はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

被爆2世

2008-05-31 15:21:28 | かごんま便り
 「ヒロシマナガサキ」というドキュメンタリー映画がある。メガホンを取ったのは日系米国人スティーヴン・オカザキ監督。広島と長崎の被爆者及び原爆投下にかかわった米国人へのインタビューを柱に、当時のニュース映像や資料写真などを交えた構成だ。昨夏から全国で順次公開され、昨年8月6日にはケーブルテレビで米国でも放映されたという。
 冒頭、東京・原宿で道行く若者たちに「1945年8月6日に何が起きたか」と尋ねるシーンがある。登場する8人の男女は誰一人、それが広島原爆の日だと知らない。ドキュメンタリー作品とはいえ意図的にそうした反応を集めた可能性はあるが、世界唯一の被爆国にしてこのありさまはやはりショックだ。
 「ヒロシマナガサキ」の話題は先日、鹿児島市で開かれた県被爆二世の会(大山正一会長)の総会で講演した被爆2世の写真家、吉田敬三さん(47)から聞かされた。同じく2世の私は作品を見ていなかった不明を恥じ早速、DVDを買いに走った(公式ホームページによると、県内での上映は今のところ未定)。
 厚生労働省によると06年度末の被爆者健康手帳交付者は全国約25万人。当然、2世も相当数に上るはずだ。ちなに県内の手帳交付者は1300人弱だが「二世の会」に参加しているのは目下、100人と少しである。
 現代社会は核戦争の恐怖と隣り合わせと言っても過言ではない。1世の多くが鬼籍に入り、存命者も大半が後期高齢者の仲間入りをした今、核の悲惨さは2世が語り継いでいかねばならない。昨秋発足した「二世の会」の意義と責務は、大きいと思う。
 ちなみに吉田さんは現在、100人を目標に全国の被爆2世のポートレートを撮影中。達成後は2世・3世を含む被爆者への誤解と偏見を解き、平和への願いを発信する写真展を開くという。
鹿児島支局長 平山千里 2008/5/26 毎日新聞掲載

心を新たに

2008-05-31 08:45:42 | はがき随筆
 もう26年も前になるだろうか。初めてH小学校に赴任した時、私はまだ車の免許を持っていなかった。
 家庭訪問の日、その日はどしゃ降りの雨だった。すると、Sさんのお母様が「先生も来られたばかりですし、今日は雨が降っているので、私が車で案内しましょう」と言ってくださり、お世話になった。ありがたさと感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
 家庭訪問の時期がくると昨日のことのようにほのぼのと思い出す。そして、これまでのよき出会いを心の支えに、また頑張っていこうと心を新たにする。
   出水市 山岡淳子(50) 2008/5/31 毎日新聞鹿児島版掲載

飛騨へ

2008-05-30 21:41:50 | アカショウビンのつぶやき

遙か彼方には残雪が輝く北アルプス連峰


水芭蕉の群落には花が少し残っていました。


からくり人形が、飛騨牛や蕎麦をすすめてくれました。

民族考古館には吊り天井から忍びの窓まで




150年前のカップだって…


軒先のツバメの巣の下に吊したパラソル


子どもたちは真剣なまなざしです


シックとモダンが不思議にマッチした、高山市庁舎


 「蔕(へた)の会」の仲間の<のんびり旅>は、あっという間の3日間だった。東京、神奈川、静岡、大阪、そして鹿児島から5名が参加して、3年越しの計画だった「飛騨の旅」がようやく実現した。
 12年前に出会った私たちは「ほほえみネットワーク」ミーティングの同期生。愛するひとの写真を抱き、涙の中で出会った10名の仲間は不思議な糸で結ばれ、沖縄から東京まで、毎年どこかに集まっては励まし合ってきた。
しかし皆同じように歳を重ね、最近では全員が集まることが難しくなった。中でも私が最高齢。もう今度までかな…と言う思いで参加したが、4人の仲間に力をもらい、なんと「次は白神山地に行こうね」なんて約束までしてしまったんだから不思議…。

