はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

清明

2014-04-30 15:51:37 | はがき随筆
 PM2.5や黄砂、花粉が飛散して朝日がかすんでいます。その中を子供たちは惑うことなくけなげに通ってきます。
 卒業式前の週の最後の登校日。「いつも、おうだんほどうに立ってみんなのことを見て、じこにあわないように車がこないようにまもってくれて、ありがとうございます。これからもみんなをまもってください」との手紙を小2(当時)の女児がそっと手渡してくれました。思いがけないことにびっくり。
 どこでどんな思いで書いてくれたのか。その心根に深く感謝して、その子の行く末の平安を祈りことでした。
  いちき串木野市 新川宣史 2014/4/30 毎日新聞鹿児島版掲載

落ちてなお

2014-04-30 15:44:25 | はがき随筆
 庭奥に硬いつぼみをつけていた藪椿が、いつの間にかほぼ満開です。立春を境に寒が緩んだり戻ったりのいわゆる三寒四温の気候に、しっかりと応えています。つくづく自然の営みに目を見張るこのごろです。みどりつややかな葉陰に咲ききった花も良いが、つぼみをほどきかけた様子もすてき。その根方に目をやると、たくさんの落ち椿。拾い上げてお盆にでも飾りたい衝動に駆られる。落ちてもなお、その鮮やかさに感動を覚えます。
 椿一樹を見上げたり、落ち椿を見つめて心を遊ばせたひとときでした。庭奥に寒の戻りを咲きて散る上にも椿下にもつばき。

  鹿屋市 門倉キヨ子 2014/4/29 毎日新聞鹿児島版掲載

演奏会に行く

2014-04-30 15:38:34 | はがき随筆
 今年も霧島市のみやまコンセール足を運び、日本音楽コンクールの受賞記念演奏会を聴いた。並々ならぬ練習を重ね腕を上げ、晴れて受賞した人の演奏は素晴らしい。今回もピアノ、フルート、声楽、オーボエ、バイオリンと名演に圧倒された。
 早めに着き、会場外のきれいな芝生にシートを広げてお昼の弁当を食した。少し曇ってはいたが、寒くもなく、風もなく快い。時々、鳥のさえずりを耳にしながらおしゃべりに夢中になりつつ、霧島の空気もたっぷり口に入れた。
 音楽好きの仲間3人で、もう何年もこの日を楽しんでいる。
  鹿児島市 馬渡浩子 2014/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載

今年の桜

2014-04-30 15:31:58 | はがき随筆
 春を心ゆくまで味わうには満開の桜は欠かせない。毎年のことだが今年はどこの桜を楽しむか考える頃からわくわくする。
 少し遠出になるが、疎遠が続く動物園もと、平川動物公園へ向かう。入り口を間違えて錦江湾公園に入ってしまったが、ここにも満開の桜がある。妻の叱責を聞き流しながら、青空を塞ぐ花の壁に、運転の疲れを忘れる。目的地はすぐ隣。
 爛漫の桜が囲む芝生の庭にはシートが広げられ、舞い始めた花弁の下、楽しみ方はいろいろ。春は動物たちも眠いのだろう。長々と横たわる姿よりも、この時ばかりは桜が優る。
  志布志市 若宮庸成 2014/4/27 毎日新聞鹿児島版掲載

3年祭

2014-04-30 15:22:25 | はがき随筆
 4月は夫と母の祥月にあたる。母の3年祭を春休みに帰省した娘たちを引き寄せて執り行った。神主さまが御霊を呼び覚まし、その霊前に玉串をささげる。中2と小5に進級したひ孫たちの成長ぶりに、母もびっくりとたことだろう。
 慌ただしく娘たちが帰って行った後で、しみじみし母のことを思った。98歳で特老に入所したが、見舞った帰りには枕の下を指し、お金を持って行けとよく言った。既にお金の管理は私がしていたのに。
 107歳と5ヶ月余で亡くなるまで私のことが心配でならなかった母。母の愛は深く悲しい。
  霧島市 秋峯いくよ 2014/4/26 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆3月度

