はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

安全運転

2017-02-28 18:53:38 | 岩国エッセイサロンより
2017年2月28日 (火)
   
 岩国市  会 員   上田 孝

 ズズーッ、ガシャン、イタタ。ズボンの膝は破れ、部品の一部がすっ飛んだし手も痛い。自転車で思い切り転んだ。幸い近くに人家はなく、人影も遠くに散歩する人が2、3人。大したことがないふりをして自転車を起こし、その場を去った。
 数㍍の下り坂、下りきった所で直角に曲がる。いつもノーブレーキで、体を傾け曲がり下りるスリルを楽しんでいた。この日は直前のぬかるみでタイヤに泥水が付き、曲がりしなにスリツプしたのだ。この日以降はブレーキをかけ年相応の運転で無事に通過しているが、ちょっと物足りない。
  (2017.02.28 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

今日は特別よ

2017-02-28 18:52:16 | 岩国エッセイサロンより
2017年2月28日 (火)
岩国市  会 員   貝 良枝

 保育園の3時「起きんさい。おやつ食べよ」と子供らを起こす。すぐ起きる子もいれば、なかなか起きない子も。無理に起こした子は機嫌が悪くおやつに誘ってもむずかって動かない。 
 そんな時は耳元で「今日は特別よ。おんぶしてあげる」とささやく。するとあら不思議、亀のように伏せてピクリとも動かなかった子がふわっと立ってやってくる。「今日だけよ」。背中でうなずくのが分かる。トイレヘ行くとサッと降り動き出す。4歳、赤ちゃんじゃない。でも甘えたい。
 いいよ。おんぶしてあげる。魔法の言葉は小さな声で、そっと。
(2017.02.28 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

はがき随筆1月度

2017-02-27 23:37:08 | はがき随筆
 はがき随筆の1月度月間賞は次の皆さんでした。

 【優秀作】17日「大変身」別府柳子=鹿児島市下荒田
 【佳作】12日「こたつ寝もよし」本山るみ子=鹿児島市上荒田町
▽28日「気分のいい温泉」中馬和美=姶良市加治木町


 「大変身」は、生来の消極的な性格に加えて、難病にまでかかり、閉じこもりがちの自分を、同病の人たちとの支え合いで克服し、人前での手話コーラスが楽しいという内容です。パラリンピックにも励まされますが、こういう自分へのご褒美の文章は、読んでいて元気づけられます。 
 「こたつ寝もよし」は、冷え症に苦しむ、コタツ愛用者の近況報告です。コタツでぬくぬくと居眠りをすることに、罪悪感を感じるというところに、生活の中でのかすかな心理の動揺がとらえられています。一転、居眠りもこれでよしと自己納得されているのも、ほほえましく感じました。
 「気分のいい温泉」は、銭湯で忘れ物の財布を届けた後、温泉につかって、自分や妻の財布が戻ってきたときの、人の善意のありがたさを思い出した。落とし主の安堵の様子を聞いて、自分も心地よく温泉もいい湯だったという、気持ちの温まる文章です。
 この他に3編を紹介します。
 東郷久子さんの「近ごろ」は、ある役目を引き受けたので、来年の4月まで生かしておいてくださいと神さまにお願いした。それに孫のこともあるので、再来年の4月までもお願いした。それにベートーベンの第九も歌いたいから、という欲張った内容の文章です。これがおそらく長生きの秘訣でしょう。
 馬渡浩子さんの「古夫婦は今」は、夫婦の仲を数字の8のような関係という表現がいいですね。ところがその二つの丸が今や離れてしまった。それは自分の態度が悪いせいだと分かっているので、謝ったら「お互いさま」という温かい言葉が帰って来た。どうやら丸は離れていなかったようです。
 的場豊子さんの「〝やる気〟減退」は、元気が取り柄の自分には、高齢者75歳の見直しに納得した。とはいえ、やる気がやはり減退してきているのを認めざるをえない。家庭菜園も掃除もスケジュールも、怠けがちで満足感がない。やる気さまの再来を願うしかない。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

川霧りの観測

2017-02-27 22:42:16 | はがき随筆
 先日の川内川の川霧の記事に懐かしさがこみ上げてきた。
 若い頃、さつま町の学校に勤めていた。生徒たちと川霧発生の観測に挑んだ。11月の末ごろだったろうか、快晴、無風、月夜、絶好の観測日和。山の斜面で10カ所ほど、気温、風向などを徹夜で測定した。放射冷却による冷気は勢いよく斜面を滑り盆地にたまっていく。気温の逆転、霧の発生である。
 夜明け前から霧が盆地にたまり始め、盛り上がってくる。そして朝日に霧の海がオレンジ色に染まると皆黙って見入っていた。記録計のインクは霧であふれていた。亀田さん、謝謝。
  鹿児島市 野崎正昭 2017/2/23 毎日新聞鹿児島版掲載