今回は各地から名古屋駅に集合し飛騨古川に向かった。
第1日目は飛騨古川の古い町並みをのんびり歩き「まつり会館」へ。次の日は高山周辺をタクシー観光。庄内桜や水芭蕉、白川郷まで足を伸ばした後「高山陣屋」の見学。そこではボランティアガイドの丁寧な説明を聞きながら飛騨の国の歴史を深く学んだ。
 3日目は少々疲れたけれどがんばって「朝市」をそぞろ歩き、かわいい民芸品のお店に出たり入ったり…、それぞれが誇りを持って作っている品々を目で楽しみながらお土産さがし。

そこへ、黄色い帽子の小学生が、総合学習の勉強でアンケートのお願いにやってきた。「どこから来られましたか」「高山のどこに惹かれて来られたのですか」「高山の良いところはどんなところでしたか」などなど、次々に質問してはメモしている。最後には「どうもありがとうございました。」と挨拶する小学5年生に、じじばばたちは目を細め「しっかりお勉強してね」と手を振って別れた。

 レトロな町並みの古川、高山のどちらの家の軒先にも美しい花を飾り、旅人を優しくもてなしてくれた。軒先に巣を作ったツバメのために、パラソルを逆さに吊して歩行者を糞害から守り、「子育て中です、お静かに!」と書いた紙をぶら下げた、ほほ笑ましい光景もあった。小さな美術館では、150年前のカップでコーヒーを振る舞われ、手が震えるほどだったが、飛騨の国の人々の暖かさに触れたすばらしい旅だった。

はがき随筆4月度入選

2008-05-30 20:55:32 | 受賞作品
 はがき随筆4月度の入選作品が決まりました。
△霧島市福島1、楠元勇一さん(81)の「翁草」(26日)
△薩摩川内市宮里町、田中由利子さん(66)の「こんにちは」(20日)
△鹿児島市鴨池1、川端清一郎さん(61)の「60歳の恋人」(29日)
の──3点です。
 
 この4月から選評を担当することになりました石田です。よろしくお願いします。
 初めてですので、投稿随筆のあらましを知るために、1ヶ月分を内容別に分けてみました。①日常の生活スケッチや茶飯事への感想11編②家族関係に関する物10編③季節感とそれにまつわる生活感4編④草花を中心とした季節感4編⑤社会性のあるもの3編──でした。年齢は11~81歳と幅広く、50歳代の投稿者が最多でした。
 いずれも興味深く読ませてもらいましたが、次の3編が印象鮮やかで、文章の構成も優れていましたので、優秀作に選びました。
 楠元さんの「翁草」。翁草の種をもらってまいたら、ひっそりと花開き、その花の姿が<独居生活3年余>の自分の心と触れ合うという文章です。昔はどこにでもあった翁草に対する懐旧の情と、現在の自分の心情からみた翁草の花の姿への共感、それに<仲間を増やしてやる>という来年への希望が、短い文章の中でよくまとまっています。特に翁草の花の描写が的確だと感じられました。
 田中さんの「こんにちは」。母子保健に携わって子育てのサポートをしている方の日常風景です。<澄んだ黒い瞳、オブラートのような肌に可愛いおちょぼ口>という書き出しが、文末で<今日は会えるかな。こんにちは赤ちゃん。>とみごとにまとめられています。その間に、サポートの大変さと喜びとが簡潔に述べられています。
 川端さんの「60歳の恋人」。還暦を記念して、奥さんへ書き贈ることにした恋文の内容です。<どちらが先に好きになったか>など、他人にとってはどうでもいいことが話題になるのも恋文のおもしろさでしょう。
 この3編の他に、口町丸子さん「完走しました」(7日)、別枝由井さん「ピン・ポーン」(10日)、神田橋弘子さん「愛犬との暮らし」(13日)、萩原三希子さん「道のり」(8日)が印象に残りました。

係から
 月間賞の選者が吉井和子先生から石田忠彦先生に代わりました。石田先生は鹿児島大法文学部長・副学長、鹿児島女子短大学長などを歴任、現在はかごしま近代文学館・メルヘン館のアドバイザーを務めておられます。
入選作品のうち1編は31日午前8時20分からMBCラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
   2008/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載


