地産地消のレンコンハンバーグは特に好評だった。
「ぶちうまかったス」と選手が山口弁で言ってくれた。歓声とガッツポーズ。
 期間中、朝は4時から仕込み、夜は10時前の帰宅。疲れても翌日の心配をしている。

 私たちには選手たちが皆、我が子のように思えていた。母心で作る食事、それがいつの間にかチームの絆となった。
 最終日、一番若手の主婦が泣きだした。同じように皆が涙ぐんだ。

 10日間を振り返る。料理の腕を上げた、たくさんの若者たちとふれ合った、一緒に泣ける仲間と知り合えた・・・・・・。

 今年の収穫はまさに黄金色だった。  
(2011年12月30日、朝日新聞テーマ「この一年」掲載)岩國エッセイサロンより転載

リンゴツバキ

2011-12-30 20:14:28 | はがき随筆
 ヒメリンゴのような丸々とした実をいっぱいつけていた。木の名札を見るとリンゴツバキ。リンゴツバキ?
 インターネットで調べてみると「リンゴツバキ、屋久島ツバキともいう。ゾウムシから種子を守るために、実が大きく固くなった」と載っていた。
 丸い実は黄緑色から赤茶色、ほんのりした赤色へと変わっていく。落ちた実をさわってみると、石のように固い。はじけて割れた実の中には、白い種子があった。ツバキ油も取れるリンゴツバキ、屋久島ツバキ、どんな花が咲くのだろう。毎日眺めながら楽しみにしている。
  屋久島町 山岡淳子 2011/12/24 毎日新聞鹿児島版掲載

白い花の道

2011-12-30 20:01:33 | はがき随筆
 山里に入りしばらくすると人の気配が消えた。曲がったり昇ったり下ったり樹間を抜けて風の吹き渡る草地に出たと思うとまた樹間に入る。それを繰り返す道の両側にはシオンに似たきゃしゃで、はかなげな白い花が咲き乱れている。目に飛び込んでくる白い花たちをぼんやり瞳に吸いためていると、ハンドルを握っている彼が言った。
 「きょう一番感動したのは、この白い花」。この人は感動をすくいあげる。わたしは感動におぼれる。
 楚々と揺れる白い花の道を走りながら、この人にすりかわってみたいと思っていた。
  かのやし 伊地知咲子 2011/12/23 毎日新聞鹿児島版掲載

走るガリジイ

2011-12-30 19:49:04 | はがき随筆
 年男ガリジイは1日に5㌔走る。1年間で約1800㌔、鹿児島~本州北端までランニングをしたことになる。
 「ガリジイ」の名付け親は小学4年の末孫。ジイがガリガリにやせているから、だという。
 孫が「阿久根ボンタンロードの次は?」と聞く。「水俣シシ鍋マラソンだよ」「疲れない?」「きついけど面白いよ。歩伽も出ない?」「わたし走るのは嫌いなの。ガリジイきばれ!」と励まして自転車で出かけた。
 身内が元気で、高齢の私が運動を続けられることは幸せ。走った後の爽快感や晩酌を楽しみに体重48キロのジイは走る。
  出水市 清田文雄 2011/12/22 毎日新聞鹿児島版掲載

ほねやすめ

2011-12-30 19:40:29 | はがき随筆
 グランドゴルフの日の5時半、音もなく雨が降る。不調続きで、ちょっと「体を休めよ」と時を賜るのだろうと、考えを変える。
 すると収穫の秋、祖父が「今日は、ほねやすめだ」と言ったことを思い出す。稲刈り、脱穀、カライモ掘りと老体を駆使しての日々。米は好天を願い続けたが、イモは今少しの息抜きがほしかったのだろう。
 私もプランターの土の入れ替えに連日費やしたので、休養のひとときを必要としていた。そのことを考えると、順調なわけだ。──ほねやすめして次に備える心身を。
  鹿児島市 東郷久子 2011/12/21 毎日新聞鹿児島版掲載

ハエとうちわ

2011-12-30 12:29:39 | はがき随筆
 夕食を始めた時だった。突然目の前にハエが現れる。「憎きものめ」と張り切り、ハエたたきを手にする。ハエの動きを目で追っていると、打たれてたまるかと必死の抵抗をしているように思える。
 「やれ打つなハエが手をする足をする」。一茶の句を思い出す。ハエも生きているのだと思い、逃がしてやることにした。
 部屋を閉め切り、レンジの前の窓を開ける。うちわで窓の方に追いやるが、右へ左へかわされ、なかなかしぶとい。そうなると、うちわを持つ手に力が入る。ついに「やったー」。ハエは闇の中に消えていった。
  鹿児島市 竹之内美知子 2011/12/20 毎日新聞鹿児島版掲載


霜月の風

2011-12-30 12:17:40 | はがき随筆
 11月のことを「しもつき」というが、この語源は「そろそろ霜の降りるころ」という意があると聞いたことがある。昔は10月の末から11月にかけて、田んぼのあちこちで脱穀機を使って稲こぎが賑やかだった。収穫の後は一面にわらこづみが点在し秋の深まりを感じる風情があった。夕方になると「霜月の風」吹いて冬の足音が聞こえた。今は、わらこづみは一つもない。収穫がいつ終わったかも気づかない。風景の変化だけではない。温暖化のせいか、吹く風が霜月を感じさせない。ただ、田の神様だけは同じ場所に座して居られる。
  志布志市志布志町 一木法明 2011/12/19 毎日新聞鹿児島版掲載

おめでとうか

2011-12-30 12:08:53 | はがき随筆
 今年、人生の転換期。暇で暇で何をやろうかと思案していたが、無職の生活も9ヵ月が過ぎる。暇どころか、やることは次々に生じてくる。
 「はがき随筆」投稿、毎月続ける。月間賞なんて当て外れ。読者から「練ろう練ろう。甘えるな。まだだよ」と箴言か。ただ掲載されること、慰めの表現か。来年も張り切るか。
 「はがき随筆」の縁を生かし川柳にもどん欲に投稿。いまだに名はなくとも、考える時間はたっぷりあり。暇どころか一日作句に真剣そのもの。没が続いて初掲載か。昭ちゃん、おめでとうか。
  鹿児島市錦江台 岩田昭治 2011/12/19 毎日新聞鹿児島版掲載