はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

アメリカ芋

2016-12-28 16:05:18 | はがき随筆
 本紙11月27日のくらしナビで紹介された「アメリカ芋」。今年はじめ、取り寄せ誌でみたそれを懐かしく思い出した。半世紀以上前、家でも栽培していた。ホクホク感があり甘かった記憶がよみがえり、すぐ注文したのだった。
 いとこの芋床で育ててもらい、10本ほどの苗を庭の狭いスペースに植えた。葉は生い茂ったが、11月の収穫は思いのほか少なかった。霜が降りると甘くなるといわれていたので、楽しく待つことにする。
 来年は近くの農家にもすすめて、この小さな集落で広めていきたい。
  薩摩川内市 馬場園征子 2016/12/28 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2016-12-28 15:58:51 | はがき随筆
 父の転勤で日置市の山あいにある1学年1学級のこぢんまりした小学校にかわった。4年生から卒業までの3年間在籍。
 放課後、家に帰ってから来れる人はまた学校に集まった。学年も男女も超えて、校舎の周りや校庭の植え込みの間で鬼ごっこやかくれんぼ、チャンバラごっこをした。転校生の私が1人、鉄棒の横に立っているのを「遊ぼう」と友達が誘ってくれたのが始まりだった。それも、学校という遊び場があったからこそ。しかしこの3月に閉校になった。友への感謝の気持ちと共に心に残る。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2016/12/27 毎日新聞鹿児島版掲載

クリスマス

2016-12-28 15:53:34 | はがき随筆
 豪州に住んでいたときの事です。友人たちが時々ホームパーティーを開いてくれました。各自が一品ずつ持ち寄っての楽しい昼食会です。私は巻き寿司やあら煮、おにぎりなどで好評でした。ある日パンプキンケーキを食べたらすごく甘くて、残すのは失礼かなと飲み物と共にやっとこ完食。しばらくしてご婦人が私のケーキどうでしたかときた。すごくおいしかったと答えたらもう一つどうぞと倍くらいのを持ってきた。ヒエーッ、ノーサンキューを言わなかった俺らが悪い。一生分のケーキを食べてフラフラに。忘れられない真夏のクリスマスの思い出。
  指宿市 有村好一 2016/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

寂しい餌台

2016-12-28 15:46:50 | はがき随筆
 立冬が過ぎ、吹く風が冷たくなったので野鳥の餌台を庭に出し、シメやカワラヒワのためにヒマワリの種も用意した。しかし半月たつのに野鳥は現れない。気付くと、常に先陣をきっていたスズメの姿が無い。好奇心なのか本能なのか、まず舞い降りて安心安全を伝えるスズメが来ない。軒先で群れている当たり前の鳥と思っていたスズメ。周辺にもその姿は無い。留鳥の代表のように思っていたスズメ。まさか気象変動によってすみにくい環境になったのかしら……。一日でも早く軒端を飛び回ってほしい。窓辺の楽しみを消さないでほしい。
  志布志市 若宮庸成 2016/12/25 毎日新聞鹿児島版掲載

高齢者の運転講習

2016-12-28 15:38:40 | はがき随筆
 先ごろ種子島自動車学校で高齢者講習を受けてきた。検査結果としては86点で「記憶力・判断力に心配ありません」ということで、免許更新はOKになった。
 ところで一時停止の際、左右を確認してから発信したので完璧と思っていたら、指導者から「あれは一時停止したつもり程度」と厳しい指摘。試験なら不合格ということだった。
 この日一緒に講習を受けたのは女性3人を含めて9人。84歳の男性もクリアした。「3年後にまた会いましょう」と指導者。それを聞いて、私も頑張ろうの意を強くしたのだった。
  西之表市 武田静瞭 2016/12/24 毎日新聞鹿児島版掲載

