はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

待っていますよ

2010-08-01 16:56:49 | 女の気持ち/男の気持ち
 3ヶ月前、校門に表札と並んで横60㌢、縦35㌢の白い看板が掲げられた。
 《城南中学校「夜間学級」城南中学校では、さまざまな理由で十分に義務教育を受けられなかった方々が、月曜日から木曜日までの午後7時から9時まで、小・中学校程度の勉強をしています。勉強はボランティアスタッフが教えています》
 問い合わせ先は北九州市教育委員会である。
 たかが看板、されど看板。私自身も身体障害を理由に義務教育を2年ほどしか受けられなかった。定時制高校にたどり着くまでコンプレックスの塊だった。北九州にも夜間中学、誰でも学べる場が必要と信じ、活動を続けてきた、その結実の一つがこの看板である。
 10年ほど前、小坂の夜間中学へ見学に行って、校門の「夜間中学があります。誰でもいつでも入学できます。お金はほとんどかかりません」という看板に感激した。義務教育を十分に、あるいは全く受けられなかった人にとって、学校は憧れと同時に恐れでもあって、門をくぐるのに勇気が要る。自分なんかが入れるのだろうか、誰かにとがめられるのでは、と。その時、看板があればどれほどの力づけになることだろう。
 もし今、看板を前に迷っている人がいれば、声をかけてあげたい。入学資格はただ一つ。あなたの「勉強したいという思い」です。生徒とスタッフ、みんなで待っていますよ。
  北九州市 佐藤香代子(60) 2010/7/31 毎日新聞の気持ち欄掲載

夏休みの思い出

2010-08-01 16:50:46 | はがき随筆
 42日の長い夏休みに入った。樹木の先が空へ向かって伸びて行くように、子供たちが成長していく季節。私の遠い記憶が浮かぶ。モクモクとわき上がる入道雲の先に、小学校低学年のころ、特別な経験をした思い出が走馬燈のように巡る。
 いとこたちとの再会、高須海岸での海水浴、植物採集、家族総出の早朝の稲刈り、夏祭り……。勉強などしなかった休みも終わるこる、慌ててやり残した宿題をどうにか仕上げた。ほぼ毎日続いたのは、絵日記ぐらい。十分に遊んだ日々に満足し、長い夏休みもアッと言う間に終わった。
  鹿屋市 田中京子(59) 2010/8/1 毎日新聞鹿児島版掲載

くじ

2010-08-01 16:43:34 | はがき随筆
 「まあさ、ドラゴンボール買って」。保育園の夏祭りで、園児たちの出番が終わると自由時間になり一斉に出店へ駆けていった。焼き鳥、かき氷、おもちゃ屋とごった返す中、5歳児のノアは私を引っ張って母親からもらった「くじ券」をお店の人に渡した。
 当てたのは等外で、彼の望むものではなく、またたく間に涙を目にいっぱいためた。「くじ」の意味をまだ知らないノアだった。
 その後「引換券」を持って、フランクフルトの店へ走った。「当たった!」と満面の笑みを浮かべて帰って来た。
  薩摩川内市 馬場園征子(69) 2010/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

2010-08-01 16:35:17 | はがき随筆
 雷が鳴るといつも思い出す。中学1年生の時、母とたんぼでとても怖い思いをしたことを。
 母はクワで泥をすくい畦を、お菓子のように仕上げている。私は近くで草刈りのまねや、泥をつぶしたりして遊んでいた。
 ピカッ、バリバリ、ズドーン。耳をつんざくものすごい音と光。母は悲鳴を上げる私に「鎌を捨てて!」と叫び、飛びかかり素早く土手の片隅にうずくまった。大雨と雷鳴は容赦なく襲い、必死に守る母のときめく胸の下で耳をふさぎ、祈る思いで通り過ぎるのを待った。
 ずぶぬれのまま雷の怖さに驚き、しばらく抱き合っていた。
  薩摩川内市 田中由利子(69) 010/7/30 毎日新聞鹿児島版掲載