2014-04-29 14:45:30 | 受賞作品
 はがき随筆の3月度の入賞者は次の皆さんです。

【月間賞】10日「母の介護」田中健一郎(75)=鹿児島市東谷山
【佳 作】▽ 21日「あの日の桜」本山るみ子(61)=鹿児島市上荒田町
     ▽ 25日「ノロ休養日」的場豊子(68)=阿久根市大川


 「母の介護」は、骨折した母親の介護の話ですが、介護家庭の研修会というものがあるということを初めて知りました。社会の構造が確実に変化してきているようです。そこで紹介された手紙の内容には一考させられます。母親の見た黒猫の夢、眠りに就く時の母親のむしろ可愛さ、文章全体に優しい雰囲気が流れているところに魅力があります。
 「あの日の桜」は、中年になって恋をした人と、別れた時の桜花の思い出です。「人生足別離」という漢詩の一節を、「さよならだけが人生さ」と訳した詩人がいましたが、恋は幾つになっても甘美で、別離は切なく、それゆえに記憶に残ります。まるで少女の文章のようなみずみずしさが素晴らしいと感じました。
 「ノロ休養日」は、他人ごとと思っていたノロウイルスに罹って、自宅待機を余儀なくされた。軽症だったので、おかげで、家中の掃除に精を出すことができ、素晴らしい春が来たという、軽妙な文章です。確かに人生は考えようですね。
 この他に3編を紹介します。
 中鶴裕子さんの「イクメン」は、父親の子育てが話題になっているとは知っていたが、それを病院で実際に見た感動の文章です。子供の大きな泣き声、ハグする父親の優しさ、確かに時代は変わりました。
 中島征士さんの「10万年後の安心」は、核廃棄物への不安が切実に書かれています。プルトニウムの半減期から計算すると、安心を得るには10万年かかるという。その時間の幅を逆に遡ると、原生人類の出現よりもかなり以前ということになる。本当に大丈夫だろうか、心配になります。
 清田文雄さんの「町の魚屋さん」は、奥さまの体が不自由になって以来、8年間も、電話一本で品物を届けてくれる魚屋さんに感謝を表した文章です。時折オマケをいただくが、それが焼き芋だったので奥さまは大喜び。かつては恐らく当たり前であったこういう光景が、特別の話題になることにも考えされられてしまいます。
  (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦) 

春が来た

2014-04-29 14:38:30 | はがき随筆
 まだ肌寒い早朝、庭に出ると早春の風にジンチョウゲの香りが漂う。見れば、シモクレン、レンギョウ、雪柳が我が家の垣根沿いを旬の彩りで飾っている。思わず両手指先をくっつけてカメラのアングルに見立てのぞき込む。紫、黄、白とコントラストが美しい。時折散歩の人たちが「きれいかなー」と歩みを止め、声をかけてくれる。「雨風にすぐ散ります」と応えるも、束の間の花の競演に浸っている。そんな時、娘から電話がきた。「赤ちゃんができた。帰省して出産する」と。男子とのこと。心がパッと温かくなった。我が家に正真正銘の春が来た。
  出水市 宮地量温 2014/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

おもてなし

2014-04-29 14:27:49 | はがき随筆
 春は各地でウオーキング大会が目白押し。2月は南さつま海道鑑真の道歩き16㌔のコース。3月の龍馬ハネムーンウオーク1日目は18㌔コース、2日目は10㌔コース。4月は霧島温泉駅の里山ウオーク11㌔を完走した。どの大会も天候に恵まれ、県内外から多くの参加者でにぎわった。例の「お・も・て・な・し」の影響か、多大なおもてなしを受け毎回、消費カロリーを摂取カロリーが上回る。坊津の甘いキンカン、温泉卵、定番の豚汁、甘酒、ふくれ菓子……。車で走りなれた道も歩くと新鮮で発見の連続だ。そろそろ春のウオーキングシーズンも終わる。
  垂水市 竹之内政子 2014/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載