幸せのぬくもり

2016-12-28 15:32:33 | はがき随筆
 滝を見ての帰り道、石段を上がっていた。急に膝に激痛が走る。しばらく痛みの和らぐのを待つが、体力の衰えはいかんともし難く、この場は息子に背負われることになる。
 思いがけない事態に人々の視線も気になり、何となく気恥しい気持ちで背にしがみつく。「おっ、意外と重たいね」とボソッ。「母を背負いて」と口ずさむ息子は重きに泣きて石段を上っていくのです。
 「ごめんね」と、そっと背につぶやく。
 申し訳ない気持ちは感謝と共に、幸せのぬくもりを一層感じることでした。
  鹿児島市 竹之内美知子 2016/12/23 毎日新聞鹿児島版掲載

グリム童話

2016-12-28 15:24:04 | はがき随筆
 小学5年生の夏休み、O君に「今夜、先生が当直なので泊まりに行こう」と誘われた。宿直室に行くと、U君も来ていて、3人で泊ることになった。
 先生は夏休みの宿題を丁寧に見られた後で校内の見回りを終えると、布団を枚敷かれた。「先生、今夜は怖い話をうんとしてください」とお願いしたら、図書室からグリム童話集を出して話されたので聴き入った。
 独身で教育熱心な先生は卒業まで2年間担任だった。生徒が宿直室に泊まっても、とやかく言われぬ良い時代でもあった。一夜を共に過ごした、先生と2人の級友が旅立って久しい。
  鹿児島市 田中健一郎 2016/12/22 毎日新聞鹿児島版掲載

サンタクロース

2016-12-21 22:57:41 | はがき随筆
 中央駅に近いマンションに住んでいる。ある日、小さなメモ書きと共に、はがき随筆用の原稿用紙が郵便受けに入れてあった。ご自分で作られたオリジナル健康用紙。とても使いやすい。よかったらコピーして使ってくださいと書いてあった。書くことが好きな同志がここにもいらして、私を見つけてくださり、応援してくださつているのだと思うと、心から感謝の気持ちでいっぱいだ。ありがたいなあと思う。名前もお顔もわからない。その方を「サンタクロース」と呼ぶことにした。素敵なプレゼントをありがとうございました。大切に使います。
  鹿児島市 萩原裕子 2016/12/21 毎日新聞鹿児島版掲載

下宿再訪

2016-12-21 22:42:12 | はがき随筆
 高校時代、熊本市に下宿していた。部屋を間借りして、食事はおばちゃんに作ってもらっていた。3年間たいへんお世話になった。4月の地震の後、安否が気になり久しぶりに訪ねた。
家は建て替えられていて、おばちゃんはすでに数年前に亡くなっていた。息子さん夫婦が住んでおられた。突然の訪問だったので丁寧に自らを名乗り、土産のまんじゅうを手渡した。仏壇は揺れで壊れていてお参りはできなかったが、おばちゃんを紹介した新聞記事を頂いた。夕食を振舞っている写真が載っていた。30年前と変わらぬその笑顔に、涙してしまった。
出水市 山下秀雄 2016/12/20 毎日新聞鹿児島版掲載

まぐれ猫

2016-12-19 22:42:04 | はがき随筆
 我が家は集落の公民館に近く、農免道路沿いにある。春から夏にかけ、まぐれ猫が舞い込む。今年も数匹来た。そのうち1匹が居座る。妻は情が移ったのか餌をやりだした。雌猫のため獣医さんにお願いして避妊手術をした。
 私は、餌を食べるだけで能はないと言ったが、ある朝、ネズミを捕まえ、庭でそのネズミを右手でけり上げ、左手で押さえる芸をするではないか。ビックリした妻は「ヨカヨカ感心ジャッタガ」と大喜びで背中をなでる。やっはり猫魂があり、それがペットブームの源になっているのかなと思った。
 湧水町 本村守 2016/12/19 毎日新聞鹿児島版掲載