老いる

2017-02-26 22:00:31 | はがき随筆
 今季一番の冷え込み。大霜が降り冬枯れの山肌が白く、朝日にキラキラ光っている。
 朝ゴミ出しに行く。いつものようにKさん宅のガレージに目をやる。高齢のご主人が椅子に座ってデイサービスのお迎えを待っておられたので声かけをしていたが、もうその姿は見られない。昨日はお葬式だった。
 花木を育てるのがお好きで人の目を楽しませてくださったが、春を待たずに逝かれた。近隣をボツボツ歩いておられたHさんも姿を見なくなって久しい。
 我が身の老いも見つめ、人生を生き抜く尊さと、命の重さがズシンと胸に納まる昨今です。
  鹿児島市 内山陽子 2017/2/22 毎日新聞鹿児島版掲載

身だしなみ

2017-02-26 21:43:36 | はがき随筆
 


 おしゃれとは無縁の私に帰省の子らが、年を重ねるほど明るくきれいな服を着るようにとアドバイス。身だしなみに気をつけろということか。老いては子に従え! 起床と同時にパジャマからセーターに着替える。遠のいていた美容院へも足を運ぶ。白髪のままでも調髪をすると様になる不思議。以来毎朝鏡に向かうことにしている。
 ある朝、ぬれ縁に毛繕いしている猫とふと目があった。「おう! お主も身だしなみに気を配っているのか」「そうなのニャー」
 以来、猫に倣ってというより猫と張り合っている私がいる。
  鹿屋市 門倉キヨ子 2017/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

おみやげだよ

2017-02-26 21:37:00 | はがき随筆
 「ひいばあちゃんには何をあげようかな。そうだこれをあげる」
 そう言って差し出したのは、お医者さんセット。注射器や体温計、薬、聴診器が入っている。「これは、おもちゃの注射器だからチクッとしても痛くないよ。早くよくなってね」と、にっこり笑う。
 隣に住むおいっ子家族の長男坊。昨年、保育園でつくしんぼう取りに行ったときにはつくしを、ブドウ狩りに行ったときにはぶどうを、「はい、これ、おみやげだよ」と届けてくれた。優しい心づかいがうれしかった。
  出水市 山岡淳子 2017/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

鳥たちの落とし物

2017-02-26 21:23:57 | はがき随筆
 


野鳥が庭に落とした万両が自然に発芽し、いま赤く色づき、日ざしを浴び、まるで宝石のように光り輝いている。昨年は正月を待つことなくあっけなく鳥に食べられ寂しい思いだった。
 今年は「せめて正月三が日までは食べないでほしい」という私の願いが届いたとみえて、殺風景な真冬の庭が実に美しい。私の肌とは程遠い、つやつや、てかてかの真っ赤な実に頬擦りしてみた。冷たく気持ちいい。幸せ。ピーピーチュルチュル。庭先でさえずる鳥たち、「もう、食べてもいいよ」。
 だってあなたたちが植えてくれたんですものね。
  指宿市 外薗恒子 2017/2/18 毎日新聞鹿児島版掲載

山眠る

2017-02-26 21:16:38 | はがき随筆
 霧島神宮参りをして、ここから烏帽子岳の往復をしようとなり、冬の山を味わえると参加した。緑葉樹の森を過ぎ、突然現れた高原ではクヌギ、コナラの木々が葉を落として裸の様相。寒々とヒューヒューとした音が響いていた。しばらくして名も無き滝は少しの流れとツララが下がっており、まさしく酷寒の地を訪れたみたいだ。恥ずかしげに少し積もった山道の雪を踏みつつ、ようやく山頂である。
 帰る途中、千里の滝にも寄って、約6時間の行程に疲れもあったが静謐の山に満足して「山眠る」を実感した。
  鹿児島市 下内幸一 2017/2/17 毎日新聞鹿児島版掲載
 

2人暮らし

2017-02-26 21:08:41 | はがき随筆
 「もうイライラする。アータにゃ自由などなかとバイ。みんな学校で勉強しとっとバイ」とおばあさんは、片足骨折で入院し宿題を嫌がる反抗的な小学4年のヤンチャな孫を息を殺した小声で叱っておられた。沈黙の後、申し訳なさそうに「ごめんね」と孫を抱きしめられていた。
 後日、おばあさんから私に話しかけてこられた。「娘が死んだんです。孫と2人暮らしです。小学1年の妹は婿側に引き取られました」。先日、2人は退院していかれた。自分の放射線治療を受けながら「2人暮らし」が気にかかる。
  出水市 塩田幸弘 2017/2/19 毎日新聞鹿児島版掲載