「ゆすらへの思い」

2014-04-26 23:35:06 | 岩国エッセイサロンより
2014年4月26日 (土)


    山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 一年中、仏壇の花をきらさないように考えて、姑が庭で生前育てていた花が、今もあちらこちらで咲き続ける。そんな庭の片隅で薄紅色の花を枝いっぱいに咲かせた新参者のゆすらうめを発見。
 4年前に「思い出の中で」のタイトルで「ゆすらには思い出の中でしか会えなくなった」とはがき随筆を投稿。読んだ近くに住む叔父が苗木を持ってきてくれて植えてから今年で3年目。花がたくさん咲いたので実を期待して待っている。
 子供の頃に食べた真っ赤な小さな実の甘酸っぱい懐かしい味を思い出させてくれるといいなあ。
   (2014.04.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

13年のはがき随筆年間賞

2014-04-19 20:16:14 | 受賞作品
  年間賞に鵜家さん

銭湯での出来事に
 我が人生を振り返る

2013年の「はがき随筆」年間賞に鹿児島市武、鵜家育男さん(68)の「寝つけない夜」(8月31日掲載)が選ばれた。鵜家さんの執筆の動機、作品への思いなどを聞いた。年間賞の表彰式を20日午後1時から、鹿児島市中央町の市勤労者交流センターで開く。【土田暁彦】

 受賞作は、自宅近くの銭湯での出来事をつづったもの。高齢の夫婦が現れ、妻がかいがいしく夫の背中を流し始めた。「果たして私はこんな幸せをもらえるのだろうか。我が人生を振り返ってみたのです」と投稿の理由を打ち明ける。
 電電公社(現NTT)に就職し、30代後半で管理職に。休みなく働き、自称「仕事の鬼」だった。息子3人の子育ては妻真知子さん(64)に任せっきり。九州を中心に退職まで17回異動した。ほとんど単身赴任の経験はなく、真知子さんはその都度、転勤先で仕事を見つけた。
 夫婦生活40年だが、愚痴をこぼす妻を見たことがない。十数年前に息子たちが独立。その頃からはがき随筆を書くようになった。妻への感謝をつづった作品も多い。「『こんなに長く連れ添ったのだから優しくしてくれよ』という夫の気持ち。一方、父親として後悔の気持ちも。シンプルに素直な自分の気持ちを書いてみました」
 掲載された日、真知子さんが先に朝刊を開いた。「間違っても随筆の奥さんのようにはならないから」。ニヤッと笑う。「ただし、行い次第では大事にしてあげるかもね」
 鵜家さんは思わず首を縦に振り、身を縮めたという。


夫婦を考えさせられる

鵜家育男さんの「寝つけない夜」を選びました。
 銭湯で、97歳のご主人を入浴させた奥さんの手際の良さに感心するとともに、自分たち夫婦というものについてかんがえさせられたという内容です。
 男湯に服を着た女性の入室という意外性、事情が分かると、一転、老夫婦間に漂う和み合う雰囲気に感心し、さらに、それを自分のこととして考え込んだという結び。短い文章の中で、話題を三転させる巧みな展開の中に、夫婦というものについて考えさせる力をもっています。
 最後まで迷ったのは次の3編です。亡き夫君への愛の告白である、伊尻清子さんの「恋文」(2月24日付)の、はじらいがないところの魅力。臨終近い父親が母親に、病室の天井に星を見ていると言ったという、種子田真理さんの「父が見た星空」(9月11日付)のもつ幻想的な詩情。東北から避難してきている少女が、自分の描いた絵に望郷の念を感じてくれたという、小向井一成さんの「古里の思い」の少女への思いやり。いずれも魅力ある文章でした。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)