ありがとう

2016-12-19 22:35:39 | はがき随筆
浜松に住むおいの隼人くんから結婚式の招待状が届いた。今の若者らし当世風のしゃれた式場のようで(出席)ではなく〈attendance〉などとある。妻が○印を付けながらメッセージ欄に何か記した。それは―結婚ていいもんだよ―であった。じんわりと来た。いろいろとあった、いや今でもいろいろとある私たちの40年間の結婚生活に対する彼女の及第点だと思う。実は一人娘も私に似たような性格で、いつも彼女を困らせるのに……。若いときには照れくさくて言えなかったけど、今なら言える。心の底から「ありがとうね!」。
  霧島市 久野茂樹 2016/12/18 毎日新聞鹿児島版掲載


食性

2016-12-19 22:20:42 | はがき随筆
 4日前までは葉が艶やかだったクチナシが、枝だけの哀れな花木になっていた。株元に4㌢ほどのオオスカシバの幼虫がいた。裏の草むらに写したが気になる。にんじん、パセリに緑に黒と橙模様のキアゲハの幼虫、触れるとニッと橙色の角を出す。間もなくサナギになるかもと思ってそのままにした。
 見回すとその植物しか食べない幼虫がいる。ミカンにアゲハ蝶。ホトトギスについた黒くて恐い毛虫はタテハ蝶。蛾の仲間でブドウやサツマイモ、サトイモについた幼虫はびっくりするほど大きかった。成虫になるのを楽しみにそっとしている。
  出水市 年神貞子 2016/12/17 毎日新聞鹿児島版掲載


教え子の招待

2016-12-19 22:13:42 | はがき随筆
 中学3年のときに担任した鳥取県米子市に住むM君から、私が元気なうちにと招待を受けた。教え子といっても来年は古希を迎える。父親を早く亡くし、母親が家政婦をしながら3人の子どもを養育していた。卒業後の進路に悩んだが、少年自衛隊に行くことを選んだ。彼は自衛隊勤務を経て現在は米子市でコンビニ3店を経営している。
 10月末に新幹線などの手配までして招待してくれた。彼の家に着いて驚いた。名古屋や大阪地区の同級生男女9人も呼んでいた。2泊3日を共にし五十数年過ぎた今もなお変わらぬ彼らとの姉弟の絆に感動した。
  志布志市 一木法明 2016/12/16毎日新聞鹿児島版掲載


どうしちゃおう

2016-12-19 21:46:58 | はがき随筆
 絵本の世界でも『死』はタブーから脱却しつつあるらしい。小1の息子が教えてくれたのは『このあと どうしちゃおう』だ。主人公が見つけたのは『じぶんがしんだらどうなりたいか どうしてほしいか』を書いた祖父のノートだった。『死』は圧倒的な受け身と思っていたが、後悔や覚悟と無縁な彼の『死』は能動的ですらある。主人公は自分用に『いきているあいだは どうしちゃおう』ノートもいるな、と思い至る。エンディングを演出する風潮に眉をひそめる向きもあるだろうが『死』を支える『生』を伝えられるなら、アリだなと思った。
  鹿児島市 堀之内泉 2016/12/15 毎日新聞鹿児島版掲載

私でおしまい

2016-12-19 21:38:40 | はがき随筆
 父の祖父つまり私の曾祖父は西南戦争のとき、西郷軍に参加しようとしたが14歳だったので帰らされたという。
 おかげで祖父が生まれ、さらに父が生まれた。父は昭和20年、海軍の特攻隊員として順番が来る前に終戦を迎え命拾いをした。
 おかげで私が生まれた。いろいろな事件や事故、環境問題を見るにつけ、子供を無事に育てられる世の中だろうかと考えあぐねた末、私たち夫婦は子どもをもたなかった。
 これが戦時中なら、次世代を残さなかった私たちは非国民といわれるのかな。
 鹿児島市 種子田真理 2016/12/14 毎日新聞鹿児島版掲載