蠟 梅

2017-02-22 22:36:19 | 岩国エッセイサロンより
2017年2月18日 (土)
岩国市  会 員   角 智之

先般、趣味の会で満開の蠟梅の枝を数本飾ると、部屋は早春の雰囲気に包まれた。この花は梅とは別の種類だが、花弁は梅に似て蠟細工のような艶がある。   
花も終わり庭で花殻を集めると雑草に混じり、たくさんの小苗が生えていた。
これを増やしてみたいと考えたが、多くの庭木は接ぎ木か挿し木によるもので、実生では良い花は咲かないだろうと思い、廃棄した。
 ところが、調べると実生でも立派に花が咲くことが分かった。残っていた数本をポットに移植し、次の会合で希望者に譲りたい。数年後、上品な花と香りが楽しめるであろう。
   (2017.02.18 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

春立つの頃

2017-02-22 22:34:44 | 岩国エッセイサロンより
2017年2月17日 (金)
岩国市  会 員   山下 治子

節分の日、私はいつも鬼の役だった。給食後、年少組の教室にお面をつけて進入。気づいた園児が悲鳴を上げて泣き出す。
 わざとダミ声で「給食残した子はおらんかあ」と園児を追い回す。持っていた玩具を投げる子、私の足にかみつく子、正義の味方に変身する子など園児たちに涙が出るほど笑わせてもらった。「みんな残さず食べました。良い子ばかりです」と先生がかばう。おませな女の子が「あっ給食の先生だあ」と言った。あの懐かしさがこみ上げる。
 息子が玄関を開け「鬼は外……」と豆をまいた。我が家だけのようだった。
   (2017.02.17 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

神ってる

2017-02-22 22:33:34 | 岩国エッセイサロンより
2017年2月16日 (木)
岩国市  会 員   林 治子

道路修理とかであちこち渋滞にぶつかり買い物に意外と時開かかかった。やっと帰り荷物を降ろしレシートを見ながらふとカードが無いのに気がついた。
 買い物袋を逆さにして捜す。あそこかと思う心当たりもない。買い物はしたのだが、その
後どうしたか記憶がない。またか。このごろ、よくこんな場面に出くわす。その都度どこからか救いの手があり解決。今度は駄目かな? いよいよ認知症? 
 覚悟しかけた時、電話のベルが。店から力―ドが落ちていたとの知らせ。思わず大きな声でありがとうの連発。心の中で「神ってる」と感謝。
   (2017.02.16 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

今度は何色かな

2017-02-22 22:32:12 | 岩国エッセイサロンより
2017年2月11日 (土)

岩国市  会 員   中村 美奈恵

 高2の三男へのクリスマスプレゼントは水色の腹巻きだった。マフラー、手袋と候補はあったが「期末テスト中、おなかが痛くなった」と言っていたからだ。
 イクメンの長男に「腹巻きが癖になるよ」と言われたが、それで安心できるならいいじゃない。昔の私なら同じように思ったろう。次男を産み年を重ねるうちに、ゆるーくなった。それでもまあまあ育っている。だから奮闘中のお嫁さんに「たまには手を抜いて大丈夫よ」と言ってあげたい。
 やっぱり手放せなくなった三男。1月が過ぎ、そろそろ洗濯した方がいいと思う。
      (2017.02.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

天国からの出席者

2017-02-22 22:29:38 | 岩国エッセイサロンより
2017年2月20日 (月)
      岩国市   会 員     吉岡 賢一

 50歳を迎えた節目に「人生の小休止」と題した中学時代の同窓会をおこなった。返信はがきに混じって、聞き慣れない女性名で一通の現金封筒が届いた。中には、満面の笑顔で乾杯ポーズのK君の写真と手紙、そして会費と同額の1万円が添えられていた。
 「主人は人生の小休止を向かえる前に49歳で他界。皆さんに会えるのを楽しみにしていました。同封の写真で出席させて頂きます。お酒が好きだった主人にも一杯ついでやって下さいませ」と綴られていた。
 愛する夫を若くして見送らざるを得なかった無念さの中で、夫の希望を叶え、同窓会に出席させたいと願う奥様の深い愛に言葉を失った。
「夫婦とはかくあるべし」。そんな思いで迎えた当日、天国からの出席者紹介で始まった同窓会は、異様な感動と興奮に包まれ最高に盛り上がった。
 予期せぬ手紙に心震わせたあの日。以来24年の歳月を経た今も、行動する私に勇気と活力を与え続ける珠玉の一篇である。

 2017.2.19 三井住友信託銀行公募「わたし遺産」。入選