修学旅行

2014-04-19 20:08:58 | はがき随筆
 修学旅行は随分昔のことだが、私たちの修学旅行は一味違う。毎年、体操教室の終わる年度末に生徒十数人を引率して実施する。先生と生徒は共に70代。もう12年続いている。 
 今年もバスで霧島に向かった。車窓の山桜を見ながら笑い声が絶えない。ホテルで温泉に入り、開宴となる。余興では歌やマジックがあり2人1組で賞品を競うゲームは大騒ぎになる。
 翌朝バスに乗るとAさんの携帯電話がない。出発を遅らせ、ホテル中を探す。友達が携帯に掛けると、彼女の手荷物の中で呼び出し音が鳴った。車内が一斉に笑いと拍手に包まれた。
  鹿児島市 田中健一郎 2014/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

ネンキンコタツ

2014-04-19 20:01:29 | はがき随筆
 「ネンキンコタツも良かね」
 我が家のこたつは応接台型だが、3月末の高温でうっとうしくなり、こたつ布団一切を撤去し、天板をネジで固定して応接台に変身させた。
 ところが、4月になっての冬日でとても寒い。火鉢に火を入れたが足元が冷たい。再びこたつ布団のセットは面倒だ。
 そこで応接台の真下に座布団を置き、こたつ布団を重ねて足を突っ込んだ。「年金生活者は節電せんなね」。かくしてネンキンコタツは誕生した。
 「今日も寒んかねぇ」。「ネンキンコタツにすいか?」「そうねぇ」。
  出水市 中島征士 2014/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載

防止策は?

2014-04-18 17:06:27 | 岩国エッセイサロンより
2014年4月18日 (金)


岩国市  会 員   横山 恵子

 最近とみに物忘れが顕著になってきた。よく捜すのは眼鏡。外出する時になってあわてる。息子から「いつも決めた所に置かんからよ」と言われるのが落ちなので、彼のいない時に捜す。買い物に行っても肝心の物を忘れたり……。
 先日、朝市に行った時、机の上に買い物袋が置かれてあった。当番の人が「忘れ物かね。まあー、サイフが入っとるよ……」。私より上手を行く人がいたわ。
 今更老化と相撲を取っても勝ち目はない。ならば書くことで少しでも遅らせよう。 
 ボツにも負けず、くじけず書き続けることに意義あり!!
 (2014.04.18 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

特別なつけ揚げ

2014-04-17 12:09:39 | はがき随筆
 

春風と共に私の大好物のつけ揚げが届いた。鹿児島市のKさんが、私の結婚記念日に毎年送ってくれるのだ。「味のある夫婦」になってくださいね――というメッセージであろう。
 Kさんは私が松元中で担任をした生徒で、利発でユーモアに富む人気者だった。3年生の時、若い私に反発したこともあったが、社会に出てからは心が通い合い、彼女は私を結婚式に招いたり、退職を祝ってくれた。
 昨年初め、Kさんたちの還暦同窓会で会ったのに、秋には仲間と遊びに来た情の深い人……。こよいは特別においしいつけ揚げで晩酌を楽しもう。
  出水市 清田文雄 2014/4/17 毎日新聞鹿児島版掲載

私の願い

2014-04-17 11:37:19 | はがき随筆
 やっぱり5月がいい。開け放たれた窓いっぱいに高千穂の峰がそびえる。頂から裾野へと視線を落としていくと、森や草原も正に万緑。時折、心地よい薫風がわが七竅をくすぐる。私は籐寝椅子に身を預ける。身ほとりには、妻お手製のどら焼きとミルクたっぷりのカフェオレ。そして、小鳥たちのさえずりに飽きたら……。サラ・ブライトマンがいい。
 「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」。緑に遊ぶ太陽の光を前進に感じながら、私はゆっくり眠りに落ちていく。そう、こんなふうにソフトランディングしたい。――私の願い――。
  霧島市 久野茂樹 2014/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載