脳内活性化

2008-05-30 20:25:49 | はがき随筆
 いつまでも若々しく、は男女を問わず中年以上の世代にとっての願望だろう。だがここで言う「若々しく」は外観に重きを置いているようだ。私は白髪交じりの中年だが、若く見られる。思うに、脳が活性化されている人間は若々しいのではないか。
 手前みそだが私はファッション雑誌に劣らぬおしゃれをしてデパートを巡る。温泉に行ったり家族に話したりしてストレスを排し心の平静を保つ。人間いくつになってもいろんなことに関心と興味を持ち、脳に刺激を与えることが最良だと思う。
   鹿児島市 若松幸夫(50) 2008/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載

日だまりの猫

2008-05-30 20:16:58 | はがき随筆
 おん年19歳、人間で言ったら88歳の雌猫は、横浜の1DKの部屋に住んでいる。
 飼い主は私の幼なじみ。先日のファクスでただ今ぼうこう炎の治療中とあった。問診票には患者名「うらら」、種類「老猫」と記載し超音波、レントゲン、血液の検査を受けた由。高額の診療費を支払った友はしばらくは粗食が続くと笑っていた。
 一人息子が結婚し家を離れた後、友は我が孫のようにうららの世話を焼いている。3年前、91歳の母を見取った彼女は、今度は見届けることになる。そのうららは終の棲で日長一日、眠りこけている。
   大口市 山室浩子(61) 2008/5/29 毎日新聞鹿児島版掲載

島の海岸清掃

2008-05-30 20:08:31 | はがき随筆
 五月晴れの日曜日、一般市民による海岸一斉清掃に私たち老夫婦も参加した。東シナ海側には、ハングルのペットボトルや中国製の空き瓶などが多くうちあげられているが、私たちが担当した太平洋側は流木の方が多い。それでも明らかに日本製ではない空き瓶、注射器などが回り込み流れ着いている。
 島の人たちは皆、こうしたボランティア活動に熱心だ。朝8時半の集合時間には、夫婦で家族連れでと、続々集まってくる。100人近くが海岸に散り、ゴミを集めた。1時間とちょっとで作業終了。心地よい汗を流すことができた。
   西之表市 武田静瞭(71) 2008/5/28 毎日新聞鹿児島版掲載

生きる

2008-05-30 20:01:08 | はがき随筆
 3年前から家の南側の排水が悪くなった。何か詰まっているのか。大雨の度に水はあふれ、犬走りの高さを超えて今にもクーラーの室外機に届きそうだ。
 もう限界。梅雨も近いし業者に頼むことにした。
 直径15㌢の排水口から高圧洗浄機を入れるが、水はスムーズに流れない。道路側のふたを外す。近所の方々と一緒に見る。
 正体が現れた。ささらを太くして束ねたような黒ずんだものが土管へ入り込んでいる。
 引き出されたのは、3㍍くらい長く伸びた木の根。生け垣のサザンカの1本が、水を求めて土管へ足を伸ばしていた。
   いちき串木野市 奥吉志代子(59) 2008/5/27 毎日新聞鹿児島版掲載

クサガメ

2008-05-26 21:38:47 | はがき随筆
 7歳と5歳の兄弟が、ウオーキング中の私を呼び止めた。米ノ津川の中州の横にできた水たまりの石で、クサガメが甲羅干しをしている。
 カメは捕りたし、川へ降りるのは怖い。いがぐり頭の2人の目が、私に助成を頼む。怖がる兄弟を励まして近づくと、クサガメはいち早く水たまりへ。
 「そっちだ」「こっちだ」と2人は歓声を上げて追い回す。30分の格闘の末に捕獲した兄弟は「カメ捕ったどー」。高々と掲げた。
 服が水浸しで「ママは怒るけど、カメ捕ったもんな」と兄。カメと兄弟が首をすくめた。
   出水市 道田道範(58) 2008/5/26 毎日新聞鹿児島版掲載

黒猫ミロリン

2008-05-26 07:32:26 | はがき随筆
 十数年前のことである。
 長女の婚約者が母上と来訪。夫、義姉もまじえ、初対面ながら会話がはずんでいる。安心して応接間と台所を往復。一段落したので仲間に入れていただこうとして、すっとんきょうな声を上げてしまった。「ミロリン、あんたいつ来たの?」
 母上「さっかあ、こけおじゃんど」。義姉「んだもう、真っ黒けで気がつかんじゃったが」。黒いソファ、婚約者と母上との間に、黒猫がすましていたのである。いっそう座がなごんだのは、ミロのお手柄。
 思い出の中のミロにほおずりしているわたしである。
   鹿屋市 伊地知咲子(71) 2008/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載

信州の叔父

2008-05-26 07:25:34 | はがき随筆
 父の兄弟は5人。5月の連休に叔父が娘夫婦と信州からやって来た。前回会った母の葬儀から15年余の歳月がたっている。
 空港で出迎えた私に握手してきた叔父は、髪が白くなっていることを除けば、まるで時が止まっているかのよう。幼い時から耳が不自由だった分、神様が若さを与えてくださったのかもしれない。
 おばの手料理に「うまいだよ」と目を細め、初めての砂むし温泉や、にぎわう篤姫館を楽しんでいた。
 父の兄弟でただ一人元気な叔父は、82歳。また遊びにきてほしい。
   鹿屋市 藤崎能子(56) 2008/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載

最後の法要

2008-05-26 07:24:49 | はがき随筆
 春の優しい日差しが、お経を読む住職の肩越しに仏壇を照らす。
 49年前、父と兄が相次いであの世に逝ってしまった。残されたものの悲しみは深く、生活は苦しくなった。つらかった青春期の思いでにふけっていると、庭でウグイスが鳴き始めた。数羽の掛け合いが現実に引き戻す。
 住職が「五十回忌を迎える家は、遺族が長生きをしている証し。また親族が会えたことも、ご先祖と仏様のお陰です」と説く。……合掌。2人の最後の法要を終え、遺影を見ると、いかめしい顔の父と、ジェームズ・ディーン似の兄が笑った。
   出水市 清田文雄(69) 2008/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

大事なものは

2008-05-26 07:14:57 | はがき随筆
 先日、東京にいるめいと電話で話していると突然「孫と子どもとどっちが大事は?」と聞かれた。一瞬ぐさりと胸を突かれた思いだった。同じ街に住む娘と時折そんな話をするのだろうか。
 娘が小学生のころ「兄ちゃんばっかり」と言ったことがあった。見渡せば部屋には息子の写真の方が多かった。指摘されてがく然としたのだった。第2子の宿命と言えば親の勝手だが、微妙に娘は感じていたのだろう。そして小さな胸を痛めていたのだろう。ずいぶん返事が遅くなったけど、孫と比べるものではないけど、めいから伝えてほしい。「あなたが大事」と。
   薩摩川内市 馬場園征子(67) 2008/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載

健やかに

2008-05-26 07:07:44 | はがき随筆
 「お元気ですね。お若いですね」と声をかけられると、お世辞でも悪い気はしない。せめて気持ちだけは前向きにと心がけてはいるが……。
 喜寿の夫、古希の私。夫婦共通の、健康維持の源は数十年来続けている日々外気に触れての心身のリフレッシュ、我が家特性の健康生ジュースを毎朝欠かさない生活習慣のさりげない暮らしにあるのかもしれない。
 夫は相変わらず1日10キロが目標のウオーキングにいそしみ、私はグラウンドゴルフでいい汗をかく。継続することで、衣服のサイズが変わらない「経済的相乗効果」がうれしい。
   鹿屋市 神田橋弘子(70)2008/5/21 毎日新聞鹿児島版掲載

今年の桜

2008-05-26 07:00:21 | はがき随筆
 鹿児島では平年より2日遅れて開花と控えめに報じられた紙面に、東京の桜は写真入りで開花とあった。そんな日に河津桜の苗10本を植樹した。冒頭の記事のように、ソメイヨシノでは全国にアピールできない。温暖な地に移り住んで、ここから発信できる”目に見える”暖かさをずっと思い描いていた。
 たまたま携わっていた市の分科会に提案したところ、苗の購入に結びついた。指定された遊園地に祈るような思いで植えた。何年後になるか、満開の河津桜が早春の風に揺れているのが目に浮かぶ。大隅半島に春を告げる桜に育つ日が。
 志布志市 若宮庸成(68) 2008/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載